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 ゼパーネル宰相から白い獣人種の正体――エンプレスアントとその幼生体についての話を聞き、俺はアマールからすぐに迷宮島へと戻った。


 途中、船上都市ビグシープの船着き場に足を運び、あの三人組がまだいるか探してみたが、すでにその姿はどこにもなかった。

 作業をしていた水夫に話を聞いてみたが、白い獣人種の三人組――ではなく、浮浪者の三人組なら見かけたらしい。

 たぶん、その浮浪者が幼生体なのだろうが、その三人組もどこかへ立ち去ってしまったらしい。


 捜索を諦めて迷宮島に作った岩山の拠点へと転移して戻ったわけだが、拠点の外に出てすぐに違和感を覚えた。


「……誰かいる?」


 集音センサーがかすかにざわめきを拾っている。それに、木材を叩く甲高い音が聞こえている。


 幼生体たちかもしれないと警戒しながら音が聞こえる方向に進んで見晴らしのいい丘に上がると、海岸線に一隻の帆船が浮かんでいるのが見えた。進路は迷宮島と逆の方向、ビグシープへ帰っていくのか――とうことは、迷宮島に何か――誰かを降ろした。


 迷宮島の周辺は溢れ出た魔獣を刺激しないようにするため、基本的に近海に近づくことを禁じている。それでも俺のように一攫千金を求めて上陸する冒険者や探索者は存在する。あの帆船はそういった命知らずをここまで運んできたのだろう。

 ざわめきが聞こえた方向――海岸線に近づくと、砂浜から少し中へ入ったところで水夫らしき男たちの姿を見つけた。

 何艘かの小舟が砂浜に打ち上げられ、そこに積まれていた木箱を水夫たちが運び出している。


 水夫は誰もが屈強な戦士のように鍛え上げられた肉体を持ち、多数の武器を持ち込むのも見えた。どうやら、水夫たちの仕事はキャンプ地の設営だけではなく、迷宮島での狩りも行う戦闘部隊といったところか。


 武装した水夫たちは砂浜を長い棒で叩きながら何かを探している。もしやパグロイダーを警戒しているのだろうか? あのヤドカリの魔獣は出現場所が砂浜を掘る音で容易に判断することが出来たので、獲物としてはかなり美味しい魔獣だった。

 調子に乗って海岸線を進みながら広範囲に狩りをし、上陸ポイント付近の砂浜に生息していたパグロイダーをほぼ狩り尽くしていた。


 低木林に姿を隠して男たちの動きを監視していると、どうやらリーダー格の人物は深いフードを被った三人だと判った。

 三人という数に、思わず幼生体か? とも考えたが、望遠鏡代わりに使っているスコープ越しにフードの奥の顔が僅かに見えた。


「あいつらでは――ないな」


 深いフードに隠れていたのは、幼生体の獣人種とは違う顔だった。獣人種にも見えない、普人種の顔つきで、あの三人組よりももっと若い。一人しか素顔が見えなかったが、一人違えば残り二人も違うだろう。


 深いフードの三人が水夫たちに作らせているのは簡易的な家屋に防護柵、それに――飼育小屋らしき小さな建物だ。


 迷宮島で何かを捉まえるつもりなのか?


 彼らの目的が俺と同じ魔石狩りならば、競合相手と言うことになるのだが……かといって迷宮島から追い出すわけにもいかない。

 せめて彼らの戦闘力や行動範囲が判れば、そこを避けて俺も狩りに勤しみ、エンプレスアントの位置を確認しに動くのだが――。


 できれば俺がここにいることを他人に知られたくはない。それは向こうも同じだろう。お互いに迷宮島への上陸が発覚すれば、ビグシープの領主に罰せられる立場だ。俺にその気がなくても、発覚を恐れて口封じに発展する可能性もある。


 いっそのこと、アバターカスタマイズで姿をヨーナに変えておくか? いや、それはそれで見つかれば戦闘になる。やはり、見つからないように行動するのが――あれは何だ?


 水夫たちとフードの三人が周囲を厳重に警戒しながら、最後の大荷物を運んでいる。だが、それは木箱や荷袋ではない――卵だ。

その大きさは二メートルほどだろうか。色は氷のような透き通った水色……そう、透き通っているのだ。

 卵の中心部には白い物体が浮いており、その周囲には毛細血管のような煌めく蒼い液体が循環しており、まるで極彩色に輝く大魔力石ダンジョンコアのように輝いていた。


 透き通った卵は慎重に運ばれ、出来上がったばかりの飼育小屋らしき柵の内側に置かれた。


 あの男たちはここであの卵を孵化させるつもりなのか? 


 最初に発見してから半日、俺は男たちの動きを監視し続けていた。エンプレスアントも気になるのだが、この男たちの目的がハッキリと判るまでは行動を起こしにくい。それに――。


 簡易なログハウスからフードの男が一人出て来た。手には道具袋らしき袋を持ち、透き通った卵の方に歩いて行く。そして――袋に手を入れると、魔石らしき石を取り出して卵に投げ入れている。

 まるで餌やりだ。投げられた魔石は卵の中にゆっくりと沈みこみ、内部で消化されるように泡立ちながら溶けていく。その度に卵は極彩色に明滅し、まるで喜んでいるかのように光り輝く。


 半日も監視していたのは、その卵の反応が気になったのも大きな理由だ。フードの男は一時間おきにログハウスから出てくると、卵に魔石を投げ込んでいる。育てているのは明らかだった。

 武装した水夫たちもパーティーを組んで防護柵に囲まれたキャンプ地から出発し、周囲の魔獣狩りを行っている。その追跡もしてみたが、魔獣を狩っても魔石を採取するだけで素材は無視していた。

 普通の冒険者や探索者なら魔獣の素材もいい稼ぎになる。無視するには惜しい素材だと思うのだが、目的は完全に魔石だけのようだ。


 追跡していたパーティーがキャンプ地に引き返し、他の水夫たちと探索結果について話し合っている声を盗み聞くと――。


『どうだった?』


『全然魔獣がいねぇ。もっと奥に進まないと駄目だ』


『……おかしいな。パグロイダーもいないし、他の冒険者が島にいるのか、それとも上位種が付近に潜んでいるのかもしれん』


『直接火口に向かった方が早いかもな……話してくる。おまえたちは一応周囲を探索し直してくれ』


キャンプ地周辺の探索をやり直すつもりなのだろう――このままでは俺のことが見つかってしまうので、ゆっくりと後退しながらキャンプ地を離れた。


 低木林を移動しながら、砂浜のキャンプ地で見聞きしたことを整理してみた。


あの水夫たちはフードの三人に雇われた。目的は迷宮島での魔石狩り、その用途は持ち込んだ謎の卵に餌として与えるため――そこまではすぐに予想がつく。


ならフードの三人の目的は何だ? 卵を孵化させ、産まれて来た何かに何をさせるつもりだ?

 あの卵が魔獣のものか、それとも自然界の動物のものかも判らないが、ペットか何かにでもするつも――。


 そこまで考えた時、俺の中で一つの予想が走った――。


 普人種の男――何かの卵――ペット――育てる――“フェローシステム”。いや、だがなぜここに……。


 フードの三人組の正体、そのうち一人はドラーク王家のザギール第八王子ではないか? 残りの二人はその護衛か直臣といったところか。

 あの卵が何の卵なのかは判らないが、産まれた赤子を隷属化してペットにするつもりならば、育てている理由にはなる。


 ドラーク王国はバイシュバーン帝国の属国になる道を選び、その勅命を受けて王家の血統スキル持ちが南下した。その情報をドラーク王家から家出したコルティーヌ第十七王女よりもたらされていたが、その目的及び標的はクルトメルガ王国だと思われていた。だが、彼らは海を渡り迷宮島に上陸していた。


 しかし、これはあくまでも俺の予想でしかない。確かめる手段があるとすれば――素顔だな。

 ザギール王子とコルティーヌ姫ことコティの顔つきは似ているらしい。三人のうち一人の素顔を少しだけ見たが、コティとは全く違う壮年の男だった。残り二人の顔を確認してコティと似ていれば、その男がザギール王子だ。


 足を止め、低木林の一本に背を預けて次の行動を考える。ドラーク王家の動きはバイシュバーン帝国の動きだ。“覇王花ラフレシア”と繋がり、クルトメルガ王国に謀叛を引き起こした。それ自体は止めることができたが、首謀者のキリークとフェリクスはどこかに消えた。

 バイシュバーン帝国の領土拡大は留まることがない。ドラーク王家への勅命はクルトメルガ王国に対する直接的な攻撃の類ではなく、もっとその先を見据えた力を得るために命じられたのかもしれない。


 となると――クルトメルガ王国のアマール周辺では、大勢の冒険者と総合ギルド職員が動いている。アシュリーが指揮所へ出勤する前に経過を聞いたが、ザギール王子の姿形も見つけてはいない。その動きが無駄な労力なのかどうか、それを決める意味でも、確認する必要があるか。


 エンプレスアントに幼生体、それにドラーク王家に多数の武装水夫、魔石狩りに集中するために迷宮島に来たのに、次から次へと邪魔者が出現することに溜息を一つ吐いた。視界に浮かぶマップを見て水夫のパーティーを確認し、砂浜のキャンプ地へと引き返した。


 



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