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 泣き喚くように叫ぶキリークの姿に視線が引き寄せられる――それは向かい合うフェリクスも同じだったようだ。お互いに次の動きを予測し、牽制し、その逆を突こうと僅かな動作を繰り返して探り合う。


 キリークと現国王は台座を数段上がったところの玉座前、フェリクスは少し離れた先にいる。距離的に近いのは俺の方――。


 ――次の動きは決まった。


 FN P90を投げ捨て、台座を一気に飛び越すジャンプ――シャフトのアバターカスタマイズを決定した時点で、羽織っているオーバーコートの内側には四本のスミス&ウェッソン E&E トマホークが隠されている。


 空中で両手にトマホークを握り、狙うはキリークの鎖骨――。


雷駆ドライブ


 集音センサーが後方から聞こえるフェリクスの声を捉えた次の瞬間、視界を横切るように閃光が走り、キリークを鎖骨から縦に分断しようと力を込めた一撃にフェリクスは光速移動のスキルで割込み、片膝をついた状態で刀を盾にして受け止めた。


 イカヅチを思わせる美しい刃紋を見せる刀と、黒い二本のトマホークが鎬を削る。


 最初にこの光速移動のスキルを見せたのはほんの数分前、一分か、二分か、奴の光速移動スキルには確実にクールタイム――再使用可能になるまでの時間制限が存在する。


「あの時と体勢が入れ替わったな」


「化け物の分際で見下ろすか」


 あの時とは――王競祭で怪盗“猫柳ネコヤナギ”を追跡した直後に、覇王樹サボテンからの刺客として追ってきた六人のピエロたちに襲われた時のことだ。フェリクスは俺のゾンビフェイスを見て、問答無用で攻撃を仕掛けてきた。


 フェリクスの光速移動スキルがクールタイムに入っている今が最大のチャンス。


「国王陛下、今のうちに上へ。俺もすぐに後を追います」


「キリーク、治療は後だ。奥へ行け」


 お互いに力の限りで押し合い、動きが止まっている。現国王を地上に逃がすなら今だ。フェリクスから見ても、喚き散らすキリークを安全な場所に移動させるのは、俺の両手がふさがり、一進一退の状況で動きが止まった今だと判断したのだろう。

 しかし、「奥へ行け」とはどういうことだ? 視界に浮かぶマップを見ると、玉座の裏に小部屋が一つだけある。そこに行けということか……そこに何かあるのか?


「この場は任せる」


「どうぞ……お構いなく!」


 俺を味方だと認識してくれたのだろう。だが、王として安易に礼や謝罪の言葉を口にすることはないのかもしれない。現国王は両腕を縛られたまま立ち上がり、少しよろけながら玉座の間の入り口へと移動を開始した。


「フェリクスぅ! 父上が逃げてしまう、殺せ! すぐに殺さなければ王位が手に入らないぃ!」


「諦めろ、今は奥へ行って飛べ。治療を受けて待機しろ」


「そ、それは……くぅぅぅ! 貴様、“黒面のシャフト”だな!? わたしの野望が頓挫したこの不幸……決して忘れないぞ!!」


 フェリクスの後ろで吠えたキリークは、激痛からくる涙を目に溜めて玉座の奥へと走り出した。両手を失ったことでバランスが取りにくいのか、現国王以上にふらふらとした足取りで離れていく。


 玉座の間に残るのは俺とフェリクスのみ。鍔迫り合いが始まって二分ほど経ったところで、フェリクスが先に動き出す――。


「雷駆」


 力の押し合いで動きを固めていたはずのフェリクスは、スキルの発動と同時に俺の目の前から瞬時に消えた――が、その動きは予想できた。


 〈雷駆〉と唱えて発動させているスキルは完全無敵な移動術ではない。その弱点はすでに見えている――体勢を無視して光速移動しようとも、文字通り、その移動方向は光の帯が示している。

 それに、どうやらこの〈スキル〉には移動距離が固定、もしくは移動限界距離が設定されている。


 押し斬ろうと力を加えていた対象が消え去り、光の帯が走った瞬間にそれを視界が追い、遅れるように右手のトマホークがその終着点へ飛ぶ。


 けたたましく鈍い金属音が鳴り響く。


 運のいい奴だ――トマホークが飛んだ先は停止したフェリクスが構える刀の位置だった。弾き飛ばされたトマホークは玉座の間の天井へと突き刺さり、再びフェリクスと睨み合う。


 だが、攻撃の手は緩めない。〈雷駆〉のクールタイムが終わるまでの約二分間、体術でしか銃撃を避けることが出来ないこの僅かな時間が、奴にとって最大の弱点ウィークポイント

 ここまでの二回は回避と防御で〈雷駆〉を使ったが、あれを攻撃に使われた時に、俺のCQC(近接格闘)がどこまで対応できるか判らないし、不意を突かれれば瞬時に首を斬り飛ばされる。


 〈雷駆〉の移動距離も大体判った。最大移動距離以上の距離感を保ち、常にこちらから攻撃を仕掛け、奴の好きにはさせない。


 左手に握るトマホークをサイドスロー気味に投擲――同時に、右手で腰のホルダーからFive-seveNを引き抜く。


 再びなる金属音は、先ほどと違い澄んだ音色で玉座の間に鳴り響いた。


 不意の衝突ではなく、技術で弾き飛ばした――いや、弾き返したトマホークが真っすぐにこちらへ飛来する。


「くっ――!」


 感覚だけのAimでクロスヘアをトマホークへ飛ばし、無意識に近い感覚でピタッっと停止――トマホークとクロスヘアが綺麗に一致していることを認識するのと、トリガーを二連射したのはほぼ同時だった。


 一発目は回転するトマホークとタイミングが合わずに通過――二発目がグリップ部分にヒットし、トマホークは急角度に変化して俺の目の前の床に突き刺さった。

 だが、俺の銃撃は止まらない。Five-seveNの装弾数は二〇発もある。トマホークへ二連射した直後に、再びクロスヘアをフェリクスへと滑らせてトリガーを引く。


 フェリクスは横へ移動しながら5.7×28mm弾を刀で弾き、上半身を反らして躱し、また刀で掬い上げるように刀を振って弾く。


 飛んでくる銃弾そのものを見切っているのか、それとも銃口の向く先を見切っているのか、体の中心点を狙っているのにも関わらず、フェリクスは弾道を先読みして躱していく。


 ならば――。


 左手をオーバーコートに隠し、再びM84フラッシュバンとスモークグレネードを召喚する。ピンは指で弾き飛ばし、取り出すと同時に放り投げた。

 Five-seveNのクロスヘアはまだフェリクスに重なっている。特殊手榴弾二種を追うようにトリガーを三連射。しかし、フェリクスも防戦一方のまま〈雷駆〉のクールタイムを待つつもりがないようだ。


 フェリクスは一歩前に出ながら5.7×28mm弾を弾き、床に刀を突き立てるとそれを軸にして独楽のように回転して二発目と三発目を躱し、同時に投擲された特殊手榴弾二種を蹴り飛ばす。


「抜刀――紫電一閃」


 独楽回りから流れるように着地し、同時に納刀したかと見えた瞬間――〈スキル〉名を唱えて姿が霞む。フェリクスは視認出来ないほどの高速移動でこちらへ――。


「くっ――!」


 動きが読み切れない! 


 身を逸らしながらCBSサークルバリアシールドを即時展開し、勘だけで体を守る。


 俺の真横を閃光が突き抜け、一撃でCBSの耐久値が三割ほど消し飛んだ。少し離れたところで蹴り飛ばされた特殊手榴弾が炸裂し、玉座の間に爆音と眩い閃光、そして煙幕が広がりだす。

 フェリクスは俺の後方へと突き抜けた。それを追うように一八〇度ターンし、Five-seveNを構え――。


「これで終わりだ」


 振り返った先に立つフェリクスは俺の後ろ、一刀の間合いで刀を振り上げていた。


 Five-seveNを盾にして振り下ろされた刀の勢いを殺したが、この一刀をハンドガンで防ぎきれるわけがなかった。Five-seveNは両断され、身を引いて躱すが――剣先がケブラーマスクを掠めていく。

 

 突き抜けたはずのフェリクスがここにいるはずがない。〈紫電一閃〉で俺の真横を駆け抜けた直後に、〈雷駆〉を発動させて俺の背後に戻ってきたのか。

 この世界の人間ではない俺には習得することが出来ない、〈スキル〉による連携攻撃――この動きをさせ続けるわけにはいかない。


 上半身を引きながら下半身に力を入れる――咄嗟に繰り出した後方へのスライドジャンプは、体勢を崩しながらも直撃を回避させることが出来た。

 しかし、距離が離れていくと同時にケブラーマスクは斬り裂かれ、ゾンビフェイスではなくシュバルツとしての素顔が露わになる。


 それはほんの一瞬のことだったが、目の前にいたフェリクスと視線が重なる――後方へジャンプした俺の体は、スモークグレネードから噴き出した煙幕の中へと飛び込んだ。


「以前の醜い顔ではないな、それがお前の本当の顔か」


 煙幕の向こうからフェリクスの声が響く。煙幕を警戒しているのか、それとも俺が飛び出てくるのを待ち構えるつもりなのか。視界をFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードへと変更し、フェリクスの熱源を確認する。


「……答えるつもりはないか」


 当たり前だ。答えたら煙幕の中に隠れた俺の場所を教えるようなもの。煙幕が消えるまで後一分くらいか……この膠着状態で、勝負を決める。


 TSSタクティカルサポートシステムの起動を意識し、支援兵器召喚を選択する。呼び出すのは二台の遠隔操作型重機関銃セントリーガン、そして更にインベントリを選択して銃器を取り出し、続いてSHOPを開いて銃器を購入し取り出す。


 両脇に抱えるように召喚したのはGE M134 Minigunを二丁。装弾数四〇〇〇発を毎秒一〇〇発で撃ち出すこの電動ガドリングガン二丁による弾幕射撃ならば、フェリクスがどれほど刀を振ろうとも弾ききれるわけがない。躱し続けられるわけがない。さらにはセントリーガン二基でサポートもする。

 この男は倒せる時に倒さなければ、この閉所空間で一対一で向き合うチャンスで倒しきらなければ――。


 煙幕の向こうで立ち尽くすフェリクスを示す熱源体にクロスヘアを合わせていく――が、フェリクスの周囲がぼやけ出した。

 玉座の間の天井付近が急速に低温状態を示す青色となっていく、そして床付近から立ち上がる高温を示す赤い筋、その数がどんどん増えていき、さらには渦巻くようにフェリクスを中心に回転し始める。


 Minigunが回転し始め、唸るような電動音が煙幕の中に響き渡る。それに対抗するように、フェリクスの周囲から雷鳴が轟き始めた。同時に、それまで見えていたフェリクスの姿が低温と高温の渦に隠されて見えなくなった。


「轟雷招来――神刀顕現――」


 竜の咆哮の如き雷鳴が轟き、煙幕の向こうが高温で包まれる。


 不味い、この一撃は絶対に不味い。閉所空間で向かい合う膠着状態をチャンスと見たのは、フェリクスも同様だった。


「抜刀――雷神龍カンナカムイ!」


 雷鳴轟く煙幕の向こうで微かに聞こえた声を頼りに、クロスヘアとセントリーガンの照準を合わせて発砲を開始。


 時間経過で煙幕が消えていくのと、Minigun二丁とセントリーガン二基による一斉射撃、そして迎え撃つように放たれた巨大な雷龍の顎が俺に迫るのは同時だった。


「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


 本来ならば両手で保持するMinigunを、無理やり片手でリコイルコントロールして雷龍の先にいるはずのフェリクスへ撃ち放つ。左右からはセントリーガン二基による旋回射撃。

 煙幕が晴れても視界は雷光に包まれて何も見えない。遮光機能が作動してなお、光に包まれた先が見通せないのだ。


 銃弾がヒットした時のクロスヘアの拡張と振動を頼りにAimを調整し、同時に目の前にはCBSを意識だけで展開する――ただし、展開する形は俺の体中央を隠す楕円形に歪めた。

 CBSはあらゆる攻撃を受け止めるが、それは使用者本人の攻撃も含めてだ。こうしなければ、Minigunから放たれる四〇〇〇発の銃弾はフェリクスに届かない。


 しかし、迫りくる雷龍の化身が銃弾で倒せるわけがなかった。視界だけでなく、轟く雷鳴によって聴覚がおかしくなる。そして、俺は雷龍の顎に飲み込まれた。






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