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 熾烈な戦いとなった“覇王花ラフレシア”の反乱は一つの区切りを迎えた。現国王を射撃演習場に転移させた後、この反乱を振り返りながら転送管理棟へと走る。

 すでに夜明けの刻は過ぎ、王都は静かな朝を――いや、静かすぎる朝を迎えていた。


 だが、転送管理棟に近づくにつれ、統制の取れた大勢の足音が聞こえてきた。そして、視界に入って来たのは建物の半分ほどが崩壊した転送管理棟と――破壊の爪痕がありありと残された大通りや無関係の建物。


 ゼパーネル宰相とカーン王太子は、相当激しく暴れたようだが、転送管理棟の奪還には成功したようだ。


「止まれ! ここから先は特別な許可を持つも――貴方はもしや、“黒面のシャフト”?」


 見覚えのある白銀のフルプレートメイルを着た騎士たちが、転送管理棟を取り囲むように陣形を組み。その内側に誰も近づけないように警戒をしていた。


 転送管理棟に近づく俺の姿を見つけた騎士の一人が誰何の声を上げたが、すぐに俺が誰なのかを察したようだ。


 それもそのはず、王城を出てから再びケブラーマスクを装着し、シャフトの姿で王都を移動していた。そして、転送管理棟を固めているのは西方バルガ騎士団の騎士たち。

 ラピティリカ様の護衛依頼でその命を救った俺――シャフトのことを、バルガ騎士団の騎士たちが忘れるはずもない。


 とりあえず、バルガ公爵からの依頼で動いていると騎士に伝え、転送管理棟の中に通してもらう。

 念のため、武器の回収と歩く前後を騎士たちに挟まれながら、厳重の警戒態勢をとっている転送管理棟を進む。


 バルガ公爵は長男のスティード・バルガ団長とバトラー・ケイモン副団長と共に、転送管理棟の所長室を借り受けて会議中とのことだった。


 騎士の一人が所長室のドアをノックし、中から入出許可の声が聞こえた。


「閣下、傭兵のシャフトが来ております」


「戻ったか! すぐに通せ!」


 中から聞こえて来たのはスティード団長の声だ。 


「中へどうぞ」


 ここまで同行していた騎士たちが持ち場へ戻っていき、入れ替わるように所長室へと入っていく。


 所長室はそう広くない部屋だった。正面の執務机に座るバルガ公爵、その前に立つスティード団長とケイモン副団長の三名が、俺の帰還を待ちわびていたようだ。


「よく無事に戻ったね、シャフト君。それで、うまくいったのかな?」


「国王陛下並びにミリニア王妃とクレア王妃、バーグマン宰相とサイラス近衛騎士団団長を安全な場所へ退避して頂きました。それとメイドや従者を数名保護しています」


「おぉ! さすがは“黒い貴公子”! 今回も見事な働きのようだな!」


「シャフト、安全な場所とはどこだ?! 反乱の鎮圧はまだまだこれからだ。王都に安全な場所などないぞ!?」


「スティード、少し落ち着きなさい」


「しかし父上、一刻も早く陛下の安全を確認し、“覇王花”の反乱を鎮めねばなりません」


「そのために、ゼパーネル宰相とカーン王太子は彼を王城へ向かわせたのだよ? それでシャフト君、陛下とはすぐに合流できるのかな? それと、キリーク第二王子は?」


「もちろん。まずはここの転送魔法陣で城塞都市バルガに転移し、そこで陛下たちと合流して体制を整えてもらいたい。“覇王花”のマスターであるキリーク、それとサブマスターのフェリクスは王城から転送魔法陣で転移し、王都から姿を消している」


 バルガ公爵の問いにシンプルに答えたが、この辺りは王城へ発つ前から決まっていたこと――城塞都市バルガに本陣を構え、反攻の体制を整えて反乱を鎮圧する。


 だが、そのために必要な物――者がこの場にいない。俺が一人でここに来たことは、現国王たちを連れていないのを見れば一目瞭然。バルガに転移してから現国王と合流するという発言には、バルガ公爵のみならずスティード団長とケイモン副団長の両名も首を傾げるような様子を見せた。


 しかし、現国王たちを迎える手順を事細かに説明している時間はない。


それはバルガ公爵も理解しているようで、スティード団長には鎮圧作戦開始を早めることを、ケイモン副団長には俺の案内を指示し、城塞都市バルガへと転移した。





「久しぶりだな……」


「ん――? 何か言ったか、シャフト」


「いや、なんでもない」


 城塞都市バルガの転送管理棟は、西方バルガ騎士団の詰所の一つとなっている。久しぶりに見上げたバルガの街並みと、白亜のバルデージュ城に声が漏れた。


「それでシャフト、ここからどうするのだ?」


「本陣の近くに大きめの倉庫があれば、そこを少し借り受けたい」


「いいだろう。本陣はバルデージュ城に設営中だ、城内にある倉庫を使うといい」


 詰所に待機していた騎士団員が操車する馬車に乗り、バルデージュ城内へと移動する。馬車の中から見るバルガの様子は、王都とはまた少し違う雰囲気が流れていた。

 朝早くから詰所とバルデージュ城の間を何台もの馬車が走り、動き回る騎士団や警備兵は緊迫した表情を浮かべている。その様子を見て、清々しい一日の始まり感じるはずのバルガの民は、一転して言いようのない不安に包まれていた。


 王都に隣接するバルガ領とはいえ、反乱の報が一般市民レベルにまで届いているわけもなく、ただただ――何かが起こっている。迷宮の暴走か、それとも著名なクランが全滅したか、亜人種の大集落でも発見されたか。答えが与えられない不安に、バルガの街は静かな騒めきで溢れる朝を迎えていた。


 バルデージュ城内に馬車のまま入っていくと、城内は都市部とは打って変わって喧噪に溢れていた。


「シャフト、まずはカーン王太子とゼパーネル宰相のところへ行くか?」


「いや、すぐにでも陛下たちをお迎えしたい」


「わかった。倉庫へと向かわせよう」


 ケイモン副団長の指示により、馬車は城内の外れにある空き倉庫へと向かった。


 城内ではバルガ騎士団の団員たちだけでなく、デザインの違う騎士鎧を着た集団がいくつも視界に映った。

 反攻への本陣が設営されているバルデージュ城内には、王国各地の領地から領主の貴族が集まり、その副官ともいうべき騎士団員が少数だが集まって来ていた。


「さすがに動きが早いな」


「王国の一大事、当然の対応だ。この反乱が“覇王花”だけで終わるとは誰も思ってはおらぬ。第二騎士団はドラグランジュ領で待機し、ドラーク王国の動向を監視しておるし、第三騎士団は即応態勢でスネークヘッドに待機しておる」


「一度聞いてみたかったのだが、第一騎士団はどこに?」


「中央第一騎士団は無形の騎士団にしてクルトメルガ王国そのものだ。陛下を騎士団長とし、魔導貴族が騎士団員として名を連ねておる。そういう意味では、反攻作戦の中心が第一騎士団とも言える」


「なるほどな……」


 第一騎士団の話を全く聞かないとは思っていたが、王国そのものが騎士団か。確か……魔導貴族や貴族も、元を辿れば建国王と共に迷宮を潰しまわり、建国間もないクルトメルガを守り通した冒険者たちだったと以前聞いた。それが少しずつ姿を変え、中央第一騎士団という形に納まったのだろう。 


 一体いくつの騎士団がこの本陣に参列しているのか判らないが、色とりどりの騎士鎧をみれば、この反攻作戦が総力戦の様相を呈してきたことが判る。


「――ここだ」


 馬車が止まり、ケイモン副団長と共に外へ降りる。


「中は無人か?」


「そのはずだ」


「――ならば副団長は倉庫前に護衛を集めてほしい。中に入るのは俺だけ、陛下たちが出てくるまではこの場で待機を」


「……公爵閣下より、貴公の要望に出来るだけこたえるようにと仰せつかっておる。その通りに準備しよう」


 ケイモン副団長は俺の言うこと全てに従うわけではないだろうが、ここは大人しく外で待つことを了承してくれた。


 さて、後は射撃演習場に転移し、現国王をはじめ、王城で救出してきた人たちを迎えに行くだけだ。

 だが、一つ心配なのは……射撃演習場で待機している面々が、あそこにある建物や施設を見て何を思うかだな……





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