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 坑道の迷宮地下十階、怪盗“猫柳ネコヤナギ”の本拠地として利用されているであろう、門番の間に近づいてきたところで、集音センサーは一方的な――と思われる戦闘音を拾っていた。


 聞こえてくるのは剣戟音に魔法攻撃と思われる法撃音、そして悲鳴――、怒声――、逃げ惑う足音を重量感ある足音が追っている。


 視界に浮かぶマップに門番の間が映りはじめる。地獄の門と見間違えそうになる白い迷宮の門が開かれているせいだろうか、中の動きもマップに光点として浮かんでいた。


 どういう事態に陥っているのかわからないが、聞こえる音と光点の動きを見れば、よくない事態が起こっているのは間違いないだろう。


 それが誰にとってかは……。


 足早に歩を進め、迷宮の門の陰に体を隠して内部を窺うと、門番の間の惨劇は終わりを迎え、制圧が完了しようとしていた。


 門番の間には柱もなにもない。ただ広いだけの空間には、難民キャンプかと思うほどの雑多なテントやテーブルが数多く並べられていたが、そのほとんどが破壊され、燃えていた。


 破壊されたキャンプの周囲には、いくつもの死体が転がっていた。大きさは成人だけではなく、もっと小さなものまで……どれも着ているものは貧相な貫頭衣ばかり。

 そして、もっとも破壊が酷い場所には、探索者と思われる武装をした死体が多数転がっていた。

 生き残って捕縛されている者も多数いるようだ。皆一様に縄で縛られ、門番の間の隅で一列に並べられ跪いている。


 どうやら敗者は怪盗“猫柳”側か……。


 門番の間の中央には転送魔法が設置されている。それを囲うように立つ、勝者たちの姿に視線を移した。


「これで全員か?」


「そのようです。残ったのは逃亡奴隷十名、投降した猫柳の残党は五名です」


「よろしい。それに加えて姫が一名か、面白い――。実に面白い、そうは思わないかね?」


「は、はぁ――」


 転送魔法陣の近くに立つのは、統一された茶色の軽装鎧に身を包む騎士風の男たち、騎士と言うよりかは戦士に近い雰囲気だ。


 人数は九人――そして、その数と同じだけの……なんだあれは、恐竜?


 騎士風の戦士たちのそばにいるのは、小型の肉食恐竜――昔の恐竜公園映画でみたようなヴェロキラプトルに似た茶色の皮色に黒い縞模様。

 もしかすると、アレはドラーク王国が飼いならしているという小型の亜竜――アルアースだろうか?


 亜竜が八匹、それに加えて一回り以上大きな個体が一匹……指揮官らしき男の騎竜だろう。

 計九匹の亜竜が調達したばかりであろう、新鮮な肉に喰らいつきながら休んでいた。


 間違いないな、勝者はドラーク王国の竜騎士か……。


「それで、姫様。この迷宮で一体何をしておられたのですか?」


「お前たちには関係ないニャ! それにアタシはもう姫ではないニャ!」


「おぉー、そうでしたな。今は怪盗“猫柳”でしたか? コルティーヌ姫」


「その名で呼ぶニャ!」


「どこへ逃げようとも貴女はドラーク王国第十七王女、コルティーヌ姫ですよ。いや、正確には姫と言う名のうす汚い獣奴隷でしたかね」


 そう話をしているのは指揮官らしき男と、その横で跪く――縄で縛られた猫系獣人種の女性。


 あれはコティか? 姫などと呼ばれるような服装には到底見えないが。周囲に倒れている普人種……ではないな、よくよく見れば獣人種ばかりだ。竜騎士と思われる男が言っている、逃亡奴隷と同じ粗末な貫頭衣を着ていた。


 しかし状況が理解できないな。ここは間違いなく怪盗“猫柳”の本拠地のようだが、そこに逃亡奴隷が何人も匿われているのは何故だ?

 それに、コティのことをコルティーヌ姫と呼んでいたし、獣奴隷とも呼んでいた。


 ドラーク王国が奴隷政策を進めているのは知っていたが、この状況は不味くないか?


 もしも仮に、ここに山茶花とオフィーリアたちが来て、怪盗“猫柳”もしくは竜騎士たちと戦闘になったとしよう。

 猫柳の一員にはドラーク王国の王女がいて、それを緩衝地帯である魔の山脈で捕縛し自国へ連れ帰る……これでは王族の誘拐だ。

 竜騎士たちとの戦闘に突入するのも不味い、ドラーク王国側の冒険者や探索者との諍いならまだしも、正規軍とも言うべき部隊との戦闘は戦争の引き金になりかねない。


「いやいやまったく――、まさかこんなところで貴女を発見できるとは思いませんでしたよ。それにこの迷宮! 素晴らしい! 実に素晴らしい!」


 そう言いながら両手を広げて不敵に笑うのは、三十代後半ほどで細身の普人種の指揮官の男。


「行方をくらませていた第十七王女を発見しただけでなく。この迷宮を管理し、採掘された魔鉱石を元手に資金を調達すれば、わたしはこんな国境線の師団長で終わることなく中央へと進出できる」


 指揮官と思われる男とコティの傍では、竜騎士の戦士たちが次々に魔鉱石が積み上がった木箱を運んでいる。それを一つ掴み上げ、どこに光源が在るかもわからぬ門番の間の光に掲げ、魔鉱石に灯る属性光をうっとりと眺めていた。


「お前たちはここに残り、奴隷たちに採掘を続けさせろ。砦に戻り次第、増援を送る。入り口を封鎖している部隊は残していく、貴様たちはここの拠点化と――、あいつらから採掘順路を聞き出しておけ」


「了解しました」


 自分のことを師団長だと言っていた男が目を向けるのは、隅で一列になって跪いている捕縛された者たちだ。

 そして、「転移」の言葉と共に、師団長を含めて九人の竜騎士のうち、師団長とその副官と思われる二名と縄に縛られたコティ、それに加えて三匹のアルアースが共に転移していった。


 これで三人と三匹減ったか……だが、今の話だと坑道の迷宮の外にはまだまだ幾名かの竜騎士がいるようだが、どうする――?

 こちらへ向かっている山茶花の面々とドラーク王国の竜騎士を会せるわけにはいかないし、奴らにこの迷宮を管理されるのは困る。それでは俺への報酬となっている転送魔法陣が手に入らないからな……それに――。


 この惨劇を見て何も思わない、心までアンデッドになったつもりはない。


 ドラーク王国と争うことになっても、それはあくまでも俺――ヨーナと言うアンデッド一匹が相対するだけ、クルトメルガ王国にも、ドラグランジュ辺境伯領にも迷惑は掛からないだろう。

 それに、仕掛けるなら今すぐにだ。あの師団長の物言いならば、この迷宮のことを秘密にして私的に管理するつもりなのだろうが、時間が経過すればするほど、この迷宮の存在と場所を知るものが多くなる。

 

 そうなる前に……。


 改めて門番の間内部の状況を確認する――向かって左隅にアルアース六匹が脚を休めている。その傍には竜騎士が二名。

 中央の転送魔法陣近くにも二名、そして右奥には捕縛した怪盗“猫柳”の残党と逃亡奴隷を見張っている竜騎士が二名。


 最初に潰すべきは……やはり、アルアースという亜竜だな、能力が未知数だし竜騎士が騎乗した場合の動きも未知数すぎる。この場では早々に退場してもらおう。


 腰のポーチからM84フラッシュバンを二本取り出し、ピンを抜いてアルアースが集まって休む中央と、その傍に立つ竜騎士二人の正面へと投げ込んだ。


「Guruu?」


「なんだこれ――」


 目の前に転がるM84に、アルアースと竜騎士の視線が向く――次の瞬間、眩い閃光と爆音が門番の間に鳴り響いた。


「ぐあぁぁ!」


「Gyaaa!」


 M84がヒットしたことをクロスヘアの拡がり――スプレッドで確信し、身を隠していた白柱を中心に回り込むようにして門番の間へと進入する。

 突然の爆音と侵入者の姿に、離れた位置にいた他の竜騎士や捕縛されていた逃亡奴隷や猫柳の残党の目が俺に集まる。


 だが、俺の狙いはフラッシュバンの効果に喘ぐ六匹と二人――。


 PhaseRifleをダウンサイトし、専用の光学サイトを覗き込んで地に倒れるアルアースの頭部に光学サイトのクロス十字――レティクルを合わせてトリガーを引く。


 僅かな振動音と共に赤い光線が飛んだと視認した瞬間、アルアースの頭部が蒸発するように消し飛び、その後方にいたもう一匹の腹をも撃ち抜いた。


「何だ今のは!」


「あれはなんだ?」


「アンデッドが入り込んでいるぞ!」


 俺が攻撃を仕掛けた場所とは別の場所に立つ竜騎士たちが騒ぎ始めるが、今は無視だ。


 PhaseRifleのエネルギーがチャージされるまでの数秒を待つことなく、スリングを振って背に廻し、腰からグレネードアックスを引き抜いて擲弾の発射体勢をとる。


 次に狙うのは撃ち抜いたアルアースの傍に倒れこんだ竜騎士二人だ。M84の閃光を直視した二人は、両目を押さえながら喘いでいた。

 擲弾射出後の放物線が視界に浮かび上がり、その着地点を竜騎士へと重ね――。


「戦闘準備! アンデッドがアルアースに気を取られているうちに体制を整えるぞ! ミラーとアルは魔法障壁を張れ、ダークナイト系に見えるが赤い魔法に注意しろ」


「おい、また何か始めるぞ!」


 トリガーを引き、発射した擲弾が放物線を描いていくのを視界に収めながら、グレネードアックスをその場で手放し、再度PhaseRifleに持ち替えてダウンサイトからのフルチャージショット。


 竜騎士二人が擲弾の爆発によって吹き飛び、同時に赤い光線が二体のアルアースを貫いた。


「ちっ、貴重な騎竜を――。ロイド、アルアースを呼び寄せろ!」


 離れた場所で生き残っていた竜騎士が動き出す――、防具からは役割の違いを見分けられないが、中央と逃亡奴隷の傍に立つ二人が何かを呟き、その周囲の空気が揺らぐ。


 魔法障壁を展開したか……。だが、それはVMBの銃器たちの前では何の役にも立たないがな。

 

 魔法障壁を展開したのとは別の二人は、何かの骨で作られたような笛を取り出し、それを吹き出した――が、何かの音が鳴っていることだけは認識できるのだが、靄がかかったように聞こえて音自体を聞き取れない。


 魔力を込めて笛を吹いているのか?


 聞き取れない笛の音に反応して、M84による聴覚・視覚障害から回復しつつあった二匹のアルアースがふらつきながらも跳び起き、俺が撃ち抜いた四匹の傍から跳ねるようにして距離をとった。


 想像以上に動きが速い。PhaseRifleのクロスヘアは跳び退(すさ)るアルアースに吸い付くように追随していたが、トリガーは引かずに動きを観察するにとどめた。

 全ての戦闘を先制で排除し続けるのは不可能だ。運動能力を見極められる瞬間には観察をさせてもらう。


 二匹のアルアースは門番の間を跳ねまわり、それぞれに竜騎士の下へと着地した。竜騎士が軽やかに騎乗するまでは見届けたが、騎乗した竜騎士の運動性能を見るのは一騎いれば十分だ。


 逃亡奴隷の傍に立つ、ロイドと呼ばれていた竜騎士が跨るアルアースの首に光学サイトのレティクルを合わせ、その後ろに座るロイドの腹ごと撃ち抜いた。


「なっ! 魔法障壁はどうした?!」


「展開してありますが、全く効果がありません!」


 転送魔法陣の傍にいた二人の竜騎士は、後方で撃ち抜かれた仲間の姿に驚愕の表情を浮かべていた。もちろん、その隣で魔法障壁を展開していた竜騎士も同様だ。

 

「ふ、ふざけるな! お前は何なんだ!!」


 魔法障壁の内側にいた、残り三人の竜騎士の顔色が明らかに変わっていた。師団長が転移した後から指示を出し続けていた竜騎士が俺へと向き直り、抜剣して剣先をこちらに向けて震えていた。

 その叫びに誘われ、他の竜騎士に加えて捕縛されていた逃亡奴隷たちの視線も俺へと集まっていく。


「魔獣――亜人種――アンデッド、好きに呼べばいいサ。だが、オレの名はヨーナ」


「アンデッドが名乗るだと?! なぜ地下十階程度で第一級危険魔獣並みの知性持ちが……」


「おい! ここの門番は討伐済ではないのか?!」


「し、知らない……俺たちだってあんなアンデッドは知らない……」


「なら……まさか、ここの迷宮の主ダンジョンマスターか?」


「見当違いも甚だしいナ。だが、自分たちがどこにいるのかを思い出したようだナ」


 自分たちと同じ言葉を口にするアンデッドの姿に、竜騎士も逃亡奴隷たちも唖然としていた。

 南部の海でも幽霊船長ヨーナが第一級危険魔獣に認定されたが、その等級に振り分けられた魔獣・亜人種は、俺同様に人の話す言語を口にするようだ。


 もしかしたら……そのものたちも『枉抜け』と関わりがあるのかもしれない。


 もしくは、単純に遥かに高い格に位置づけられる魔獣・亜人種なのか――。


「迷宮の主でもなく、門番でもないなら……お、お前は一体なんなんだ、どこから来た!」


「オマエは今、迷宮にいるのだゾ。門には常に気を配って監視してオケ、オレのような存在がいつ現れるとも分からないのだからナ」


「くっ……」


 残るは竜騎士が三名、内一名がアルアースに騎乗しているが、ここまでの流れで自分たちが相当に劣勢なのを自覚しているようだ。

 俺と言う存在が未知数過ぎて戦闘を継続するか、それとも撤退するかを迷うかのように、チラチラと転送魔法陣の方へと視線が揺れていた。


「ど、どうする?」


「……ミラー、お前は上に転移して外の部隊と合流し、この事態を師団長に報告しろ。ここは俺とアルでなんとかする――」


「何とかって……できるのか?」


「まぁ、無理だな。だが、上の部隊が撤退する時間くらいは稼ぐ。こいつの強さを考えれば、いつ迷宮の外に溢れ出てもおかしくはないからな」


 竜騎士たちが小声で話し合っていたが、そのすべてが集音センサーによって筒抜けとなっていた。


 俺の――ヨーナの存在を上に知られるのは不味いな、その段階で迷宮の存在が知れ渡る。


 今はまだ、私欲に溺れた師団長に情報操作をさせていた方がいい――。


 竜騎士たちの作戦と、俺の方針が定まったところでお互いが同時に動き出した。


「行けっ!」


 アルアースに跨る竜騎士の掛け声と共に、ミラーと呼ばれた竜騎士が転送魔法陣へと駆け出す。残る一人は魔言の詠唱し始めていた。


 逃がすわけにはいかない――。駆け出すミラーの胴体にクロスヘアを飛ばし、重なった瞬間にダウンサイトからのフルチャージショット。

 

 転送魔法陣を目前にして腹部に大穴を開けて倒れこむミラーの姿を視認しつつ、クロスヘアを滑らせてアルへと合わせる。

 トリガーを引いた瞬間からエネルギーチャージが始まり、視界に浮かぶゲージが回復していくのを見ながら、チャージ量三〇を超えた瞬間にトリガーを引く。


 フルチャージショットと何も変わらない振動と赤い光線が撃ち出されるのを見ながら、魔言詠唱中のアルの頭部が揺れた。

 最低威力では殺傷まで何発必要なのか判らないため、念のためもう一発チャージ量三〇で胸に撃ち込む。


 ヘッドショットを喰らった段階でアルの頭部の一部が吹き飛んだように見えたが、仰け反り崩れ落ちながら二発目を喰らい、完全に動きが止まった。


「ヨーナァァァァ!!」


 動き出した一瞬で仲間二人が撃ち斃されたことに激昂したのか、アルアースに騎乗した竜騎士が怒声を上げて駆け出した。

 上に人が乗っていてもアルアースの動きは軽快で速い――、PhaseRifleを警戒しているのか、左右に飛び跳ねるようにして接近してくる。


 PhaseRifleは近距離で使うような銃ではない。左手一本で保持し、右手は腰に廻してPSS特殊消音拳銃を引き抜き、クロスヘアを飛ばしてアルアースの胴体に合わせ、トリガーを連射しながらスライドジャンプで距離をとる。


 PSSの7.62mm×42㎜弾はアルアースの鱗に弾かれることはなかったが、その傷は浅く――ほとんどダメージには繋がっていないようだった。


 しかし、PSSの乱射は時間稼ぎと距離の取り直しに過ぎない。


 寸前まで俺がいた場所へと着地したアルアースを、竜騎士が回頭させる瞬間―――再び持ち替えたPhaseRifleのフルチャージショットによって、その頭部が消失した。


 頭部を失ったアルアースがバランスを失い崩れ落ちる――。


「うおっ」


 上に乗る竜騎士も突如崩れ落ちたアルアースの体勢を維持できるはずもなく、その体に足を挟まれながら落馬――落竜? していった。

 だが、まだ竜騎士を無力化したわけではない。足を挟まれジタバタしている竜騎士に駆け寄り、その頭部を蹴り飛ばした。


 こいつにはいくつか聞きたいことがある。殺さずに気を失わせるにとどめた。


 これでアルアースと竜騎士は全て無力化した。残るは縛られて呆然とこちらを見つめ続けている逃亡奴隷が十名と怪盗“猫柳”の残党と思われる五名。


 彼らの視線を無視しながら、手放していたグレネードアックスを回収しに向かう。PhaseRifleのエネルギーパックとPSS特殊消音拳銃のマガジンも交換し、拾い上げたグレネードアックスにも擲弾を再装填しておく。


「サテ……」

 

 TSSタクティカルサポートシステムを起動し、まずはギフトBOXを二つ取りだしだ。


 逃亡奴隷たちと猫柳の残党は、光の粒子が集束しながら出現したピンク色の箱に一瞬だけ視線を向けたが、何も口にすることなく俺のことを凝視し続けていた。


 彼らから見れば、なぜ自分たちがすぐに殺されないのか理解できないのだろう。そして、これから俺がすることも理解できないに違いない。

 普通に言っても無理だろうし、ここは――。


 拾い上げたグレネードアックスを片手に、縛られていた逃亡奴隷たちに近づいていく。一歩近づくごとに彼らの目が大きく広がり、震え、目には涙が浮かび始めていた。


 逃亡奴隷たちもまた、どれも獣人種ばかり――男が五名に女が三名、

それと子供としか見えない少女が二名。


 そのうちの一人――、一番端にいた男の後ろへ回り、その縄を切った。


「えっ?」


 後ろから斬首でもされると思っていたのだろうか? 震えながら俯いていた男は、自分の首が繋がっていることを何度も確かめながら、ゆっくりと後ろへと振り向いた。


「オレの言葉が判るナ?」


「は……はい……」


「オマエたち男五人だけ縄を切ル、迷宮に沈む前に、死んだオマエたちの仲間をあの箱に入れロ。それと竜騎士はあっちの箱ダ。アルアースは喰えるのカ?」


「い、一部だけなら、た、食べれます」


「ならアルアースはすぐに捌いて保管しロ、刃物の使い方を間違えるなヨ?」


 俺が何を言っているのか理解が追い付いていないようだが、順番に縄を切って解放されていく自分の仲間たちの姿を見て、少しずつ理解が追い付いてきたようだ。


「あ、あの……」


「質問はなしダ、早くヤレ。逃げたり、武器の使い方を間違えたりすれば――判るナ?」


 その一言で、縄を切られた逃亡奴隷の男たち五人が、駆け出して作業を開始した。



使用兵装

M84フラッシュバン

爆音と閃光により、相手の視覚と聴覚を一時的に麻痺させ無力化させる特殊手榴弾。

視覚妨害は六秒から八秒、鼓膜を破り、三半規管に音圧をぶつけてふらつかせる


グレネードアックス

フリントロック式グレネードランチャーと片手斧を複合させたような特殊銃器で、

弾薬は40×46mm擲弾を使用、最大で二五〇m先に放物線を描きながら射出し、着弾点を中心に半径一mの範囲を爆撃することが出来る


PhaseRifle

形状こそ一般的なARFに似ているが、カラーは黒一色。銃身下部にスライド開閉式のエネルギーパックを装填する部位があり、上部には専用の光学サイトを持つ。

エネルギーパックの容量は一〇〇〇、一度に一〇〇までチャージすることができ、トリガーを引くと九〇エネルギーを消費して、フルチャージショットが発射され、

最低でも三〇エネルギーがチャージされていれば低威力のレーザーが発射できる仕様になっている。


PSS特殊消音拳銃

米ソ冷戦時代にソ連で開発された拳銃で、サイレンサーなしで消音効果を持つ小型の秘密任務用拳銃。使用弾薬はその特性により7.62mm×42㎜弾を使用し、装弾数は七発で有効射程距離は五〇m程度と近距離用の銃器になる。


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