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「陛下、ご無事の帰還、お待ちしておりました」
現国王や宰相たちと共に射撃演習場からバルデージュ城内へ転移すると、倉庫前には多数の光点が整然と浮かび、現国王の帰還を待ちわびていた。
整列するのは西方バルガ騎士団と、王国各地より参集した騎士団の代表者にそれを率いる貴族たち、そしてカーン王太子にアーク王子、ゼパーネル宰相にラピティリカ様の姿も見える。
「皆の者、よく集まってくれた。すでに聞いておると思うが、馬鹿息子のキリークがバイシュバーン帝国と通じて反旗を翻しおった。だが、キリークとその腹心のフェリクス・メンドーザは王都から転移し戻っては来れぬ。カーンよ、総戦力はどれほど集まっておるか」
「はい、陛下。国内五二の内、三六の騎士団が参集に応じています」
「残り一六の騎士団はキリークについたか」
「確証はありませんが……それと、“覇王花”傘下の冒険者クランが多数連絡を絶ったと、総合ギルドのギルドマスター、ベルダライン公爵より連絡がはいっています」
「ユキ、バイシュバーン帝国からの宣戦布告は?」
「まだ来てないはずなのじゃ。王城に戻れば書簡の一つも転がっておるかもしれんが、まずは国内を落ち着かせてからなのじゃ」
それからの動きは“覇王花”の反乱に迫る早さだった。
城塞都市バルガに王妃たちと防衛戦力を残し、西方バルガ騎士団を中心にして王都へと出陣。一時的に占拠された王都の重要施設を次々に奪還し、“覇王花”のクランハウス及び傘下の商会を強制捜査、そして――半壊した王城に残る“覇王花”の残党を掃討し、反乱翌日の夕刻までには王都の実権を回復した。
だが、反乱の鎮圧はそれでは終わらない。この緊急事態に参集を見合わせた貴族領へ騎士団を派遣し、一時的に領主の貴族を拘束。
今回の反乱に関わったのか否か、バイシュバーン帝国との繋がりについてなど、多方面での聴取が行われる事となった。
しかし、“覇王花”の本隊はその殆どを捕縛することが出来たのだが、地下神殿から転移したキリークとフェリクスは姿を消し、傘下の冒険者クランも散り散りとなって後を追うことが不可能な状態となっていた。
追えなくなった一番の原因は、個人を確認できないことだ。ギルドカードという身分証明書はあるのだが、それは数ある証明手段の一つでしかなく。総合ギルドではギルドカードの発行を行っているが、その複製情報を保管しているわけではない。
本人でしか提示できないカード情報を提示して見せるからこそ、本人確認が取れるのであって、別のギルドカードやクラン情報が未記載ならば確認のしようがないのであった。
ならば通常の治安維持行動と同様に、捕縛してからの聴取と証拠固めをするしかないのだが、それを王国中の冒険者に行うわけにもいかない。そんなことをすれば冒険者たちはクルトメルガ王国を去り、隣国へと拠点を移してしまうだろう。
反乱鎮圧から数日たっても、バイシュバーン帝国並びに属国化しているドラーク王国は沈黙を続けていた。宣戦布告の書簡が届くこともなく、俺がヤミガサ商会の商館で殺害した皇族について問い合わせてくることもなく。まるで最初から無関係であったかのように、静観の構えを取り続けていた。
そして、今俺がどこにいるのかと言うと――。
「シャフト様、ご夕食の準備が整いました」
現国王一行を城塞都市バルガに転移させた後、俺は現国王の頼みで海洋都市アマールへと移動していた。その頼みとは――。
「カーン王太子とアーク王子は今どこに?」
「アナスタシア妃様とラピティリカ様と共に、サロンにて歓談をされております」
「アシュリーと宗主はまだ船団本部に?」
「はい、ですがもうすぐお帰りになられるかと」
「そうか、なら先に王太子たちに食事をとってもらうか」
「シャフト様はいかがなされますか?」
「俺の分はいい。アシュリーたちの帰りを待つ」
「かしこまりました」
「よろしく頼む、レスター」
私室から出て行くゼパーネル家本宅の執事、レスターさんの背中を見送ると――ケブラーマスクを外し、シュバルツとしての素顔で一息つく。
現国王たちを王城から救出した後、俺は反乱の鎮圧作戦には参加しなかった。もちろん参戦を頼まれたが、一晩中戦い続け、体力・気力ともに限界だと適当に並べ立て、バルガで休息をとらせてもらうことにした。
本当の理由はCPの残額が戦闘行動に耐えられる数値ではなくなり、移動用車両の燃料補給、銃器関係の弾薬補給などを考えると、補給をせずに戦闘行為を継続することは不可能だと判断したからだが……。
鎮圧作戦が進行していく中、俺はバルガのマリーダ商会を訪れ、支店長のビルさんと会い、秘かに無属性魔石の買い集めをお願いした。
ビルさんはバルガに溢れる各領地の騎士団の姿に不安を覚え、王都の情報やマルタさんの安否を問われたが、俺が伝えられることには限界がある。
王都や反乱、鎮圧作戦の細かい状況を俺がベラベラと話をするわけにもいかず、マルタさんは最初の襲撃を逃れ、無事に逃げたことだけをその時は伝えた。
その後、クルード伯爵が王国騎士団総顧問として騎士団間の連絡をバルガで取り始めたので、そこでやっとフライハイトでの襲撃後の話を聞くことが出来た。
フライハイトの使われていない地下道から戦えない貴族や女性、それに商人たちを連れて脱出したクルード伯爵は、すぐに馬車を数台確保して第一区域を駆け抜け第二区域へと離脱したそうだ。
“覇王花”は王都の崩壊を狙っていたわけではない。戦闘は第一区域に集中し、商業施設の多い第二区域や住宅街が広がる第三区域は静かなものだった。
そして、現状である。
“覇王花”の反乱を鎮圧し、国民に広くキリークの反乱を伝えた現国王は、キリークから王位継承権を剥奪し、“覇王花”の残党を含めて国家反逆罪で必ず罪を償わせると宣言した。
だが、王城に刻まれた反乱の爪痕は深く。そこで王国統治の指揮を執ることも、日常生活を送ることも難しい。また、反攻作戦で強力な魔法を放ち続けたカーン王太子は、その反動で溢れ出る魔力によって体調を崩し、静養が必要となった。
その為、王都やバイシュバーン帝国から遠く、転送魔法陣で直接乗り込むことも不可能な、海洋都市アマールのゼパーネル邸で静養をとることとなった。アーク王子もまだ狙われる可能性があったため、ラピティリカ様と共に同行している。
現国王からは二人の王子とその伴侶、そしてゼパーネル家の護衛を頼まれた。鎮圧作戦に参加しなかった負い目のようなものも感じていたが、アシュリーを守るついでと考えれば断る理由もない。
アシュリーはアマールの護衛船団本部で連日のように王都と情報のやり取りを行い、ゼパーネル宰相の監督のもと、次期ゼパーネルとして権力なき貴族の象徴となるための教育を受けている。
さて、ビルさんに用意してもらった分とアマールで買えた無属性魔石でCPを少しだけだが回復させることは出来た。今後はアマールと海洋貿易を行っているフィルトニア諸島連合国からも無属性魔石を買い取り、さらにCPを貯め込むつもりだ。
個人的には近場の迷宮に探索に入りたいが、アマールの近くには日帰りできる距離に迷宮がない。それに、カーン王太子たちの護衛を考えれば長時間離れるわけにもいかない。
ここはひとつ、カーン王太子の静養に合わせて俺も休息をとらせてもらおう。
次話より新エピソード的な感じです。




