表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/307

173

10/15 誤字修正



 赤鼻の燃える右ストレートが俺の左側頭部を擦りながら真後ろの壁面に突き刺さる。

 赤鼻の主攻撃は格闘系――、その練度は俺のCQC(近接格闘)システムを上回り、ここまで三度も隙を晒して窮地を呼ぶことになった。


 これ以上、赤鼻と格闘戦を続けるのは不利だ……。腰のポーチからM84フラッシュバンを取り出し、片手でピンを弾き飛ばす。

 目の前で嗤う赤鼻と俺の中間にフラッシュバンを放り投げ、自爆覚悟で炸裂させた。


 赤鼻が間抜けな声を上げる瞬間、少しでも自爆の影響を軽減させるため、遮光機能と防音機能の発動を意識する。完全には遮断できないが、次の動きに繋げられるくらいには軽減できる。


 赤鼻と俺の視線が投げ入れられたフラッシュバン越しに重なり、そして爆音と閃光によって遮られた。 


「ぎぃやぁぁぁ!」


 目が潰れるほどの閃光と、鼓膜を破る爆音に続いて赤鼻の絶叫が路地に轟く。


 俺にもフラッシュバンによる状態異常が発生し、VMBのゲーム内で受ける影響と同一の視界の揺れ、音の聞こえ方に変化が発生する。

 俺が受けた状態異常と、赤鼻をはじめとしたこの世界の住人が受ける影響は根本的に違っていたようだ。


 この世界の住人は閃光や爆音など、発生した事象をそのまま受けるのだが、俺にとってはVMB装備の自爆としての影響しか発生しない。

 この程度にまで軽減できるのなら――、CQC(近接格闘)中に自爆覚悟で使用するのも面白いかもしれない。


 ウェルロッドを廻し、銃口を赤鼻の腹部へと当てる――、残弾は五発。


 トリガーを二連射し、フラッシュバンの影響に喚く赤鼻が腹部の激痛に、今度は開いた穴を押さえて正面を――、俺の顔を直視する。


「ヒッ、ヒッ! そ、それが面の下の素顔か、バケモノめ――」


 バケモノ――? 


 赤鼻の言葉に気づかされた。フラッシュバンが炸裂した影響だろうか? いや、あの赤鼻の右ストレート――、わざと外した狙いは俺のベネチアンマスクを破壊するためか……。


 足元に黒豹のベネチアンマスクが燃え落ちているのが見えた。


 つまり、赤鼻の目の前にあるのは……。アバターカスタマイズのフェイスペイントにより偽装されたシャフトの素顔、皮膚は赤く変色し、眼球は白く濁り、左目の周囲の皮膚は爛れ、目玉が大きく剥き出ている。

右側の上皮は無く、顔の表情筋があらわになっており、顔の上部である額部分も火傷の様に爛れ、禿げ上がっている。


 だがまぁ、この偽装の素顔を見られても何も影響はないだろう。むしろ――


「俺の素顔、見せてやったぞ。“お前が”死ぬ前にな」


 フラッシュバンの影響と腹部へのダメージで完全に動きが止まり、俺の前に跪く赤鼻の額へとウェルロッドの銃口を当てる。


 これで、ピエロどもはぜんめ――


「させんぞ、バケモノぉー!」


 銃口を当てた赤鼻の頭部の向こうに、ノッポが突き込んで来るのが見えた。


 胸に開けたはずの穴を回復させたか――、だがお前ともこれ以上格闘戦をする気はない。


 直上へジャンプし、背後の壁を蹴ってノッポの槍の届かない高度で上を取る。


 ノッポを追い越し、反対側の壁を再度蹴ってさらに高度を取る。路地を構成していた建物はともに石造三階建て、七~八メートルほどの高さを維持するように壁面を交互に飛び、真下でこちらを見上げるノッポへとクロスヘアを合わせ、二連射。


 一発は槍を破壊しながらも弾かれたが、もう一発は右鎖骨付近に着弾し、ノッポの動きが止まる。もう一度壁を蹴り、最後の残弾一発をその頭部へと撃ち込みノッポは完全に沈黙した。


 マップの光点が消えたことを視認する。これで回復して戦線復帰することは二度と不可能だろう。

 路地に着地し赤鼻の様子を確認する。奴は未だ腹部からの出血を両手で押さえ、こちらを睨みつけていた。だが、俺の視界に浮かぶマップには赤鼻以外にも注目すべき光点が映りだしていた。


『こちらから爆発音が聞こえたぞ!』


『各商店の出入り口を堅めろ!』


『副団長に伝令を出せ! 騎士隊前へ、魔法隊は後ろだ』


 どうやら、王都の防衛を主任務としている第四騎士団が集結し始めているようだ。こちらへ多数の光点が接近してきている。

 残弾がゼロとなったウェルロッドVer.VMBを腰に戻し、AS_VALを前に廻して安全装置を解除する。


 さて、六人のピエロも未だ気絶している青帽子を含め、五人を無力化。最後の一人となった赤鼻も早々に無力化し、大魔力石ダンジョンコアを回収してこの場を離れよう。

 コティは……、面倒くさいな、路地に引っ張り出しておけば騎士団が処理するだろう。


 ピエロたちとの戦闘が激化してから、すっかり忘れていたが、コティと大魔力石はゴミ集積庫の中に未だ入ったまま――


ドゴンッ!


 コティと大魔力石を放り込んだゴミ集積庫の内部から、全力で蹴りこむような音が響いた。

 思わず、俺と赤鼻の視線がそちらへ向く。ゴミ集積庫からは何度も内側から音が鳴っている。これは……コティが目を覚ましたようだ。


 集音センサーがコティの叫びを拾っている。「臭いニャー! 暗いニャー! ここどこニャー!」と喚き散らしながら狭いゴミ集積庫内で暴れているようだ。


 コティの叫びが一旦止み、静かになったかと思った瞬間。ゴミ集積庫の蓋が内部より噴き上がる水柱に吹き飛ばされ、同時にコティが飛び出てきた。


「や、やっと出れた……ニャン?」


 コティはびしょ濡れの服に汚臭を纏い、周囲を見渡して固まった。


 それはそうだろう、彼女の周囲にはアフロと禿げピエロの死体が転がっている。少し離れた位置には頭部を撃ち抜かれて、誰ともわからないデブピエロの死体もある。

 そして、生きている者と言えば腹部から血を垂れ流す赤鼻に、ゾンビフェイスを晒している俺だ。


「こ、これは一体なにニャン? シャフトはどこニャ、大魔力石は――?」


 大魔力石は汚水まみれになっているよ……。ゴミ集積庫の中は、コティが魔法で生み出したであろう水が満水になっていた。それが中にあった生ゴミを攪拌かくはんし、汚臭をこちらにまで届かしていた。


 しょうがない――、赤鼻の前にコティにはもう一度眠っていてもらおうか。


 AS_VALを右手だけで保持し、左手で特殊電磁警棒を抜いて軽く振る。


 コティは自分に向かって歩いてくる俺の動きに、一歩……、二歩と後ずさるが、直ぐに壁面に背が触れる。


「ニャ……」


 コティは観念したのか、それとも何かのチャンスを窺っているのか、上下左右に視線を廻し、俺の後方に蹲る赤鼻で動きが止まった。

 その赤鼻も近づいてくる喧噪に気づいたのか、路地の出口へ向け――


「た、助けてくれぇ! バケモノに襲われているんだぁ!」


 はぁ?


 横目に動向を監視していた赤鼻が発した言葉は、俺が想像していたものとは全く違っていた。


思わずそちらへと振り返り、先に赤鼻を黙らせるべきか? と考えたが、これに便乗してコティも行動を開始していた。


「~~~、~~~、――」


 また眠りの霧スリープ・ミストか? それならば俺には通用しない、やはり赤鼻を先に無力化し、それからコティを捕縛する。

 AS_VALをダウンサイトし、未だに俺のことをバケモノだの、殺されるだの、叫んでいる赤鼻の後頭部へとクロスヘアを合わせ――


「――~~、跳躍リープニャン!」


 なに? 


コティの魔言詠唱は眠りの霧ではなかった。


改めてコティへと振り返ると、コティの足元に旋風が巻き起こり、次の瞬間には上空へと打ち上げられていた。


「この屈辱、忘れニャいんだからー!!」


 その一瞬の動きに俺は、集音センサーが微かに拾った叫びを聞きながら、遥か上空を放物線を描いて飛んでいく姿を見送ることしかできなかった。


「中央第四騎士団だ! 今すぐ戦闘行動を中断せよ!」


 もう来たのか……、マップを確認すると路地を塞ぐように光点が集まっていた。


「助けてくれぇ! バケモノに突然襲われ……」


「奥の貴様! こちらへゆっくりと振り返れ、魔言の詠唱、スキルの発動を認めた場合は即座に対抗処置を取る。両手を上げ、舌を出してこちらへ向け!」


 騎士団と事を構えるのは不味いだろう。ここは大人しく従っておくか……。


 指示された通りに、ゆっくりと両手を上げて振り返る。“舌を出して”と言うのは魔言を詠唱させないためだろう。左手には電磁警棒を握ったままだが、武器を置けとは言われていない。


「おぉ……」


「亜人種か?」


「アンデッドにも見えるぞ」


 俺のゾンビフェイスをみた騎士団員たちにざわめきが起こる。だが、俺も振り返った先に見たものに驚いていた。

 路地を塞ぐ騎士団員たちの先頭に立っていたのは、覇王花ラフレシアのサブマスター、フェリクス・メンドーザ。そして、その後方には山茶花サザンカのマスター、シプリア・アズナヴール子爵の姿が見えていた。


 フェリクスは王族の護衛に就いたのではなかったのか? 騎士団に任せて怪盗“猫柳”の捕縛を優先したのか? それに、なんでこの場に山茶花のマスターがいる?


 予想外の人物に状況が見えてこないが、それは赤鼻も同じだったようだ。いつの間にか喚くのを止め、腹部を押さえたまま固まっていた。

 そして、フェリクスが騒めきが止まらない騎士団の一歩前へ出てくる。


「アンデッドと……ピエロに偽装した盗賊か。共に王都に存在してよいものではないな」


 そう呟いたのが聞こえたと同時に、フェリクスは腰の帯剣を抜き放っていた。


 微かに見えた剣線が捉えたのは赤鼻の頭部。それがスキルなのか剣技なのか俺には判らないが、赤鼻の頭部が下顎を残して横断され、斬り飛ばされた上部は燃えるように消えていった。


 剣を振り切った体勢で動きを止めていたフェリクスが、ゆっくりと構えを上段に移行させる。

 その手に持つのは西洋剣ではなく、紛れもない刀だった。依然見かけた刀に似せた片刃剣でもなく、白銀の刀身に現れる雷光のような刃紋。


 その上段に構えた切っ先に、雷光が宿るのが見えた。


「『雷斬り』」


 振り降ろされた刀から発したのは、路地を埋め尽くす程の雷光。打たれる、と察した瞬間に電磁警棒を捨て、片膝状態に体勢を屈めてCBSサークルバリアシールドを展開した。


 視界が光に包まれ、瞬時に遮光機能が作動した。そして、少しだけ遅れて聞こえる雷鳴。

 CBSのエネルギー値は一瞬で半分以上も吹き飛び、集音センサーも防音機能が作動するほどの轟音だった。


まだ終わらない。不可視のバリアの向こうで、フェリクスが動くのが見えた。


『ダッシュ』よりも速い動きで俺との間合いを詰める。しかし、その動きは見えている!


 CBSを即座に格納し、振り下ろされるフェリクスの刀を、下から弾き返すベストなタイミングで再度展開。

同時に、右手だけでAS_VALのクロスヘアをAimし、下から急所――心臓の位置へ合わせ、トリガーを引く。


「そこまでだ!」


 だが、俺とフェリクスの攻撃はお互いには当たらなかった。この一瞬で距離を詰めたのは、フェリクスだけではなかったのだ。


 フェリクスの振り下ろされた刀を、右手に持つ真紅に燃える炎のような大剣で受け止め、心臓を狙った俺のAS_VALを左手で抑え込み、銃弾は路地を弾いて消滅した。


 そう、俺とフェリクスの間に割り込んだのは山茶花のマスター、シプリア・アズナヴールだった。

 


使用兵装

サークルバリアシールド(CBS)

VMBオリジナルのバリアシールド、左人差し指の付け根に展開スイッチがあり、エネルギーが続く限り、VMBではあらゆる攻撃を防ぐ円盾状のバリアを張れる。消費したエネルギーは時間による自然回復もしくは回復アイテムで回復させる。


M84フラッシュバン

爆音と閃光により、相手の視覚と聴覚を一時的に麻痺させ無力化させる特殊手榴弾。


特殊電磁警棒

VMBのオリジナル近接武器。護身用の市販されているスタンバトンの改良型で、伸縮する細身の円柱警棒タイプのデザイン、伸ばすと70cmほどになる。

 先端部分を相手に押し付け、グリップのスイッチを押せばスタンガンと同じように電流が流れ、相手を一時的にスタンさせる効果がある。


AS_VAL

ソ連のスペツナズという特殊部隊向けに開発された特殊消音アサルトライフル、使用弾薬は9×39mm弾で発射速度が遅い代わりに非常に高い消音効果を発揮する。しかし、装弾数は20発と少なく、サイレンサー持ちという特殊性能と天秤を合わせている。



・仕事忙しいので、次話は少し遅くなるかも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
さっさと進んでくれ。。。
[一言] あーもう ストレス溜まる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ