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 王都の大通りに立ち並ぶ早朝の露店で朝食を摂り、今日から始まる王競祭の始まりを今か今かと待ちわびる王都の民たちを横目に、俺はマリーダ商会へと向かっていた。


 マリーダ商会の商館前は、今日も早朝の納品を迎えているところだった。数台の荷馬車が、商館一階の荷受け所を兼ねる駐車場へと順番に出入りしている。

 それを朝から警備している護衛の一人が俺に気づいた。



「あんたはたしか、商会長の友人の――」


「Dランク冒険者のシュバルツです。商会長はもう出発してしまいましたか?」


「いや――、まだ商館にいるが……?」



 商館の外で護衛として立っていたのは、狐系の獣人族の女性、金髪のアルムだった。シャフトとしては繋がりがあるが、シュバルツとしては会話をしたのも初めてだ。


 どこかにシャフトの面影でも見たのだろうか? アルム自身、何に引っ掛かりを覚えたのかを理解できないような表情を浮かべ、首をかしげながら、「案内する」と言って、商館の中へと歩いて行った。俺もそれに続き、商館のいつもの応接室へと向かった。






「おはようございます、シュバルツさん」


「マルタさん、おはようございます。すいませんね、朝から来てしまって」



 応接室に通され、椅子に座って一人で待っていると、すぐにマルタさんがやってきた。ここまで案内をしたアルムは、そのあとすぐに荷卸しの護衛へと戻っている。



「いえいえ、シュバルツさんでしたらいつ来ていただいても構いません。それで、確か三日目の朝という話でしたが、今日から王競祭に参加されるのですか?」


「いや、朝からお邪魔したのはその件ではありません。実はマリーダ商会で探してもらいたいものがありまして」


「ほぅ、魔道具ですか?」


「いえ、探してもらいたいのは家、もしくは倉庫です」


「邸宅ですか! 当商会でもいくつか不動産物件を扱っていますよ。どのような邸宅をお探しなのですか?」


「いやいや、邸宅である必要はないんです。そこで必ずしも生活をするわけではないので……、条件としてはそうですね……」



 マルタさんに伝えた条件はいくつかあった。人通りの少ない、もしくは目立たない場所にあること。一定の広さを持つ、地下室を持っていること。火災などで燃えにくい石造建築であること等々、探してもらいたい物件の細かい条件や設備を伝えた。



「ふんふん。そう致しますと……、住居としての邸宅と言うより、商館か作業所の方が条件に合うかもしれませんな。生憎と、当商会で売りに出している不動産物件は邸宅ばかりですが、第二区域の外れに私が商人として最初に店を開いた建物があります。石造で地上二階、地下一階の小さな商館ですが、シュバルツさんの条件には殆ど一致するかと思います」


「マリーダ商会の一号店ということですか?」


「そうですね……もうずいぶんと昔の建物ですが、今でも定期的に人をやって掃除させています。商館としてはすでに利用しておりませんが、一階の店舗部分はいつでも使えますよ。二階は事務所になっています。地下室が倉庫で、ご要望通りの広さと高さがあると思います」


「しかし、現在も保有されているほどに思い入れのある商館なのでは?」


「確かに……、私の商人としての出発点であり、原点です。今ではクルトメルガ王国でも有数の大商会などともてはやされる事もありますが、初心を忘れず商売の何たるかを思い出すための物として、手放さずに管理してきました。ですが、商館は使われなくては商館たり得ません。シュバルツさんがどのようにご使用になるのかはお聞きしませんが、貴方に使っていただけるなら、あの商館も喜びましょう」


「――わかりました。ありがとうございます、その物件を購入させていただきます」


「そう言っていただけると私も嬉しいですが、まずは商館をその目で確かめてからにしましょう。私はそろそろ王競祭へと向かわなくてはなりませんが、マリーダに案内をさせましょう」



 拠点となる物件の候補は見つかった。話がついたところで、お茶をもって応接室へやってきたマリーダさんに、マルタさんが事情を話し案内をしてもらうことになった。

 一号店だった建物を俺に譲ると聞いたマリーダさんの表情は、一瞬だけ驚きの顔を見せたが、すぐに笑みを浮かべ頷き返していた。


 マルタさんはそのまま王競祭へと向かっていったが、マリーダさんは応接室に残り、これから見に行く物件の概要の説明を受けた。

 説明を聞いている間に馬車の準備をしてもらい、用意が完了したところで早速に向かうこととなった。


 マリーダ商会の商館前に停まっている馬車の御者台には、アルムが座っていた。そう言えば、双子の妹のシルヴァラの姿が見えないが、どこか別の場所にいるのだろうか?



「アルム、場所は分かりますね?」


「大丈夫だ、奥様。メイドたちを連れて何度か行ったことがある」


「それなら安心ね。それではシュバルツさん、行きましょう」


「えぇ、お願いします」



 馬車に乗り込むときに一瞬だけアルムと目が合ったが、すでにアルムは違和感を覚えていないようで、乗り込むのを確認しただけのようだった。


 王都は広い。同じ第二区域内と言っても、王都の中心街に位置するマリーダ商会から、外れに位置する古い商館までは、馬車を使っても結構な時間がかかった。

 視界に浮かぶマップを見ても、まだ俺がマッピングしきれていない、王都の外周付近へと進んでいくのが分かった。光点の数も減り、中心街とは全く違った雰囲気に変わっていく。



「外側はだいぶ静かですね」


「分かりますか? それでも、昼過ぎから夕方はそれなりに賑わいます。この辺りの商館や店舗は、個人で商いをしている駆け出しが中心です。朝から昼過ぎまでは、自分で売るものを獲ってくる商人も少なくありません」


「マリーダさんやマルタさんも、昔は自分たちで狩りなどをしたのですか?」


「マルタは根っからの商人でした、あの人は野兎一匹も狩ったことがありません。ですが、私は元冒険者です。今は冒険者のギルドカードを返上していますが、当時はCランクまでランクを上げましたね」


「そうなのですか……。では、ミネアはマリーダさんの才能を継いでいるんですね」


「あの子は私以上の魔力があります。今日も学院の行事で王競祭の見学会員に選抜されて、シルヴァラを連れて出かけています」


「見学会? そんなものがあるんですね」


「えぇ、優秀な学院の生徒達が、王族の方々との謁見を許される行事です」



 商館までの道中で、そんな学院の行事の話を聞きつつ、馬車が目的地へと到着した。




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