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 M202A1から轟音と共に放たれた、四本の白光の尾が玉座の間を切り裂く。


 トリガーを四連射し、銃撃されることを嫌がった頭頂部付近の九つの呼吸孔めがけて、66㎜焼夷ロケット弾が発射された。

 

 そして着弾――胴回りだけでも直径三mはありそうなラムトンワームの巨躯が爆発と共に跳ね上がる。その衝撃が巨躯全体へと伝わったのか、波打つように振動し、それが地中に埋まる見えない部分にまで達する。


「GuRaaaaaaaaa!!」


 頭頂部を包み込む爆炎の向こうで怒号が響き渡る。M202A1は着弾地点を中心に一二〇〇℃で燃え上がる効果がある。

 いま、ラムトンワームの頭頂部は地獄の釜で煮られる罪人のごとく、灼熱の業火に焼かれていることだろう。


 だが、俺のFCS(火器管制システム)コントロールはまだ始まったばかりだ。


 視界に浮かぶスクリーンモニターの映像が目まぐるしく切り替わり、二基の87式対戦車誘導弾から対戦車ミサイルが発射され、次の瞬間には二基のセントリーガンから交互に銃撃が開始される。

 自動装填の一分が経過するごとに87式対戦車誘導弾からミサイル攻撃が行われ、銃弾の雨が止むことなくラムトンワームを攻撃し続けていく。


 FCSと並行してインベントリからM202A1を取り出し、四連射しては再度召喚する。

 そんなルーチンワークを三周したところで、再びラムトンワームが吠えた。


「ヤッたカ?」


 思わず、フラグを立てたとしか考えられない言葉が漏れる。ラムトンワームの頭頂部は爆炎と黒煙に包まれて確認できないが、そそり立つ遥か上から岩の甲殻が剥がれ落ち、ラムトンワームの体液と思われる緑色の液体と共にボロボロと荒野に降り注いでいた。

 確実に甲殻を貫通してダメージを与えているはず、そんな期待をしながら撃ちきったM202A1を肩から落とし、背に廻していたPhaseRifleを前に出す。


 FCSコントロールを一時中断し、各支援兵器の照準を頭頂部付近に合わせたまま様子を見る――爆炎と黒煙の向こうに大きな影が蠢くのが見えた。


「VuGoooooo!!」


 黒煙を突き抜けて、ラムトンワームの頭頂部が露わになる。三重の並ぶ鋭い牙の半分ほどが砕け散り、岩の甲殻に隠れていた黒い甲殻にも凹みやヒビが見える。

そして、吹きだす緑色の体液が巨躯へと伝わり赤茶けた胴体を緑色に染め上げていた。


 いける――そう確信した瞬間。ラムトンワームの牙が外へと突き出るように蠢き、その大口が細く突き出たノズルのように変化していく。


 何か来る?!


 そう感じたのと、細く突きだされた大口から大量の土砂と鉱石が噴出したのはほぼ同時だった。

 左手に持つバリスティックシールドに身を隠しながら、大きく横へジャンプして回避。

 しかし、噴出される土砂と鉱石は銃弾のような単発ではない。土石流の如く途切れることなく噴射されるのは、ラムトンワームのスキル≪アースブレス≫。


 大口の向く角度を変えるだけで、躱したはずの≪アースブレス≫が迫ってくる。巻き上がる砂煙に視界が奪われ、バリスティックシールドに強い衝撃を受けて体ごと大きく弾き飛ばされた。


空中で姿勢を制御し、地滑りしながら荒野に着地するも、体の近くに浮かべていたスクリーンモニターの画面が次々にブラックアウトしていく。

正面を向けば、ラムトンワームの≪アースブレス≫は設置した支援兵器たちを飲み込み、破壊していた。


 やってくれる……。


 ≪アースブレス≫がとまり、ラムトンワームの大口が再び胴回りと同じ大きさへと戻っていく。

 ラムトンワームは遠距離攻撃なら俺にも出来るぞと言わんばかりの咆哮を上げ、黒い甲殻をうねらせながら遥か上より見下ろす。


 だが、その大口に赤い光が閃く。


「Gyaaaaaa!」


 PhaseRifleのフルチャージショットは、大口に残っていた牙の大半を消滅させ、上顎の辺りを溶解させるほどの威力を見せていた。


 しかし、それでも黒い甲殻を貫通は出来ていない。


 ラムトンワームの最大の武器は、その巨躯でも≪アースブレス≫でもなく、容易には破壊できない黒い甲殻なのだろう。

 チャージゲージが一〇〇まで溜まるのを僅かに待ち、再びフルチャージショットを口内に向けて発射する。


 外側が如何に硬くても、直接内側を狙い撃てばダメージは与えられる。二発目が閃くと同時に、ラムトンワームの口内から白煙が立ち上り、巨躯が荒野へと倒れ込む――。

 玉座の間どころか、坑道の迷宮全体を揺らすほどの震動を起こしながら、ラムトンワームは自らが吐き出した土石流へと激しく巨躯を打ちつけた。


 巻き上がる砂塵によってラムトンワームの姿が視界から消える。さすがに、砂塵の中に突撃するのは危険すぎるし、近づく理由もない。

 PhaseRifleのフルチャージショットが有効打になりえると判った以上、距離をとりながら射撃を続けるのが正解だろう。


 破壊された87式対戦車誘導弾を再度召喚して設置。決して低くはないCPクリスタルポイント消費量なのだが、大魔力石ダンジョンコアの売却金や魔水に最高級ワインなど、資金源は数多くある。

 安全に、確実に迷宮を攻略するためには、CPの消費を躊躇うわけにはいかない。


 砂塵が晴れていく――PhaseRifleをバリスティックシールドの上部に乗せながらダウンサイトし、光学サイト越しにラムトンワームの姿を探す。


 いない……?


 だが、自らが吐き出した土石流の上へと倒れ込んだはずのラムトンワームの姿はどこにもない。ただ一つ、軽石に似た灰色の多孔質な石と化した頭頂部だけが残っていた。


 ボロボロに砕かれた大口の三重に並ぶ歯牙も残っている――まるで脱皮かトカゲの尻尾切り。


 そう考えた瞬間、足元から微振動を感じる――。


 やはり、斃したわけではない。どういう身体構造なのか判らないが、傷を負った頭頂部を切り離し、地中へと潜ったようだ。

 頭頂部が弱点だと考えていたが、どうやら違うらしい――震動が大きくなっていく――地上に上がってきている。


 後方へと何度か大きくジャンプし、震源から距離をとって再びダウンサイトし、地中から出てくるのを待つ。

 再び荒野の一部が地中へと飲み込まれるように陥没し、代わりにラムトンワームが怒号と共に姿を現した。


 うねりながら上がっていく巨躯の頭頂部には、砕いたはずの岩の甲殻と三重の歯牙が無傷で並び、再生していた。


 厄介だな――坑道の迷宮討伐を開始して、何度となく感じたことを再び感じる。


頭頂部をどれほど傷つけても、その部分を切り離して新たな大口を生み出すことが出来るのならば、どこかに核となる部分か、目に見えない部分に本体があるはずだ。


 可能性が高いのは地中に埋まっている部分か? と考えたが、ラムトンワームは遠距離から狙い撃たれることを嫌ったのか、地中から巨躯すべてが這いだし、荒野をうねりながら大口を開けて突撃してきた。

 

 ラムトンワームの全長は三〇mほどだろうか? 尾の先まで続く岩の甲殻には、本体を特に守っているような箇所は見えない。


 大地を抉るように土砂を飲み込みながらラムトンワームが迫る。思ったより動きは速いが、正面に大口を開けてくれているのは好都合だ。


 光学サイトのレティクルを大口の奥で蠢く錐状の舌へ合わせてトリガーを引く。


しかし、ラムトンワームは舌を撃ち抜かれても止まらない。どのようにして俺の位置を確認しているのかは判らないが、移動しながらフルチャージショットを繰り返しても、真っすぐにこちらへと向かってくる。


新たに設置した二基の87式対戦車誘導弾も対戦車ミサイルを発射し、その巨躯へと断続的な攻撃を続けている。

その発射時には、ラムトンワームの怒号にも負けないほどの爆音を発する。俺の位置を判断しているのは、音ではないのだろう。


 熱……いや、臭いか。


 頭頂部の横にある九つの呼吸孔、あれで臭いを追っていると考えれば納得できる。だが、向こうは獲物の位置を正確に把握しているのに対し、こちらは攻める場所を見失っていた。




 俺ごと荒野を飲み込まんとする突撃を躱し、うねる巨躯を躱し、呼吸孔や口内を狙って頭頂部を破壊していく。

 しかし、ある程度破壊が進むと、ラムトンワームは地中に逃げることもせずに傷を負った頭頂部を切り離し、新しい歯牙を生み出していった。


 埒が明かない――。距離をとり続け、引き撃ちと呼ばれる消極的な戦闘を続けざるを得ない状況に陥っていたが、ラムトンワームは俺を見失うことなく臭いをたどり追ってくる。


 焦るな……。


焦ればPhaseRifleのエイム――狙いも荒れてくる。今は頭頂部への攻撃で動きを鈍らせているからこそ、直撃する攻撃は受けていない。

 すでにバリスティックシールドは吹き飛び、PhaseRifleのエネルギーパックは最後の一つを使用している。

 

 弾切れ――間違いなくやってくるその瞬間が頭をよぎる。


 ラムトンワームの攻撃方法は非常にシンプルだ。大口で直接飲み込もうとする突撃、巨躯をうねらせて巨大な質量をぶつけてくる体当たり、大口を変化させて口内から土石流を噴射する攻撃、そして……。


 距離が大きく開いた瞬間を狙い、TSSを操作してインベントリを開く。高速で画面がスクロールしていき、必要な武器弾薬を選択して決定。

 光の粒子が眼前に現れ、補給BOXの形へと集束していく――が、召喚プロセスが完了する直前、狙いすましたようにラムトンワームが岩石を吹き出し、それが放物線を描きながら補給BOXになるはずだった光の粒子を霧散させる。


 またか、これで何度目だ!


 ラムトンワームはただの魔獣ではない。迷宮の主ダンジョンマスターなのだ。無知無能ではない証拠に、何度か見た支援兵器の召喚プロセスを理解し、集束しきる前にこうして岩石を飛ばしてきていた。


 召喚プロセスを邪魔されると失敗する。俺の知らなかった事実を、いまこの状況下で知らされる――厄介を通り越して、最悪としか言いようがない。


 エネルギーパックの残量は三〇〇、フルチャージショット三発分しか残っていない。


 距離をとり、頭頂部へ射撃――口内が閃き、その威力にラムトンワームが揺らいだ瞬間に再び召喚。

 しかし、十分な距離が取れていなかったため、尾とも言える後端部が地面を削りながら横なぎに振るわれ、光の粒子が飲み込まれて消えていく。


 呼吸孔を狙い射撃――瞼を閉じるように黒い甲殻が防御しようと蠢いたが、PhaseRifleは即着の性能を持つ、狙ってトリガーを引いた瞬間にはそこに着弾しているのだ。

 呼吸孔を吹き飛ばし、頭頂部が大きく跳ね上がる。ラムトンワームの絶叫が轟くのを聞きながら召喚。

 しかし、上空へと上がった頭頂部がそれに反応し、土石流を噴き下ろして召喚した補給BOXを押し流して土中に埋めてしまう。


 荒野のフィールドダンジョンと化していた玉座の間を跳び回り、長い時間をかけて戦闘を続けてきたが、ついにこの時が来た。


 エネルギー残量一〇〇、フルチャージショット一発分。




本日は二話連続更新します。

210話は22時に更新。

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[気になる点] >だが、俺のFCS(火器管制システム)コントロールはまだ始まったばかりだ。 ◇ ◇ ◇ FCS(Fire Control System) ファイア コントロール システム コントロ…
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