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 ヤミガサ商会の高層商館で吹き荒れた爆炎は、その窓という窓を吹き飛ばし、壁を破壊し、広がる爆圧は爆心地となったフロアだけではなく。その上階を突き破り、屋上を貫き、天にまで届いて夜空を焼いた。

 

 赤く焼けた夜空の下にヤミガサ商会の商会長の絶叫が響き、熱波を背に浴びながらFN P90をダウンサイトし、崩壊していく商館に目を奪われた“覇王花ラフレシア”の冒険者二名を無力化する。


「あぁ――! わ、わたしのぉぉ――」


 僅かに視線を後方へ流すと――燃えながら崩壊していく商館の中で、光の粒子が火の粉に交じって消滅していくのが見える。オシュコシュ M978 タンクトレイラーの残骸と撒き散らした燃え続ける燃料が、破壊判定からの時間経過で光の粒子へと変化したのだろう。


 急速に収まっていく火柱と入れ替わるように、天へ帰る光の粒子は再び俺の目に幻想的な風景を見せた。


 以前にもこの爆炎を見せつけて忠告したはずだったが、俺が――“黒面のシャフト”が守るものに手を出せば、どうなるのか。いや――まさか俺がこのタイミングで王都にいるとは思いもしなかったか。


「さて――お前にはすべて話してもらうぞ。“覇王花”が何を企み、何を目的としているのかを」


 崩壊していく商館から視線を外すことができない商会長の顔を掴み、こちらを強制的に向かせる。


「をがえあまがんをやっあがあがっあがあうか!」


 何を言っているのかわからん。


 M978を召喚したフロアで拝借した冒険者用のロープを取り出し、商会長を地に押し付けて両手を縛り、暴れないように体全体を縛り上げる。

 ロープを猿ぐつわのようにして歯に噛ませ、喚かないようにしたところで視界に浮かぶマップに多数の光点と近づく馬車の音が聞こえてきた。そして打ち鳴らされる鐘の音。


『火元はヤミガサ商会だ! 消火隊整列! 詠唱準備に入れ!』


『救助隊は耐火魔法と身体強化魔法を詠唱! 要救助者を探せ!』


 この光点は王都の消火隊か……それにしては数が多いな。高層――ではなくなった商館を複数の光点が回り込んで裏側にやって来る。


 視界に表示されているP90の残弾数は十分――P90を腰裏に隠しながら立ち上がり、振り返る。


「貴様! そこで何をしている!」


「総合ギルド本部の警邏隊だ、身分証を提示してもらおう。抵抗すればこの火災の主犯と見なし、身柄を拘束する!」


 こちらへやって来たのは見覚えのある制服を着た――武装した総合ギルド職員たち。


 しかし、この僅かな時間でこれだけの数がやって来るか――水晶群晶を撃ち抜いた段階で動き出したのか、随分と早い対応だ。

警邏隊と名乗った総合ギルド職員たちの数は消火活動を始めた光点よりも多い。第一区域で起きている反乱の火が第二、第三へと飛び火しないように、厳戒態勢で警戒していたのだろう。


 そんな中で王国内でも有数の大商会で爆炎が立ち上がれば、数を揃えて押し寄せてきて不思議はない。

 

「おい、後ろで縛られているのはヤミガサ商会の商会長――ダイカンか?」


 総合ギルド職員たちの視線が俺の後ろで縛り上げられ、フゴフゴと唸っているヤミガサ商会の商会長へと向く――この男、ダイカンっていうのか……。


「身分証を見るまでもないようだな……大人しく、警備隊の詰め所まで同行してもらおうか」


 職員たちが次々に抜剣し、後方では魔言の詠唱が始まるのが聞こえる。


 不味いな……総合ギルドと事を構える気はないし、詰め所に行っている時間はない。一つでも多くダイカンから情報を聞き出し、アシュリーたちとも合流しなくてはならない。


 ここは――逃げるしかない。


 腰裏に回したP90をインベントリに戻し、代わりにスモークグレネードとM84フラッシュバンを手の中に召喚する。


 もう少し、後続の総合ギルド職員たちが前と合流したところで――。


「そいつが犯人――ん? まさか、“黒面のシャフト”“か?」


 後続が正面に展開する警邏隊と合流する直前、聞き覚えのある声が俺の名を呼んだ。


「知った顔が出てきて助かった、ジークフリード」


 警邏隊をかき分けて出てきたのは、少し垂れた目に無精ひげを生やした長身痩躯の総合ギルド職員、ジークフリードだ。

 王都の傭兵団本部で模擬戦の試験官をやっていたり、かと思えば歓楽都市ヴェネールで契約違反の冒険者を追っていたり、王都で再会すればオフィーリアと共に怪盗を追っていた。


 この男は一体……。


「隊長、黒面ってまさか、この男があの“黒面のシャフト”ですか?」


「そう……だと思うが――間違いないんだな?」


「傭兵ギルドのギルドカードを提示するか? それとも、黒面を外して見せようか?」


「あーいらんいらん! お前の素顔は相当に――アレだと聞いているが、一度も見たことがないものを見せられても確認のしようがない。それに、総合ギルドは現在王都で起きている状況を完全には把握しきれていなかったが、お前が噛んでいると判れば話は別だ」


 ジークフリードは警邏隊に振り返り、消火活動とけが人の救助を命じると俺の肩に手を回し、少し離れた位置へと誘導していく。


「シャフト、王都で今何が起きている? 総合ギルドには第四騎士団と第二王子の関係者それぞれから、第二と第三区域の治安維持と緊急警戒を同時に要請されているんだ。第一区域で戦闘がおこっているのは判っているが、勢力図がわからん。簡潔でいい、情報をくれ」


 第四騎士団と第二王子――これは“覇王花”を通してってことだろうが、共に総合ギルドを締め出したのは、この反乱に王都の冒険者たちが参戦することを避けるためだろう。


 第四騎士団から見れば、“覇王花”との繋がりが不鮮明な冒険者と共に防衛に当たるのは不可能。“覇王花”から見ても、敵対勢力は少ないに越したことはない。


 王都を――王族を守るため、抹殺するため、お互いに冒険者たちと距離をとる状況になっていた。


「簡潔にか……。俺が知っているのは、“覇王花”と“覇王樹サボテン”は表裏一体であり、今夜王族を襲撃した。ここへ来る途中、王城でも戦闘が行われているのが見えた。結果がどうなったかは判らないが……一言でいえば、第二王子が反乱を起こしたってことだ」


 ヤミガサ商会がバイシュバーン帝国の皇族と直接関係を持っていた以上、クルトメルガ王国の王族が今夜の反乱に関与していないとは考えにくい。

 証拠はまだないが、キリーク王子が首謀者なのは間違いないだろう。


 簡単な説明ではあったが、ジークフリードは目を見開き、口に手を当てて声が漏れるのを自制していた。相当に驚いたのだろう――“覇王樹”はクルトメルガ王国の闇に潜む巨大組織、それが国家を代表するクラン“覇王花”の裏の顔と言われて驚かないはずがない。


 それに、クランマスターであるキリーク王子の裏切りもある。王国の一組織である総合ギルドが出張って解決するような問題ではないのだ。


「それが本当なら……キリーク王子はどこに後ろ盾を求めた。こんな形で反乱を起こしても、国中の貴族たちは王位簒奪を認めないぞ」


「バイシュバーン帝国だ。証明できるか判らないが、後ろの倉庫に首なしの死体が一つ転がっているはずだ。この男――ダイカンの言う通りなら、その死体はバイシュバーン帝国の皇族らしい」


「バイシュバーン帝国だと?! しかも首なしって……お前がやったのか?」


「皇子とは知らなかったからな、知っていれば足か腕を吹き飛ばして生かすことも考えたかもしれないが、反乱を止めるためには〈血統スキル〉を行使している者に攻撃を仕掛ける必要があった」


「〈血統スキル〉――知らなかったとはいえ……いや、それは俺が判断することじゃねぇな。それで、ダイカンを縛り上げてどうする気だったんだ?」


 バルガ公爵のもとへ――と即答しそうになったが、俺とジークフリードの会話を警邏隊の何名かがその場で聞いていた。

 “覇王樹”――もしくは“覇王城シュルドチアーナ”の根がどこまで伸びているか判らない。

 聞こえてくるジークフリードの心音の鼓動から、驚いているのは演技ではないと思える――この男は“覇王花”側ではない。


 だが、周囲の警邏隊全員がそうとは――。


 今度は俺からジークフリードの肩に手を回し、顔を近づけて小声で話を続けることにする。


「俺はダイカンを連れてバルガ公爵邸へ行く。“覇王花”の目的は王族の抹殺とゼパーネル宰相の身柄を拘束することだ。幸いにも、王太子と第三王子、そして宰相は襲撃を逃れ、公爵邸へ避難している。そこから移動することも考えられるが、今はそこが王城に並ぶ最重要地点だ」


「宰相の拘束? なんで宰相だけ生かす?」


「それを聞き出すために、ダイカンを生かしている」


「帝国の皇子はどうする?」


「それはお前に任せたい。死亡を隠ぺいするかどうかも含めてな」


「うっわ、めんどくせぇこと押し付けやがって――まぁいい、俺もジジイに丸投げだ」


 この場の後始末や、ヤミガサ商会が行ってきた悪事の証拠固めはジークフリードに丸投げし、俺は完全に意気消沈して地に顔を埋めているダイカンを背負い、バルガ公爵邸へと移動を開始した。





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