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「Kyaaaaaa!」


「Hauwaaaaa」


 マーマンの奇声とマーメイドの歌が地底湖に響き渡る。


 UMP45をダウンサイトして、揺れる上半身とどっしりと地に尾を着ける下半身の中央――へその下付近に狙いをつけてトリガーを引く。

 サイトの向こうに見えている数は、マーマンが前に四匹にマーメイドが後ろに二匹。左から右へとクロスヘアを滑らせながら、指切り射撃でマーマンを避けて後ろで歌うマーメイドに狙いをつける。


 しかし、蠢くマーマンの体がそれを邪魔する――やはり、先にこの四匹を斃す必要があるか……。


 撃ち込まれた.45ACP弾がマーマンの腹部を破裂させていく――。


 初めて見た魚人は、蛇頭の迷宮で出会ったナーガと似ている。上半身は人間の裸体、下半身は魚類の尾ひれが伸びているが、それはまるでウナギのように長いものだった。


 ナーガは紫色の肌をしていたが、魚人は薄青の肌をしていた。肩に落ちる濡れた髪は顔や肌に貼りつき、まるで病人のようにやつれた顔は、前の世界で読み聞かせられた童話の美しい人魚の姿ではなく。

 赤い目を光らせ、奇声を発する口には鋭い魚類の牙が並んでいる。その姿はまさにモンスター、人魚姫どころではない。


 斃れていくマーマンの後ろで歌うマーメイドの歌声が、次第に聴き取れなくなっていく。仲間を鼓舞する歌か――それともこれから狩ろうという探索者へのレクイエムだったものが、魔歌となって地底湖に響き渡る。


 またこれだ――。


 この地底湖を進みだして、すぐに魚人との戦闘は始まった。そのたびにこの魔歌が響き渡る。マーメイドが歌う魔歌はこちらを攻撃するためのものではない、この聴き取れない歌が響き渡るごとに――。


 通路の両側から水柱が噴き上がり、湖からマーマンが多数跳び上がってくる。その数は三匹――さらには魚人以外の魔獣が同じく三匹。

 あれはたしか、アクアドリアス――牙狼の迷宮のフィールドダンジョンで出会った、オオサンショウウオの魔獣だ。


 アクアドリアスは体長二mを超え、黒くぬめりのある体に赤い斑点がいくつも浮いている。牙狼の迷宮では襲いかかってくることはなく、移動車両であるLVTP-5で引き潰して斃したが、今回は様子が違った。


 跳び上がってきたアクアドリアス三匹は、どれも獰猛な赤い目を強く光らせていた。低い唸り声を響かせ、鋭い牙を剥きだしにして威嚇しているが――。

 どうも正常な状態ではないように見える。牙の間からは涎が滴り落ち、体の赤い斑点が鼓動するように濃くなったり薄くなったりしている。


 マーメイドの魔歌が地底湖に響き渡る。それとリンクするように、アクアドリアスの斑点が一層濃く浮き上がる。


 この歌のせいか……。


 マーメイドの歌はとにかく厄介だった。仲間は呼び、狂わせ、無謀とも言える突撃をけしかける――。


「Guvooo!!」


 アクアドリアスがより低く唸ったかと思った瞬間、その体を丸めながら狭い通路を転がるようにして突撃してきた。


 スライドジャンプで避けるには狭すぎる――しかし!


「アマイワァ!」


 地底湖に張り巡らされている岩の通路を踏み抜こうかというほどに力強い踏み込みと共に、迫る一匹目を左手のライオットシールドの横振りで地底湖へと叩き飛ばした。

 続いて転がってくる二匹目には、右手だけで保持したUMP45のクロスヘアを合わせてトリガーを引く。


 鳴り響く銃声と弾き出される空薬莢、その向こうでアクアドリアスが鮮血を噴き上げる――それを飛び越えるように、三匹目が跳びかかってきた。獰猛な赤い目を輝かせ、鋭い牙の並ぶ大口を開けてだ。

それをライオットシールドからの射撃で流れた体勢に逆らうことなく、さらに回転させて上段回し蹴りを放って蹴り飛ばした。


だが、これで俺の攻撃が終わったわけではない。


アクアドリアスが地底湖に落水する音が号砲となり、前方へのダッシュからスライドジャンプ。そして、後衛を守るように立ちはだかるマーマン三匹を大跳躍で飛び越え、マーメイドの背後に着地した。


「終わりダ!」


 グレネードアックスを引き抜き、マーメイドが振り返るのと同時にその首を飛ばし――銃口をマーマンへと向けてトリガーを引く。

 擲弾の爆発によって三匹のうち二匹のマーマンが吹き飛んでいった。残りは一匹、UMP45のマガジンを換装し、クロスヘアを合わせる。




 地底湖は予想通りに広大だった。


壁が一切なく、怪しい霧だけで区切られたこのエリアでは、VMBの基本ムーヴだったスライドジャンプやストレイフジャンプで動き回ることは出来ない。

 結果、地に足着けて戦わなくてはならなかったが、それはそれで銃器には大きなアドバンテージがある。


 見通しがいい場所では魔獣・亜人種が見えた瞬間に発砲を開始し、相手の交戦距離の外から一方的に排除した。小部屋や大部屋に該当する場所は円形広場だったが、壁が存在しないため、外から一歩的に撃ち斃す。


 だが、フィールドダンジョンは甘くない。地底湖の攻略を始めて一晩が経過したころ、いくつかの大部屋を超えて現出する魔獣・亜人種が変わりだした。


 通路を塞ぐように佇む、円柱型のゴーレムピラー。こいつはダメージを与えるか、近い場所で戦闘をしない限り動き出すことはなかったが、.45ACP弾を持ってしてもダメージを与えることが出来なかった。

 あまりの硬さに、一度引いてPhaseRifleの使用を余儀なくされたかと思えば、地底湖からは光点の群れの正体、湖中から跳び出てくるウナギのような魔獣、ジムナーの大群に襲われ、一筋縄ではいかない状況になってきていた。


 そして、今まさに最大の危機を迎えていた。


 ジムナーは湖中から弧を描くように跳び上がり、回避すればそのまま通路の反対側へと落水していくのだが、通路の横切る際に雷系の放電スキルらしきものでその攻撃力を増していた。

 視界が放電による閃光で染まり、次の瞬間には遮光機能が作動してその効果が弱まる。しかし、突撃を喰らえば感電して体の動きが鈍り、そこへ次々に後続が跳んでくる。


 小型の魔獣のため、一発一発の威力は致命傷にはならないが、一つ喰らうごとに痺れて膝に力が入らなくなり――俺は今、片膝をついてその暴威に耐えていた。


「くっ――」


 CBSサークルバリアシールドを展開し、群れの大半をはじき返してはいるが、シールドで隠しきれない部分に攻撃を受けている。

 ジムナーには足がない――突撃を喰らわせた後は、蛇行するようにして通路から湖中へと逃げていく。そして、また跳躍。


 その繰り返しを止めるには――。


 視界の隅でCBSの耐久値を見つつ、腰のポーチからM67破砕手榴弾を取り出し、ピンを抜いて逃げていくジムナーの落ちる先へと転がす――。


 三秒後には鈍い爆音とともに湖中から水柱が噴き上がり、多数のジムナーも吹き飛んでいくのが見えた。

 だが、その数は多い。小型すぎて銃器で撃ち落とすこともできず、突撃を耐えてはM67を転がす作業に徹する。


 一つ水柱が立つごとに、マップに映る光点の数が大きく減る。携帯していたM67は四つ、その全てを使い果たしたところで、湖中に漂う光点は残り僅かになっていた。


 全滅には至っていない。残りは通路からなんとか処理するかと考えた瞬間、俺の体を覆うように影が差す――目の前には、ゴーレムピラーが拳を振り上げて立っていた。


 不味いっ!


 CBSの耐久値はジムナーの突撃によってかなり減っている。今まさに振り下ろされようとしている石の拳を受け止めた場合、耐久値がゼロになる恐れがある。

 そうなった場合、使用不可のクールタイムに突入してしまい、再使用可能になるまでに時間を要することになる。


 受けとめるわけにはいかない。


 回避の判断を下すと同時に後方へとスライドジャンプし、一気にゴーレムピラーの攻撃範囲から離脱した――が、着地する場所はない。

 判断を下した時点で判っていた。スライドジャンプの飛距離を考えれば、狭い通路上に着地することは不可能。俺は――地底湖を進み始めて三度目の落水を経験した。




 落水により、視界が白い泡で染まる。手探りで腰のポーチから小型酸素ボンベを取り出し、口に当てる。ヨーナのアバターはスケルトンフェイス――眼球があるわけではないので、水中でも視界の確保にはなんら影響はない。


 生物として呼吸だけは確保しなくてはならないが、骨だけの体の一体どこで呼吸をしているのか……。理解できない自分の体に苦笑しつつ、背に回していたAPS水中銃を手に取る。

 落水したのを見ていたはずだ。湖底の闇の向こうに、蠢く影が見え始める。光る鉱石によって僅かだが光源は存在する――真の闇の中では効果はないが、僅かでも光源があればNVナイトヴィジョンモードは機能する。


 視界を切り替えて闇を見通す――長い尾ヒレを振って、四匹のマーマンが水中を高速で泳ぐのが見える。


 速いな……。


 湖中で体勢を整え、クロスヘアをマーマンが泳ぎ進む少し前にずらし、指切り射撃でトリガーを引いていく。

専用弾薬である5.56×40㎜MPS弾は約十二㎝もの長さがあり、鉛筆にも似た形状の弾丸が重厚な発砲音を撃ち鳴らしながら湖中を切り裂いた。


 蛇行しながら近づいてくる四匹を撃ち斃し、周囲を確認する――。湖中は魚人たちのテリトリーだろうが、奴らの武器は銛のような返しの付いた槍でしかない。銃器を扱う俺とは根本的に交戦距離が違う。

 マップには俺の様子を窺う光点が泳いでいるのが見えているが、これ以上襲ってくる気配はない。


 俺の体は銃器や弾薬の重量でゆっくりと湖底へと沈下していた。この地底湖はかなり深い、下を見ても広がるのは闇ばかり――APS水中銃のマガジンを換装し、腰の裏に手を伸ばす。


 手に取ったのは小型ショットガンの形をした銃型ガジェット、グラップリングフック。


 水上に伸びる通路の側面にサイトで狙いをつけてトリガーを引くと、太い筒状の銃身からかぎ爪付のロープが射出された。


 湖上へと射出されたフックは通路の側面に直撃すると同時に、喰い込んで固定される。

ロープの張りからそれを確信してもう一度トリガーを引けば、湖底へと沈んでいく俺の体が反転して急浮上――かぎ爪が固定された通路へと引っ張り上げられる。




 通路上に戻ると、ゴーレムピラーは動きを止めて通路を塞ぐ柱へと戻っていた。


厄介だ……。


この地底湖のフィールドダンジョンは早々に通過しなくてはならない。PhaseRifleを構え、フルチャージショットでピラーに大穴を開けて排除し、地底湖の奥へと進んだ。


目的地は見えている――マップには四角い広場、清浄の泉が見えている――門番の間は近い。




書籍二巻の書籍化作業が終了しました。五月発刊予定です!



使用兵装

H&K UMP45

ドイツのH&K社が開発したサブマシンガン、アメリカ特殊作戦軍(SOCOM)の要請により開発された。

使用弾薬は.45ACP弾でマガジンの装弾数は二十五発。


ライオットシールド

バリスティックシールドと比べると耐久値に劣る、直径五〇cmほどの円盾

設定上はポリカーボネイト製となっており、持ち手の部分以外は透明で視界を確保することが出来る。


PhaseRifle

形状こそ一般的なARFに似ているが、カラーは黒一色。銃身下部にスライド開閉式のエネルギーパックを装填する部位があり、上部には専用の光学サイトを持つ。

エネルギーパックの容量は一〇〇〇、一度に一〇〇までチャージすることができ、トリガーを引くと九〇エネルギーを消費して、フルチャージショットが発射され、

最低でも三〇エネルギーがチャージされていれば低威力のレーザーが発射できる仕様になっている。


グレネードアックス

フリントロック式グレネードランチャーと片手斧を複合させたような特殊銃器で、

弾薬は40×46mm擲弾を使用、最大で二五〇m先に放物線を描きながら射出し、着弾点を中心に半径一mの範囲を爆撃することが出来る


サークルバリアシールド(CBS)

VMBオリジナルのバリアシールド、左人差し指の付け根に展開スイッチがあり、エネルギーが続く限り

VMBではあらゆる攻撃を防ぐ円盾状のバリアを張れる。消費したエネルギーは時間による自然回復もしくは回復アイテムで回復させる。


M67破砕手榴弾

緑色の梨のような形状の手榴弾で、投擲後3秒で炸裂し、半径5mに致命傷を、半径15m以内に内部の破片を飛ばし、殺傷することができる。VMBの仕様上、15mを越えると飛散した破片は光の粒子となり消滅する。


APS水中銃

1960年代にソビエト連邦で開発された特殊作戦用の水中銃。装弾数は二十六発、弾薬は5.56×40㎜MPSという専用弾薬を使用する。

もちろん地上でも発砲できるが、射撃時の集弾率と反動が大きく、そのコントロールには細心の注意が必要になる。また、VMBの仕様として

地上で発砲しても、その攻撃力が一〇分の一に下がってしまう。


グラップリングフック

小型ショットガンほどの大きさで、筒状の銃身が付いている特殊装備の銃型ガジェット。銃器同様に銃身上部にのったサイトで狙いをつけ

トリガーを引けば三又のかぎ爪フックがロープとともに射出され、ロックされる。

もう一度トリガーを引けば、今度は逆にロープが巻き戻されて持ち手が移動することができる。 


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