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 気絶した辺境騎士団と山茶花サザンカを回収し、水の霧アクアミストに紛れてフラウさんが撤退した後、残された水人形たちをGE M134 Minigunで殲滅した。


 玉座の間を後にし、門番の間にある転送魔法陣まで警戒を続けながら移動をしたが、待ち伏せなどは特に何もなかった。

 行動不能に陥らせた人数は多い。フラウさんは各員の安全を最優先し、地上へと戻ったのだろう。


 あわよくばヨーナを討伐し、大魔力石を手に入れたいとは考えたのだろうが、距離が離れていても水人形の動向が把握できているのだろうか?

 いや、出来るからこその発言か――大魔力石を喰らう前に、フラウさんは確かそう言っていたが、オークでもない俺が魔石を喰らうとなぜ考えた?


 魔石を喰らう――TSSに落として無属性魔石に変換する以外に、何かできることでもあるのだろうか。


 そんなことを考えながらも転送魔法陣に血を垂らし、魔力の認識票の力を借りて魔法陣を起動し、地上へと転移した。




 王都まで戻って来るのに四日ほど掛かった。急いで戻ればもう少し早かったのだが、魔の山脈には辺境騎士団が巡回しており、迷宮に誘われて寄ってきた魔獣・亜人種の討伐が進められていた。余計な戦闘を避けながら帰還したため、この日数となった。


 『大黒屋』の前まで来ると、商館の扉に“仕入れのため、休業中”と札が掛けられていた。


 店を留守にして三週間近い。用意しておいた商品在庫が底をついてしまったか――あっ。


 在庫が底をつくで思い出した。マルタさんにシャフーワインの調達を頼まれたまま、納品せずに魔の山脈へと出発していた。第三王子の生誕を祝う晩餐会が行われる日までもう時間がない。


 バードマン宰相に迷宮討伐の報告をしに行かなくてはならないが、その前にマリーダ商会に寄っていく事を決め、地下倉庫にコンチネンタルを何度も召喚し直してワインの在庫を確保した。


 今回の迷宮討伐では大量のCPクリスタルポイントを消費した。マルタさんと組んで稼いだ資金で無属性魔石を大量に購入しなくてはならないし、食料の補充も必要になっている。


 地下倉庫で作業を終えて二階の事務所スペースに移動すると、エイミー達からの営業報告書が置かれていた。


 お茶を用意しながら報告書に目を通すと、『大黒屋』のシャンプーとリンスの効果は日に日に広まっており、普段はやってこない貴族家からの注文も増えているそうだ。

 そして、育毛剤は幾つかの騎士団から大量注文が来ているらしい。特にフルフェイス系の頭部装備を被る重装歩兵隊からの注文が多く、担当者が血涙を流すほどに融通を懇願していった、と書かれていた。


 まさかここまで反応が良いとは……だが、仕入れはコンチネンタルを召喚して運び出し、ガレージに戻して減少した耐久値を回復、そして再度召喚して運び出す、その繰り返しだ。


 報告書に書かれているほどの注文数を叶え、今後も大口の取引を続けていくのは――無理!


 『大黒屋』の営業は利益を上げることが第一目標ではない。転送魔法陣を秘密裏に設置し管理する――あくまでも、各地の迷宮を討伐して回るための拠点でしかない。利益を上げる事に時間を取られては本末転倒だ。


 報告書を読み終え、ソファーに背を預けて一休みでもしようかと考えていると、下の階から扉を叩く音が聞こえてきた。


 誰かが来たようだが、このタイミングでやって来るなんて一人しかいないだろう。


 一階へ降りて扉を開けると、想像通りの人が立っていた。


「どうやら無事に帰ってきたようだな、シュバルツ君」


「えぇ、ただいまです。レミさん」


 商館前に立っていたのは宰相直属の諜報クラン、君影草スズランに所属するレミさんだ。

 坑道の迷宮へと本格的に侵攻する前に再会したとき同様に、胸元が大きく開いた白いシャツとズボンの事務員スタイルで立っていた。


 立ち話をして誰かに聞かれても困る。とりあえず店内に入ってもらったところで、レミさんが外を警戒しながら話し始めた。


「早速だが、バード卿と幼女様から夕食の誘いだ」


「幼女様? あぁ、あちらでお待ちですか、承りました。出向かせていただきます」


「悪いな――本来ならここか、バード卿の執務室で報告を受けるべきなのだろうが、アーク王子の晩餐会が目前でな……君も来るのだろう? 出入りの商会名簿に大黒屋が載っていたぞ」


「マリーダ商会を通して果実酒を納めるだけですよ。ですが、王子の晩餐会とバード卿の執務室に何の関係が?」


「今回の晩餐会には幼女様が特別に呼ばれていてな、護衛計画の作成に幹部たちは頭を抱えているよ。それに、北から何か臭いものが運び込まれたらしくてね、バード卿を中心にギルド総出で行方を探っているんだ」


「そんなこと、私に話してもいいんですか?」


「構いやしないさ。幼女様の参加は明日にも公表されるし、捜索している物と晩餐会に必ずしも接点があるわけでもないしな」


 そんな話をしながら、レミさんは売れ残っていた高級インテリア家具のパーソナルチェアーに体を埋め、足乗せ用ソファーのオットマンに「ほー」と感嘆の声を漏らしながら座り心地を堪能していた。


 その後、パーソナルチェアーの価格を聞いて緩んだ表情が凍りついたのは言うまでもない。




 夕日が城壁の向こうに沈むころ、王城に出向いて幼女様――ゼパーネル宰相の武家屋敷へと向かった。


 前の世界の西洋建築を思わせる石造建築文化の中に、浮き立つように存在する木造瓦葺の平屋建てが見えてきた。


 前庭に敷かれた飛び石を踏みながら、正面玄関へ回り軽く玄関の引き戸をノックする――。


「はいはーい」


 板廊下を走る音が聞こえる。そして、シャルさんの元気な声が聞こえてきた。


「おっ、やっと来たわね、シュバルツ!」


「お久しぶりです、シャルさん」


 玄関戸を引いて顔を見せたのは、アシュリーの実妹であるシャルさんだ。夕食を作っていたのか、白い割烹着に白い頭巾を被っていた。


 一体どこでこんな服装を知ったんだか……。


「ジジイも待っているわよ。前に食事した客間はわかるわよね? そっちで待ってて」


 それだけ言って、シャルさんは再び板廊下を駆けていった。


 確かシャルさんは料理が苦手と言っていたはずだが、ここでの生活が暇すぎて料理に目覚めたのだろうか?


 マップに映る光点から台所に二人、これから向かう客間にも光点が二つあるのが見える。とりあえず、板廊下を踏み歩く感触を楽しみながら客間へと向かった。


「失礼いたします。『大黒屋』シュバルツ参上いたしました」


「おー来たか、はよ入るのじゃー」


 まだ幼い子供のものながら、障子越しでも通る凛とした声が響く。クルトメルガ王国永世名誉宰相――幼女の姿を保ち、歳を重ねる事のない不老の存在。


 そして、クルトメルガ王国の政を纏め上げる中心人物、ロベルト・バードマン宰相。


 この両巨頭が、客間で俺を待ち構えていた。


木目が美しいツヤのある座敷テーブルをはさみ、上座に座るゼパーネル宰相と向かい合うように座り、横に座るバードマン宰相の両名に軽く頭を下げた。


「二週間ほど連絡が途絶えておったが、魔の山脈に巣くう迷宮が第一種危険魔獣によって討伐された事は報告が来ておる。まずはその件について報告を聞こう」


「畏まりました。まず、第一種危険魔獣“ヨーナ”についてですが――」


 俺の報告を、ゼパーネル宰相は黙って聞いていた。バードマン宰相は頷きと質問をはさみながら、迷宮討伐までの詳細を把握しようと努めていた。

 ヨーナの正体が俺であることは伏せ、『大黒屋』シュバルツ、黒面のシャフトが所属しているクラン、火花スパークと繋がりがある魔獣だとだけ伝えた。


 シュバルツ=シャフトであることはすでにバレている。だが、タクティカルケブラーマスクの黒面を着けただけの変装と、姿形をスケルトンへと変貌させる事が出来る事には大きな差がある。

 俺の報告を全て鵜呑みにするとは考えていないが、起きた事に対する嘘は話していない。ヨーナは迷宮討伐後にクルトメルガ王国を離れ、当分は他国で活動するだろうと伝えた。

俺とヨーナの間に繋がりが存在することの証明は、大魔力石ダンジョンコアを提示することで納得してもらえた。


 大魔力石の所有権は俺にある。バードマン宰相から売却を打診されたが、試しておきたいことがあるのでお断りさせて頂いた。

 

 オフィーリアを密かに援護し、動向を報告する。同時に、魔の山脈に存在すると予想されていた迷宮を討伐する。

 この二つが依頼であって、その流れで怪盗“猫柳ネコヤナギ”――魔の山脈に存在した隠れ村、ヨルムの保護などがあった。


 だが、これでその全てが完了だ。俺が直接迷宮を討伐したわけではないが、討伐の方法まで事細かく決めていたわけではない。報酬の転送魔法陣二組は問題なく貰える事になった。


 俺の報告を踏まえ、バードマン宰相はドラグランジュ辺境伯領へと伝令を飛ばし、魔の山脈の安定と坑道の迷宮からの資源回収を命ずる事になる。

 今後、ドラム要塞を崩壊させるほどの魔獣が居なくなっていることは伏せ、魔の山脈の安定とヨーナ捜索を名目に、クルトメルガ王国はドラーク王国との緩衝地帯となっていた魔の山脈を実効支配する形と成り、動きを活発化させている大陸北部への大きな牽制となっていくだろう。


「ご苦労なのじゃ、シュバルツ。じゃが、褒美が魔法陣二組だけでは寂しかろう」


 バードマン宰相への報告と報酬の確認が粗方終わったあたりで、それまでずっと黙っていたゼパーネル宰相が口を開いた。


「いえ、転送魔法陣だけでも過分な報酬です」


「謙遜することはないのじゃ。妾からの褒美として、アークの誕生日会にアーちゃんと共に出席することを許可するのじゃ」


 アークの誕生日会? それってまさか、第三王子の誕生日を祝う晩餐会の事か?




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