表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
237/307

236

9/27 誤字修正



 ヤミガサ商会の商館屋上に登り、そこで召喚した超小型偵察ドローン“ブラックホーネット”を意思だけで操作し、闇に紛れて商館の後方に建つ倉庫の偵察を開始した。


 二つの静音ローターからは極僅かな駆動音しか鳴らず、倉庫の周囲を巡回する護衛たちは闇夜を飛び回るブラックホーネットに全く気づいてはいなかった。


「こいつらは……傭兵じゃないな」


 ブラックホーネットから送られてくる映像は俺の視界と同化し、まるでその場で実際に見ているかのように見ることができる。

 護衛たちの装備は倉庫や商館を守るようなものではなかった。対魔獣や対亜人種を想定した大剣に大楯、護衛とは不釣り合いなローブを着た魔術師の姿も見える。


 “覇王花ラフレシア”のクラン員たちか……やはり、倉庫の中にあるのはまともな物ではないな。


 ブラックホーネットの稼働限界時間は一〇分。視界に表示されたタイムリミットの数字を見ながら、倉庫内の偵察を最優先することに切り替え、内部への進入路を探す――。


 ――ここだな。


 倉庫の側面上部には、硝子の入っていない木製の格子戸が何か所か配置されていた。人の身では格子を外しても潜り抜けることが不可能な小さな戸だが、ブラックホーネットならば格子を破壊する必要もなく侵入することができた。


 学校の体育館ほどの大きさがある倉庫の中は薄暗く、動く人影の数は少ない。逆に――動かない人影が無数に立ち並んでいた。

 倉庫を埋め尽くすほどに立ち並んでいるのは、まさしく鬼鋼兵ミニオンの軍団。六尺棍を突き立て、物言わぬ人形のように静かに佇んでいた。


 多すぎる――それに、この数の鬼鋼兵が自爆すれば王都が消し飛びかねない。


 動かぬ鬼鋼兵の間を縫うようにブラックホーネットが飛行し、倉庫の奥で唯一とも言える光を放つ場所へとステルス飛行でゆっくりと進める。


 鬼鋼兵の向こうに二つの動く人影が見える。何かを話しているようだが、ブラックホーネットはカメラしかない。商館屋上から集音センサーで捉えるしかないのだが、距離を考えると音をクリアに聞き取るのは難しい。

 なら――集音センサーの集音域を限定し、指向性を与えてより遠くの音まで捉えることを意識する。


『これで我々が用意できる無属性魔石はすべて渡した』


『これだけの鬼鋼兵を用意すれば、王城を落として王都周辺を制圧するのには問題ないはず――後は』


『わ、判っている! シリル王女はすでに確保済み、あとは“覇王樹サボテン”がフライハイトからユキ・ゼパーネルを連れてくるだけだ!』


『予定時刻はとうに過ぎていますよ? これ以上の鬼鋼兵の貸し出しは、二人の身柄を確実に――』


 話をしているのは細身の鼠系獣人種であるヤミガサ商会の商会長と、同じく獣人種の見覚えのない男。あれは何系だろうか、青髪の犬――いや、狼系獣人種か。その二人の話を聞きつつ、その後方に鎮座する光の発生源をカメラで捉える。


 これは……。


 そこで光るのは巨大な水晶群晶クリスタルクラスター――だが、その配列は規則的でどこかデザインされた物のように見える。

 いや、むしろこれは自然発生した水晶群晶ではなく、ゲームシステムによって作り出されたオブジェクトにしか見えない。


 ヤミガサ商会と青髪の男の会話を聞きつつ、ブラックホーネットを迂回させて水晶群晶をもう少しよく観察する。

六角形の台座から伸びる六本の水晶の中には、骨組みだけの人型人形が入っていた。そして、六角の中心から伸びる最も大きく太い水晶内部の中心には、極彩色の光を放つ――大魔力石ダンジョンコア


「なるほど……大胆にもほどがあるぞ」


 二人の会話と目の前に映る水晶群晶、そして無数の鬼鋼兵たち――その答えはあまりにも単純で、大胆不敵なものだった。


「王都の中で鬼鋼兵を生産しているわけか、しかもそのコストは無属性魔石に大魔力石」


 思わず声が零れるが、問題はこの水晶群晶を生み出した奴が誰なのか、これは〈血統スキル〉なのか、それともあの青髪が『枉抜け』なのか。


 あらゆる情報が足りない――あの青髪も生け捕りにするか? いや、それよりも鬼鋼兵を、“覇王花”のクーデターを何とかする方が優先だ。


 そのためには、この場で何をすることが正解か――VMBの世界から落ちた『枉抜け』だからこそ判る。それが正解だと俺の知識が、経験が、心が訴えている。


 倉庫内の映像を見ながら商館の屋上を歩く――両手にはMag-Fed 20mmを再召喚し、倉庫側の縁に銃身と片足をかけてスコープを覗く。


 そこに見えているのは倉庫の屋根でしかないが、ブラックホーネットから送られてくるライブ映像とマップから読み取れる形状、そして集音センサーが捉える会話の声から総合的に判断すれば――。


 ――ここだ。


 直接スコープに見えていなくとも、その先にあるものは全て判る。


 トリガーを引き、Mag-Fedの銃口から爆炎と爆音が放たれる――装填されていた最後の一発は、倉庫の屋根に大きな穴を開けて狙い通りの場所へと着弾した。


『うわぁぁぁ!』


 ブラックホーネットのカメラには、目の前で頭部が吹き飛んだ青髪――はもうないか、バイシュバーン帝国のスパイと思われる獣人種の姿に絶叫し、腰を抜かして後ずさるヤミガサ商会の商会長の姿を映し出していた。


 そして――Mag-Fedの20mm口径弾は、スパイの後方に鎮座していた水晶群晶の中央部、光り輝く大魔力石が浮く水晶柱を破壊していた。


「今の爆音は何だ?!」


「商館の屋上が火を噴いたぞ!」


「おい、見ろ。あそこに誰かいるぞ!」


「倉庫内を確認して来い、お前たちはあいつだ! 殺してでもいい、逃がすな!」


 Mag-Fedの銃声を聞いて、俺の位置はすぐに倉庫周辺の冒険者たちの知るところとなった。発砲時のマズルフラッシュもかなりのものだ、見つからないわけはない。

 ブラックホーネットのカメラと、倉庫に開いた大穴を通してスコープ越しに内部を見続けていると、予想通りに水晶群晶の台座は振動しながら赤く変色していく――。


 鬼鋼兵を斃した時に何度もみた自爆と同じ変化に、ブラックホーネットを台座近くから逃がすように操作する。

 ヤミガサ商会の商会長も危険を感じ取ったのだろう。立ち上がれずに四つん這いのまま倉庫の出口へと駆けていくのが見える。


 その直後――水晶群晶の台座は火球に飲み込まれ、倉庫の天井を突き破るほどの渦巻く火柱となって爆散した。


 スコープ越しに見た爆散の光量に、思わずスコープから目を外すと――目の前の中空に、倉庫前にいたはずの冒険者の姿があった。


「死ね!」


 冒険者の男は何もないはずの中空を蹴り、手に持つ長剣が俺の首を両断せんと横薙ぎに振るわれる。


「くっ――!」


 思わずMag-Fedを盾にするように持ち上げ、横薙ぎに割り込ませる――だが、この冒険者の剣技は相当にハイレベルなものだったのだろう。Mag-Fedはその特徴的なロングバレルを両断され、光の粒子となって手元から消えていった。


 くっ、これ高いのに!


 Mag-Fedを盾にした一瞬を利用し、後方へのスライドジャンプで屋上を滑るように滑空して距離をとる。

 同時に、両手にスミス&ウェッソン E&E トマホークを召喚して冒険者と向かい合う。


「貴様何者だ」


 冒険者の男は軽装鎧に身を包み、手に持つ長剣は量産品とは別格の装飾と輝きを放っていた。この男は“覇王花”でも相当な腕利きなのだろう。


 男の問いには答えず、視界に映るマップとブラックホーネットのカメラ映像を再確認する。

 光点が商館を取り囲むように動いているし、足元からは階段を駆け上がってくる多数の足音が聞こえる。そして、問題の倉庫内部は予想通りの展開へと移行していた――鬼鋼兵が次々に光の粒子となり、倉庫内からその姿を消失させていく。


 残り数秒となったブラックホーネットのカメラに、その光の粒子を必死に掻き集めようとするヤミガサ商会の商会長の姿が映ったところで映像が途切れた。


 稼働限界時間の一〇分が経過したのだ。


だが、予想通り――水晶群晶の台座を破壊すれば、そこから生み出された鬼鋼兵も消滅する。これは、ゲームシステムを考えれば非常に可能性の高い連鎖反応だ。

鬼鋼兵を生み出すゲームシステムがMMORPG系なのか、それともMOBA系なのか、はたまたアクション系だったのかは判らないが、明らかにそれはコントロールユニット――破壊対象オブジェクトとしか見えなかった。


これがゲームならば、水晶群晶を破壊したことでステージクリア、もしくはマッチング勝利となっただろうが、ここは現実の世界。


戦いはまだ続く――まずはこの場をどう締めるか。


「その男が“黒面のシャフト”ですよ」


 不意に、向かい合う男とは別の方向から声が聞こえた。同時に、マップに浮かび上がる一つの光点――。


「“覇王城シュルドチアーナ”か……そうか、この男が俺たちの邪魔をしている黒面か」


 姿を消す〈スキル〉か……。


 念のため、視界をFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードに変えて屋上を見渡すが、新たに姿を現した黒装束以外にはいないようだ。


「フライハイトから飛び出てきたので追ってくれば、まさかここへ来るとは思いませんでしたよ。おかげで……こちらも相当に面倒くさいことになってしまったようですね」


「フライハイトからだと? 向こうはどうなった、計画通りに進んでいるのか?」


「いいえ、王太子と第三王子、それにゼパーネルにまで逃げられ、“覇王樹サボテン”の手勢はほぼ全滅、ライネルに至っては捕縛される有様です」


 “覇王城”――たしかレミさんから忠告を受けていた、闇ギルドに与する諜報クランの名だ。


「捕縛されただと? あの馬鹿野郎、大口たたいてそれか……そうなると、お前には色々と積もり積もった借りを返して貰わなければならないようだな、黒面!」


 冒険者の男は、その視線を俺から決して外しはしなかった。黒装束と話をしている間も、俺が隙を見せれば瞬時に斬りかかって来ただろう。

 俺もその殺気を感じ取り、トマホークを握る手に思わず力が入る――そして、屋上と建物内部を繋ぐ扉が勢いよく開けられ、多数の冒険者たちが雪崩れ込んできた。


 不味いな――多勢に無勢はいつものことだが、相手はクルトメルガ王国最大にして最強のクラン“覇王花”。そのクラン員たちを一度に相手するには、この屋上は狭すぎる……。


「おっと、逃がさないぞ。お前にはこれ以上――俺たちの覇道を邪魔されては困る、ここでその命、狩らせてもらうぞ」


 俺の動きを察知したのか、にらみ合う冒険者の男が一歩前に出る――同時に、上がってきたクラン員たちが俺を包囲するように広がり、それぞれに業物の武器を構えて臨戦態勢へと突入していく。


「お前たち“覇王花”の目的は何だ? この王国を乗っ取ることか? それとも、バイシュバーン帝国の属国となって支配権だけでも手に入れるつもりか?」


 僅かな時間稼ぎのために、未だはっきりとしない奴らの目的について探りを入れる――だが。


「――ぷっ! あーっはっは! 王国? 帝国? そんなもののために決起したと思っていたのか! 国などという括りは、我らの覇道にとって都合よく民たちを縛るものでしかない。覇道の先にあるものは、そんなちっぽけなものではない!」


 国の支配が目的ではない? では、こいつらは何のために……。


「お前は殺すには惜しい男だが――覇道の邪魔となる以上、ここで潔く散れ!」


 その言葉が号砲となり、“覇王花”の精鋭たちが一斉に襲い掛かってきた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 国の支配が目的ではない? では、こいつらは何のために……。 命のやり取りしてるときに、そんな話どうでもいいよ。
[一言] え、銃が破壊されるfps初めて見た
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ