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投稿再開です。


無料のWebマガジン「ヤングエースUP」様にて、コミカライズ版の連載がスタートしました。

https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000014/


書籍版と合わせて、コミカライズ版も応援よろしくお願いします。



2/15 誤字修正・名前変更


 怪盗“猫柳ネコヤナギ”の本拠地となっていた門番の間は壊滅的な被害を受けていたが、解放した逃亡奴隷の男たちが慌ただしく片付けていた。


 気絶させるにとどめた竜騎士はすでに縛り上げ、門番の間の隅に転がしてある。竜騎士から話を聞く前に、俺は残りの捕縛された者たちの扱いを考えていた。


 怪盗“猫柳”の残党の処遇を含め、色々と思うことはあるが、まずは状況の把握が最優先だな。


 捕縛された猫柳の残党たちは、本拠地に潜んでいた者たちの遺体や竜騎士の死体が、次々にギフトBOXへ入れられていく様子をじっと見つめていた。

 生き残りは五名――。獣人種ばかりだった逃亡奴隷に比べ、こちらは普人種や妖精種のエルフにドワーフも残っていた。


 そのうちの二人は見覚えがある。王都の高級宿『平穏の都亭』で部屋付きを務めていた少年エルフのフリック、それとコックをしていた普人種のガラードだ。


「そこの少年エルフ、オマエたちはここで何をしていタ?」


 逃亡奴隷たちを見つめる視線を塞ぐように目の前に立ち、跪くフリックの目線に合わせて俺も屈み、スケルトンフェイスの眼底に浮かぶ青白い炎の目を近づけた。


「……ドラーク王国から隠れて暮らしていただけだ」


「なぜ隠れていタ?」


「…………」


 フリックは真っ直ぐに俺の目を見つめながら、素直に答えるかどうかを悩んでいたようだが、その沈黙に耐え切れなくなったのは横に跪くドワーフの男だった。


「それはワシらが逃亡奴隷だからじゃ」


「ホゥ……転移していった獣人種の娘も奴隷だったのカ?」


「あの方は違う!」


 ドワーフが質問に答えてくれるかと思ったが、俺の問いに答えたのはフリックの方だ。ドワーフへ向けた視線を再びフリックに戻し、再び視線が重なる。

 ヴァイキングヘルムを被るスケルトンフェイスを目の前にしても、恐怖している様子はない。むしろ、俺がコティーについて聞いたことに何か憤りを感じているように見える。


「では、あの娘はなんダ?」


「ドラーク王国の王女様だ。あの方は奴隷だった僕たちを救い、ここに一時的に匿ってくれていたんだ」


「一時的に……? その後はどこへ行くんダ?」


「……クルトメルガ王国だ。この迷宮と外で資金を稼ぎ、それで入国の手引きを……。こんなこと、アンデッドのお前に言って何になる!」


「そうじゃ、なぜワシらを殺さぬ。竜騎士は殺したのに迷宮に沈めもせず、アルアースは食料にしようとする――アンデッドが食事をするつもりか!」


 フリックとドワーフが(わめ)きはじめたが、それを聞き流しつつ情報を整理する――。


 どうやら、コティーたち怪盗“猫柳”は、ドラーク王国の奴隷解放運動をしていたようだ。

 盗賊稼業や魔鉱石で資金を稼ぎ、それで森林都市ドラグランジュあたりの貴族か商人を通じて密入国していたのだろう。


 魔鉱石の利益だけでも十分な資金が稼げるような気もするが、目的や理由を考えるに、安く買い叩かれていたのかもしれない。

 しかし、奴隷の逃亡支援のためとは言え、盗賊行為に走ったことは褒められたことではない。たとえ、それ以外方法がなかったとしても……。


「おい! 聞いているのか! ワシらをこれからどうするつもりじゃ!」


「イヤ、聞いていナイ。それで、あの娘はなぜ連れていかれタ?」


「こ、この骨野郎がぁ……!」


 ドワーフは自分が捕縛されていることも忘れ、顔を真っ赤にしながら吠え始めたが――残党五名のうち、明らかに少年エルフのフリックがリーダー格だ。

 コティーと行動を共にしていたガラードをはじめ、残りの二名も黙ってこちらの成り行きを見守っている。


「あの方は……コティー様はドラーク王国への反逆の罪に問われている。生きたまま王宮へ連れ帰った者には、望むだけの報奨が与えられるという話だ」


「デハ、連れて行った男は何者ダ?」


「連れて行った竜騎士の男は……ドラム要塞のカシウム師団長だ。欲深い男で、僕たちのことをずっと探し回っていたんだ」


 ドラム要塞と言うのは、国境線に建つ監視要塞のことか……。この迷宮の存在を秘匿するためには、その要塞をなんとかする必要があるな……。


「おい! いい加減にしろ、骨野郎! ワシらを解放するのか、しないのか、はっきりしろ!」


 その叫びはドワーフだけの言葉ではなかった。まだ縛られている逃亡奴隷の女子供を含め、最初に解放した男たちも作業が終わったのか、こちらの成り行きを見つめていた。


「オマエたちに興味はナイ、解放してヤロウ。だが、この鉱脈はオレが貰ウ」


「鉱脈を貰う? 迷宮の主ダンジョンマスターにとって代わろうと言うのか?」


「オレは迷宮に縛られるつもりはナイ。この迷宮は討伐スル」


 俺の一言に、フリックだけでなく横に跪くドワーフや逃亡奴隷たち全員が、目を見開き驚きの表情を浮かべた。それも当然だろう。アンデッドが迷宮を討伐すると言ったのだから。


「なっ、なっ、なにを言っているんじゃこいつは?! アンデッドが迷宮を討伐するだと?」

 

 ドワーフが跪きながらも俺ににじり寄り、唾が掛かりそうなほどの勢いで喚きはじめた。正直言って、こいつうるさい。


「と、討伐してその後どうするつもりだ? それに、なぜ僕たちを解放する?」


「魔鉱石を掘るに決まっているダロ。オマエたちは命が助かって嬉しくはないのカ?」


「そ、それは嬉しい……だけど、ここを追い出されてはどの道生きてはいけない。それに、コティー様を放っては……」


「ソレは――オレに――関係ナイ」


「アンデッドが魔鉱石を掘るだと?! 掘って何に使うんじゃ! まさか豚野郎みたいに喰うつもりか!」


 豚野郎って……そういえば、いつだったか亜人種のオーク退治をしたときに、奴らは鉱山の魔鉱石を食べているのを見たことがある。

 魔鉱石を食べる行為は、オークの一般的に知られる習慣なのだろうか……。


「おい、聞いているのか、骨野郎! てめぇ一人で掘ってどれだけ採れると思っているんだ、採掘なめてんじゃねぇぞ!」


 ドワーフの顔が真っ赤に染まり、俺のヴァイキングヘルムに唾が掛かりまくっているが今は無視。

俺はフリックの前に屈み、その目を覗き込みながらずっと話を続けていた。フリックもまた、目を見開いて俺を見続けている。


 その顔色は竜騎士たちに捕らわれていたころより青く、額に汗を浮かべながら何度もつばを飲み込む仕草をしている。

 何かを俺に言いたいのか、口をパクパクしながら瞬きも忘れて、声にならない声を出そうとしていた。


「ナニか、オレに言いたいことでもあるのカ?」


「と、取引をしないか……」


 取引ときたか――今の俺に、アンデッドの姿をとっている俺と何を……いや、想像はつく。それほどまでに大切か。


「フリック! お前まさかこの骨野郎に!」


「言ってミロ」


「コティー様を助け出してほしい」


「見返りハ?」


「鉱山の採掘は僕がやる。採れた魔鉱石は全て渡す」


「コティー様を助けてくれるなら、俺も採掘を手伝う!」


「あ、あたしも手伝うわ!」


 フリックの提案した見返りに、黙って見ているだけだった他の逃亡奴隷たちも同調の声を上げた。


 さて、どうしたものか……。鉱山を俺のものにするなんて口にはしたが、実際に欲しいのは討伐後の転送魔法陣だけだ。

 魔鉱石の採掘はいい資金源になるだろうが、金に換えるには誰かと取引をしなくてはならない。彼らが今まで取引していた相手では信用できそうもない。


 となると、別の商人――マルタさんか? いや、今回の状況を考えればむしろ……。


「フリック、それにお前たちも何を言っているんだ! こいつはアンデッドだぞ?! アンデッドとの間に取引が成立するわけがないだろ!」


「だけどギリム……。アンデッドと……会話は、通じない」


「当たり前じゃ、アンデッドに会話能力なんぞあるものか! 取引を持ち掛けたところで、こいつには何を言っているか判るはず――」


「いいだろウ」


「ほれ見ろ! マヌケな返答を返し――えっ?」


 顔を真っ赤にしていたドワーフ――ギリムは、俺の返答を聞いた瞬間に時間が止まったかのように固まり、声を失っていた。


「ダガ、見返りがたらナイ」


「他に何をしろと?」


「ほれ見ろ! こいつはコティー様をダシにして、ワシらをいいように使おうと企んでおるんじゃ!」


 再起動したギリムが再び喚きだしたが、こいつは無視だ。


「まずは――」






 フリックを始め、逃亡奴隷たちと取引をすることに決めた俺は、魔鉱石の採掘以外にも多数の条件を提示した。


そのうちの一つ――門番の間に作られていた怪盗“猫柳”の本拠地は、綺麗さっぱり片付けられて柱一つない広いだけの広間へと戻っていた。

 元々、ドラーク王国の竜騎士たちによって居住スペースのほとんどを破壊されていたのもあるが、俺の視界には着々と近づいてくるミーチェさんの光点が見えていた。


 彼らを門番の間で生活させ続けるのは無理がある。オフィーリアは猫柳の本拠地捜索を目的として迷宮討伐に参加しているため、もしも彼らと門番の間で鉢合わせば、折角の労働力を失うことになるだろう。


 オフィーリアたちも、猫柳の本拠地が地下一〇階の門番の間に造られているという予測は立てているだろう。まずはその予測を空ぶりに終わらせ、逃亡奴隷たちの居住地を移すことが必要だった。


「ヨーナ。準備が完了したけど、これから僕たちはどうすれば?」


 本拠地の資材をすべてギフトBOXに入れ終え、出発の準備が粗方整ったところで、逃亡奴隷たちを代表してフリックが声を掛けてきた。


 俺の今の名前がヨーナだとはすでに伝えてある。そして、フリックの見た目は少年エルフなのだが、実年齢は一〇〇歳を超えているそうで、コティーのことを幼少のころより面倒見てきたそうだ。

 そのため、この猫柳の本拠地でもリーダー格として動いており、俺との取引でも逃亡奴隷たちの取り纏めをやらせている。


「オマエたちには住む場所と安全が必要ダ。魔の山脈を越えてきた者たちには暖かい食事と着る物が必要だ。それを用意してヤル」


「そ、それはありがたいですが、一体どこへ……」


「マズはあの中に設置してある、転送魔法陣で跳んでもらウ」


 そう言って俺が白骨の指で指さすのは、片付けの最中に召喚しておいたLVTP-5だ。すでに前面ハッチは開けてあり、模写魔法陣は持ち出して門番の間に敷いてある。当然ながら、転送魔法陣がつなげる先は王都の俺の店だ。




 逃亡奴隷たちと猫柳の残党、合わせて十五名を『大黒屋』の地下室へと移動させた。だが、これは一時的な移動でしかない。

 彼らにはこの地下倉庫がどこにあるのか話してはいないし、話すことはない。そして、この地下倉庫から出すつもりもない。


もしも坑道の迷宮から直接外へ出た場合、そこに待っているのは竜騎士たちの別動隊。そして、迷宮に引き寄せられた魔獣・亜人種たちだ。

 迷宮を討伐しない限り、魔の山脈で野宿しろとは言えない。その先に待つのは、山岳湖の辺でコボルトの集団に襲われたあの惨劇のリプレイ。


 様々な状況を考えれば、この選択が最良だと考えた。


「アンデッドが転送魔法陣を持っているとはな。ヨーナ、ここはいったいどこじゃ?」


「アンデッドの国にある、オレの屋敷の地下倉庫ダ。間違ってもこの倉庫から出るんじゃないゾ、身の安全は保障できナイ」


「あっ、あぁ……。そうすることにしよう……」


 転移してきた逃亡奴隷たちは、十五人で生活するには十分な空間とは言い切れない地下倉庫を見渡していた。


 ギフトBOXに放り込んだアルアースの肉や、宿泊に必要そうな道具類を取り出しながら、一階の店舗スペースに並べきれなかったインテリア家具を適当に配置させ、なんとか宿泊施設っぽい場所にすることができた。


 他にも食料としてマリーダ商会の黒弁を用意し、彼らが持っていた道具袋へと移し替えさせた。

 しかし、この地下倉庫では生活するために必要な設備……厨房にトイレなどの水道設備などが足りていない。


 となれば、それも用意してやらなければなるまい。この後のことも考えれば、相応の居住空間を用意する必要もあるし……。

 TSSタクティカルサポートシステムを起動して、高級モーターホームのコンチネンタルを準備し、地下倉庫の出入り口を塞ぐ形で召喚した。


「……鉱山の採掘に協力する代わりに、姫様を助けてもらうことにはワシもしぶしぶだが、納得した。じゃがこれは……」


「ネンのためだ。目の前に外へつながる扉があったとして、オマエたちは好奇心に負けず、その扉を開けずにいられるカ?」


 白髪交じりの長い顎ひげを三つ編みにして垂らすドワーフのギリムは、それを撫でながら扉を封じるコンチネンタルを見ていた。

 そして、他の逃亡奴隷たちもそれは同じだ。自分たちの選択が正解だったのか、それともアンデッドに取引を持ち掛けたことのバカバカしさを、今さらながらに自覚したのだろう。


 だが、今は彼らの不安を一つ残らず取り除いている時間はない。コンチネンタルのサイドにある電子ロックキーを操作すれば、サイドの一部が回転して搭乗階段が出てきた。


「ガラード、一緒にコイ」


「えっ? お、俺?」


 王都の高級宿『平穏の都亭』でコックとして潜伏していた普人種のガラードを連れ、コンチネンタルの中へと入った。

 白一色の清潔感溢れる内装の素晴らしさに、ガラードは声を失っていた。しかし、彼には呆けていてもらっては困る。

 キッチン設備の簡単な使用方法、調理器具の場所、トイレの使い方、風呂の使い方、そういった近代設備の使い方を教え、コンチネンタルの管理を任せた。


 コンチネンタルの中にガラードを残し、最後の仕上げに向かおうかと地下倉庫に出たところで、搭乗口には逃亡奴隷の少女が二人立っていた。


 服――とは言い難い、布を縫い合わせただけの貫頭衣を着た細い体。幼くは見えるが、見た目通りの年齢かは疑問だ。


「ナニか用カ?」


「姫様を……姫様を……」


「あ、あのっ、姫様を助けに行ってくれるって本当――ですか?」


 少女たちはヴァイキングヘルムを被る骸骨頭を直視できないのか、何度も視線を下に上に動かしながら聞いてきた。


 白骨の手を二人の少女たちの頭にのせ、決して清潔とは言えない傷んだ髪を撫でながら――。


「ホントウだ。明日の朝にはここに来ているだろウ。中で風呂に入って飯を喰エ」


 コンチネンタルの中でキッチン周りを確認しているガラードに声を掛け、少女二人の背中を押して車内へと行かせた。


「あなたは……本当にアンデッドなのですか?」


 背後から声が聞こえた。


「ナゼ、そう思ウ。フリック」


「まず、オルランド共用語を話す。我々を襲わない。転送魔法陣を持ち歩いている。そして……まるで人のような温かみを感じる振る舞い――」


「オシャベリな者は馬鹿げたことばかり話ス。誰かに止められなければ、それが自らの災いに繋がることを知らヌ」


 俺の言葉を脅しと感じたのか、フリックは一歩後退り、その顔は青く変わっていた。

 さらにもう一歩下がろうとしたところでその肩を掴み、パワードスーツの身体強化能力と同化した今の俺の力で、ほんの少しだけ力を入れる――。


「……くっ」


「詮索はナシ。取引が終わった後も、オレのことは他言無用。全員に徹底サセロ」


「わ、わかった……」


「ソレとだ」


「ま、まだほかにも……?」


「オマエはオレと一緒に迷宮に戻って、姫さんの救出を手伝エ」


「え……?」


「オレに出来るのは要塞を潰すことぐらいだ。姫さんはオマエが盗み出セ」


「えっ……?」


 俺が言った言葉に最初は理解が追い付かなかったようだが、二度目にこぼれた声と目は、正気を疑うような目で俺のことを見ていた。






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