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ユミルを脇に抱え、“北界のエルケイネス”と名乗った青白い氷山のように巨大なドラゴンから距離をとるべくカルデラ森林を――いや、カルデラ氷樹林と言った方が適切かもしれない森を駆ける。
迷宮島全域を覆った雪雲は視界を覆うほどの氷晶を降らせ、僅かな時間で踏み抜く土は雪と氷へと変わっていた。
目指すのは“火口の迷宮”――現状を考えれば、逃げ込める安全地帯はそこしかない。
俺の後方をゆっくりと浮遊しながら追ってくるエルケイネスは、氷樹に視界を遮られているとは思えない正確さで、上空から巨大な氷塊をいくつも撃ち放ってくる。
氷塊と共に聞こえる落下音が、背中にヒリヒリとした感覚が走る。
ダッシュからスライドジャンプで勢いをつけ、着地と同時に跳躍に移行して氷樹を蹴り込み、反動を利用して跳ぶ角度を変更し――更に跳躍して再び氷樹を蹴り込む。
氷樹と氷樹の間をジグザグに跳びながら移動しているのは、雪と氷の上を走るよりもはるかに速く、なによりも重要なのは――蹴り込んで離れた氷樹に氷塊が着弾し、地面が爆発して氷土を噴き上げる。
氷塊の落下ポイントが正確すぎる、このままじゃ回避が間に合わない――!
一瞬だけ視線を脇でキューキュー鳴いているユミルに向ける。
“穢れた竜の波動は覚えた”、エルケイネスはそう言っていた。魔力を辿っているのか、それともドラゴン特有の何かなのか。とにかく、ユミルと行動を共にし続ければいつかは――。
「くっ――!」
氷塊を回避するために跳躍した瞬間――エルケイネスが羽ばたいて氷風が巻き起こり、空中を跳んでいた俺の体が吹き飛ばされた。
ユミルを抱えながら雪と氷の上に打ちつけられ、勢いから体が回転して跳ねる。同時に、耳を劈く氷塊の落下音が直上から聞こえた。
「キュー!」
ユミルの叫びを今は無視し、体を起こしてインベントリを意識する――上空を見上げれば、エルケイネスの巨躯と落下してくる氷塊が三つ。
「三つもかッ!」
氷塊の大きさは一軒家ほど、それが三つも俺とユミルを狙って降ってくる。左手に抱えていたユミルから手を放し、右手にはM202A1――多連装焼夷ロケットランチャーを取り出し、フロントとバックのカバーを開けてチャージングレバーを引いて拡張、肩に担いで照準器を覗き、一つ目の氷塊に二トリガー。
白光の尾を引いて射出された66mm焼夷ロケット弾二発は、一つ目の氷塊に着弾し爆発――続いて二つ目に照準を合わせて更に二トリガー。
これで四発を撃ち切り、M202A1を破棄する。激しい着弾音と爆発は氷塊を粉々に粉砕し、視界が白煙に包まれてホワイトアウトする――。
迫る氷塊はあと一つ――視界は真っ白で視認できないが、直前に見た位置からの移動予測と落下音で撃ち込むべき場所は予想できる。それに、氷塊の大きさを考えれば当てるのは難しくない――!
インベントリ内のM202A1は撃ち切ってしまった。SHOPを経由して補充している時間はない。
ある物で対処するしかない。
インベントリからRPG-7を二本取り出し、両肩に抱えて予測する落下ポイントに向けてトリガーを引く。
「キュ~!」
M202A1の四連射に続いてRPG-7を二本、その爆発するような射出音にユミルが耳を抑えて一鳴きした。
そして轟く爆発音、一層濃くなるホワイトアウトに着弾を確信し、細かく砕かれた氷塊の破片が降り注いできた。
『無駄な足掻きを……迷宮に逃げ込むつもりのようだが、逃しはせぬぞ』
ホワイトアウトの向こうからエルケイネスの声が響く。俺が逃げている方角と迷宮の魔力から、こちらの狙いをすぐに見抜いたのだろう。
だが、迷宮の入り口までは後もう少し、一回――いや、二回跳べれば入り口に跳び込める。
「キュッ?」
エルケイネスの声はユミルにも聞こえていたのか? ホワイトアウトで視界が遮られているのは俺と同じだろうが、上を見つめるその視線の向く先には、間違いなくエルケイネスが飛んでいるのだろう。
「ユミル行くぞ」
再びユミルを抱え替え、マップに映る地形を頼りにホワイトアウトの中を走り出した瞬間――氷塊の落下音とは違う、もっと鋭い音が聞こえてきた。
走り出した足を止め、一歩下がる。音の正体が降って来たのはその直後だ。ホワイトアウトの真っ白な霧を吹き飛ばして目の前の地面に突き刺さったのは、分厚い氷の壁だ。
厚さは二メートルほど、問題は幅五メートル近くあり、高さは一〇メートルを超える。
「なっ!」
迷宮までの行く手を塞ぐように突き刺さり、横を向けば俺たちを囲い込むように氷壁が突き刺さっていく。
目の前の氷壁を破壊しなければ迷宮には入れない。だが、この厚さと大きさを破壊するには火力が必要だ。RPG-7を何本撃ち込めば――しかし、粉砕しても目の前過ぎて残骸が俺の真上に降ってくる――。
この氷壁は破壊するよりも、乗り越える方がいい。
ユミルを抱えたままウォールランで氷壁を走り、一気に一〇メートル上にまで駆け上がって氷壁の上に立ち、眼下に迷宮の入り口を見つける――同時に、背中に鋭い視線を感じた。
「ふぅー」
深くゆっくりと息を吐き、氷壁の上で振り返った。見上げればそこにエルケイネスが浮遊している。黄色い竜眼はまっすぐに俺を見抜き、鋭い牙が並ぶ顎からは冷気の靄が漏れ出ていた。
「エルケイネス! 本当にこのまま最後まで行くつもりか!?」
それは言っても無駄な言葉だったのかもしれない。だが、ユミルが氷の卵から孵化してきたことを考えれば、本当の親はエルケイネスか同種のドラゴンで間違いない。
こんな南方の海にまで行方を捜しに飛んできたのに、俺のことを“ママ”と呼んだだけで殺すのか?
「古い神との盟約というだけで、問答無用で襲いかかるのか! それが自然界の覇者たるドラゴンが行うことか!?」
『我の行う事こそが自然の摂理、故に我らは覇者と呼ばれるのだ。貴様の滅尽もその摂理によって定められたこと、自らの命運を受け入れ、穢れの竜と共にその存在を終わらせよ』
話し合おうと思っても無駄か――やはり、戦うしかない。
右手だけでARX-160を構え、クロスヘアを滑らせて俺を見下ろすエルケイネスの眉間に合わせる。
『抗うか』
もう、返す言葉は必要ない。
トリガーを引き抜いて片手だけでリコイルを抑え込み、マガジンに装弾された三〇発を撃ち込んだ――しかし、撃ち込んだ5.45×39㎜弾はエルケイネスの皮膚に傷一つつけることが出来ず、全て弾かれてしまった。
撃ち切ると同時にARX-160をインベントリに戻し――。
「――ユミル、俺の傍から離れるなよ」
「キュッ!」
ユミルを脇から離して右手にSCAR-Hを、左手にMPS AA-12を取り出してトリガーを引き抜く。
途切れることなく撃ち放たれる銃弾をものともせず、エルケイネスは俺を見下ろし続けていた。
ARFやSG程度では通用しないか……なら――。
インベントリの中にあらゆる携帯火器を取り出して撃ち込んだが、銃器もロケットランチャーも、対戦車ライフルすらも通用しなかった。
『狂神の子と言えど、この程度の力しか持たぬか……我が生命は大地と同義、その程度の力で大自然をどうにかできると思っていたのか』
ドラゴン――ここまで厄介な存在か。こうなると残された手段は多くないが、この手の外側が硬いモンスターを倒すには、内側からと相場が決まっている。
見上げるエルケイネスの大口は遥か高く、まずはあの巨体を寝かさないとならない。
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「モヒカン召喚 ~荒廃した世界から召喚された地もまた、荒廃していた~」
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