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総合ギルド別館にて、Dランク昇級試験の受験資格が得られた事を知った俺は、さっそく総合ギルド本館へと入り、冒険者登録受付窓口へ行くと、そこには俺が冒険者登録をした時に担当してくれた、エルフのミリマリアさんが座っていた。
「ようこそ、クルトメルガ王国総合ギルド・バルガ支部へ、あら貴方は……シュバルツさん、でしたか? もしかしてDランクへの昇級試験申請ですか?」
「こんにちは、ミリマリアさん。やっとギルドポイントが貯まりました。昇級試験への申請をお願いします」
「やっと、だなんてシュバルツさん……貴方『魔抜け』ですよね? それなのに一月も経たずにギルドポイントを貯めきるなんて……」
「俺が『魔抜け』って知っていたんですね」
ミリマリアさんは、少しバツが悪そうな表情をすると、俺が冒険者登録をした時の、生体情報登録をした水晶の話をしてくれた。
あの水晶は、ギルドカードへの生体情報を転写する時に、まず白く瞬きその後は持っているスキルや技能の数や属性に合わせて発色し、瞬きを繰り返すそうだ。 しかし、俺の情報が転写された時は基本情報の一回しか瞬かなかった為、この業務が長いミリマリアさんには、俺には魔力がない『魔抜け』だとすぐにわかったそうだ。
そういえば、あの時アシュリーさんもミリマリアさんも何かに驚いてた……そこでアシュリーも気付いたわけか。
「そういうわけですか、まぁでも何も問題はありませんよ。現にこうして依頼達成を繰り返してますからね」
「そのようね、正直驚きですが、シュバルツさんにはそれだけの力があるのですね。では私も登録担当窓口の職員として、職務を果たすとしましょう。Dランクへの昇級試験ですが、試験内容は城塞都市バルガの東の森にある、牙狼の迷宮へ試験官と共に向かい、地下1階を走破し地下2階へ到達することです」
「え? それだけですか?」
「シュバルツさん、迷宮は地下1階とは言え、決して容易い場所ではありませんよ。それにこの試験は、Dランクへの適性試験と言うより、Dランク昇格と同時に追加される、迷宮探索者の資格の為の教習的な意味合いの方が強いんです」
「なるほど、心得ておきます。それで、試験の日程的にはどのような感じになりますか?」
「試験官の手配に1日頂いて、明後日の朝に総合ギルド本館にお越し下さい。また、Dランク昇格試験申請をされた段階で、資料館での迷宮関係の資料も閲覧できるようになります。
当日は日帰りになりますので、野営の準備は必要ありませんが、食料など迷宮探索に必要な物資や道具を揃えるところから試験は始まります。何が必要になるかをご自身で調べ、ご用意下さい」
「わかりました、明後日の朝ですね」
ミリマリアさんに礼を言い、俺は総合ギルド本館を出て『迷宮の白い花亭』へと戻った。
翌日、俺は明日の試験に備え、まずは総合ギルドの敷地内にある資料館に来ていた。この資料館は地上3階、地下階は不明で、地上階は主に、自然界での様々な資料や図書が置かれ、地下階に迷宮関連の資料があるそうだ。
迷宮関連の資料が一般に公開されていないのは、安易に探索しその命を迷宮に狩られないようにする為に、情報の制限をしているらしい。
危険性を周知させた方がいいような気もするが、やはり冒険者には無謀な挑戦をしたがる気質が多いらしく、過去には低ランクの集団が無謀な挑戦をして、迷宮を刺激することが後を絶たなかったらしい。
その為、根本的に迷宮に関する一般情報を遠ざけ、迷宮探索者にも安易に迷宮の情報を吹聴しないように言っているそうだ。しかし、人と言うものは秘密を知りたがる生き物で、逆に秘密にすることで興味をもつ冒険者も少なくないそうだが、そういった輩にはDランクになれば何の規制もない、むしろDランクにもなれない冒険者未満が何を言う、と言った階級特権的な位置付けにし、Dランク未満はその特権を目指し、Dランク以上には安易にその特権の価値を貶めるなと意識付けしているそうだ。
Dランクの昇級試験に向けて地下階への入室を許可はされたが、実際には地下一階の迷宮の基礎知識に関するスペースのみの開放だった。
他は合格後に開放されるらしい。閲覧スペースに何冊かの図書を持ち込み、探索に必要なもの、基礎知識などを確認していく。
ヘッドゴーグルのスクリーンキャプチャー機能を使い、覚えきれなそうなところはキャプチャーし保存していく。試験先となる牙狼の迷宮の地下一階の地図もあったが、なんというか明らかに縮尺が歪な落書きのような地図だった。
迷宮に関してわかった基礎知識としては、各層の広さは迷宮の成長度合いで変わり、攻略できずに何百年も生きてる迷宮は、最下層がわからないほど深く、生まれたばかりの迷宮でも10層はあると言う。
迷宮内部の通路幅は8~10mはあり、道中にある小部屋は一辺が20mを超える広さの部屋もある。通路には基本的に明かりが無いため、探索者は迷宮探索の際には必ず白光草の種を持ち込み、暗い所にその種を蒔く事が仕事の一つとされている。
蒔かれた種は迷宮の魔力で成長し、花が咲くと白く光り通路に明かりをもたらす、迷宮の魔獣や亜人種は、白光草には興味を示さないので、魔力を吸い続け咲き続けるそうだ。
迷宮に存在する魔獣や亜人種は、魔石を核に魔力を使って迷宮が生み出す、幻影のようなもので、迷宮は自然界に魔素を吐き出し、周囲に魔獣や亜人種を呼び寄せ、その情報を読み取り、迷宮内で同じものを生み出すらしい。
なので、迷宮を討伐するには内部で大魔力石を破壊もしくは採集してしまうことと共に、迷宮周囲に強い種が集まったり上位種が生まれないよう、討伐し続ける必要がある。
自然界で生まれた魔獣や亜人種は、当然死体を素材として利用できるが、迷宮内の個体は基本的に斃されると魔石だけが残る。しかし、内部で十分に魔素を吸い、体を定着化させた個体は上位種となり、魔石のほかに特に魔力が高い部位がドロップアイテムとして落ちることがあるらしい、それは特徴的な角であったり、生体武具と呼ばれる、生まれた瞬間から身に着けている剣なり、盾なりである。
また、迷宮内で死んだ探索者の装備品や持ち物も迷宮に吸収されるが、それが迷宮の魔素を吸い、マジックアイテムとして迷宮内に吐き出されることがあるらしい、これは道端に落ちているわけではなく、迷宮内部の大部屋にある台座であったり、隠し通路の奥の祠などに出現するらしい。
何故このようなものが出現するのかは謎だが、研究者の中には迷宮にとって捕食対象である普人種や獣人種を、迷宮内部に引き寄せる餌だと言う人もいるし、遊戯だと言う人もいる。
「迷宮と探索者の命の取り合いか、思ったよりもシビアな関係な気がするな……」
そう呟き、見ていた書籍を閉じると、急に空腹であることを思い出す。
「お腹空いたし、明日の為の道具を買って帰るか」
明日のDランク昇級試験に備え、今日は早く寝るとしよう。