20
3/17 誤字・空白・描写等修正
牙狼の迷宮から城塞都市バルガへと戻った俺とアシュリーは、総合ギルド本館のミリマリアさんと会っていた。
「おかえりなさい、シュバルツさん、それにアシュリーも」
「ただいま戻りました、ミリマリアさん。これでDランク昇級試験は終了になるのですか?」
「そうね、試験官アシュリー、シュバルツさんの迷宮探索はどうでしたか?」
「事前準備は問題なく、迷宮一階でも状況に合わせ、冷静に判断し、対処できていました。Dランク冒険者、迷宮探求者の資格共に問題なしと判断します」
「わかりました。それではシュバルツさんのDランク昇級試験を合格とし、迷宮探索者の資格を付与します」
「ありがとうございます」
これでDランク、今後は迷宮探索を中心に活動をしていけば、現在の最大の懸案事項であった、クリスタルポイント、CPの入手方法の問題が解決する。銃器の弾薬のみならず、消耗品や使い捨ての特殊装備、それに支援兵器の召喚も気兼ねなくおこなえる様になる、俺の行動の幅も飛躍的に向上するだろう。
「おめでとうございます、シュバルツさん。迷宮で見せて頂いたシュバルツさんの能力なら大丈夫だとは思いますが、無理はしないでくださいね」
「シュバルツさん、ギルドカードをお願いします。ランクの更新と、迷宮探索の資格を付与します。
それと、今回の迷宮探索で獲た魔石などの戦利品は、全てシュバルツさんの所有物となりますので、隣で換金するなり、市内の魔石商などで売却するなり、御自由に取り扱って下さい」
「ありがとうございます、アシュリーさんも今日はありがとうございました。魔石は、知り合いのマリーダ商会で売却させてもらいます」
「え? シュバルツさん、マリーダ商会の方とお知り合いなんですか?」
今日の探索で弾薬を結構消費したので、マルタさんのところで無属性魔石を購入するついでに、迷宮で獲た属性魔石を売却しようと名前を出したが、マリーダ商会って有名なのだろうか? アシュリーさんが驚いた顔をして聞いてきている。
「マリーダ商会って有名なのですか? 以前に、商会のマルタさんと知り合いまして、道具の売買をする時によく利用しているんです」
「シュバルツさん、マリーダ商会は王都に本店を持つ、クルトメルガ王国でも上から数えた方が早いほどの大商会ですよ、御存じなかったのですか? それにマルタさんと言うと、まさか商会長のマルタさんですか?」
「商会長? マリーダ商会なのに、マルタさんが商会長なのですか? 俺の知り合いのマルタさんは、いつもニコニコしてるぽっちゃり系のおじさんですよ」
「マリーダ商会のマリーダとは、商会長の奥方のお名前だと聞いてます。それにやはり商会長のマルタさんですね」
マルタさんの奥方、ようは嫁さんの名前か! しかし、あの人そんなに大きな商会の長だったのか、それなのに護衛もなしに、単独で王都から城塞都市バルガへ移動しようとしたのか……。
「アシュリー、シュバルツさんと話をしていたいのはわかるけど、貴女も報告書を書く仕事が残っているでしょ? これで正式にギルド調査員に昇格するのだから、ちゃんと作成しなさいよ」
「ミリマリア!」
ミリマリアさんの一言にアシュリーさんは顔を少し赤らめて抗議していた。ギルドカードの更新が終ったようなので、ミリマリアさんからギルドカードを受け取り、表示を確認した。
~~冒険者登録証~~
ネーム シュバルツ・パウダー
年齢 24
出身地 VMB
主な使用武器 なし
主な使用魔法属性 なし
スキル なし
技能 なし
納税方法 冒険者報酬
ランク D(0/3000)
迷宮探索者資格 有
~~~~~~~~~~~
表示は実にあっさりとしたものだったが、Cランクへの必要ポイントは3000もあるのか、そちらの方が衝撃だ。とは言え、探索者の資格を得たのならば、これ以上の冒険者ランクになる必要は俺にはない気もするが。
「たしかに、ランクDになっていますね。それでは俺は魔石を売却しに行きたいので失礼します、行きましょうアシュリーさん」
俺は受付カウンターを離れ、アシュリーと共に歩きだしたが、ふと先ほど聞こえた話を思い出した。
「アシュリーさんも、このDランク昇格試験の試験官が、ギルド調査員の正式採用試験だったんですね」
「ええ……本当は、先日のマイラル村の事後調査が試験だったのですが、あんなことになってしまい、追試的な意味で今回の試験官を務める事になっていたんです」
「そうだったんですか、今回は何も問題なく終りそうで良かったですね。そうだ、近いうちに俺の昇級祝いと、アシュリーさんの調査員昇格をお祝いして、夕食でも一緒に如何です?」
「本当ですか? 明日、いえ明後日なら時間を作れると思います」
「では明後日の夕方に総合ギルド前で待ってますよ」
俺はこの時、異世界に落ちてからの様々な不安が少しずつ解消されていき、VMBの力によって戦闘を有利に進め、未だに傷一つ負ったことのない無双感に天狗になっていたのかも知れない。綺麗な女性を食事に誘い、その後……までは期待していたわけではないが、その甘美な一時を、自分の力によって手に入れようとしている事に酔っていた。
◆◆◇◆◆◇◆◆
総合ギルドを後にし、アシュリーさんと別れた俺は、マリーダ商会に来ていた。
「こんにちは、魔石を売りに来たのですが」
俺は店内にいた従業員にそう声をかけたが、従業員は俺を覚えていたらしく、「マルタを呼んで参りますので」と、奥にある客間へ通された。今回も客間で待っている間に、出されたお茶を楽しんでいると、マルタさんが何時ぞやと同じような笑顔で入ってきた。
「お待たせして申し訳ございません、シュバルツさん。本日のお茶はどうです? 一番茶を夏の間にじっくり熟成させた、後熟のお茶です」
「とてもまろやかで深いコクのあるお茶ですね。今日も楽しませてもらっていました」
「お口にあったようでよかった。それで、本日は魔石の売却に来られたとか。 シュバルツさん、Dランク冒険者になられたのですか?」
「ええ、お陰様で昇級する事が出来ました。今日は試験で探索した際に獲た魔石の買取と、また無属性魔石を売って貰おうかと」
俺は腰から荷物袋を外し、マルタさんの前に出した。マルタさんはそれを受け取ると魔石を取り出し、同時に胸のポケットから宝石鑑定用のルーペに似た筒を取り出すと、魔石を一つ一つ筒越しに覗いていった。たぶん、似ていると思った鑑定用ルーペそのものなのだろう。
「牙狼の迷宮、グラスウルフとゴブリンのものですね? 属性は基本系ばかりですが、全て買い取らせていただきましょう」
「それで見るだけで迷宮や、魔獣・亜人種まで判ってしまうのですね」
「はい、誰にでもわかると言うほど特徴があるわけではありませんが、魔石商を名乗るからにはこのくらいの鑑定が《技能》無しに出来なければやっていけません。 それに《鑑定》の《技能》があったとしても、迷宮や倒した魔獣や亜人種が判る訳でもありません。あちらは属性や内蔵魔力量が判るだけですから」
そんな雑談を交えつつ、今回も売却金額の半分を無属性魔石で貰い、今後も迷宮で獲た魔石を、優先的にマリーダ商会に売却する約束を交わした。
また、迷宮探索する上で必要になってくる道具類も、マリーダ商会で用意してもらうことにした。マルタさんには、すでに俺が『魔抜け』であることは話してあり、最初は物凄く驚かれたが、今では発動に魔力が必要ない魔道具を薦めてもらったり、何れは必要になるであろう魔道具を探してもらっていたりしている。
そしてマルタさんに城塞都市バルガのお薦めの料理店を教えてもらい、マリーダ商会を後にした。




