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書籍版第三巻は9/10発刊予定!
よろしくお願いします!
視界に浮かぶマップの光点を確認し、集音センサーが捉える音を正確に聴き分け、周囲にいる味方はヴィーのみ、そして残りは右腕を失ったライネルと鬼鋼兵が五体。
会場に入ろうとする敵の増援部隊の数は十二――いや、いまヴィーが首をはねて十一となった。
視界には俺だけが認識できるもう一つのウィンドウモニターが浮いており、そこには王太子たちを乗せたタイフーン―Kの一人称視点が映し出されている。
戦闘をしながら意識の隅でタイフーン―Kを操縦するのは思いのほか難しい。
警邏中だったのか、それともフライハイトか別の場所へ急行中だったのか、騎士の集団や警備中の傭兵たちが低く重いエンジン音を唸らせながら走る鉄の箱に驚き、その走行を咎めるように通りを塞いで立ちふさがった。
だが、止まるわけにはいかない。クラクションをけたたましく鳴らしながら走行し、敵か味方かも判らぬ中央騎士団や貴族の邸宅を護衛する傭兵たちを通りから下がらせ、バルガ公爵邸へと急がせていた。
ウィンドウモニターに映る運転席のインパネには、後部乗員区画の映像を映し出すモニターが付いている。運転席と乗員区画との間を無線通信で会話することもできるが、VMBの仕様上、それはボイスチャットで行われるため、俺の声を乗員区画に流すことは出来ても、王太子たちやアシュリーの声を聞くことは出来ないだろう。
小さなモニターには、揺れる乗員区画に恐怖し椅子にしがみつくシャルさんの姿や、護衛として乗り込んでいるレイチェルが王太子の胸に転げ込み、バルガ公爵の両足へと転がり込んでいくのが見えていた。
『まもなくバルガ公爵邸に到着します。もうしばらく辛抱してください』
乗員区画に突然流れ出した俺の声に乗り込んでいた全員が驚き、周囲を見渡して姿を探すが見えるわけがない。
『公爵閣下、襲撃者の一部に知った顔がおりました――“覇王花”のライネルです。また、奴との会話で闇ギルド“覇王樹”との繋がりも判明しました。邸宅到着後の判断のご参考に――』
とりあえず、現時点で判っている情報を伝えておく。バルガ公爵が頷くのが見えたので、この後どう動くのかは公爵が決めるだろう。
俺はまず、フライハイトの混乱を鎮めることを最優先とする。
五体の鬼鋼兵たちの六尺棍は両端が高熱を発し、まともにその攻撃を受け止めるのは危険だろう――インベントリを意識し、新品のバリスティックシールドを召喚する。
レーザー攻撃を含め、バリスティックシールドなら鬼鋼兵の攻撃は殆ど防ぐことができるだろう――まだ見せていない攻撃方法がなければ、だが。
「チッ! 一体何なんだお前は! 結界内で何故〈スキル〉らしきものを使える?!」
「その通りだ“結界無視のシャフト”――いや、“擬装のシュバルツ”」
何もないところから大盾であるバリスティックシールドを召喚したのを見て、ライネルとヴィーが疑問の声を上げている。
だが、それならば俺も聞かねばならない……。
「ヴィーよ、お前こそその長剣をどこで調達してきた? いや、晩餐会で姿を見かけなかったが、〈スキル〉で姿を消していたのか?」
ヴィーの手には中央騎士団の物とも襲撃犯たちの物とも違う、黒い長剣が握られていた。
「結界内で〈スキル〉が使えるわけがない、お前とは違う。フランク様はエメラーダ様とご参加されるからな、この優雅な晩餐会で魅せるフランク様の雄姿! 華麗なる立ち振る舞い! それを見逃せるはずがない!! そこで、誰もいない開場前に――そこのテーブルクロスの裏で待機していたのだ!」
外からの十一人を相手に立ち回っていたヴィーが俺の背後へと下がり、背中合わせになりながらお互いに黒装束と鬼鋼兵を睨んでいたが、ヴィーは黒い長剣で荒れ果てた会場に転がる一脚テーブルを差し示し、声高に変態行為を自白した。
「そ、そうか……開場前からそこにいたのか……」
この変態女の素行についてはもう諦めよう。
「それで、お前はなぜ〈スキル〉が使えるのだ?」
「……そうだな、あの鬼鋼兵と呼ばれる人ではない何かが、〈スキル〉らしきものを使用するのと同じ理由だろう」
「ふむ?」
“同じ理由”と言っても、その根本をヴィーが知っているわけがない。しかし、あちらは思い当たることがあったようだ。
「同じ……だと?! まさかシャフト、貴様のそれも魔道兵器だと言うのか!」
魔道兵器? そういえば、ライネルが最初に襲撃を仕掛けてきた時にもそんなことを言っていた。いや――どこかもっと前に、誰かからその言葉を聞いたような……。
いや、今は思い出している余裕はない――。
鬼鋼兵二体が左手を突き出し、手首よりレーザーユニットが展開され、即座にその砲口が赤く光りだす――。
「飛べ、ヴィー!」
背中合わせにいるヴィーへ警告し、同時にスライドジャンプで横へ避ける。
単発の銃弾ではない照射型のレーザー攻撃は、初期照射地点から逃げれば避けきれるものではない。俺の動きを追うように振られる二本の赤いレーザーから逃げるように跳躍し、空中でバリスティックシールド上部を支えに照星を覗く――。
照星の先にあるクロスヘアを鬼鋼兵の胸部に合わせてトリガーを二連射。シールドの上部で跳ねるデザートイーグルを抑え込み、滑るように着地しながら同時にもう三連射。
鬼鋼兵は大きく仰け反り、照射するレーザーは天井へと向けられて突き抜けていった。
もう一本のレーザーはバリスティックシールドで受け止めながら、さらに跳躍して壁を蹴り、天井すれすれのところを飛びながら直下の鬼鋼兵へ二連射。
計七発の.50AE弾を撃ち込んでも、鬼鋼兵は仰け反るばかりで完全に動きを止めることは出来なかった。
だが感じる――撃ち込んだ銃弾の数、鬼鋼兵の挙動、Mobとしか思えないその存在。
鬼鋼兵が沈むのはもうすぐだ――。
着地と同時にバリスティックシールドを突き立てて身を隠し、インベントリよりマガジンを召喚してリロード。
意識だけで銃器の取り出しが可能になったとはいえ、このマガジンの換装だけは依然として手で行わなければならない。
同化現象がどれほど進もうとも、装弾数が無限になることはないし、自動でリロードされることもない。
どこまでいっても俺はFPSプレイヤーであり、だからこそ確信できる。
「これで――Killだ!」
バリスティックシールドに背を預け、リーンの体勢でクロスヘアを鬼鋼兵の頭部へと飛ばし、トリガーを引く。
放たれる火砲と弾丸は銃撃を集中させていた鬼鋼兵の頭部を揺らし、爆散。
続いて、鱗鎧の中心部が急速に赤く膨張していく――。
「爆発するぞ!」
その変化を見た瞬間に何が起こるのかを察知し、黒装束たちと戦闘中のヴィーへと駆け寄り、背後から抱えて一気に外へ向かってスライドジャンプ、そしてストレイフジャンプへと繋げて離脱。
ストレイフの軌道からそのまま空中反転して鬼鋼兵の姿を確認したのと、そこにあった渦巻く火球が爆炎を立ち昇らせて爆発したのは同時だった。
「くっ――!」
バリスティックシールドを前に突き出し、俺とヴィーの体を隠すように構えたところに強烈な爆風が押し寄せ、背中からフライハイトのモロくなった壁を突き破った。
前庭に叩きつけられながら、崩壊していくフライハイトを見る――。
破壊判定と同時に自爆か――しかも、なんて威力だ。だがハッキリと確信した……あれはこの世界のものじゃない。俺と同じ、異世界からの――ゲームシステムの産物だ。
俺以外にもこの近くに『枉抜け』がいるのか? まさかライネルが? いや、それなら銃器について何かしらの知識を持っているはず。
それに、ライネルは鬼鋼兵や俺の銃器を魔道兵器と呼んでいた。つまり、どこかにいる――もしくはあるんだ。あの鬼鋼兵を生産している誰か――何かが。
“覇王花”の背後にいるのは『枉抜け』個人なのか、それともそのゲームシステムを〈血統スキル〉として色濃く受け継ぐ子孫なのかはまだ判らない。
そして、残り四体の鬼鋼兵を倒すのは一筋縄ではいかないだろう。
崩壊していくフライハイトの瓦礫を吹き飛ばし、一体――また一体と鬼鋼兵が姿を見せる。そして、黒装束を焦げ付かせ、失った右腕を抑える半身に大きな火傷を負いながらも立ち上がる、ライネルの姿もあった。
あいつもしぶといな……。
〈スキル〉と〈魔法〉を封じていた結界の効力が消えたのか、ライネルの左手が淡く輝いているのも見える。
「んっ……」
爆発と外へ吹き飛ばされた衝撃に気を失っていたヴィーが気づいたようだ。
「大丈夫か、ヴィー? 怪我はない――」
「ひゃ! ななななにをやっているのだ! どこを触っている! いや、なぜわたしを抱き寄せているのだ!」
どこって……腰に手を回しているだけだが……。
「こ、このっ――“変質者のシャフト”!! いや――“獣欲のシュバルツ”!! このような状況にも関わらず、フランク様に捧げた我が身を貪らんと夜の茂みに連れ込むとはっ!!」
胸元で暴れるヴィーを解放し、まだ言い足りないのか早口に捲し立てる妄言を聞き流しながら、この後の戦闘を――鬼鋼兵をどう倒すかを考えていくが、出てくる答えは一つ。
この変態女……乙女か!
活動報告を更新しました。書籍三巻について、ほかにも色々書いてます。
http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/1506392/




