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2/22 誤字・AGEの主人公が混じっていたのを修正。本文を微修正。



 『大黒屋』の地下倉庫で出発の準備を整え、怪盗“猫柳ネコヤナギ”の残党四名、逃亡奴隷一〇名を残し、フリックを連れて坑道の迷宮・門番の間へと戻った。

 時刻は深夜一時。コティーを助けるため、これからドラム要塞を攻めるわけだが、その前に色々としなくてはならないことがある。


 まずはこちらへ向かっているミーチェたちの位置を確認する。まだ魔の山脈にいるようだ。時間を考えれば野営をして休んでいるのだろう。

 光点の位置から考えて、こちらがことを終えるまでに地下一〇階まで下りるのは不可能だな。


 ギフトBOXを召喚し、LVTP-5から降ろしておいた転送魔法陣を門番の間に敷設する。これで『大黒屋』の地下倉庫と門番の間が行き来できるようになったが、向こうから再びここに跳ばれても困るので模写魔法陣は回収し、ギフトBOXにしまった。


 やはり、転送魔法陣と模写魔法陣が二組だけでは不便だ。もう一組……欲を言えば二組欲しい。この坑道の迷宮は必ず俺が……。


「ヨーナ――あの竜騎士、目を覚ましているみたいだ」


 フリックの声を聞いて視線を門番の間の隅へと向ける――そこには、目隠しと猿ぐつわをされ、体は土に覆われて身動きが出来なくなっている竜騎士がいた。


 猫柳の本拠地を襲撃した竜騎士たちの一人、情報を聞くために気絶させるにとどめていたが、こいつまで俺の店に招待するつもりはなかった。

 全員で転移する前に、目が覚めても逃げられないようにと魔法で動けないように固めてもらったわけだ。


 起こす面倒がなくなったことだし、あいつに話を聞くか。


 竜騎士の目隠しをつかみ取り、猿ぐつわを外してやった。


「ぶっはぁー――はぁ、はぁ……」


「オマタセ、したかナ?」


「ど、どういうことだ……? 俺は拘束されたのに、なんでそこの奴隷エルフは平然と立っているんだ!」


 目と口の拘束が解かれた竜騎士は、目の前に立つアンデッドの俺よりも、その横に立つフリックの方が気になるようだ。


 とはいえ、その視線は俺とフリックの間を行ったり来たり――。これからの自分の運命を握るのがどちらなのかは理解しているものの、奴隷エルフと呼んだフリックのことも気になってしょうがない。そんなところなのだろう。


「ソレは、オマエには知る必要のないことダ。ソレよりも、オマエには聞きたいことがアル」


 竜騎士の頭を掴み、俺の方へと視線を固定させる。こいつには聞くことが山ほどある。


 迷宮の出入り口を固めている別動隊の規模。


 ドラム要塞の常備兵力の規模と編成。


 連れ去ったコティーを要塞のどの場所で拘束するのか。


 等々。最初は口を閉じていた竜騎士だったが、フリックの魔法によって精神に負荷をかけ、口を割らせた。

 怪盗“猫柳”の実行部隊であったフリックは、精神操作系の魔法を得意としており、単一対象ならば短時間だけ意識を操作する魔法などが使えた。

 当然ながら『魔抜け』である俺には通用しないが、泥棒稼業をする上では非常に有効な魔法体系だったのだろう。


 ドラム要塞の状況や構造を聞き出し、他にもドラーク王国自体についても色々と面白い話が聞けた。これも今後の交渉材料になるだろう。

 だが、まずはコティーからだ。竜騎士の処遇はフリックに任せ、俺は迷宮の出入り口を掃除するため、転移魔法陣から外へと転移した。




「魔獣が出たぞ!」


 転移した次の瞬間、背後から聞こえたのがこれだ。


 迷宮内部から外へと転移、もしくは魔獣・亜人種が溢れ出た場合、その位置は迷宮周辺の一定範囲内にランダムで湧き出る。だが、監視できない範囲ではない。当然ながら湧けば見つかる。


 捕縛した竜騎士から聞いた情報では、外を固める部隊の編成は竜騎士六名にアルアースが六匹、それに歩兵が六名の計十二名と六匹だ。


 相手が湧き出る魔獣・亜人種を待ち構えていたように、俺もこの状況は想定済み。転移した瞬間から戦闘が始まる。


「アンデッド型一匹! 気を付けろ、見たことない奴だ!」


「竜騎士隊を起こせ! 周囲警戒、他にも来るかもしれないぞ!」


 夜間の監視警備をしていたのは歩兵たちか――。


 周囲に響く声を聞きながらも、瞬時に視界に浮かぶマップを見て、転移した位置を把握する――坑道の正面からやや逸れた林の手前。

 同時に浮かび上がる十八個の光点――不意打ちや先制攻撃が出来るような状況ではない。


 しかし、深夜の闇に紛れればこの人数差との正面からぶつかっても何とかなるだろう。

 包囲される前に――歩兵や竜騎士たちを視認することなく、林の中へと飛び込んだ。


「林の中に入ったぞ! 《光玉ライトボール》を上げろ、明かりが足らないぞ!」


 坑道の出入り口を封鎖していた部隊は、その周辺を野営地としていた。焚かれている篝火の数も少ない。

 深夜の警備だからといって、明るくし過ぎて周囲に何かあるのだと思わせるのも不味いと考えていたのだろう。


 闇の林の中を、低姿勢で身を隠しながら進む――カバーリングという移動テクニックを使いながら、部隊の展開と状況を確認し、この深夜の襲撃に備えて準備した、新しい銃器を背中から廻す。


 H&K UMP45。これはドイツのH&K社が開発したSMGサブマシンガンで、アメリカ特殊作戦軍(SOCOM)の要請により開発された銃だ。開発目的は当時広く使われていたMP5シリーズの大口径化、要するに更なる攻撃力を欲したわけだ。

 使用弾薬は.45ACP弾でマガジンの装弾数は二十五発。さらには消音装置であるサイレンサーを装着済だ。


 まずは――視界を通常モードからNVナイトヴィジョンモードへと意思だけで変更し、木の陰からリーンの体勢で覗き込む。狙うのは『魔抜け』の俺では聞き取れない魔言を詠唱している奴だ――。


 覗き込んだ先に見えるのはまず四人。そのうち二名が何かを唱えていることだけが判る。クロスヘアを合わせ、ダウンサイトして指切り二連射――MP5A4などと比べ、威力が高くなっている代わりに銃身の跳ね上がり方が強い。


 VMBのゲームシステム上、絶対にゼロには出来ない反動――リコイルを、それでも最小にとコントロールしながら、クロスヘアを飛ばして魔言詠唱中のもう一人へと指切り二連射。


 反動の強いUMP45は精密射撃には向かない。それでも胸上部辺りにクロスヘアを合わせれば、反動で上がる銃口により、自然と胸上付近――首から頭部へと.45ACP弾が飛んでいく。


 被弾して胸部を破裂させ、血を噴き上げていく歩兵たちの姿を見るに、威力的には9×19mmパラベラム弾と7.62×51mm NATO弾の間と言ったところか。


 《光玉》を出そうとしていた歩兵を射殺したのを確認し、残る二人を殺る前に場所を移動し、坑道前に焚かれている篝火を撃ち抜いた。


「明かりを狙っているぞ、注意しろ!」


「アルアースの《夜目》で探らせろ。お前たちは下がれ!」


 篝火が吹き飛んだことで、坑道前の灯りはバラバラとなって周囲がより闇に染まっていく。だが、騎竜であるアルアースには闇を見通す《夜目》の技能があるようだ。


 しかし、《夜目》の有無以前に闇に染まる林の中から発砲をすれば、こちらの場所は自然と判明する。サイレンサーを装着しているからと言って、俺の位置が《夜目》なしでは全く分からないわけではない。

銃器の発砲には、必ず赤いマズルフラッシュ――発射火薬の燃焼グラフィックが派生する。それを押さえるアタッチメントも存在するが、サイレンサーとの併用はできない。


 周囲が暗ければ暗いほど、赤い閃光は目立つだろう。竜騎士はそれによって俺の位置を特定するはずだ。しかし、逆にそれを利用させてもらう。


 カバーリングからリーンそして指切り射撃と、奥に下がる歩兵を先に撃ち殺し、射線が通っている竜騎士へと発砲を繰り返しながら、俺がいた木の陰に対ドラム要塞用にと持っていた二つのC4爆薬を置いておく。


「その木の影だ、回り込め!」


 闇に足を取られることなく、軽快に走るアルアース二匹が挟み込むようにして木の影へと飛び込んでいくが、俺はすでにカバーリングしながらその位置を離れている。

 《夜目》を持つアルアースには俺が離れていったところや、木の陰にいないことが見えていたかもしれないが、別に人の言葉を話すわけではない。


 騎乗する竜騎士にそれを伝えることが出来なければ――。


 手に持つ起爆装置のレバーを引き、誰も居ない期の陰でお見合いをする竜騎士二人とアルアース二匹を纏めて吹き飛ばした。




 戦闘が終了するまでに一〇分もかからなかった。動く者がいなくなった坑道前で、俺はUMP45のマガジンを換装しながらアルアースの被弾状態を確認していた。


 アルアースの外皮は固い。9×19mmパラベラム弾では斃すのに弾数が必要だと考えてのUMP45だったが、.45ACP弾ならばその外皮も打ち砕いて内部までダメージがしっかりと通っている。

 レーザー兵器であるPhaseRifleはアルアースを貫通するほどの威力を見せたが、UMP45ではそこまではいかない。だが、斃すには十分な威力が見て取れた。


 これならば要塞攻めでも使っていけると判断をしたところで、再度迷宮へと入り地下一〇階・門番の間からフリックと共に外へと戻った。


「それでヨーナ。コティー様を盗み出せと言ったが、僕はどうしたらいい?」


「ソウだな、まず要塞の近くまでは一緒にイク。ソノ後はオレが暴れているうちに潜入し、盗み出して外へデロ」


「僕だけでコティー様さまを?」


「オレがついて行ってもいいが、監禁部屋でアンデッドに助けを求めたことを納得するまで話すつもりカ?」


 フリックは一人で潜入することに不安げな表情を見せていたが、アンデッドの姿を取っている今の状況ではこれしかないだろう。

 これがシャフトの姿ならば、マップと音を頼りに潜入して密かに救出するという方法も考えられた。


 しかし、俺の目的はコティーの救出だけではない。迷宮の坑道を攻略することに専念するため。そして、その後のことも考えてドラム要塞を潰し、迷宮の存在とコティーのことを知る師団長のカシウムと、その周辺の騎士たちの口を封じる必要がある。


 それに――俺はクルトメルガ王国南部の海域で、奴隷絡みで暗躍している奴らがいたことを知っている。自身の身を抱きしめ、母の名を呼びながら泣いていた少女を知っている。

 そして――国抜けをして新天地を目指すも、この世界の厳しい現実にのまれた者たちがいたことを知っている。


 あの子を――彼らを見た時に感じた不快感を忘れたことはない。


 ドラーク王国がどこまで関与しているかは判らないが、無関係ではないことも判っている。

 ドラム要塞を潰すことを――そこを防備する者たちと戦闘になることを、俺は躊躇うつもりはなかった。

 

「確かに……コティー様を速やかに救出することを考えれば、僕一人の方がいいですね……。それで、その後はどこに行けば? 迷宮ですか?」


「そうだ、迷宮まで逃げ切り、転送魔法陣で仲間たちの所へトベ」


 フリック一人で行かせるのは俺も不安ではあるが、捕縛しておいた竜騎士からの情報で、コティーが監禁されている場所の予測はついている。

 要塞内の地下牢――だが、その入り口は要塞自体にあるわけではなく、敷地内の一角から降りていく地下階段の先にある。


 つまり、要塞自体にどれだけ攻撃を加えても、それが原因でコティーを害する可能性は低いわけだ。

 さらに言えば、建物への攻撃によって騒動を起こせば、地下階段を監視する監守への牽制にもなるだろう。


 フリックを納得させつつ、俺はTSSタクティカルサポートシステムを起動してギフトBOXを取り出していた。

 山茶花サザンカやオフィーリアたちに、竜騎士たちの死体を見られるわけにはいかない。ドラーク王国と争うのはあくまでもアンデッドの“ヨーナ

“だけだ。今はまだ、クルトメルガ王国側に関与して貰いたくはない。


 死体を片づけながら、同時にTSSを操作して黒い補給BOXをいくつも召喚していく。


 星明りしかない闇夜に突如現れた光の粒子たちの輝きに、フリックは言葉を忘れたかのようにその一粒一粒を追って視線が彷徨っていた。


「こ、これは……」


 フリックが補給BOXから取り出す多数の高火力兵器や予備マガジンに特殊グレネード、それに特殊装備の数々を見て呟いた。

 だが、用意している武器を一つ一つ丁寧に解説する気もないし、話したところで理解できるわけもない。


 これからドラム要塞に一人で攻め込むのだ。それ相応の武器弾薬は当然必要になる。持てる量に限界はあるが、何もない空間から都合よく取り出せるわけではない。

 そんなことができたらVMBのバランスは崩壊し、糞ゲーの烙印を押されてしまう。ゲームバランスを取るためには、武器弾薬の取り出しには補給BOXの召喚を経由するなどの制約が必要になる。


 それに、フリックがコティーをできるだけ安全に救出できるように、俺はド派手な陽動作戦をとる必要もあるのだ。


 もうすぐ時刻は深夜二時。アンデッドが襲いかかるには頃合いの時間だ。



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