表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/307

169



 王競祭最終日、俺とマルタさんで出品した大魔力石ダンジョンンコアは白金貨百五十枚と言う過去最高額で落札された。

 その結果に、会場であるハイラシアの盛り上がりが最高潮に達した。しかし、そのタイミングで行動を起こしたのが、怪盗“猫柳”。


 拍手喝采に包まれた会場に広がったのは、状態異常魔法『眠りの霧スリープ・ミスト』。

 買い手として参加していた貴族たちが瞬時に対応を図るが、ハイラシアのスタッフたちは大魔力石を退避させることを選択し、移動を開始した。


 だが、そのスタッフの中には“猫柳”の一員と認定されていた『平穏の都亭』の従業員、コティの足音も混ざっていた……。




 俺はハイラシアの二階に位置する出品者用の観覧席から、一階へと飛び降りた。



「なっ! 貴公何のつもりだ!」


「“黒面のシャフト”!」



 突然上から飛び降りてきた俺の行動に対し、着地地点の近くで魔法障壁を張って動きを止めていた参加者たちが声を上げた。

 しかし、一々説明しているわけにはいかない。視界に映るマップでは、スタッフたちの集団がどんどん遠くへと進んでいる。


 大魔力石にはGPSトラッキングダーツによって超小型発信器が付いてはいるが、何かの拍子で外れる、もしくは道具袋の中に入れられて追跡不可能になる可能性がある。

 俺自身が道具袋を使用できないので、発信器が道具袋内に入った場合のテストをしていなかった。

 そのことに今頃気づくなんて……。追跡不可能になった場合を考えると、コティの位置を常にマップに収めている距離を保つのが好ましい。


 そのためには、すぐにでも追跡を開始しなければならない。



「シャフト!」



 周囲の声に、俺が下へと降りたことに気づいたオフィーリアが近づいてきた。



「オフィーリア、コティだ。宿で部屋付きだった女がハイラシアのスタッフに紛れ込んでいる」


「確かか?」


「間違いない。俺は彼女を追う」


「私も行こう――と言いたいところだが、第四騎士団に私の剣を取りに行かせている。シャフトは武器を持たずに追うのか?」


「あぁ、俺にはその心配はない。ついて来られないなら俺は行くぞ」



 スタッフの集団はもうすぐマップの表示範囲に収まっているハイラシアの建物内のかなり端に位置している。これ以上は離れるわけにいかない。



「シャフト様!」



 オフィーリアに背を向け、スタッフが通って行った舞台袖へと歩を進めようとした瞬間、貴賓室から退避しているはずのミネアの声が聞こえた。


 いや、正確には護衛が集結完了し、今から退避するのか……。


 声がした方向――、貴賓室を見上げると、こちらに手を振りつつも部屋を出るように促されているのが見えた。

 ミネアと名も知らぬ学院の制服を着た少年と少女、そして第四王女がこちらを見ていた。


 その第四王女の方に一人の男性が手を置いた――、クルトメルガ王国の現国王……。

 俺の正体を、俺が『魔抜け』ではなく、『枉抜け』であると知るであろう数少ない人物。



「陛下、お急ぎください」


「うむ――、ゆくぞ、シリル」


「は、はい。お父様」



 ほんの一瞬だけだが、国王と目が合った気がした。しかし、その直後に後ろでささやかれた声。もうこの声は記憶した、覇王花ラフレシアのサブマスター、フェリクスだ。


 フェリクスはこちらを見下ろすことはなかったが、俺もそんなことを気にしてはいられない。

 一階の会場に蔓延していた眠りの霧の勢いは止まり、魔力障壁に押しやられるようにして霧散し始めている。


 貴族たちの冷静な対応に小さな混乱で済んではいるが、商人たちの動揺が収まるにはもう少し時間がかかるようだ。

 大きな声にこそ出していないが、「私が落札した大魔力石はどうなるんだ?!」と、ヤミガサ商会の会長周辺に集まって、何やら話し合いをしている声が聞こえる。



「オフィーリア、コティはハイラシアの北へ向かっている。付いてくるならその方角を目指せ」


「わかった。私もすぐに向かうからな」



 周囲を気にするのも、お喋りをするのもここまでだ。マップに意識を割きながら、現在地からスタッフの集団までの道筋を確認し、俺はその後を追い駆け出した。






 超小型発信器とコティたちスタッフの集団を追跡し始めてすぐに、集団は動きを止めた。

 そこが目的地か? と考えたが、どうやら違うようだ。マップに表示される地形はただの通路、部屋があるわけでも階段があるわけでもない。唯一そこにあるのは、外部へと繋がる窓があることぐらいだろう。


 そして、光点が一つだけ窓を通って外へと移動していく。他の光点は通路に留まったままだ。


 視界に浮かぶマップで最短距離を確認しながらハイラシアの内部を駆け抜ける。この角を曲がれば光点が留まっている位置が見えるはず――?!


 角を曲がった先で見えたのは、スタッフたちが床に倒れている姿だった。



「大丈夫か!」



 すぐに駆け寄り、倒れているスタッフの一人を抱え起こすが……。



「すぅ~~……」


 寝ているだけだった。……抱えていたスタッフから手を放し、念のためと他のスタッフの様子も確認する。


どうやら全員寝ているだけのようだ。ここから移動した光点は一つだけ。つまり、眠りの霧を使ったのはコティと言うことか。


 スタッフたちに命の危険はないだろう。ハイラシアの外へと移動した光点は、その速度を上げて動き出している。まさか走って逃亡するのか?


 どこへ向かうつもりなのかは分からないが、逃がすわけにはいかない。


 窓をくぐってハイラシアの外へと足をつく。コティとの距離は百メートルほどか……、逃げる光点は全速力で走っている移動速度ではないが、歩くよりかは早い。周囲に怪しまれることを避けるために早足で移動いているのだろう。


 TSSタクティカルサポートシステムを起動し、服装をテールコートからドイツ軍親衛隊の黒服へと変更する。さすがにテールコートで走っては動きにくいし、こちらも目立ちすぎる。マスクは黒豹のベネチアンマスクのままだが、これはこのままでも問題はないだろう。


 武器に関してだが、王都内で銃器を発砲するわけにはいかないだろうから、オークション開始前に召喚した装備で追跡を続行することにする。


 準備を手早く済ませ、マップの端に到達しそうになる光点を範囲内に収めるようにして再び駆け出した。




 コティが逃走ルートに選んだのは、ハイラシアへと繋がる大通りだった。大通りには露店が立ち並び、所狭しと王都の民たちが王競祭を祝い騒いでいた。

 その喧騒を縫うように駆け抜け、コティとの距離を縮める。


 建ち並ぶ露店の間で行われている野良競売の人混み、大道芸を見て集まっている人混み、列を組んで練り歩くピエロたちを目の端に捉えながら、確実に光点との距離を縮める……見えた!



 道行く人々とは一人様子の違う背中が見えた。その背中の持ち主――、コティは大通りから横へと道を変えるためか、建ち並ぶ建物の脇道へと丁度逸れていくところだった。

 不意にコティの顔がこちらを向く――、その視線が近づいてくる俺の姿を捉えた。



「なんでここにいるニャン!?」



 目を見開き、それだけ口にすると、コティは脇道へと駆け出した。


 しかし、気づくのが遅すぎたな。今更速度を上げたところで見失いはしない。




 コティを追い詰めたのは、それから十分ほど全速力で追い続けた頃だった。疲れることのない俺の体は、コティの揺さぶりも妨害も苦とせず追い続け、逆にコティがを上げて足を止めた。



「はぁ、はぁ、普人族が何で、そんなに、走れる――ニャン」


「残念だったな、走るのは得意なんだ」


「はぁ、はぁ……~~~、~~~~、~~、~~、眠りの霧スリープ・ミストニャン!」



 路地に追い詰め、息を切らせて座り込んだコティだったが、どうやらまだ諦めてはいなかったようだ。

 素早く詠唱された魔言からの魔法名の宣言。同時に差し向けられた手より放たれた白い霧が路地を覆い尽くすが、この魔法が魔力干渉型なのはハイラシアの会場ですでに分かっている。

 『魔抜け』である俺には全く通用しない、ただの霧だ。一時的に視界が霧に覆われ、コティの姿を視認できなくなったが、すぐに視界をFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードへと変更し、コティが逃げることなくその場にとどまっていることを確認する。


 この視界不良を逆に利用させてもらうか……、ショルダーホルスターに収めていたテイザーガンを抜き、安全装置を解除、赤く表示されているコティの腹部付近を狙いトリガーを引く。


 プシュッ! と言う空気の抜けるような音と共に、銃口部分に嵌められているテイザーカードリッジから二本の有線電極が射出され、コティの腹部へと着弾した。



「ニャン?!」



 何かが腹部に付着したことに気づいたのだろう。だが、驚くのはこれからだ。


 もう一度トリガーを引くと、マガジン部分のバッテリーから五万ボルトの紫電が有線電極へと向かって走った。



「ニャーーン!」



 突然の電撃に、コティは叫び声を上げて気を失ったようだ。テイザーガンの銃口部分からカートリッジを外すと、有線電極と共に光の粒子となって消えていく。

 術者のコティが気を失ったことで、眠りの霧もまた、霧散していった。


 これで一安心か、気を失い倒れたコティの手元から大魔力石の入った木箱を持ち上げ、さてこれからどうするかと考え始めた瞬間。



「ウヒッ! 大規模な火属性魔法を使うとは聞いていたが、希少な雷属性魔法まで使えるのだなぁ~」



 背後から聞こえた奇怪な声に振り向くと、そこに立っていたのは六人の――、ピエロ。



「マスターからはこれで終わりにしろと厳命されているのでなぁ~。グフゥ! 今回は数を連れてきたぜ、シャ~フ~ト~ちゃ~ん」



 白塗りの顔に赤い大きな鼻、そして目元や眉をカラフルにペイントしたピエロたちが不気味に嗤う。 


 まさかこのタイミングで襲ってくるか……覇王樹サボテン





 


使用兵装

テイザーガン

スタンガンの一種でハンドガンに似た銃型でトリガーを引くと銃口部分から二本の有線電極を飛ばし、着弾した相手に五万ボルトの電流を流し、動きを止める非殺傷兵器。射程距離は約八メートル、一発射出するごとに電極が格納されている銃口部分のカートリッジを付け替える必要がある。実在のテイザーガンは電流を受ける体に紫電など走りはしないが、VMBのテイザーガンは演出として紫電が走るグラフィックが見える

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ