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 総合ギルドの資料館で確認した迷宮地図の仕様は、そう細かいものでもなかった。地図の紙は総合ギルドの指定した物を使用し、それ以外では、階段や清浄の泉を示すアイコンの確認や、迷宮内の構造表記だ。

 俺は牙狼の迷宮しか知らないが、深層では土壁の地下道ではない構造の階層や、地下に入ったはずなのに、自然界と景色の変わらないフィールドダンジョン型の階層もあるそうだ、そういった場合の表記の仕方が決まっている程度だった。


 まずは試しにと資料館の個室を借り、そこで牙狼の迷宮、地下一階の地図を作成する事にした。地図を描く為の用紙や専用インクとペンを購入し、個室に篭るとすぐさまTSSタクティカルサポートシステムを起動し、マップ検索から牙狼の迷宮の地下一階を表示する。

 スクリーンモニターのサイズは、デフォルトのB5サイズほどから自由に拡大縮小する事ができる。俺はスクリーンモニターのサイズを、用紙のサイズと同一にし重ねあわせる。あとは表示されているマップをペンでなぞるだけだ。


 元の世界での職場だったPCの周辺機器メーカーでは、セミプロとして活動していたほか、主に営業職ではあったが、時には新デバイスの設計やデザインにも関わっていた。CADを使う事も多かったが、PCを使わないフリーハンドでのコラージュや基本デザインなどを行う事も多く、インクとペンでのフリーハンドの線引きなど慣れたものだった。 

 しかも今回はなぞるだけ、綺麗な直線をペン先を回しながらどんどん引いていく、地下一階自体がそう広い階層ではない事もあり、1時間ほどで地図を完成させた。



「地図が描けたので見てもらいたいのですが」



「え? もう描き上げたのですか? 随分と早いですね、しかし適当な地図は買い取りませんよ?」



 描き上げた地図を司書官へ見せると、最初は余りの速さに訝しんでいたが、俺が描いた地図を見た瞬間にその表情は固まり、予め用意してもらっておいた、比較用の今までの地下一階の地図と比べだし、今度は既存の地図と俺の地図の間を、視線が右へ左へ、また右へ左へ……



「見事な出来栄えですね、この道のココと、こちらのココの道の距離は同一なのですか?」



 縮尺が均一なのか知りたいのだろうか? スクリーンモニターを広げて転写しただけの地図なので、これが実際に縮尺幾つなのかは俺には判らないが、当然ながら縮尺に歪みは無い。



「ええ、実際にどれほどの距離かは、地図の用紙一杯に描いたのでわかりませんが、どの部分をとっても距離は同一です。小部屋や大部屋の大きさも同じ距離ですよ」



「素晴らしい、これほどの地図は見た事がありません。是非買い取らせていただきます。ですが、地図の買取額とギルドポイントは、基本的には地図の用紙1枚に対しての評価になっておりまして、これほど内容が素晴らしくとも、報酬額が変わる事はありませんがよろしいでしょうか? これが指名依頼などであれば、また話が変わってくるのですが」



「構いませんよ、試しに描いただけですしね」



「申し訳ございません。それでは、地図の買取額が銀貨50枚、ギルドポイントが100ポイントになります、ギルドカードをお願いします」



 俺はギルドカードを司書官に渡し、報酬を受け取りながら今後のことを考え始めた。地図1枚あたりの金額はそう大した額ではないが、塵も積もれば山となる。  迷宮討伐のついでの小遣い稼ぎとしては、申し分ない報酬だ。宿に戻ったら地下2階のも描き上げてしまおう。


 そんな皮算用をしてる間に、ギルドカードが司書官から返却され、俺はついでにと白紙の地図用紙や専用インクなどを複数購入し、宿へと帰っていった。





 「迷宮の白い花亭」に戻り、早速とばかりに地下二階の地図を描き上げた頃には、丁度良く昼飯の時間だった。


 とは言え、この異世界の人々は基本2食で、昼飯は間食程度の簡単なものが多い、宿代の中に朝夕の食事代は入っているが、昼食を宿の食堂で食べる場合は、別途料金を支払う必要がある。


 フロント?にいる女将のミラーナに昼食代を支払い、食堂へ入っていく。やはり中は空いていた。適当に座り食事が出てくるのを待っていると、やって来たのは料理ではなくレミさんだった。



「やぁ、シュバルツ君。 宿に居てくれて良かったよ」



「お久しぶりです、レミさん。 何か御用ですか?」



「君に頼みたい事があってね、資料館で君が描いた地図を見せてもらったよ、その地図作成能力を借りたい」



「地図作成能力ですか?」



 久しぶりに会ったレミさんは食堂内を窺い、近い席には誰も座っていない事を改めて確認すると、同席の許可を求めてきた。勿論断る理由は無いので、「どうぞ」と席をすすめ、詳しい話を聞いていく。


 俺がこの異世界で、一番最初に訪れたマイラル村の西方に新しい迷宮、緑鬼の迷宮が発見された。しかし、地下一階からかなりの広さで、地図作成が追いついていないそうだ。

 更には、地図か描ける人材そのものも不足しており、地図作製に長ける冒険者に指名依頼を出すことが決まった。そこで俺の描いた地図を見て、Dランクでは通常の指名依頼の範囲外ではあるが、迷宮討伐は国家事業と言うこともあり、依頼と言うよりも、協力という形で話を持ってきたということだ。


 つまり、総合ギルド経由の正式な依頼にはならないので、ギルドポイントは付加されないが、その分報酬を割増す、描いた地図自体は通常通りに買い取る、といった内容での協力を頼まれた。



「幾つか条件がありますが、概ね構いませんよ」



「ありがとう、助かるよ。 それで条件というのは?」



「一つ、地図作成者の名前を今後伏せていただきたい。二つ、地図作製の為の迷宮探索は俺一人、もしくは信頼のおける人との少人数で探索させてもらいたい。三つ、俺の地図作成方法、及び迷宮探索時に見た俺のスキルなどを口外しないで貰いたい、以上です」



 今回の協力依頼自体を嫌がった訳ではないが、今後似たような依頼や協力要請が増えてくると、迷宮を討伐すると言う俺の目標が遠のいていく可能性があった。

 明確な地図の作製自体も、勿論のことながら迷宮討伐へと繋がっていくのだが、あくまでも自分の力でそれをなしたい。


 これは俺の我侭でもあった、そして二つ目と三つ目の条件は、俺のVMBの力をあまり周囲に知られたくはなかった。迷宮内で他の探索者に見られる事はあるだろうが、この異世界において、異質過ぎるVMBの様々な力は自慢げに見せびらかす物でもない。 


 俺の描いた地図が、まさか数時間後には協力依頼が来るほどに目立つとは、考えてもいなかったが、今後は気をつける必要がある。

 マルタさんに言われたギフトBOXの性能もそうだ、たまに商隊の護衛や輸送を手伝うのはいいが、地図作製同様、便利だからと俺が身動きが取れないほどに依頼を入れられても困る。そういった意味では、指名依頼が付加されていないDランクと言うのは、俺の立ち位置的にベストなのかもしれない。



「わかった、その条件で協力をお願いする」



 レミさんは少し悩んだようだが、三つの条件を全て呑んでくれた。その後は昼食を摂りながら、細かい日程などの確認や報酬額の確認などを済ませ、俺はすぐにでもマイラル村へ向かう事を伝え、席を立った。



「これから向かうのかい?」



「ええ、話を聞くに早い方がいいでしょう、まずはマイラル村へと行きます」



「ならバルガを出る前に総合ギルドによってくれ、協力要請を出した事を書面にしておくから、マイラル村のギルド出張所に居る職員に渡してくれ」



 レミさんは驚いた顔で俺を見上げていたが、それでもすぐに必要なものを手配してくれるようだ、この人は本当に頭がよく回る。







3/26 誤字・空白・描写等修正

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