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 ゼパーネル永世名誉宰相との会談は一応の終わりを見た。『魔抜け』と言う一つの事実から、『枉抜け』という真実を知ること出来たが、同時にシュバルツ=シャフトと言う事実を認めてしまうことにもなった。


 食事にするのじゃー、と言って別の部屋へと移動するゼパーネル宰相の背を見つつ、視界のマップに映る光点で向かう先とアシュリー、シャルさんの二人がどこにいるかを確認する。

 向かう部屋の予想はついた、二人もそこにいる。確認するなら今しかない。



「ゼパーネル宰相。二つ、確認させてもらいたいことがあります」


「ん? なんじゃー?」


「私のことは、誰がどこまで知っているのでしょうか?」


「あぁ――、安心するのじゃ、『魔抜け』であることはまだしも、『枉抜け』とその意味を知っておるのは極々少数なのじゃ。更にはそちが『枉抜け』であることを知っておるのは、妾、ロンちゃん、それとロンちゃんが小僧に報告するじゃろうから、その三人じゃな」


「その……ロンちゃん? と言うのは、ロベルト・バーグマン宰相ですよね? 小僧と言うのは?」


「小僧と言うのは、クルトメルガ王国、現国王のことなのじゃ」


「国王……」


「そちは色々と情報を隠したいのじゃろうが、今日ここへ呼んだことで公になることは何もないのじゃ。ただまぁ、シャフトに関してはもう少し上手く誤魔化すのじゃ。使っている魔道具らしき武器で共通点を見出す者が妾以外にも出るのじゃ」


「ご助言ありがとうございます……。では、アシュリーやシャルさんは何も知らないと言うことで間違いないですか?」


「そうじゃな、そちが個人的に話したこと以外はアーちゃんもシャルちゃんも何も知らないのじゃ。じゃが――、アーちゃんがゼパーネル家の当主に座れば、色々と話すことになるのじゃ。で、もう一つは何なのじゃ、もう客間は目の前なのじゃ」


「――この屋敷のことです。クルトメルガ王国で、この建築様式は見たことがありませんでした。この屋敷の存在だけが異様に浮いています」


「この屋敷はな、あの御方のスキルによって生み出されたものなのじゃ。たしか、『まいほーむ』と言っておられたか……。破壊されない限り、微量の再生力によって常に修復をし続けているのじゃ。間取りや家具の入れ替えができないのは少し不便じゃが、妾が一人住むには十分な屋敷なのじゃ」


「「マイホーム」? なるほど、そう言うことか……」



 MMOと言う多人数同時参加型のRPGゲームでは、ゲーム内に自分の家を持つことが出来るシステムを持っている場合がある。VRFPSであるVMBには個人ルームが全てのプレイヤーに与えられていたが、このMMO系のマイホームシステムは高額なゲーム内通貨や、リアルマネーによって購入するタイプが多かった。


 そして、近年のVRMMO系のマイホームは、実在する、もしくは実在した有名な建築物をVR世界に復元したものであったり、自分で設計した家だったりと、幅広いニーズに応えられるサービスや種類があった。


 この屋敷もその一つなのだろう、購入したマイホームは決められた設置エリア内ならどこにでも設置できるのが主流だ。この世界に来たことで、設置エリアの制約が外れ、この場所に設置することが出来たのだろう。

 建国王のプレイしていた、ESOと言うゲームの仕様は知らないが、自動修復機能を備えていたが故に、この時代まで残り続けていたわけか……。



「ここが客間なのじゃ、今日は昼食を摂って帰るのがいいのじゃ」


「ありがとうございます、頂いていきます」



 本当は他にも聞きたいことはたくさんある。現在、このクルトメルガ王国、もしくは隣国に俺と同じ『枉抜け』がいるのかどうか、過去に『枉抜け』として認知された人はどのような一生を過ごしたのか。だが、色々と話を聞くにはそれ相応の代償が必要になるかもしれない。

 ゼパーネル宰相が認めたのは、このクルトメルガ国内での自由な行動だけだろう。その“自由”の意味を取り違えてはならない。他国に行く場合はどうなるかわからないし、俺に何かしらの権威が与えられたわけでもない。

 『枉抜け』に関する情報は相当に機密性の高い情報だろう。俺が『枉抜け』だからと言って、なんでも教えてもらえるはずもない。


 しかし、クルトメルガ国に留まっているうちは、ある程度は自由な行動が許されたわけだ。まずは国内の迷宮を攻略しつつ、この世界での足場を固めるのも悪くないかもしれない。



「お話は終わりましたか?」


「終わったのじゃ。この男は中々いい男のようじゃな、アーちゃん」


「ゼパーネルの庇護に加えるのですか?」


「それはこの男が妾の身内になってからじゃ。シュバルツ、早く入ってくるのじゃ、それとシャルちゃん、食事の準備じゃ」


「はいはい、分かりました!」


「「はい」は一回でいいのじゃ」



 連れてこられた客間は、客を迎える部屋と言うよりも、どこか一般家庭の和室の居間を思わせる空間だった。襖に囲まれた畳敷きの和室に、木製のテーブルが置かれている。

 この部屋には先ほどの応接室にあった座椅子はないようで、座布団とは言い難いが、一人用のクッションが置かれ、どうやらそれに座って過ごす場所のようだ。



「お疲れさま、シュバルツ。すぐに食事を用意するわ、そこに座って待っていてくれる?」


「ありがとう、アシュリー」



 テーブルはそれほど大きなものでもない、楕円形の四人座り程だろうか。俺に指定されたのはゼパーネル宰相の正面だった。



「ちなみにじゃが、料理は王城から運ばれてきたものじゃ。アーちゃんもシャルちゃんも、もっと花嫁修業をさせてやりたいのじゃが、彼女たちの両親が逝ってからはそうもいかなくてな。そうか、大事なことを忘れていたのじゃ」



 そう言うと、ゼパーネル宰相はクッションに体を預け、だらけた体勢だったのを正し、テーブルを回って俺の横へと正座した。



「クルトメルガ建国より続く、ゼパーネル家宗主として、我が一族の敵を討ち滅ぼしてくれたことに礼を言う」



 幼女の容姿からは全く想像もできない凛々しい目の輝きが伏せ、ゼパーネル宰相は俺に頭を下げた。最敬礼とまではいかない浅礼ではあったが、その気持ちは十分に伝わった。



「お顔を上げてください、宗主殿。私が海棠カイドウのリーダー、カダを斃したのは一つの結果でしかありません。私がやらなくとも、アシュリーとシャルさんが必ず倒していたはずです。たまたま、私が先に戦端を開いただけの話です」


「それでも、なのじゃ。感謝する、シュバルツ・パウダー」



 視線こそ重ならなかったが、顔を上げたゼパーネル宗主の目には輝きが戻っているように見えた。立ち上がり、自分の席へ戻っていくところで客間にアシュリーとシャルさんが戻ってきた。



「お待たせー! まったくもー、宗主様もいい加減、メイドの一人でも屋敷においてよね」


「この屋敷に入れるのは一時的な客と、一族だけなのじゃ」


「シャル、早く運んで頂戴。シュバルツ、配膳台からテーブルに運ぶのを手伝ってもらえる? 思った以上に種類が多かったの」


「手伝おう」



 そうして準備された昼食は、まるで旅館で出されるような和風な小分けの料理たちであった。正確には日本料理ではないのだろうが、昔からある家庭料理ばかりなのだそうだ。たぶん、建国王あたりが伝えたものだろう。

 その後はもう、普通の昼食会になっていた。政治的な話も、『枉抜け』に関することも何もなしだ。他愛もない世間話をシャルさんが話し、それを宗主殿がキャーキャー聞いて、アシュリーがニコニコと微笑んでいる。


 そんな昼の一時を過ごした後、屋敷の倉庫へと転送魔法陣と模写魔法陣を予備も含めて入れて置き、調査と調整を待つこととする。それが済めば、魔法陣は俺のものとなり大手を振って使えるようになるわけだが、入手の経緯が特殊なこともあり、周囲に喧伝できるものでもないだろう。


 と言うよりも、VMBの個人ルームとつなぐのだから、他の人に使わせるわけにもいかないが。

 個人ルームにこの世界の人物、生物が転移できるのかも確認はしたいし、出口の安全を確保するために、どこかに家か何かを持つ必要もある。この辺りはマルタさんに相談するか……。

 そんな事を考えながら、王城を後にし、シュバルツからシャフトへと姿を変えるために、王都の外へと向かった。明日からはいよいよ王競祭が始まる。俺の出品する大魔力石ダンジョンコアを狙う、怪盗“猫柳ネコヤナギ”の正体こそまだ正確にはわかっていないが、誰が来ようとも盗らせはしない。






一年で一番忙しい、夏のお盆を通過。もうちょっとだけ忙しい日々が続くのと、

明日からBO3のβ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話は面白い 迷宮攻略とか街での描写が面白い [気になる点] >手伝ってもらえる? 恩人を呼びつけて昼ごちそうしようというところで配膳手伝わせる…? そりゃアシュリーにとってはもう身内気分な…
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