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マルタさんと共に城塞都市バルガへ戻ると、俺はまずギルドへと向かい、依頼の達成報告をする事にした。マルタさんに売却するダイアー・グラスウルフなどについては、明日マリーダ商会バルガ支店でマルタさんと再び会うことにし別れた。 夕方の総合ギルド別館へと入っていくと、そこは今日の稼ぎを清算する冒険者達で溢れていた。
多いなぁ、とりあえず列の短い所に並んでおくか……受付カウンターの窓口は複数あるのだが、なぜか窓口に並ぶ列には差があり、やたらと長蛇の列もあれば、俺が並んだ列のように、数人しか並んでいない窓口もあった。
隣の列を気にしているうちに俺の番が回ってきた、どうやらこの窓口の担当はそうとう仕事が速い人のようだ。と思ったが、隣の窓口に視線を向けると、そこに座っているのは獣人族の可愛い女性受付嬢だった。
やはりギルドの受付嬢といえば美人、もしくは可愛い系の受付嬢だよな! 依頼や探索で生死のやり取りをした後は、心と目に癒しが必要だ、そして一時の語らいにより、命のやり取りで荒んだ心を静めるのだ。
隣の行列は、この受付嬢目当てのものなのだろう、その気持ちはよくわかる、可愛い受付嬢に自分のしてきた冒険譚を語り、感嘆を貰う、これは依頼の報酬とは別に貰える得難い報酬なのだろう、ではここの受付は……。
「ようこそ、おいで下さいました、受付のレズモンドです。ギルドカードと依頼書を御提示下さいませ」
そこに座っていたのは先日、ゴブリンメイジの帯を鑑定してもらったちょび髭老紳士のレズモンドさんだった。
「おや、シュバルツ様でしたか、お帰りなさいませ」
レズモンドさんは俺のことを覚えていたようだ。俺は今、なんとも言えない表情をしていることだろう。いや、決してこの人に不満があるわけではない、丁寧な対応に、確かな技術がある、素晴らしい職員なのだろう。
しかし、しかしだ……そんな俺の無表情の裏の激情をよそに、レズモンドさんはギルドカードと依頼書を確認しながら、流れるような優雅な手捌きで水晶の台座を操作している。
「ただいま戻りました、今日はこちらの受付なのですね」
その見事な仕事ぶりを見ながら、何とか正常に復帰した俺の精神力を褒めてやりたい。
「はい、この時間帯は大変混雑いたしますので、私も応援でこちらへ座っております。依頼はグラスウルフの討伐でございますね、討伐証をお願いします」
「ええ、全部で11匹分、それとダイアー・グラスウルフも狩ったのですが、これも牙で合ってましたか?」
ダイアー・グラスウルフの名に、レズモンドさんのちょび髭の端が、僅かに上がった気がしたが、それは見間違いだったのかもしれない。レズモンドさんは柔和なスマイルを崩さずに、討伐証を一つ一つ確認し、最後に一際大きなダイアー・グラスウルフの牙でその動きを止めていた。
「はい、ダイアー・グラスウルフも同じように牙でございます。確かにこれはダイアー・グラスウルフですね、さすがでございます、シュバルツ様。自然界でダイアー・グラスウルフに遭遇した場合は、例外なく群れであったはず、しかしシュバルツ様にお怪我をされた御様子は無いようですね。さすがはランクGでゴブリンメイジを狩るお方です」
「はは、たまたま少数で群れていたところを狙えただけですよ」
「ふふ、御謙遜を……。お待たせいたしました、依頼の達成を確認いたしました、お疲れ様です。報酬は合わせて銀貨16枚の16,000オルに、ギルドポイントが15。 ダイアー・グラスウルフの討伐証は、銀貨25枚の25,000オルに、ギルドポイントが200でございます。なお本年度の税金徴収で1,600オル頂いております、ギルドカードをお返しいたします」
~~冒険者登録証~~
ネーム シュバルツ・パウダー
年齢 24
出身地 VMB
主な使用武器 なし
主な使用魔法属性 なし
スキル なし
技能 なし
納税方法 冒険者報酬
ランク E(240/500)
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ギルドカードを確認してみるが、昨日の夜にでっちあげた血統スキル「Arms」が記載されている、なんてことはなかった。元々、血統スキルは記載されないのか、それとも俺自身がそうだと主張したからといって記載されるものでもない、そういうことなのだろう。俺は報酬を受け取り、レズモンドさんに挨拶し総合ギルドから宿へと向かった。
宿で夕食を食べた後はすぐに部屋に戻り、今日の依頼で消費したCPを確認していた。
「やはり消費速度が速いな、このままでは1年持つかどうか……」
現在、獲得の当てがないCPを今後どのように使っていくか、湯水の如く弾薬補充や備品購入へと回せば、貯めてきた多額のCPと言えども、安心できるものではなかった。
敵を斃してもクリスタルが得られない以上、何か別のもので代替できないかと考えるも、この世界において異物な立ち位置にいる俺には、それを考えても良い案は出てこなかった、唯一可能性があるのはこの魔石……。
俺は今日の依頼の帰りに、偶然遭遇したダイアー・グラスウルフから剥ぎ取った風の魔石を弄りながら、TSSのスクリーンモニターを左腕のガントレットから外し、一つのタブレット端末のように操作していた。
「思い切って銃器ではなく、数は多くないが近接攻撃用の武器を揃えておくか……いやしかし、素人に毛が生えているかも判らないレベルの技術で、魔獣や亜人種を狩っていくのは無理がある」
答えの出ない問題に、TSSをいくら弄りたおしても意味がないな。そう思い、TSSをオフにしようかと操作した時に、右手で弄っていた風の魔石が指から滑り落ちてTSSのモニタースクリーンに……沈み込んだ。
『 ERROR! このクリスタルはポイントに変換することは出来ません 』
変換をキャンセルしますか(Y/N)
「なに?! 魔石はやはりクリスタルのことなのか?!」
TSSのスクリーンモニターに出た見たことのないエラーメッセージに、俺は目が離せなかった。とりあえず変換のキャンセルを選択すると、スクリーンモニターに沈んだ風の魔石が、モニターの裏に落ちてきた。
つまり変換できる魔石をモニターに落とせば、クリスタルポイントとして獲得することができると言うことか? 俺はマガジンベルトンのポーチを漁り、俺が持っているもう一つの魔石、ゴブリンメイジから剥ぎ取った無属性の魔石を取り出した。これをスクリーンモニターに落としてみる。
『 Conversion! このクリスタルをポイントに変換しますか (Y/N) 』
きたー! 風の魔石は無理だったが、無属性なら変換できるのか!? 俺はすぐに変換を行い、獲得したポイント数値を確認したが……少ない、その数値はマガジン一本分ほどの数値だった。
「こ、これは……確かにCPは得られたが、魔石の入手頻度を考えると結局マイナスになる……いや、物資の補充と考えれば、全てを直接入手する必要はない。売買されている魔石を購入すると言う方法もあるか、しかしそうなると相当の金額になるんじゃないか……?」
アシュリーさんに聞いた話の中に、魔石をどう運用しているかと言う話もあった。魔石はこの異世界の様々な生活インフラを支えているらしい、同様に様々な魔道具を動かすエネルギー源でもある。
つまり、魔石は元の世界の電気であり、ガスであり、化石燃料であるのだ。それが手ごろな価格で提供されているとは考えにくい、しかしここ城塞都市バルガは迷宮に囲まれている……。
「そうか、迷宮か……アシュリーさんが言っていたな、自然界では魔石を入手するのは難しいが、逆に迷宮では斃した魔獣や亜人種は、すぐに迷宮に吸収されて姿形がなくなるが、そこには核となった魔石が落ちると……」
つまり、迷宮での活動を中心とすれば、自然と魔石が集まってくる。俺は冒険者よりも探索者になるべきか、となると早急にDランクへ昇級し、迷宮へ入る許可を得る必要がある。そこまで考え、気付くと時刻は日付が変わろうとしている。
明日はマルタさんのところへ行かなくてはならない、CPを入手する手段が判明したことに、まだ興奮が治まらないが、今日はもう寝るとするか。