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 城塞都市バルガに、朝の7時を告げる鐘が鳴り響く。俺は「迷宮の白い花亭」に取った宿の一室で、もう一ヶ月にはなるであろう、異世界の朝を迎えていた。

 もうすぐ宿の女将である、ミラーナさんが朝の洗面湯を持って来るだろう、俺は一人で寝るのにも少し小さいなと思わす、木のベッドから這い出し、部屋においてある水差しから水を一杯取ると、一気に飲み干した。



「昨日は少し飲みすぎたか……」



 昨日は俺のDランク昇級祝いと、アシュリーさんのギルド調査員に正式に昇格したことのお祝いを、アシュリーさんと二人で、夕食を摂りながらささやかに行っていた。夕方に総合ギルド前で待ち合わせし、予約したちょっとグレードの高い「セノーテ」と言う料理店へと向かった。


 そこでアシュリーさんと、この異世界のちょっと高級な料理、と言っても元の世界の方が洗練されていると感じたが、十二分に美味しい食事を楽しみ、普段から余り飲まない果実酒なんかも食後に飲んでいた。

 FPSプレイヤーとしては、飲酒してのプレイと言うのは当然ながら厳禁であり、元の世界でも殆ど飲んでは居なかった。飲むのはチームの勝利を祝う祝勝会的な集まりや、会社の同僚や上司と、たまに飲みに行くぐらいだろうか。


 ちびちびと飲みながら、食後にアシュリーさんと色々な会話を交わし、迷宮のことやギルドのことを始め、この城塞都市バルガのことなど、話題に尽きることは無かった。 

 しかし、お互いにお互いの半生に関することは一切触れなかった。アシュリーさんがどう思っていたかは判らないが、俺はアシュリーさんの後ろにあるものには興味はない。かといって、考え無しに聞いて薮蛇になっても不味いので、何も知らないままにしている。


 そんなお互いの距離を詰めきれない会話をしながらも、楽しい一時であったのは間違いない。さらに俺は、自分の体が酒に酔える体だとわかった喜びで、ついつい飲みすぎてしまった。それでも食事と会話を十二分に楽しんだ後、なんとかアシュリーさんを、総合ギルドの職員用宿舎まで送る事はできるくらいの酔いではあったが。






 今日の俺の予定は、迷宮探索を休止しマッピングした牙狼の迷宮の、地下一階と二階を元に、資料館へ売りつける地図を作成するつもりだ。先日閲覧した資料館に置いてある地図の、出来の悪さにはかなり嫌気がさしていたが、アシュリーさんにその話をしていると、正確で綺麗な地図は資料館で買ってくれる上に、ギルドポイントも貰えるそうだ。


 冒険者として依頼をこなす時間よりも、迷宮探索に時間を費やしたい俺としては、迷宮探索をしながらできるマッピングを、転写するだけの地図作成で、報酬やギルドポイントが貰えるのは非常にありがたかった。冒険者としてギルドから報酬を貰う形を取らないと、納税も別途行わなくてはいけないしな。


 まずは資料館に行き、地図の仕様の確認をすることにし、俺は総合ギルドへと向かった。








◆◆◇◆◆◇◆◆






「レミ、新しく発見された迷宮はどうなっている?」



「はい、マイラル村の西方で発見されました地下迷宮は、名称を『緑鬼の迷宮』と名付けられました。調査隊を編成し、地下一階へと進入していますが、現在の攻略層は地下一階のままです」



 私はマイラル村の西方で発見された、新しい迷宮に関する1次報告の為に、城塞都市バルガの総合ギルドへと戻ってきていた。総合長のガルバス・ビューリッツ伯爵は、相変わらずの質素な執務室で報告を待っていた。しかし、報告できることはそう多くは無い。

 今報告できるのは、地下迷宮の正確な場所と、その地下一階が他の迷宮とは比べようのないほどの複雑で広い階層であること、そして



 「緑鬼の迷宮、地下一階に現出しているのは、亜人種のゴブリンのみのようです。1週間ほど地下一階を探索しましたが、ゴブリン以外の種とは遭遇していません」



「それで『緑鬼』か……しかし、地下一階に時間が掛かり過ぎではないか? 測量や地図作成に長けた調査員も居るはずだろう」



「それが、緑鬼の迷宮の発見と同時期に、王都近郊の迷宮で門番越えがあったそうで、そちらの迷宮に多数の調査員が派遣されています。その為、緑鬼の迷宮の地図作成は人手不足により、製作が進んでおりません」



 門番越えとは、迷宮の10層ごとに居る転送魔法陣を守る強力な魔獣・亜人種を討伐し、更に下層へと道を開いた事を指す言葉で、地下迷宮の10層ごと、もしくは最下層のひとつ前に門番がいる。

 門番は一度討伐されると二度とそこには現れないが、討伐されるまで決してそこを動く事も無く、迷宮討伐には門番の排除が必要不可欠であった。 



「なんとも間の悪いことだな、地図が描ける冒険者に指名依頼を出し、人数を集めろ。情報規制もそろそろ限界だろう、冒険者が迷宮に殺到する前に一層でも深く先行しろ」




 



 総合長の命を受け、私は資料館へと向かった。指名依頼を出す冒険者を紹介してもらう為だ。しかし、城塞都市バルガ周辺の迷宮は、今年一度も門番越えがなかった。すでに周辺の迷宮の地図は出来上がっており、腕の良い冒険者が運良くいるかどうか……。



「丁度良い冒険者がおりますよ、今日の朝方に地図作成に関する問い合わせがありまして、迷宮地図の仕様の説明と道具の手配をしましたら、つい先ほど試しにと牙狼の迷宮、地下一階の地図を持ってきましてね。これがまた見事な地図なんですよ、見ます?」



「あ、あぁ、見せてくれ」



 そうして資料館の司書官に見せてもらった地図は、私が今まで見てきたどの地図よりも綺麗で、整然と描かれた地図だった。真っ直ぐに引かれた線、どの道も縮尺が均一で距離感が非常にわかりやすい、これほどの地図は《技能》持ちにも描けないのではないだろうか。



「コレを書いた冒険者をぜひ紹介してくれ」



「構いませんが、彼はまだDランクで指名依頼は出せませんよ?」






 Dランクでこれほどの地図を描ける……だと……?





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