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 VMBのシステムにあるギフトBOXという、任意のアイテムを納める事ができるBOXを、アイテムボックスとして流用できることに気付いた俺は、まだ昼前と言う時間を考え、アシュリーさんと約束した夕食の前に、マリーダ商会へ行き、前々から用意をお願いしていた探索用の道具らについて、持ち運ぶ大きさや重さを考慮する必要がなくなったこと、また持ち運ぶ余裕が無いと諦めていた道具類を、新たに用意してもらうよう話をしに行く事にした。



「こんにちは~」



「いらっしゃいませ、シュバルツさん」



 もはや顔馴染みに成りつつある、いつもの従業員にあいさつし、マルタさんがいるか聞くと、いつもの奥の部屋へと通された。城塞都市バルガは、迷宮都市とも言われるほど、武具屋や道具屋それに鍛冶屋などが充実しているのだが、マルタさんと出会ってからと言うもの、マリーダ商会の店舗しか利用していなかった。

 まぁ、ここに来ると美味しいお茶が飲めるって言うのもあるのだが。



「ほぅ、この濃い色はふかむし茶かな?」



 従業員が持ってきてくれた今日のお茶は、濃い緑色で甘く香ばしい火香ひかが香るお茶だった。



「本日のお茶も気に入ってもらえましたかな? 新芽の柔らかい所だけを、豊富な蒸気で時間をかけて蒸した一品ですよ」



 そう言いながら入ってきたのはマルタさんだ、今日もニコニコと柔和な笑顔で丸っこい腹を揺らしている。



「この強い香りがいいですね、マルタさんのところには、道具や素材の売買に来るのか、それとも美味しいお茶を飲みにくるのか、判らなくなりますよ」



「はっは、シュバルツさんくらいですよ、お出しするお茶を選ぶのを楽しめるのは。それで、本日は魔石の売却ですか?」



「ええ、それもあるのですが、前々から頼んでおいた道具類はどうですか? 冒険者用の道具袋のような物が用意出来たので、追加で大き目の野営道具や、備品も色々と頼みたいのですが」



「ような物? 道具類は揃っていますよ。時間が掛かってしまいましたが、水の魔石だけで水を補充できる水筒も、王都から届きました」



 迷宮を探索する上で、どうしても必要になる物が食料と水だ。この二つは持ち歩くには量がかさばるし、減らすと命に関わるので、十分な量を持たなければいけない。

 しかし、道具袋の使えない俺には、これらを量持つ為に、どうしても値の張る魔道具を用意する必要があった。とくに水の魔石で自動で水が補充される水筒は、冒険者からの人気も高く、城塞都市バルガでも中々見つからなかった。結局はマルタさん経由で王都から買ったわけだ。


 俺は昨日の迷宮探索で獲た魔石の売却し、その売却金と手持ちの銀貨で、用意してもらった道具類の支払いをした。追加注文の道具類もすぐに揃うそうだが、これまで支払うと、今夜の食事代が吹き飛ぶのでそれはまた後日。


 マルタさんに頼んでおいた道具類を持ってきてもらうと、俺はマルタさん以外の従業員の人払いを頼み、応接室でギフトBOXを取りだした。



「こ、これがシュバルツさんの道具袋……のような物ですか?」



「そうです、本来の名前は別にあるのですが、とりあえず道具”箱”とでも言っておきましょうか。これに仕舞いますので、追加の分もよろしくお願いしますね」



「え、ええ、それは勿論ご用意させてもらいますけど、何もないところから出てくるのはいったい……?」



「それは……『魔抜け』故のスキルだとでも思って下さい」



「いやはや、シュバルツさんには驚かされてばかりです……ちなみにこの道具箱、どのくらい入るのですか?」



「品目数で30、大きさは無視できます。1品目あたり99個で1品目、100個以上になると2品目扱いになりますね」



「なんと! この箱にそれほど入るのですか!」



 ギフトBOXは、複数人数で一つの箱に色々と入れられる仕様の為、入れれる品目数には余裕があった。そして、1アイテムに付き99個までスタックできるのはVMBの仕様だ。

 そしてなにより、このギフトBOXは俺のインベントリ内に、重複して持つことが出来る、つまり俺は、無限に等しい程のアイテムストレージを手に入れていた。


 俺の説明を聞き、マルタさんの目がニコニコ顔から、鋭い商人の目つきに変わっている。俺は『魔抜け』の事は勿論、詳しい内容はぼかしながらも、血統スキルを所持していることをマルタさんに匂わせていた。

 しかし、それはあくまでもマルタさんだけであり、他のマリーダ商会の関係者などには話さないようにお願いしていた。

 この人を全面的に信頼しているというわけではないのだが、この異世界で知り合った数少ない同性であり、友人のような存在ではあった。



「シュバルツさん、たしかまだDランクでしたよね?」



「ええ、Dランクのままですよ、今後は迷宮探索が中心になるでしょうから、冒険者としてはあまり活動しないと思うので、ランクが上がるのは当分先でしょうね」



「それは残念。Cランクになると、指名依頼と言うのが付加されます。総合ギルドを経由して、冒険者個人に依頼を出すわけですが、シュバルツさんの道具箱は、商人の目から見たら垂涎の的ですよ。大量に仕舞えて大きさも無視、それなのに運ぶ時には消えている。つまり、防犯の面から見ても、輸送量の面から見ても素晴らしいものです。機会があれば、是非にも我がマリーダ商会の商品輸送に、協力していただきたいものです」



「なるほど……まぁそれは機会があれば……」



 そう答えはしたが、マルタさんの鋭い目は俺の道具箱を見つめ続け、インベントリにしまって光の粒子となって消えるまで見つめ続けていた。






◆◆◇◆◆◇◆◆




 城塞都市バルガにある領主の城、バルデージュ城には大きな釣鐘のある塔があり、それが朝昼夕と1日に3回鳴らされる。アシュリーさんとの約束は夕方なので、夕方の鐘が鳴る頃に総合ギルド前で待っていればいいだろう。


 30分ほど待っただろうか、夕方の鐘が城塞都市バルガに鳴り響く、ヘッドゴーグルに表示される時刻は17:00だ。この時刻が定時の職場があるのだろうか、パラパラと総合ギルドの敷地内の幾つかの建物から、二人組、三人組、もしくは一人と、これから夕食を食べに行くのであろうグループと、ぼっちが市内へと向かっていく。


 俺は、総合ギルドの敷地の門前でアシュリーさんを待っていた。まるで、漫画かギャルゲーでの人待ちのように、門柱へ背を預け、流れ行くこの異世界の人々を見ていた。

 普通の人間、この異世界では普人種という種族になるらしく、俺もこの普人種になる。その普人種を始め、獣人種、エルフやドワーフなどの妖精種、色々な種族が生きるこの異世界で、俺は生きていけるのだろうか。

 またそんな風に感傷的になりかけた時、視界にアシュリーさんの、言葉に言い表わせないくらいに輝く金髪が見えた。落ち行く太陽の光に照らされ、金赤に輝いている。



「待たせちゃいましたか?」



 アシュリーさんのその言葉は、口調がいつもより砕けた感じな気がした。アシュリーさんの髪の輝きに目を奪われていた俺は、その口調に同じように返していた。



「いや、待ってないよ。さ、飯食いに行こう」



「はい、でもどこに行くんです? 夕方の鐘が鳴ってすぐはどこのお店もすぐに混んじゃいますよ」



「マルタさんに美味しい店聞いといた。ここに来る前に予約入れてきたから、ゆっくり行っても大丈夫だよ」



 そう言って、俺はアシュリーさんを連れて、バルガの南に広がる歓楽街へと歩いていった。




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