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 燃え上がりながら落下していくアクアリッパーを見ながら、UMP45のマガジンを換装してクロスヘアを合わせる。

 槍のように硬化した舌に貫かれた白骨の右手には、血こそ出ていなかったがいつ砕け散ってもおかしくないほどの穴とひび割れが広がっていた。

 指を動かすときに走る激痛は肘から肩にまで響き渡るほどだったが、TH3焼夷手榴弾による内部爆破で斃せなければ、UMP45を今度こそ着弾させてトドメとしなくてはならない。負傷したからと言って、痛がっている時間はないのだ。


 火の玉が床に落水すると同時に大量の水蒸気が噴き上がり、水温を一気に上昇させ沸騰させていく。噴き上がる水蒸気に門番の間が満たされていくかと思われたが、マップに映る光点が消えていく――同時に、床一面に張られた水の水位が下がっていく。


 どうやら斃せたようだ。


 水が完全に消え去り、噴き上がった水蒸気も霧散していく。クロスヘアを向ける先に残るのは、少し大き目な青い魔石だけだった。


 ダウンサイトを解除し、周囲を確認すると転送魔法陣を見つけることが出来た。水に浸かったままならば使いにくいものになるかと思われたが、門番が消え去ればそんな心配は必要なかった。


 魔法陣に血を一滴垂らして生体情報を登録――しようと思ったが、アバターカスタマイズで設定した白骨のスケルトンボディーでは血が流れることはない。

 念のため、俺のことを見ている人か何かがいないかをもう一度確認し、さらには視界をFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードにも変更して、姿を隠している者がいないかを確認した。


 よし、間違いなく無人。


 間違いなく無人であることを確信し、TSSタクティカルサポートシステムのアバターカスタマイズを操作してヨーナからシュバルツへと姿を変更する。


 転送魔法陣への生体情報の登録が完了すれば、もう門番の間には用はない。地底湖という広大なフィールドダンジョンが広がる階層だったが、ここには清浄の泉があり、門番の間があった。

 ということは――この先、出口となる迷宮の門の向こうには、この坑道の迷宮の迷宮の主ダンジョンマスターがいる最下層である可能性が高い。


 アバター衣装をヨーナに戻すのと同時に、特殊手榴弾とUMP45の予備マガジンを用意する。

 迷宮の門に彫られている玉座の彫刻から、迷宮の主は数十mもの体長を持つラムトンワームだと見当がついている。それほどの巨大な魔獣との戦闘経験は多くはないが、高火力の携帯ロケット砲を惜しみなく使っていけば何とかなるだろう。


 ドラム要塞を襲撃するときにも使用したM202A1も用意し、アクアリッパーの攻撃をまともに防ぐことも出来なかったライオットシールドの代わりに、大型の防弾シールドであるバリスティックシールドも召喚しておく。


 これで準備は完了だ。あとは実際に対峙してみて、必要な銃器や特殊装備を考えるとしよう。


 地底湖の端、岩壁の中へと続くように彫られた迷宮の門を押し開き、漆黒の闇が広がる横穴へと進んでいく。




 門番の間を抜けた先は綺麗な直線の通路が延びていた。白光草の種をまきながら、間違いなくこの先に迷宮の主がいることを確信する。牙狼の迷宮と同じなのだ。

 あの時も玉座の間へと続く最後の道は長い直線通路だった。そしてうっすらと見えてくる、最後の門。これまで見てきた白い迷宮の門と同じ、自然界に生きる者と魔獣・亜人種との戦いを描いた彫刻。


 だが、門の上部にその戦いを見下ろす玉座はない――この門の向こうにソレはいるからだ。


 最後の門を押し開くと、中から眩いばかりの光が溢れ出す――坑道の迷宮・最下層、玉座の間は、日の照らす荒野を模したフィールドダンジョンだった。


 ここは……相当に広いな……。


 見渡す限り続く草木の生えぬ荒野、見えるのは赤茶けた大地と巨大な岩山だけだ。だが、ここは間違いなく迷宮の最深部である玉座の間、その証拠に――雛壇のように数段上がった岩場に、玉座がぽつんと一脚だけおかれていた。


 今回もその席に座るものの姿はない。しかし、それは予想の範囲内だ。この玉座の間にいるべき迷宮の主がどのような魔獣なのかは判っている。とてもじゃないが、あんな小さな玉座に収まる魔獣ではない。


 UMP45を両手で保持しながら、一歩一歩警戒しながら奥へと進む。マップにも集音センサーにも、依然として反応はない。


 だが、玉座の目の前まで進んだところで状況が動き出す。


 足元のずっと下、坑道の迷宮・最下層であるはずの玉座の間よりももっと深いところから、異変は起こった。


 地面が揺れている――? 


 僅かな振動でしかなかった揺れが次第に大きくなっていき、土中から岩を砕く破砕音が響いてくる。

 マップにも光点が浮かび上がり、間違いなく迷宮の主が現れたことを示している。


光点が示す迷宮の主の位置は――俺の真下!


 VMBのアシストを最大限に効かせ、後方へと一気にジャンプする――同時に、俺が直前まで立っていた地が割れ、地中へと飲み込まれていく。


「VuOooooooo!」


 そして、響き渡る咆哮と共にラントンワームが姿を現した。


「デカイナ……」


 バックジャンプから着地した勢いを滑りながら殺し、UMP45をダウンサイトしてクロスヘアを合わせる――が、その先に見えるのは岩に覆われた体表。

 どこにクロスヘアを向けても岩、岩、岩。長い体表をなぞる様に上へ上へと動かしていくが、見えるのは蠢く岩だけ。


 やっと終わりまで来たかと思えば、そこにあったのは体と同じだけの太さがある丸い大口。鎌首をもたげるように向けられた口内には三重の牙が円を描くように並び、中心にはドリルのような錐形の舌が回転しているのが見えた。


 あ――これUMP45じゃダメだな。


 地中から飛びだした部分は体長二〇mを超えているだろうか、それでもまだ地中に埋まっている部分を考えれば、全長はさらにもっと長いはずだ。


 俺を見下ろすラムトンワームの巨大な体躯が、波打ちながら倒れ込んでくる。


 UMP45のクロスヘアをその巨躯に合わせたまま、横へとスライドジャンプしながら倒れ込みを回避し、同時にトリガーを引き抜いて.45ACP弾を撃ち込んでいく。

 しかし、巨躯で蠢く岩の甲殻を僅かに削るだけで、銃撃としては殆ど効果がなかった。


 やはりダメだ。根本的に銃弾ではダメージを与えられそうもない……。


 荒野に巨躯を打ちつけて巻き上がる砂塵を避けるように距離をとり、さらにはその後方へと回り込むように移動していく。


 どこかに防御が弱そうな場所はないか? 


大口の横に九つの穴が開いているのが見える――呼吸をするための孔か何かだろうか?

岩の甲殻で覆われた体節はギシギシと擦れ合う音を出しながら伸縮している。その接合部はスカートのように伸びた岩の帯で隠され、狙うことは難しそうだ。

いまだ全長は見えず、体の一部は地中に隠れたまま。


マガジンを換装し、スカート状の岩帯、地面と接する腹部分と、ポイントを選びながらセミオート射撃で手ごたえを確認していくが、根本的に岩を撃っても無意味だと判断した。

次に狙ったのは呼吸孔と思われる九つの孔。しかし、ここにクロスヘアを合わせ、トリガーを引いた瞬間――呼吸孔は瞼が閉じるように黒い甲殻によって閉じられてしまった。

体表を覆う岩の甲殻よりもさらに硬質な黒い甲殻は.45ACP弾に傷一つつくことなく弾き返していた。


そこを攻撃されるのは相当に嫌か――それに、判ったのはそれだけではない。


 ラムトンワームはその巨躯ゆえに動きが遅く、旋回能力も乏しい。攻撃手段は頭頂部の大口だけのようで、回り込めば攻撃を受けることはなさそうだ。


 だが、こいつを斃せなくては迷宮討伐の達成はありえない。


 UMP45を補給BOXへ戻している暇はない。玉座の間にUMP45を放り投げ、肩からM202A1を取って後部のチャンバーを引き、使用可能状態へと移行させる。

 同時にTSSタクティカルサポートシステムを起動し、支援兵器を召喚していく。


 召喚する支援兵器は遠隔操作型重機関銃のセントリーガンを二基、それと87式対戦車誘導弾を二基だ。


 セントリーガンの有効射程範囲を考えつつ、ラムトンワームの巨躯に潰されない位置に召喚して回りながら、本格的な戦闘開始の狼煙を上げるべくM202A1のトリガーを引いた。

 


使用兵装

H&K UMP45

ドイツのH&K社が開発したサブマシンガン、アメリカ特殊作戦軍(SOCOM)の要請により開発された。

使用弾薬は.45ACP弾でマガジンの装弾数は二十五発。


遠隔操作型重機関銃セントリーガン

VMBオリジナルデザインの支援兵器、一般的なRWS(Remote Weapon System)のような軍用装甲車や船舶に設置されているものと同様に、

離れた場所からリモートコントロールで機銃掃射を行うことが出来る。三百六十度回転する台座には12.7㎜重機関銃が設置されているが、

ゲームバランスの名のもとに、装弾数は四○○発で補給不可能、有効射程は二〇○mに限定されている。


87式対戦車誘導弾

陸上自衛隊で使用されている対戦車ミサイル。本来は別にレーザー照射機が付随している。

照射機を使わずに肩に担いで発射することもできるが、VMBのゲームシステム上、この支援兵器を使用する最大のメリットは、レーザー照射機の機能をTSSのスクリーンモニターが兼ねるという点だ。つまり、発射機から二〇〇m以内ならば、TSS経由で照準・発射・誘導を行うことができる。さらに砲弾数は十二発で、装填は一分間隔で自動装填される。


M202A1

1960年代にアメリカで開発された四連装ロケットランチャー。66㎜焼夷ロケット弾が四つのチューブに個別に装填されている。

つまり、四連射が可能なロケットランチャーで、66mm焼夷ロケット弾は着弾と同時に一二〇〇℃で燃え上がり、着弾時の爆発のほかに周囲へ熱放射によるダメージを与える効果もある



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