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 王城へと繋がる吊り橋を進み、大きく開け放たれている城門をくぐる。


 クルトメルガ王国の治世の中心にして、最大の都市である王都に聳えたつ、堅牢のサンクチャ・グラーボ城。

 この城は王都の中心に在りながら、人工的に作られた湖上に建ち、高さ二十mにも達する巨壁に囲まれ、城と言うよりも要塞のように見える。

 建国史の資料によれば、この王城であるサンクチャ・グラーボ城の原型がまず建ち、ここに冒険者による自由と平穏の国を建国することを宣言した。


 それに賛同した、力ある、魔力ある冒険者たちが、先頭に立って周辺国と、魔獣と、亜人種と戦い、その国を認めさせ護り抜いた。

 やがて、最前線に立ち続けた冒険者たちを貴族として国家に迎え、そこから魔導貴族と貴族へと分かれていった。


 その建国からの歴史と共に在り続けたのが、この王城なわけだ。城門をくぐり、その先に立つ衛兵へとギルドカードを提示し、登城した目的を伝える。

 衛兵に待機所のような場所に誘導され、案内が来るまでそこで待つように指示をされた。


 城壁の内側は、緑の芝生と石畳の道が広がり、その先に幾つもの尖塔と宮殿のような建物が建っているのが見える。待機所の窓から見える限定的な景色を見ながら、視界に浮かぶマップに意識を割く。

 光点が一つ、こちらに向かってくるのが見えていた。俺を先へと案内してくれる人だろう。



「思ったより早く来たのね、シュバルツ!」


「こんにちは、シャルさん。案内してくれるのが貴女とは思っていませんでしたよ」


「一応、シュバルツが登城することは秘密になっているのよ。ジジイからも周囲に話すなって言われているし、っていうか、私はシュバルツが何しに登城したのか聞かされていないんだけど?!」



 ジジイって言うのは、ゼパーネル永世名誉宰相のことだろうか? たしかに、俺が海賊船団“海棠カイドウ”を潰し、本拠地にあった転送魔法陣と模写魔法陣を確保したことを伝えたのはアシュリーにだけだ。

 シャルさんは細かい事情は知らされず、俺と顔見知りだから案内役としてここへ来たわけか。 



「詳しい話はいずれ……。とりあえず、案内をお願いします」


「……そうね。ジジイもお姉様もあの人も、なーんにも教えてくれないんだから、まったくもー、まったくもー!」



 シャルさんがブツブツと愚痴を垂れながら待機室から出ていく。俺もその後に続き、待機室から出てシャルさんの背を追った。




 シャルさんの後を追うと、王城の中庭を横切り大きな宮殿を横目に、巨壁に囲まれた王城の敷地の、隅へと向かって歩いていくのがわかる。

 芝生だけの中庭から、樹木が立ち並ぶ庭園へと周囲の風景が変わっていく。俺の集音センサーに届いていた、王城のそこ彼処から聞こえる雑踏の声が、段々と聞こえなくなり、逆に音が明瞭に聞こえてきたのは、流れる水の音。


 平坦な石道はやがて石畳へと変わり、林の切れ間から一軒の家屋が見え――



「なっ!」


「ん? どうしたのシュバルツ?」


「い、いや……」



 思わず口に出た言葉がシャルさんに聞こえていたようで、彼女がこちらへと振り返ったが、俺はシャルさんを見ることは出来ず、その視線は林の切れ間から見える一軒家に釘付けとなっていた。



「あぁ、珍しい家でしょ。うちの宗主が作らせたっていう、『かわらやね』? って建物よ。もう四百年近く改修をしているから、なかはボロっちぃわよ」



 それは屋根の名前ですよ……。


 林の切れ間から見えている建物は、明らかな瓦屋根の木造建築平屋建て。近づいていくにつれ、視界に浮かぶマップに建物の全体像が映りだす。

 大きい、まるで武家屋敷かと思うほどいくつかの部屋が連なっているのが見える。建物の中に一歩足を踏み入れなければ、中の間取りまでは見えない。



「入口はこっちよ」



 シャルさんに誘導されるまでもなく、引き戸の玄関に向かい歩いていく。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 本宅にはあなたが知らない約束事が多いのよ! 破ったら物凄く怒られるんだから!」



 シャルさんが俺を追い越し玄関へと入っていく。玄関扉を引き、「ここでブーツを脱ぐのよ」と丁寧に教えてくれるが、俺のブーツはパワードスーツの追加ユニット、スラスターブーツを履いている。靴底に小型のスラスターが付いており、ジャンプ力強化や、高度からの着地の補助をしてくれる。簡単に脱げるものではない。


 シャルさんが玄関口に座りこみ、自分のブーツを緩めている背後にさりげなく回り込み、TSSタクティカルサポートシステムからアバターカスタマイズを起動する。

 スラスターブーツを外し、靴装備を『なし』にして、やっと俺の靴下らしきものを履いている足がむき出しになった。



「脱げた? 珍しいでしょ、この家はブーツを履いたまま入っては駄目なのよ」


「そうですね。この国に来て、このような家屋も仕来りも、初めて見ました」


「それはそうよ。だって、ここだけだもの」


「そうですか……」



 玄関に一歩入ったことで、一瞬にしてこの屋敷のマッピングが終了する。口型に配置された部屋と中庭、北東と南西に口型から突き出るように連結する部屋も見える。シャルさんが俺を案内していくのは、南西に突き出た部屋のようだ。たぶん、そこが応接室なのだろう。



「失礼します。Dランク冒険者、シュバルツをお連れしました」


「どうぞ」



 木板の廊下を歩き、その内部の意匠に息を呑み、目の前の障子にまた体が硬直した。そして聞こえてきたのは、アシュリーの声だ。



「失礼します。Dランク冒険者のシュバルツです。御呼びと聞き、参上いたしました」



 障子を引き中へ進むと、マップに映る光点の数と違わず、アシュリーと老齢の男性が座っていた。

 応接室と思われる部屋は畳敷きの和室、そこに木製の座椅子とテーブルが置かれ、上座に老齢の男性、その横にアシュリーが座り、下座にあたる部分に空席の座椅子が置かれていた。



「シャルロット、ご苦労じゃったな。ついでにお茶を持ってきてくれ」


「……畏まりました」



 少し不満そうにしながらこちらを一瞥し、シャルさんは廊下の向こうへと消えていった。



「よく来てくれたな、シュバルツ君。儂はこのクルトメルガ王国の宰相を仰せつかっておる、ロベルト・バーグマンじゃ」



 バーグマン宰相? ゼパーネル永世名誉宰相ではないのか。バーグマン宰相は小柄な普人族の老人で、小さな丸顔は厳つく、皺だらけで目も細い。厳格と言う言葉が人の形をしている。そんな印象が漂う老人だった。



「まずはそこに座りたまえ、君だけ立ったままでは話しにくい」


「それでは、失礼します」



 着席を促され、下座へと座りバーグマン宰相と向き合った。アシュリーはにこやかな顔で静かにこちらを見ている。基本的にバーグマン宰相と話をするということなのだろう。



「さっそくといきたいところじゃが、まずはお茶を待とう」



 待つまでもなく、俺の視界のマップにはこの部屋に近づいてくる、二つの光点が見えている。一つは足音からシャルさんだとわかる。もう一つの音は軽く、小さな足音……子供?



「失礼します。お茶をお持ちいたしました」



 障子を引き、シャルさんが入ってくる。手に持つのは盆とカップと急須、紅茶系ではなく緑茶系を持ってきたのか。

 そして、シャルさんの後ろから静かに入ってきたのは、まだ幼い少女だ。輝くような白い髪と、髪からはみ出る耳、白い肌――妖精族のエルフと思われる幼女が、トコトコと畳の上を歩き、部屋の隅にあった座椅子へと座った。



「ご苦労じゃった、シャルロット。後で呼ぶから下がっておれ」


「えー!」


「シャル……」


「……畏まりました」



 バーグマン宰相だけでなく、アシュリーにも退室を促され、シャルさんが渋々と応接室を離れていった。部屋に残ったのは俺とアシュリー、バーグマン宰相と……幼女?





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