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書籍第三巻は9・10発刊予定、よろしくお願いします!




 デザートイーグルのクロスヘアをライネルの右肩に合わし、トリガーを引く瞬間――そこへ割り込むように鬼鋼兵ミニオンが体を入れてきた。

 しかし、盾を持っているわけでもない鬼鋼兵に、射線からライネルの体すべてを隠すことは不可能だった。


 瞬時にクロスヘアを微調整し、右肩から右手へと滑らし――トリガーを引く。


 火を噴くマズルフラッシュと重低音で響く発砲音に続いて、ライネルの絶叫が上がった。

 .50AE弾は右肘から下を捉え、着弾の衝撃は腕全体に広がっていた。右手は千切れ飛び、ダメージは指先にまで伝わり粉々に破裂させる。


 あれでは――たとえ治癒魔法で治療したとしても、右腕は元に戻ることはないだろう。


 ライネルはもう一つ後方へとジャンプ。鬼鋼兵二体の陰へと体を隠し、頭巾をとって即座に吹き飛んだ右腕を縛り上げていく。まだ口元を隠すようにマスクをしているため、顔全体を見ることは出来ないが、黒装束の正体はライネルで間違いなかった。


「ぐぅぅ……シャ、シャフトぉ! シャフトシャフトシャフトぉぉぉ! 貴様は絶対に許さんぞぉー!」


 鬼鋼兵の向こうでライネルが吠えているが、俺はそれどころではない。


 目の前に残る鬼鋼兵の六尺棍を躱しながら、その巨躯へ.50AE弾を撃ち込んでいく――が、着弾しても弾丸が吸収されるかのように消滅していくことに困惑していた。


 全く通じていないわけではない。着弾すればその威力に仰け反り、吹き飛び、ダウンする。しかし、体全体を覆う鋼の鱗状の装甲に傷がつかない――これではまるで――。


「――まるでMobモブだな……」


 ケブラーマスクの下で思わずこぼしたのは、VMBで散々相手をしてきたAIエネミーを思い出してのことだ。

 Mobとはつまり、ゲーム内でのモンスターやAI兵士など、プレイヤーが操作しているわけではないNPCたちの総称。


 ゲーム内での戦闘では、プレイヤーアバターを含めて四肢欠損や流血などの暴力表現は控えられていた。

 銃撃や近接攻撃がヒットすれば鮮血が噴き出すグラフィックがないわけではないが、その状態が続くわけではない。


 特にAIエネミーと戦闘するミッションモードなどでは、地球外生命体――いわゆるエイリアン的なモンスターと戦うミッションなども存在していた。

 鬼鋼兵との戦闘は、まだVMBがVRFPSゲームだったころを思い出させる。


 六尺棍を振り回し、旋風の如く攻めてくる鬼鋼兵の頭部へクロスヘア飛ばしてトリガーを引く。

 ヘッドショットの衝撃に体勢を崩し、猛攻がとまったところで俺も後方へと大きくジャンプし、同時にマガジンをリロード――換装して銃弾を補給する。


 着地した場所は中央騎士団が数名固まっている場所だった。


「く、黒面のシャフトだな? 貴公がなぜここに……」


「今夜の晩餐会には俺の護衛対象も参加していた――ただ、それだけのことだ。それよりもここは俺と、あそこで外からの増援を食い止めているヴィーに任せてもらおう」


 この会場に俺と共に残ることを決めたヴィーは、タイフーン―Kが脱出するために開けた壁の穴の前で、状況を確認するために会場内へと侵入しようとする増援部隊を一人で押さえていた。


「ふふふっ、その程度の剣技でわたしを捕まえられるつもりか? 未熟――あまりにも未熟だぞ“下等な侵入者”ども!」


 ヴィーは六人ほどの黒装束を相手に、踊るようにその猛攻を避け、まるで教練でもしているかのように侵入者たちをあしらっていた。


 しかし、あの変態女はどこに隠れていたんだ?


 会場内には依然として魔法とスキルを封じる結界が作動している。それは失った右腕を魔法で治療せず、縛り上げて止血するにとどめているライネルを見ても明らかだ。

 ヴィーが得意としている姿を消して移動するスキルも、この会場内では使用不可能なはず……だが、晩餐会の最中はあの目立つ黒の皮鎧にフェイスベールやアイマスクを見かけることはなかった。


「こ、このフライハイトの警備を任されているのは我々中央騎士団だ。むしろ君たちこそすぐに脱出するべきだ。それに我々は王太子やアーク王子の安全も確保せねばならない」


「王太子たちはすでに安全な場所へと移動している。むしろ騎士団には、地下へ向かったクルード卿たちと合流し、戦えない者たちを無事に脱出させてもらいたい、それに――」


ヴィーから視線を背後の騎士団員へと向け、続いて俺の名を怨讐籠めて連呼するライネルに向ける。


「鬼鋼兵ども! この木偶人形どもがっ! そんな雑魚騎士よりもシャフトを殺れ!」


 ライネルの吠える声に、会場中で騎士団と戦闘をしている鬼鋼兵四体と、スレッジハンマーを直撃させて壁に埋め込んだ一体が、俺に視線を向けて目を赤く光らせた。


「――聞いての通り、侵入者どもは俺に夢中だ」


「だ、だが、王太子はいったいどこへ……」


「バルガ公爵と行動を共にしている。それより部隊を纏めて早く行け、クルード卿が向かった先に待ち伏せがいないとも限らないし、襲撃を受けているのがここだけとは限らない」


「それはどういう……」


「いいから行け! 行ってクルード卿に伝えろ、襲撃犯は“覇王花”だとな!」


 “覇王花”の名前を口にした瞬間、騎士団の顔色が変わった。その名を聞いただけで、今まさにどういった事態が起きているのかを察したようだ。

 俺も第二王子が反乱を企てているなどと、確証もなく口にするつもりはない。その可能性が非常に高くとも、このフライハイトの外が――王都が今どうなっているのかを知るまではそこまで口にはできない。


 今確かなのは、目の前で殺意を噴き上がらせている黒装束が、“覇王花”のライネルだという事実のみ。


 鬼鋼兵五体が俺を第一目標と定めて動き出したのと同時に、生き残った中央騎士団も集結して地下へと向かい駆け出した。

 会場を出る直前、騎士の一人がこちらを見て「黒面、この場は任せたぞ!」と一声掛けて行ったが、そう言われるまでもない。


 “覇王樹”の暗躍にはほとほと嫌気が差していた。ラピティリカ様の護衛依頼以降、シャフトの姿を取れば執拗に俺の命を狙ってきた。

 その正体がはっきりと見えてきた以上、無視するわけにはいかない……俺の体がどんな傷も治す化け物のような自然治癒力を持っていても、姿を消すスキルや魔法によって治癒する暇なく命を狩られればそこで全ては終わる。


 それに、“覇王花”の狙いは王太子や第三王子の命だけではなく、ゼパーネル宰相の身柄の拘束を口にしていた。

 このクルトメルガ王国で平穏無事に……とはいいがたいが、『魔抜け』であり『枉抜け』である俺が自由に暮らしていくには、現在の王政とゼパーネル宰相の存在が必要不可欠、それに――どこか他人とは思えないゼパーネル宰相を、みすみす攫わせるわけにはいかない。


 晩餐会の会場は少し前までの穏やかで賑やかな雰囲気とは一変し、壁や天井は崩れ、会場を彩る料理や装飾花は散らばり乱れ、俺が用意したウェディングケーキも散乱していた。

 そしてなにより、会場のいたるところに騎士団の、給仕や来賓の遺体が無残に横たわっていた。


 外からの魔法攻撃は一時的に止んでいるが、建物全体が崩壊するのも時間の問題だろう。

 だが、ここからは味方への誤射を心配する必要はない。遺体や建物に更なる損傷を与えるかもしれないが、まずは何よりも敵の排除が優先だ。


 鬼鋼兵たちが握る六尺棍が、中央の柄部分を残して赤く変色していくのが見える。視界をFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードに変えて見ると、両端が高い熱量を持ち始めたことが見て取れる。


 どうやら俺だけではなく――鬼鋼兵たちも本気になったようだ。

 

 

 

 


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