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牙狼の迷宮から帰還した俺は、すぐに『迷宮の白い花亭』へと戻り、アバターカスタマイズで着替えることもせずに、探索装備のままベッドへと倒れ込んだ。
明日の夕方は、アシュリーと食事に行く約束をしている。迷宮討伐をこの異世界での生きる目標・目的に据えたは良いが、それで俺の気分が完全に晴れると言うわけではなかった。寝て起きた時に、少しでも気が晴れていることを願い、そのまま眠りについた。
翌朝、『迷宮の白い花亭』の女将であるミラーナの、洗面湯のサービスで起こされた俺は、朝食を摂ると部屋に戻り、少し前から気になっていたことの検証をする事にしていた。
それは、この異世界とVMBの基幹システムであるTSSがリンクする部分が、果たしてクリスタルだけなのか否か、魔石をクリスタルと認識して、ポイントに変換できたのは奇跡だとは思った。
しかし、他にも何かあるのではないか、と言うよりも探したいのは、いわゆるアイテムボックス的な機能の共有だ。
VMBのゲーム中に得たアイテムは、インベントリという、いわゆるアイテムボックスに収められる。
初期状態だと、インベントリに収納できる数はそう多くないが、俺はVMBの課金要素を利用し、インベントリをリアルマネーでかなり拡張していた。拡張に上限が無かった事と、かかる金額が小額だったこともあり、埋まることなどありえないほどのインベントリ拡張を行っていた。
このインベントリは、VMBのゲーム内で手に入る、あらゆるアイテムを収納する、銃器、アバター用の着衣、回復アイテムなどの備品等々、全てがこのインベントリに収められる、そう全てだ。
ならば、この異世界の物質も収納できるのではないか?
俺は宿の部屋の中にある小物……木製のカップを手に持ち、起動したTSSのスクリーンモニターにソレを落とした。
木製のカップはスクリーンモニターを透過して床に落ちた。
「ですよねー」
これで異世界の物質がインベントリに収納できれば苦労しないよ……俺はTSSの画面を、トップメニューからインベントリ、メール、ニュースと色々と変えたりしてみたが、木製カップがインベントリに収まる事はなかった。
「やはりだめかー、となると幾つかの探索用の道具を、魔石で動く魔道具に変えて、少しでも荷物を減らすか……」
やはり、異世界の物質を直接インベントリに収納させよう、なんていうのは無理があったようだ。そんなに都合よくいくわけがない。収納に関しては一先ず置いておいて、夕方のアシュリーとの夕食に着ていく服でも考えようと、俺はTSSからSHOPを選択し、アバター用のファッションアイテムを物色し始めた。
この城塞都市バルガの冬は、雪が降ることはないそうだが、やはり日が落ちれば冷え込む、厚手のコートや上着はどうしても用意したかった。
すでにロングコートやジャケットを手に入れているが、こういうのは何着あっても良い、ゲームだったころは全然買っていなかったので、選択肢は非常に多いし、数多くあるアバター用の衣類を、コンプリートしたくもなってくる。
いくつかのアイテムを選択し、カートに入れて精算という名の、CPとの交換をするわけだが、その時に一つのアイコンに目が止まった。
「ギフトBOX……」
そのアイコンは、購入したアイテムを他のプレイヤーに、プレゼントしたりする為の専用BOXへ入れるアイコンだ。
このギフトBOXをメールに添付して、遠くのエリアにいるプレイヤーや、時間帯の合わないプレイヤーへ、アイテムを渡したりするのに利用することが出来た。
また、このギフトBOXの面白いところは、ヴァーチャルリアルティーなゲームの世界にBOX自体を出現させ、その蓋を開ければ複数のプレイヤーが、一つの箱に様々なアイテムを入れることが出来た、ちなみに中身は開けるまでわからない。
俺は選んだ衣服を購入し買い物を終らせると、TSSの別の画面からギフトBOX自体を選び、宿の部屋にギフトBOXを出現させた。
俺の目の前に光の粒子が集まりだし、それが一点に収束しながら輝きを増していくと、そこに補給BOXの無骨な黒い箱とは違う、ピンク色のギフト用包装紙に包まれたようなカラー模様の、無骨な箱が出現した。
「ギフトBOXのデザインだけは、未だに受け入れられないな……だがギフトBOXは出る、蓋も……開くな」
ギフトBOXは、150cm×90cm×60cmほどの長方形のケースで、サイドのボタンを押せば、上部の蓋が自動で上がり開いていく。箱の中はまるで、異空間がそこに埋まっているかのような真っ暗闇であったが、これはVMBの時からそうだったので何も違和感はなかった。
俺はまず、サブ兵装のFive-seveNをギフトBOXの中に入れてみる。すると、上がった蓋の裏面にある目録画面に、しっかりとFive-seveNの名前が表示された、ここまではVMBの仕様通り、次に木製のカップを入れてみる。
「おおっ……」
目録画面にはFive-seveNに続いて、”Unknown”と表示されている。当然のことながら、ギフトBOXは容れ物でしかないので、VMBに存在しないものを入れても、自動的に解析してそれが何であるかを表示してくれたりはしない。
だが仕様の一つとして、入れた物の名前を目録上で変更管理することは出来た。 俺は目録画面の横にあるスクリーンキーボードを触り、Unknownと表示された物を木製カップとリネームし、今度はそれを取り出す。
「おおっ、ちゃんと取り出せた」
取り出した木製のカップを再び入れると、目録画面にはちゃんと木製カップと表示された。未知の物質であっても、一度名前を変更すれば、それを保存しておいてくれるようだ。次にギフトBOXの蓋を閉め、ギフトBOXをインベントリに回収する。
ギフトBOXは蓋が閉まると同時に、光の粒子となって崩れていき、俺の目の前から消失した。そして、俺のインベントリにはギフトBOXが収まっている。再びギフトBOXを出現させ、蓋を開ければ、しっかりと目録にFive-seveNと木製カップの文字が写しだされていた。もちろん取り出すこともでき、Five-seveNを腰にも戻し、木製カップも部屋に戻した。
「ふぅ~、ちょっと使いにくいが、これで迷宮探索や移動が楽になるな」
俺は今後の迷宮探索が、少しではあるが楽になったことに安堵した。