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 王城の謁見室で行われた報告会の後、ゼパーネル宰相と共に王城の外れに建つ武家屋敷へと向かい、そこで荒らされた室内を片付けていたアシュリーたちと合流し、再建中の王城で最初に建て直された防護施設へと向かった。


 防護施設は小さな倉庫程度の大きさだが、外部から攻撃を受けても簡単には倒壊しない強度で建て直された。施設での出入り口には近衛騎士が立ち、その周囲には警備兵が歩哨に立っている。

 そして、今その中にあるものはたった一つ――転送魔法陣の出口である模写魔法陣だけだ。


 このコンクリートの塊とも言える防護施設が守っているのは、俺に所有権がある転送魔法陣の出口だ。主に海洋都市アマールと繋ぐための場所であり、俺たちがアマールにいる間に再び王都が襲われた場合、携帯電話で連絡を受けて緊急避難用の転送魔法陣を設置する場所でもある。


「ロンちゃんたちはまだみたいなのじゃ」


「どうせジジイは会議が長引いているんでしょ」


「騎士団幹部と魔導貴族が揃っての会議でしたよね? 時間が掛かってもしょうがないのでは?」


「そうよ、シャル。王都周辺の混乱は収まったけれど、ドラーク王国を始め、近隣諸国の動きにはまだまだ注意が必要よ」


 防護施設の中にはすでにLVTP-5が待機しており、全面ハッチを開放していつでも転移できる状態にしてある。その繋ぐ先は射撃演習場に設置した大型ショッピングセンターの大駐車場だ。


 ゼパーネル宰相はLVTP-5の乗員席に座り、足をパタパタさせながら待ち時間を持て余していた。その姿を見るに、報告会の後に見せた沈んだ感情は消え失せたようだ。


 いや、アシュリーやシャルさんに見せないようにしているだけか……。


 自らを人形だと蔑み、不老の力を“呪い”とまで言い切って嫌悪感を露わにしていたが、自分のことをゲーム世界の元NPCだとは一言も話さなかった。

 もしかすると、それは現国王やバーグマン宰相たちですら認識していない事実なのかもしれない。


 少し考えればそれも当然に思えた。自分は人でもエルフでもなく、ゲーム世界のNPCだなんて言っても、この世界の人々に理解されるわけがない。さらに言えば、創世神か狂える女神によって受肉し、人としての生を手に入れたなど、いったい誰が信じようか――。


 それこそ、神の使徒だと言った方が信じられる。


 ゼパーネル宰相があそこまで胸の内をさらけ出したのも、建国王と同じ境遇でこの世界に落ちた俺の前だからだろう。


「なんにしても早くしてほしいわよ。シュバルツが遠征するってことは、当分の間は“びーる”が飲めなくなるってことなんだから、今日は大量に持って帰るわよ!」


「そう、そうなのじゃ! “あいす”に“ちょこれーと”も大量に回収するのじゃ」


 LVTP-5に乗り込んでいくシャルさんを横目に、俺の前に立つアシュリーに思わず苦笑いが漏れる。


「フィルトニアにはどのくらい滞在するつもりなの?」


「最低でも二ヵ月は帰らないと思うよ。普通の商船だとフィルトニア諸島連合国の玄関口まで二週間はかかる。俺の船ならもっと早いだろうけど、一日や二日で到着できるわけではないからね」


 すでにアシュリーやゼパーネル宰相たちには、フィルトニア諸島連合国が放棄した迷宮島へ向かうつもりでいることを告げてある。

 最初は反対されたが――今後の活動には大量の魔石が必要な反面、クルトメルガ王国内では無属性魔石だけでなく、各属性魔石すら流通量が低下している事実からは目を背けることは出来なかった。


 そもそも――なぜ俺が無属性魔石を欲しているのか。


 その理由を正確には話していないが、魔道具の使用に魔力や魔石が必要なように、『魔抜け』である俺が血統スキルを使うためには無属性魔石だと説明し、迷宮島で直接集める重要性を理解してもらった。


 また、バイシュバーン帝国が集め育てている血統スキルの持ち主たちも、俺同様に無属性魔石を必要としており、それを妨害する意図も含めて、王国を挙げてオルランド大陸各地の魔石を集める方針も決まっている。

 今後、クルトメルガ王国とバイシュバーン帝国は魔石の流通網をめぐって秘かに争うことになるだろう。


 その争いを避ける意味でも、俺が迷宮で直接魔石を採集することが必要だ。


 だが、クルトメルガ王国内でそれを行えば、迷宮探索以上の危険が付きまとうことになる。迷宮探索で俺が単独行動を起こせば、王国中に潜伏している“覇王花ラフレシア”傘下の冒険者が俺の命を狙ってくるだろう。


 面倒を避け、より多くの魔石を手に入れる意味でも、王国を離れて迷宮島に溢れる魔獣・亜人種を狩りに行くことを決めたのだ。


「でも……一人で大丈夫なの?」


「一人の方が安全だよ。それに――手に負えない状況や援軍が必要となれば、すぐにでも転送魔法陣でアマールに戻ってくるよ」


 そう、その安全策がなければゼパーネル宰相やバーグマン宰相も遠征に賛成してはくれなかっただろう。二人の賛成があったからこそ、アシュリーも納得し、カーン王太子とアーク王子護衛の任から離れることを現国王も快諾してくれた。


 しかし……。


「はぁー……憂鬱だわ。シュバルツがいなくなったら、アマールでの警備責任者は豚レモンなのよ……」


 俺たちの会話が聞こえていたのか、LVTP-5の中からシャルさんのぼやきが聞こえる。


「……豚レモンって誰だっけ?」


 名前が思い出せない豚レモンの腹と頭を思い浮かべながら、思わずアシュリーに聞いてしまった。


「――ドルーモ子爵家の長男でアマール護衛船団の総指揮官、レイチェン・ドルーモよ。これまではゼパーネル、バーグマン両宰相直属のクラン“火花スパーク”がカーン王太子とアーク王子の護衛に就いていたから大人しくしていたけれど、あなたが任を解かれると知って張り切っているわ」


 あぁ……ヨーナとUボートを必死に捕まえようとしていた貴族か……。


「大丈夫ですよ、シャルさん。邸宅には“君影草スズラン”のロイとレイチェルが残りますし、何かあれば携帯で連絡してください」


 アシュリーと一緒にLVTP-5の中へ入り、乗員区画の座椅子に腰を下ろして話を続ける。


「“けいたい”かぁ~あれ、耳がこそばゆいのよ。耳元から声が聞こえるのは変な感じがするしぃ」


「使っていればそのうち慣れますよ。あぁ――でも、俺がいない間は使用を控えてくださいよ。使いすぎても燃料ゲージを回復できませんから」


「あー、もしもしロンちゃん? 妾なのじゃ、一体いつまで会議をしているつもりなのじゃ、さっさとくるのじゃ!」


 通話によって減少した燃料ゲージは俺が直接回復するしかない。数十時間の通話容量があるとはいえ、ちょっとした事で通話していたらすぐになくなってしまうだろう。

 ただでさえ目新しい便利な道具の出現に、ゼパーネル宰相をはじめバーグマン宰相も面白がって無駄話をするために電話を掛けてくる。


 だが、そんな使われ方をしたら確実に燃料ゲージが尽きてしまう。


 思わずゼパーネル宰相へと視線が動き、その動きに釣られてアシュリーとシャルさんの視線も宰相へと向く。


「ロンちゃんたちの会議はすでに終わって、もうすぐ――どうかしたのじゃ?」


 バーグマン宰相との通話を終え、ゼパーネル宰相が俺たち三人の視線に気づいて動きを止めた。


「宗主様、シュバルツが迷宮島へ出発したら“けいたい”の使用は控えてください。もしもの時に使えなかったら一大事ですからね」


「うっ……わかったのじゃ」


 少しばつが悪そうにゼパーネル宰相がうな垂れたのと、防護施設の扉が開いてバーグマン宰相とカーン王太子にアナスタシア様、それにアーク王子とラピティリカ様が入ってきたのはほぼ同時だった。



 



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