212
Overwatchを取材しに行っていたので今回の更新は少なめです。
5/10 言葉足らずな部分を微修正
ほんの僅かな間だったが、俺をこの世界へと落とした元凶――古の邪悪なる女神、邪神と接触することが出来た。
狂った神の目的が言葉通りの世界の破滅なのかは判らないが、俺はその尖兵になるつもりはない。むしろ前線基地ともいえる迷宮を潰し、滅ぼし、根絶やしにする。
まずはこの坑道の迷宮だ。玉座の間を通り抜け、台座の間へと続く狭い通路を歩く。牙狼の迷宮ではここに居住区と思われる隠し部屋があったが、視界に浮かぶマップには映っていない。
あのラムトンワームが俺と同じ落とされた者とは到底思えない。やはり、迷宮の主は強力な魔獣である場合が殆どなのだろう。
扉一つ越えただけなのに、マップには直線通路と台座の間しか映っていない。階層が変わったわけではないが、この空間は玉座の間とは別の場所なのだろう。
台座の間が見えてきた。同時に、漆黒の木の根――もしくは触手のようなものに上下から挟まれ、マーキースカットされたラグビーボールほどの大魔力石が中空に浮いているのが見える。
漆黒の触手に極彩色の光を吸われながらも、台座の間を溢れ出る輝きで照らしていた。
だが、その光景は美しいものとは程遠く――禍々しい。
中空に浮かぶ大魔力石を掴むと眩い光は更に強くなり、遮光機能が自動的に作動する。牙狼の迷宮を死に追いやった時と同じだ。
漆黒の触手の先に浮かぶ闇色の渦が、大魔力石を離すまいとする僅かな抵抗感を感じる。
輝きが収まるのを見ながら、それを引きちぎるように大魔力石を取り外す――同時に迷宮全体が震え、どこからともなく慟哭が響き渡る。
これで三つめ。緑鬼、牙狼、そして坑道の迷宮。
大魔力石の輝きを見ながら玉座の間へと引き返す。これから一ヵ月、坑道の迷宮は緩やかに死んでいく。収穫祭が行われることはないだろうが、ヨルムの住人とドラグランジュ辺境騎士団によって、幾ばくかの空魔石と鉱物資源が回収されることになるだろう。
この迷宮から得られる利益と、その後に生まれるであろう魔鉱石の鉱脈。それが今後のヨルムの財源となり、クルトメルガ王国の庇護下に入るために必要なものとなる。
俺の利益はこの大魔力石と転送魔法陣だ。それを間違いなく回収するためには、迷宮地図の作製も必要になるだろう。
元々、今回の依頼はオフィーリアを密かに護衛し、その動向を宰相に報告する。同時に、魔の山脈に巣くう迷宮を討伐することだった。
その報酬は成功報酬で転送魔法陣を一組、俺が迷宮討伐を達成すれば更に一組で、計二組の転送魔法陣と模写魔法陣となっている。
色々考えた結果――今はヨーナの姿でいるが、この大魔力石が迷宮討伐の間違いない証となるだろう。
これで転送魔法陣と模写魔法陣が合計四組になる。俺の行動の幅は更に広がり、自由度も劇的に向上するだろう。
その明るい未来に思わず頬が緩む――気がしただけで、実際にはスケルトンフェイスのままなので無表情ではあるが。
玉座の前へと続く扉を押し開き、台座の間を出る――その瞬間。
マップに十二個の光点が浮かび上がり、俺の目の前にはオフィーリアをはじめとした山茶花の冒険者たちと、緑色の軽鎧を着たドラグランジュ辺境騎士団が待ち構えていた。
「見つけたぞ、ヨーナ!」
霧氷が舞う細剣の切っ先をこちらへ向け、オフィーリアが吠えた。
「その手に持つのは大魔力石だな? よもやアンデッドが迷宮を討伐するとは思っていなかったが――これ以上、おまえの好きにさせるわけにはいかない!」
まさか、ここで再び相見える結果になるとは考えていなかった。しかし、俺が坑道の迷宮討伐を開始してから二週間が経過している。時間がかかり過ぎたのかも知れない。
迷宮討伐に向かう時間を作るため、王都でバーグマン宰相達と会談を持った時に、オフィーリアにはヨーナを追って魔の山脈での調査を優先するように指示してもらっていた。
だが、日数をかけて調査したのち、ヨーナの潜伏先を迷宮だと断定して下りてきたのだろう。ここまでの進路上には明かりを確保する為の白光草もあったはず、道に迷うことなく――最短距離でここまで下りてきたのだろう。
彼女たちと再び戦闘になる可能性を全く考慮していなかったわけではない。考えていたからこそ、坑道の迷宮討伐に“黒面のシャフト”ではなく“ヨーナ”の姿をとって行動していた。
バーグマン宰相達の前では火花というクランをでっち上げ、その一員であるシャフトがこの魔の山脈へ来ていると話していた。
だが、森林都市ドラグランジュに出入りしたのも、アルティミラ夫人と会ったのもシュバルツであり、ドラム要塞を崩壊させ、コティー達と取引をしたのはヨーナだ。
それに加えてシャフトも一時的に動員した。この三人が一時的にでも同じ場所にいたなどという事実を、これ以上増やしたくはない。
俺を『魔抜け』――『枉抜け』だと知るバーグマン宰相に知られるのはまだいい。俺の情報を必要以上に開示する気がないことは先日の会談でよく判っている。
だが、誰しもがそうだとは限らない。シュバルツとして僅かに描いた迷宮地図から、“地図屋のシュバルツ”と噂にあがるような国だ。いつ三人を一人と見なす噂がたってもおかしくはない。
だからこそ、念のためにとヨーナの姿で動いていたのだが……。全てが万事都合よくはいかないようだ。
「マタ、お前たちカ……。オマエ達の代わりに迷宮を討伐してやったのダ、感謝の言葉ぐらい欲しいものダナ」
「……余計なお世話をありがとう。この恩は、おまえを討伐することで返すとしよう」
俺を囲むように展開した騎士団員達が次々に武器を抜いていく。一番後方には――玉座の間と門番の間を繋ぐ通路へと続く迷宮の門を守るように、山茶花の四人が構えているのが見える。
戦闘は避けられそうもないな……。だが、殺すわけにもいかない――となれば。
大魔力石を毛皮のマントに隠すようにし、周囲からは見えないようにインベントリ内のギフトBOXへと収納する。
俺が必要な武器を召喚することが出来るのならば、その逆もまた可能。補給BOXを経由する出し入れはもはや必要ない。
俺が望むものを望んだ瞬間に手の中へと召喚し、逆に収納したいものをインベントリ空間へと収納する。
大魔力石の代わりに手に握られたのは、大型近接武器であるスレッジハンマー。
山茶花の目がある――銃器を使うのはまず控え、こいつで暴れてから隙を見て逃げるとしよう。
書籍版二巻が明日発売!
早いところではすでに書店さんに並んでおりますが、どうぞよろしくお願いいたします!




