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 フレイムリザードを抱えてカルデラ中心部へと向かう、白い獣人種の三人組を追っていて気づいたことがある。

 三人組は真っすぐカルデラを登っていくのだが、マップに映る別のフレイムリザードが反応を示さない。


 フレイムリザードが情報通りの生態ならば、同種以外の魔力に反応して襲い掛かるはずだ。俺の場合は『魔抜け』であるが故に、魔力を感知することが出来ずにスルーされている。ナイトラットもそうだ。


 だが、あの三人組まで『魔抜け』だとは思えない――なぜ襲われない?


 十分な距離をとりながら三人組を追い、頂上の向こう側が集音センサーの範囲に入り始めた――。


 聞こえてくるのは二足歩行の足音、それも大勢のだ――何か嫌な感じがする。


 追うのをやめ、インベントリから再び無人偵察機のRQ-11レイブンを取り出し、空高く上昇させる。まずは三人組が背負うフレイムリザードをロックする。

 これで視界にその位置情報を知らせる赤い枠が表示され、どこに持ち運ばれるのかはいつでも確認できる。


三人組を追い越し、カルデラ内を上空から見下ろして足音の主を探す。


 カルデラ内は外よりも深い緑に覆われていた。だが、FLIR(赤外線サーモグラフィー)モードで見下ろせば、熱源を捉えて赤く表示する。枝葉の隙間からは、赤い熱源体が大量に蠢いているのが見えた。


 なんて数だ……。


 NVナイトヴィジョンモードに切り替えれば見間違えることもない。カルデラ内に蠢いていたのは白い獣人種、それも一人や二人ではない。レイブンを旋回させながら偵察を続け、レイブンが映し出す映像をスクリーンキャプチャーして保存する。


「……撤退だ」


 白い獣人種の数は把握しきれないほどだ。カルデラ内部に進めば、瞬時に周囲を包囲される。その全てを撃ち斃せば脱出も可能だが、奴らから魔石が採取できるのか判らない。

 普通の魔獣でも亜人種でもない。迷宮の暴走スタンピートによって溢れた存在なのかも判らない――いや、その全てに当てはまらない何かだとしか思えない。


 情報収集が必要だ。一度ビグシープに転移し、あの白い獣人種について調べる必要がある。それに、あの船着き場で見かけた三人組も気になる。


 レイブンを回収して岩山に作った拠点へと戻り、ビグシープと結ぶ魔法陣を敷いたLVTP-5を召喚し、ビグシープの貸し倉庫へと転移した。

すぐにでも情報収集を始めたいが、時刻はまだ夜明け前。ビグシープはまだ深い闇に覆われ、聞く相手も起きてはいまい。

それに、シエラから得た情報の中に白い獣人種について何も記載されていなかった以上、このビグシープ周辺では情報を得ることは出来ないかもしれない。

貸し倉庫内にもう一組の転送魔法陣を設置し、今度はアマール湾内に停泊しているマリーダ商会の交易船へと転移した。


アマールに戻ってきても時刻が深夜なのは変わりない。次の連絡会に決めていた日時まではもう数日あるのだが、現在までの採集した各属性魔石を船倉に出しておく。

その後は夜明けまでにこれまでの迷宮島での戦闘の振り返り、遭遇した魔獣たちを効率よく仕留めるポイントや島内での有利なポジショニングの精査など、迷宮島を一つのミッションマップと想定して様々な検討を行った。


そして翌朝。ゼパーネル邸の玄関前で、アマール護衛船団の指揮所へと出勤するアシュリーとゼパーネル宰相を捉まえた。


「シュバルツ!」


「おはよう、アシュリー」


「随分と早い帰還なのじゃ、何かあったのか?」


「えぇ、実は宰相に見て貰いたい魔獣がいるのですが――」


 外せない朝の会議があるためアシュリーは指揮所へと向かったが、宰相は俺の話を聞くために時間を作ってくれた。


 邸宅のサロンでTSSのスクリーンモニターを浮かべ、迷宮島で空撮してきた白い獣人種を見せた。


「……これはどういう〈スキル〉なのじゃ? いや、それは置いておくか……」


 ゼパーネル宰相はサロンに置かれたソファーに身を沈め、目の前に浮いているスクリーンモニターを細く白い指先で突っつきながら、映し出されている獣人種の姿をなぞっている。


「……顔が小さくてよく見えないのじゃが、この顔をクルトメルガで何度も見たのじゃな?」


「そうです――指をこう動かせば、画像を拡大させることができます」


「ほぅ、大きくなった!」


 ゼパーネル宰相は面白がって器用に画像を拡大縮小させ、指先一つで白い獣人種一人一人を確認していくが、次第にその好奇の笑みが消え、僅かに目を細めて語りだした。


「まだ……クルトメルガを建国する前の話なのじゃ……」


 ゼパーネル宰相と建国王のパーティーは、とある海岸線に生まれた迷宮を目指して旅をしていた。だが、彼らがそこで見たのは――迷宮を襲う魔獣の群れ。

 一匹の魔獣が迷宮の前に陣取り、多数の眷属を迷宮に送り込み、周辺に生息する自然界の生物――人や動物を襲っていた。


 大型昆虫型魔獣――エンプレスアント。のちに、クルトメルガ王国で最初の第一級危険魔獣に指定されることになる魔獣だった。


 エンプレスアントは大型のアリ型魔獣だが、その特徴は自立歩行が不可能なほどに肥大した腹部にある。取り込んだ人や動物、亜人種や魔獣を養分として取り込む他、その能力や姿形を複製して卵を産む。

 この産卵能力こそがエンプレスアント唯一の能力であり、これ以外には戦闘能力すら持ち合わせていない。


 だが、生み出された幼生体こそが最大の攻撃手段であり、幼生体本来の能力に加えて養分の複製した能力を保有し、ある程度の自由を与えて解き放つ――その目的は餌の確保だ。


 エンプレスアントは食欲旺盛な魔獣だ。ゼパーネル宰相が知っているだけでも数多くの都市を喰いつぶし、いくつかの迷宮を喰い滅ぼした。いくつもの大魔力石ダンジョンコアを取り込み、さらに種としての存在を進化させ成長を続けた。


「では、この白い獣人種がその幼生体ということですか?」


「特徴は似ておるのじゃ……この幼生体もエンプレスアントと同じくらい厄介なのじゃ。〈擬態〉と呼ばれる技能を使い、体から発する体魔臭で周囲の者に幻覚を見聞きさせて姿を偽り、油断させるのじゃ」


「姿を……偽る」


「そうなのじゃ。あの御方がおられた時はその擬態が通用しないので幼生体を追うことが出来たのじゃが……それが不可能になってからは中々居場所を掴めぬまま……三〇〇年は経ったのじゃ」


 体魔臭は魔力を帯びた香りだ。そのため、『魔抜け』である俺や建国王にはその擬態は通じなかった。

 元々、何度かの遭遇であの三人組の姿が俺以外には別の人物に見えていることは判っていた。そこに魔力が何らかの形で作用していることも予想が出来ていたが、だが――まさか魔獣の生み出した存在だとはな。


「しかし……この白い獣人種と同じ顔をクルトメルガ王国内で何度も目にしているのですが、彼らも幼生体なのですか? 白くはないですよ?」


「それも説明がつくのじゃ。幼生体はエンプレスアントの操り人形とは違い、ある程度の意思を持っておるのじゃ。そして、親に餌を運ぶために狩りを繰り返すうちに、成体へと進化する……そうなれば一匹の魔獣として自由を獲得し、巣立っていくのじゃ」


「なぜですかね……エンプレスアントの特徴を含めて、まるで迷宮のように聞こえるのですが……」


「その通り――こやつの一番厄介な点はそこなのじゃ。餌を求めて移動し、危険を察知すれば逃げる。そして、そこら中に幼生体を産み落として喰い荒らすのじゃ」


 幼生体の全身は白い、それは獣人種でも魔獣でも変わらないそうだ。だが、成体になれば色は変わる。クルトメルガ王国で見かけた三人組は、その進化した成体だろうと言うのが宰相の予想だ。


 自由を手に入れた成体の行動は、最後に行っていた行動に惹きつけられる。迷宮狩りが冒険者となり、エンプレスアントを守ることが護衛任務となり、餌狩りは食事への欲求となる。

 普人種や獣人種よりも長命な魔獣である三人組は、無意識にそれらを追い求めて動いていたのだろう。


 白い獣人種について一つの答えを出し、それを確かめるためにすぐに迷宮島へと戻った。居場所の見当はついている――クレスタの中心部に存在するはずの迷宮――『火口の迷宮』に潜んでいるのだろう。


 狩り取る必要がある――エンプレスアントは魔石採集を円滑に行う上で、邪魔でしかない。

 



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