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 王城の謁見室で行われている現国王との会談、というよりかは報告会? は、バーグマン宰相が進行役となって進んでいた。

 主な案件はバイシュバーン帝国の動向と、行方が掴めていないキリーク・フェリクス両名についてだ。


「ドラーク王国で情報収集を行っている諜報員からは、国境線に近い街に駐屯していた竜騎士部隊が中央へ引き返したとの報告が上がっております」


「やはり、バイシュバーンと足並みを揃えて南下する腹づもりでおったか」


「第二騎士団にはドラグランジュ辺境伯領にて、引き続き警戒をするように指示を出しておきます」


「王国内に入り込んだバイシュバーンの皇族の件はどうなのじゃ?」


「それはギルドマスターのベルダライン公爵が直接指揮して背後関係を調べておるが、今のところ何も判っておらぬ。こちらも“君影草スズラン”のレミをバイシュバーンに潜入させ、帝国の現状と皇族の血縁関係を調べさせるつもりじゃ――そこで、シュバルツに一つ頼みがある」


 主に現国王と二人の宰相が話し合う形で事は進んでいくが、不意に俺へと話が振られた。


「まさか……私に帝国へ赴けと?」


「心配するな、お主の持つ“ケイタイ”を一つ手配してほしいだけじゃ。帝国に潜入させたレミと安全に連絡を取り合うためには、奴らの想像を超える手段で行うことが望ましいのじゃ」


 なるほど……確かに携帯電話を使えば潜入工作で得た情報を逐一報告することが出来る。それに、バイシュバーン帝国が知りえない情報伝達手段ならば、レミさんの安全も確保しやすくなるだろう。


「そういう事でしたら喜んで用意します。使用可能時間に限度があるので、念のため複数台持っていくべきでしょう」


「助かる。それで、問題のキリーク王子とフェリクス・メンドーザの所在、それに加えて行方不明となっているシリル王女の件についてじゃが――」


 王城の地下神殿から転移したキリークとフェリクスはもちろんのこと、フライハイトで姿を目撃されたのを最後に、現国王の第四王女であるシリル王女も行方不明のままとなっていた。


 宰相直属の諜報クランである“君影草”は、その大半が王城で戦死してしまった。そのため、元々王国各地で諜報活動をしていた人員を王都に戻し、公に出来ない捜索活動に当たらせていた。

 レミさんもその一人で、反乱の夜には王都の遥か北東の貴族領で活動をしていたそうだ。


 そして、この貴族領こそが“覇王花ラフレシア”の拠点の一つであり、キリークの亡き生みの母――現国王の第二妃だった人物の出身地でもあった。

 第二妃はキリークの出産時に亡くなり、キリークは母の愛を知ることなく育ったのだそうだ。大勢の召使いに囲まれ、幼い時から人に――女性に命令を下して生きることを当たり前としたキリークが真っすぐに育つことはなかった。


 そのことに現国王は悔恨の情を見せていたが、王とは子の親である前に国家の王であるべきだと俺は思う。

 キリークがどう育とうと、“覇王花”というクランがその性根をどれだけ助長させようと、その結果起こした行動の責任はキリーク本人にあるはずだ。


 キリークとフェリクスは王都の南東の森から北上してこの貴族領へと逃げ込み、姿を消したシリル王女もこの貴族領にいるものと思われた。しかし、反乱の鎮圧後に中央騎士団が捜索を行ったが、見つかったのはキリークの祖父であり、貴族領の領主でもある老貴族の自害した姿だけだった。


「領主館の捜索によって、北方経由でいくつもの積み荷が領内を通過したことが判った。ここがバイシュバーンと深く繋がっておったことは間違いないのじゃ」


鬼鋼兵ミニオンを生産していた水晶の台座ですか」


「たぶん、それじゃろう。是非とも回収して錬金術ギルド総出で研究させたかったのじゃが、お主が爆破した倉庫跡にはそれらしき魔道具は破片一つ見つからん」


 鬼鋼兵を生産していた水晶の台座は〈血統スキル〉によって具現化されたゲームシステムのツール、もしくはゲーム内オブジェクトだと思われる。

となれば――VMBの銃器や車両同様に、破壊された瞬間に光の粒子やそれに類似した現象を起こして消滅したのだろう。


「〈血統スキル〉で具現化したものでしょうからね。皇族の男が死んで消滅したのでしょう」


「ふむ……では枉王まおうシュバルツ――お主が死ぬと、そのケイタイとやらも消滅してしまうのか?」


 何気ない現国王の一言に謁見室に座る誰もが声を失った。


「そう……ですね。その可能性はあります。試すことは出来ませんが……」


「シュバルツに死なれては困るのじゃ。まだ“ほーむせんたー”のアイスを全て食べておらぬのじゃ」


「――宰相、心配するところが違いますよ」


 一瞬、場の空気が凍りついたが、ゼパーネル宰相の気の抜けるような言葉とカーン王太子の穏やかな突っ込みによって空気が変わった。


「まったく……話を戻すぞ。捕縛したヤミガサ商会のダイカンと“覇王花”の冒険者を尋問し、奴らの目的を探ったのじゃが……どうも“覇王花”内の序列によってその目的が違っておる」


 序列? そういえば随分と昔にそんな事を言っている奴がいたな――あれは確か、ヤゴーチェ商会だったか……。


「序列下位の者ほど、今回の目的がクルトメルガ王国の実権を握り、このオルランド大陸に覇を唱える礎とするつもりだったことが判る――じゃが、これが上位の者になると話が噛み合わぬ」


「ダイカンとバイシュバーンの皇子の護衛していた冒険者たちは、国の支配を“ちっぽけなこと”と言い捨てていましたが、これまでの“覇王花”の動きを振り返れば、その狙いの本丸は――」


 そう言って視線を向ける先にいるのは、銀糸の髪を揺らして口角を上げたゼパーネル宰相だ。


「間違いなく、妾なのじゃ」


「しかし、なぜ……?」


「〈約束された祝福プロミス・ブリージング〉だな」


 俺の質問に答えたのは現国王だ。玉座に大きく背を預け、天を見上げるかのように格子状に組まれた天井を見上げている――。


「クルトメルガ王国の王にのみ付与される〈大魔法〉、その効果は国家の行く末を変えるほどのものだ……なにせ、付与された者に不慮の死が訪れた時、決して抗えぬ生命の理をげ、死の世界より呼び戻すのだからな」


「死者蘇生の魔法?」


「その通りなのじゃ、事前にその効果を付与しておくことにより、一度だけ死の未来を消し去ることが出来るのじゃ。さらに言えば、この〈大魔法〉は誰にでも、何回でも付与することが可能なのじゃ。欠点があるとすれば、同時に一人にしか付与できぬという一点のみじゃ」


「そのような〈大魔法〉、これまで聞いたこともありませんでした。それでカーン兄さまの病気は治せないのですか?」


「残念ながら無理なのじゃ、アーク。常態化した異常を癒す魔法ではないのじゃ、この〈大魔法〉は戦闘による死亡を免れることを想定しておる――かつて、妾と共に大陸を駆け抜けたあの御方も、この〈大魔法〉によって何度も死の世界より帰還したのじゃ。それほどの保険がなければ、迷宮と言う迷宮を滅ぼしつくすほどの戦果を挙げることは不可能じゃった」 


 どこか懐かしむように、ゼパーネル宰相は伏し目で静かに語っていった。建国王の戦いの歴史を――。


 このオルランド大陸に溢れていた弱き民を助けるため、この世界に落ちた建国王は国を興すことを誓った。自らの力を最大限に発揮し、数々の迷宮を討伐していく。それは建国のための資金作りであり、安全で平和な土地を手に入れるためには絶対に避けることが出来ない挑戦だった。

 だが、建国王とて無敵の超人ではない。仲間と共に下りた先の迷宮地下深くで、魔獣によって――門番によって――迷宮の主ダンジョンマスターによって死を迎えることが幾度となく繰り返された。


 しかし、彼の傍には常にゼパーネル宰相がいた。死からの復活という保険を手に入れ、自らの命を盾として仲間を救い、数々の迷宮を滅ぼした。


 それはまるでゲームだ。


 だが、結果的にはその行為が建国王を完全なる死へと誘った。死んでも生き返ることが出来る建国王は相当な無茶をしたのだろう。いつしか体中に癒しきれないほどのダメージを蓄積し、それが常態化した。


 建国王は歳を積み重ねることが出来ず、建国まもなくして世界を去ったのだ。


「では、キリークたちの狙いは、その〈大魔法〉?」


「それだけではないはずじゃ……〈約束された祝福〉は一人にしか付与できぬし、この世界の者たちには“まだ”使えぬはずじゃ。妾の血を手に入れ、〈血統スキル〉として伝え広める必要がある。それは何年……何十年と掛かる長い道のりなのじゃ」


「では、他に何が――?」


 ゼパーネル宰相は自分の細く磁器のように白い手のひらを見ていた。ゆっくりと手を回して手の甲を見下ろし、また手を回す。


「……不老なのじゃ」


 その一言で再び場の空気が凍りついた。静かにゼパーネル宰相の話を聞いていた皆が、瞬時に全てを悟ったのだ。


 “覇王花”の狙いが――不老不死にあると。





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