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 VMBの射撃演習場から、マルタ邸の客室へと転移して戻ると、マップに客室の扉に張り付く光点が四つ浮かんでいるのが見えた……。そうか、転送魔法陣を停止状態にされると、出口が一ヵ所しかない現状では、VMBの世界に閉じ込められる可能性がある。

 転送魔法陣の存在を隠すことはもちろん、不意の事故も含めて防ぐためには、AN/GSR-9 (V) 1 (T-UGS)などを利用して、転送魔法陣に近づく者がいないかどうか常に監視するとともに、何か侵入を防ぐトラップを設置する必要があるな。


 VMBの世界に転移する危険性を認識しつつ、TSSタクティカルサポートシステムのインベントリからギフトBOXを召喚し、転送魔法陣と模写魔法陣を収納する。


 隠すべきものを隠したところで、足音を殺して扉へと近づく。そっと扉の鍵を外し、一気に扉を開いた。


「きゃっ!」、「わっ!」、「えっ!」


 室内へと開かれた扉と一緒に、三人の少女たちが雪崩を起こしたかのごとく転げ込んできた。

 そして一番後ろには、メルティアが一人立って酷く残念そうな顔をしている。



「だから言ったじゃないですか、ミネア様。シャフト様が気づかれないわけないと、怒られてしまいますよ、と」


「シャ、シャフトさまっ! こ、こんにち――こんばんはっ!」


「ミ、ミネア様どいて~……」


「プリセラ重いよ~!」



 足元に三重で倒れているのは、下からエイミー、プリセラ、ミネアの三人だ。ミネアは第一魔術学院の制服を着ていた……、視界に表示されている時刻を見れば、確かに帰宅をしていておかしくない時間となっていた。

 久しぶりの射撃演習に、思わず時間を忘れて没頭してしまっていたようだ。



「で、お前達は何をしていたんだ?」


「あ、あのっ、学院より帰宅しましたら、シャフト様がいらしていると聞きまして、ご挨拶をと扉をノックしたのですが、全く人の気配もせずに静かだったので、その……」


「申し訳ございません、シャフト様。奥様からはご用が終わるまで近づかないようにと言いつかっておりましたが……」


 頭を下げるメルティアと、三重の山の上で脱力して下に圧し掛かるミネアを見れば、怒る気も起きない。まぁ、部屋に入らなければ何も問題はない。



「死ぬ~~!」



 夕暮れの紅い光が差し込む客室に、エイミーの悲痛の叫びだけが響いた。




 その日の夕食は、マルタ邸でいただくことになった。学院の制服から家着へと着替えたミネアに連れられ、マルタ邸の食堂へと向かう。すでにマルタさんも帰宅しているそうで、食堂で待っているらしい。



 「シャフト様、ご用はもうお済ですか? なにやら昼ごろからずっと篭っておられたと聞きましたが」



 食堂ではすでにマルタさんとマリーダさんが席に座り、食前酒と思われるグラスを傾けていた。



「お邪魔しているよ、マルタ。お陰で色々と確認が取れて、助かった」


「それはよかった。それでは夕食にいたしましょう。それと、本日は王城へと上がっていたのですが、城内でお預かりしたものがありますので、あとでお渡しいたします」


「ん? わかった」



 その後はマルタ家と食事を摂り、今夜もミネアが眠気に負けるまで話し相手をし、学院での授業の話や、練魔の話などを聞いた。

 ふと、魔術学院と聞くと連想する、魔術大会のようなものはあるのかと聞いてみると、王都の魔術学院にはそのような大会や催しはないそうだが、北のドラグランジュ辺境伯領では、より力を持った冒険者を集めるために、武術大会を開いて国中の猛者を辺境伯領へと向かわせているそうだ。


 ミネアが部屋へと下がった後は、場所をマルタさんの個室へと移し、王城へ上がった時の話を聞いた。



「王城で、今回お届けに上がった荷の引き渡しを行なっていたところへ、ゼパーネル家からの使いがお見えになりまして、「シュバルツと連絡が取れるか?」と申されますので、できると。それで、こちらをお預かりいたしました」


 マルタさんが差し出す封書を受け取り、裏を見るとアシュリーのサインと、魔法印と呼ばれる封蝋のような小さな魔法陣が見える。この魔法印のデザインがゼパーネル家を示すものなのだろう。鈍い光を放つ魔法陣を破るように封書を開き、中の手紙を取りだした。



 簡潔に言えば、手紙の中身は呼び出しだ。アシュリーとその妹であるシャルさんは、王都へと到着してすぐに、ゼパーネル家の宗主であるゼパーネル永世名誉宰相の下へ向かい、海洋都市アマールでの海賊船団“海棠カイドウ”殲滅の報告を行なった。

 そして、アシュリーは海棠の本拠地で発見された転送魔法陣についても事前の話通りに報告し、まずは確認のために王城へそれを運んでほしいとの連絡だった。

 明後日には王競祭が始まる。となると、時間に余裕があるのは明日しかないな。



「明日、王城へ出向く。ミネアに明日の夕食は、一緒には摂れないかもしれないと、伝えておいてくれ」


「畏まりました。明後日の王競祭はどういたしますか、私は初日から買い手として参加は致しますが」


「……同行したいところだが、あまりマルタと一緒に行動しているところを周囲に見せると、良からぬ輩が近寄ってくるかもしれない。それに、三日目までに確認しておきたいことがある」


「左様ですか、それでは王競祭三日目の朝に、当商会までお越しください。三日目は馬車で売り手専用出入口から、会場であるハイラシアへと入ります」


「わかった。三日目の朝にまた来よう」



 王競祭までの予定を組み直し、俺はマルタ邸を後にし、「平穏の都亭」へと向かった。


 宿へ戻ってくると、フロントロビーのところにコティーとオフィーリアに付いていた少年エルフ、それと……コックだろうか? 白いコックコートを着て、手にはコック帽を持った男性と話をしていた。



『時間は?』


『大丈夫ニャン』


『道具は全て届いた』


『後は当日だね』



 どこの言葉だろうか? 小声で話をしていたようだが、集音センサーに届いた言語は俺が修得したオルランド共用語ではないようだ。それでも自動翻訳機が作動し、訳文が機械音声とともに俺の耳に響く。



『向こうの様子は?』


『かなり危険な状況らしい』


『でも、これで……また救えるニャン』



 玄関からロビーに入ってきた俺に気付いたようだ。コックと少年エルフは奥へと入っていき、コティーがこちらへやってきた。



「おかえりなさいませニャン。ご夕食の最終注文まで若干のお時間がありますが、ご用意いたしますかニャン?」


「いや、食事は摂ってきたので大丈夫だ。それより、明日の朝早くから依頼で王都を一時的に出る。帰りは日をまたぐかも知れないので、そのつもりでいてくれ」


「畏まりましたニャン」




 翌朝、日の出を迎えたとはいえ、まだ王都の城門が開かれたか怪しい時間から動き出した。装備を最小限にし、簡単な手荷物だけをもち出発の支度を整える。


 そこに、部屋へと近づく光点が映った。この足音はもう覚えた、コティーだ。



「おはようございます、シャフト様。出発前の軽食をご用意いたしましたニャン」


「おはよう、コティー。それを食べてから出発するとしよう」


「はい、本日のご朝食は、王都でも有名なパン職人の作りました出来立ての白パンでハムと野菜を挟んだ、サンドイッチです。古くからある名店のパンですニャン」


「ほぅ……、コティーは王都にあるお店について詳しいのか?」


「はい、美味しいと評判のお店は必ず確認しに行きますニャン」


「そうか、コティーは生まれもこの辺なのか?」


「はい、生まれた時から王都で暮らしておりますニャン」


「なるほど、では今度、美味しいお茶の飲めるところを紹介してくれ」


「畏まりましたニャン」



 そんな些細な会話をしながら、確かに美味しい朝食のサンドイッチを摂った。




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