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 地下神殿への入り口となっているやしろの門は重く、押す手に力を入れなければ開くことが出来ないほどだ。

 僅かに軋み、引っ掛かるような金属音が不快に鳴り響く。この先にいるはずのフェリクスやキリーク第二王子に聞かれたとは思えないが、侵入を悟られるわけにはいかない。


 社の中には何もない。木造の骨組みに土壁、突けば壊れそうなほどに脆弱な建物だが、魔法建築物として保護されており、簡単に壊すことは出来ないらしい。

 ここに唯一あるのは地下へと下りる階段。最初は木造階段、一階分ほど下りた先は真っ暗闇の洞窟。


 インベントリからFN P90用のタクティカルライトを召喚し、取り付ける。光源を持つことはこちらの存在を周囲に知らしめることにもなるが、完全なる闇の中ではNVナイトヴィジョンモードは機能しない。僅かでも光源がなければ闇を見通すことが出来ない。

 その光は絶望の中で唯一輝く希望かのように俺のゆく道を照らし、緑と白の二色で彩られた洞窟内は緩やかな下降線とカーブを描き、深く、奥深くへと続いていた。


 視界に浮かぶマップには一本の道しか表示されていない――少し進むと石段が見えてきた。ゆっくりと、静かに、無音の洞窟を進み、細く、長く続く一本道を進み、また石段を下りる。

 地下神殿は迷宮の跡地に作られ、その上に王城が建てられたそうだが、この洞窟はその迷宮そのものだったのかもしれない。


 もう何層分下りたのかは判らないが、その階層に下り立った時、ここが最下層だと確信した。


「真っすぐだな……」


 この階層の一本道は不自然なほどに真っすぐに延びていた。だが、この道には見覚えがある――玉座の間へと続く直前の通路だ。

 これだけ判りやすい直線ならば、タクティカルライトはもう必要ないだろう。それに、直線の続く先に光が見える――そして、聞こえてくるのは話し声だ。


『父上、いい加減教えてくれてもいいじゃないですか? かわいい息子だけが〈血統スキル〉の全容を知らないなんて、それは不幸だと思いませんか?』


『何度も言わせるな。クルトメルガ王家の〈血統スキル〉……〈クラスチェンジ〉の全容は王と王太子のみが知ることだ』


『なら私を王太子にすればいい! 兄はフライハイトへの襲撃から逃れたようだが、わたしの“覇王花ラフレシア”から逃れられるとでも? それに……あの蝕まれた体ではもう何年も持ちはしない。それは父上、あなたも判っているはずだ!』


『キリーク考え直せ。お前が“覇王花”を率いてきた実績は認めるが、クランをまとめ上げることと、国をまとめ上げることは違う』


『わたしに国を率いる力がないと?』


『それだけではない、おまえは己の力を過信し、慢心し、うぬ惚れておる。〈クラスチェンジ〉は可能性を示すスキル……諸刃のスキルだ』


『不幸だ……そうは思わないかフェリクス!? わたしは父上に何の期待も評価もされていない! それに……どうやらカーン兄の代わりとしても見てもらえていないようだ』


『キリーク諦めろ。得たところで、すぐに消える幻だ』


『フェリクス……この王国をどうするつもりだ』


『どう? それはもう貴方には関係のないことだ。ここでキリークを王太子として認めないのならばそれでいい、〈約束された祝福プロミス・ブリージング〉が伝承通りのスキルか確認できれば、もう貴方にはなんの価値もない』


『無駄なことを……あの御人がクルトメルガの為にならぬことに力を貸すと、本当にそう思っておるのか?』


『思いませんよ、父上。しかし、言うことを聞かせる方法はいくらでもある! まずはゼパーネル本家の女たちを一人残らず殺し、次に分家の女たちを殺し、それでも聞かなければ王国中の女たちを殺します』


『なにを愚かなことを、それでは国の民が途絶えるぞ……!』


『それには及びませんよ、父上。新しき覇道の世界を統治する上で、女などという劣等種は不要。せいぜい労働力を生み出す家畜として生き永らえさせます』


『子を産み、育て、継承せずして、如何に国を存続させるつもりだ。お前たちはクルトメルガを死者の国にするつもりなのか!』


『ご心配は無用……その方法もまた、ゼパーネルが知っております。あれを手に入れた時こそが! 我らの覇道を世界へと広げる時! その為にはクルトメルガ王国の王位を手に入れることが早道でしたが、父上が認めないのならば致し方ありません。せめて最後は……息子に首を落とされることを幸運と思うがいい――フェリクス、剣を』


『まさか、お前たちの真の狙いは――』


 現国王の言葉を無視するように、キリークは手に持つ装飾過多な長剣を両手で振り上げ、頭上で止まる。後は振り下ろす勢いを乗せて首を一刀のもとに斬り落とすのみ――しかし、その長剣が現国王の首に届くことはなかった。


「ぎゃぁぁぁーー!!!」


 振り上げられたキリークの両腕を肘から先で撃ち抜いた。FN P90に使用される5.7×28mm弾は、VMB上では貫通力に優れた銃弾として設定されている。だが、この世界に落ちたことでその威力は根本的に増強され、5.7×28mm弾は相手を貫通するだけでは留まらず、内包されたエネルギーは着弾点を中心に暴れまわり、破壊する。


 つまり――キリークの両腕は肘から先で破裂し、吹き飛んだ手は破壊力を受け止めきれずに指の先まで残らず裂けた。


 一本道の終着点は洞窟とも地下神殿とも違う場所、そして何度も目にした場所――玉座の間だ。


銃撃と同時に一本道をダッシュし、M84フラッシュバンとスモークグレネードを全力で投げ込んだが、キリークの腕を撃ち抜ぬいた直後に、その射線上にはフェリクスが割って入っていた。


 特殊手榴弾はピンを抜いてから炸裂するまで三秒かかる。そのほんの僅かな誤差の間に特殊手榴弾を攻撃目標へと投げつけるのだが、炸裂するコンマ数秒前でそれらは両断された。


 居合抜きからの切り返し。フェリクスはパワードスーツで強化された俺の腕力で投げた特殊手榴弾たちを寸分違わず斬り飛ばし、キリークへと数瞬だけ視線を向けるとすぐに俺の前に立ち塞がった。


「黒面……」


 呟くようにそれだけ言ったのが聞こえたが、すぐにその口は閉じられ、凍るような冷酷さを感じさせる翡翠の目が俺の全身を捉えた。


 だが、俺も一本道を駆け抜け、玉座の間へと突入してもその速度は落とさない。現国王は両手を後ろで縛られ、数段上がったところにある玉座の前で跪いている。

自分の息子に首を落とされる――そう思った瞬間の絶叫に目を見開き、両手を失いのたうち回るキリークの姿を目で追っていた。


玉座の間は柱の一本もない広い空間であったが、玉座へと続く正面には赤い絨毯が敷かれていた。

現国王とキリーク、そしてフェリクスはその先にいる――フェリクスによって斬り飛ばされた特殊手榴弾二種は、その効果を発揮することなく光の粒子へと変わり、フェリクスは流れるように居合抜きから再び納刀し、わずかに腰が落ちる。


「抜刀――雷閃」


 フェリクスは雷光の如き閃光と共に抜刀し、そのまま横薙ぎに振り抜く。


 その言葉と行動が何を意味するのかを瞬時に理解し、ダッシュから姿勢を低くスライディングへと移行し――同時にクロスヘアをフェリクスに合わせてトリガーを引き絞る。


 サイレンサーによって消音射撃となったが、俺の首を狙った光の斬撃が頭上を通過し、交差するように撃ち放たれた5.7×28mm弾がフェリクスを捉えた――と感じた瞬間。


雷駆ドライブ


 フェリクスの体全体が朧のようにぼやけたかと思うと、光の速さかと錯覚するほどの動きで右方向へと跳んだ。


 速い……。


 腰のあたりを捉えたはずの銃弾は幻を撃ち抜き、玉座へと続く台座へと着弾した。フェリクスが右へと移動したことは視界に走った閃光の動きで明らか、高速移動系の〈スキル〉であることは間違いない。

 絨毯を滑るスライディングを急停止させ、体ごと回転させてクロスへアを右へ飛ばし、フェリクスの姿を探す――そこ!


 フェリクスは高速移動した勢いを殺すように腰を落とし、刀を持っていない方の手で床に手をついていた。


 クロスヘアがその体と一致した瞬間に一トリガー。五発の銃弾が迫ったが、フェリクスはその攻撃も体を回転させ、踊るように躱してみせた。


 あの回避行動は連続で行使できないのか。


 動いた先にクロスヘアは吸い付き、最も躱しにくい体の中心点付近へ5.7×28mm弾を集める――しかし、これは悪手だったようだ。


 フェリクスはまるで漫画かアニメのように刀を盾のように立て、集中させた銃弾をすべて弾き飛ばした。


 こんなことが本当にできるのか……。


「弓や弩とは違うようだが、所詮は飛び道具のようだな。その種の攻撃手段は一度に放てる数に限りがあるものだ。お前のはあと幾つだ?」


 フェリクスは刀についた弾痕のフェイクグラフィックを見つめ、それが消えていくのを見ながら立ち上がった。

 フェリクスの言う通り、視界に浮かぶ残弾数を示す表示は0/50。それでもP90を構える手は下げていない。


 あの高速移動で躱された時に撃ち過ぎた……だが、マガジンの換装を安易に行うわけにはいかない。今それをフェリクスに見せるのは不味い、予測でも予感でもなく、俺の本能がそう訴えている。

 一度それを見せれば、フェリクスは銃撃の最大の弱点を即座に理解することだろう。


 FPSというゲームにおいて、マガジンの換装――リロード中ほど無防備な瞬間はない。VMBという仮想現実シューターになっても、それは変わることはなかった。

 プレイヤーたちはその隙を一秒でも短くするため、予備マガジンの装着位置やタイミング、動作、フェイント、様々な要素を突き詰めてきた。


 しかし、それがゼロになることはない。


 今の俺なら、VMBのプレイヤーであった頃以上の速度でリロードすることは可能だろう。P90をインベントリに戻し、弾薬が十分に装填された別の銃器を取り出す、もしくは召喚するという選択肢もある。

 だがやはり、その時間はゼロではないし、召喚プロセスを目の前で見せることも避けたい。


 奴に与える情報を一つでも少なくしたい。そうしなければ、いずれ全ての手段を躱され、弾き返され、俺は奴が持つ日本刀らしき刀によって斬り伏せられるだろう。


 それに、今は決戦の時でもない。加えて、死滅したはずの迷宮跡地に、玉座の間だけがそのままの姿で残っていることへの疑問もある――いや、これは答えが想像つくが。


 何よりもまず俺がしなくてはならないことは――。


「フェリクスぅぅ!!! 何をしているんだ、早く俺を助けろ! ち、血が止まらない、このままでは失血死してしまう!」


 安易に攻撃に転じないフェリクスと見合っていたが、そのにらみ合いを中断させたのは悲痛なキリークの叫び声だっ






BF1おもろすぎる

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― 新着の感想 ―
[一言] バトルフィールド・シリーズがここまで不人気になるとは。 Battlefield 2042 に未来はない。 モダンウォーフェア派です。
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