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 マリーダ商会を訪れた俺は、商会長のマルタさんの妻である、マリーダさんの下へと案内された。



「おはようございます、シャフトさま。こちらに寄られるのは明日の夜と聞いておりましたが、何か急用ですか?」



 案内されたのは商会事務所の一室だった。マリーダさんに人払いを頼み、マリーダ商会を訪れた用件を話していく。



「実は、人目につかない部屋か、倉庫を短い時間でいいから借りられないか?」


「部屋か倉庫ですか? それでしたら、邸宅の個室をお使い頂いて結構ですが……」


「ありがとう、借りている間は誰も部屋に来ないで貰いたいのだが、それもお願いできるだろうか?」


「ええ、もちろんです。それではエイミーかプリセラに案内させますので、少々お待ちください」



 邸宅への案内に現れたのは、どちらか一人が来るのだろうと思われた少女たち二人だった。



「シャフト様、奥様に案内を頼まれましたので、ご案内致します」


「ちょ、ちょっと、プリセラずるいよ! わたしもシャフト様の案内するんだから!」



 この娘たちはいつも一緒にいるな……と、ケブラーマスクの下から少し微笑ましい思いで二人の様子を見ながらも、俺には至急確認しなければならないことがある。

 二人に案内を頼み、マリーダ商会からマルタ邸へと移動した。マルタ邸の客室へと案内された後は、二人に俺が出てくるまで中に入ってこない事を再確認し、当然ながらエイミーとプリセラの二人にも部屋の外へと促す。


 渋りながらも、「ご用がございましたら、すぐに御呼びくださーい」とアピールを忘れない二人を送り出し、客室に俺一人だけになったところで準備を始めた。


 客室に置かれているソファーやテーブルを動かし、転送魔法陣と模写魔法陣を並べられるだけの床面積を確保する。

 続いて、TSSタクティカルサポートシステムを起動し、インベントリからギフトBOXを召喚する。転送魔法陣と模写魔法陣を取り出し客室の床へと設置すると、魔法陣は淡い光を灯し稼働可能状態である事を示した。


 この淡い光については、事前にアシュリーに確認を取っていた。迷宮から持ち出した転送魔法陣とその模写魔方陣の利用には、空間属性の魔力を宿す、空魔石が燃料として必要になる。淡い光が灯っている間は十分な内包魔力を有していることを示し、転移が可能となる。これが消えた場合は転移が不可能なので、空魔石を魔法陣に吸収させて、魔力を補充する必要があるそうだ。


 準備は完了した。転送魔法陣の上に立ち、足元で揺らぐ淡い光を見つめながら



「転移」



 その言葉と共に、俺は前の世界とも、この世界とも違う、第三の世界へと跳んだ。






 光のカーテンが走り、視界を遮った瞬間に俺の目に映ったのは、今はもう、とても懐かしく感じるVMBのガレージの中だった。

 周囲を改めて確認すれば、足元の模写魔法陣は七十四式特大型トラックの荷台に載っている。すぐそばには、マルタ邸の客室へと跳ぶための転送魔法陣が淡く光っていた。


 俺がガレージに格納した時と同じ状態でガレージに置かれている。


 VMBのガレージは、一台につき一スペースの専用車庫だ。ここでは燃料ゲージや装甲ゲージの回復や、車両のカラーリングの変更などのメンテナンスや、TSSと連動させて車両を3Dモデリングのように回転させたりして、スクリーンショットの撮影などを楽しむことができる。

 ガレージの内装もそれに合わせて色々と変更はできるのだが、俺のガレージはウッドパネルを使用した木造風のガレージだ。


 七十四式の荷台から飛び降り、閉鎖されているガレージ空間が外とつながる唯一の扉へと向かって歩いていく。

 扉の前に立ち、スライドドアの横にあるキーパネルを操作する。ここから扉の向こうを変更できるのだが、個人ルーム、射撃演習場、ドックなどは選択できるようだったが、VMBのゲームミッションへと繋がるブリーフィングルームは選択できなかった。


 VMBの世界とつながっているわけでもなく、前の世界とも、いま生きている世界とも隔絶された世界、それが俺のVMBの世界だった。




 ガレージから俺の個人ルームへと移動先を選択する。目の前の扉が自動でスライドしていき、扉の向こうに繋がって見えるのは、懐かしき俺のルーム……。


 俺の個人ルームは、白い打ちっぱなしコンクリートの内装と、黒系のデスクにイスやテーブル、ソファーなどが置かれているシンプルなインテリアデザインにしている。

 この個人ルームでは、俺を含めて最大六名が入室することができる。とは言え、このルームでできることはそう多くはない、基本的にチャットや音声によるコミュニケーションをとるスペースだ。


 個人ルームでは、基本的な内装デザインの変更や、様々な家具を配置することができる。

 家具の少ない俺の個人ルームを見渡し、小さな書棚に入れてある雑誌を引き抜いてみたが、パラパラと捲ってみても中身はモザイク柄の絵と、読めない文字の羅列だった。


 VMBのゲーム内でのこの雑誌は、引き抜くことのできない固定オブジェクトだったので、引き抜けた事実だけを見ても、このVMBの世界が独立した新しい現実であると確認できた。

 次に確認したのはデスクの上に置かれているノートPCだ。このPCはTSSと同じ機能が内蔵されているほか、前の世界のインターネットにもゲーム内から接続できたり、フレンドや他人のゲームを俯瞰視点で観戦したりと、様々な機能があったわけだが……。


 TSSと同じ機能以外はERRORばかりで繋がる様子がない。唯一このPCだけから繋がったのは、個人ルームやガレージなどに関するSHOP機能だけだ。

 だが、これだけでも十分にありがたい。TSSのSHOPからは、家具や車両のカラーリング変更などの消費アイテムは購入できなかったからだ。他にもCPを消費して購入する、マテリアルBOXなどもここから手に入れることができる。


 このマテリアルBOXは、中に何が入っているかわからない福袋的なアイテムBOXで、最大で六個のアイテムが入っている。それは移動車両であったり、アバター衣装であったり、銃器類だったりと、様々だ。

 このマテリアルBOXの中からしか手に入らない銃器や移動用車両も数多く、ほとんどが限定デザインだったりするのだが、中には近未来レーザー銃のPHaSR(Personnel Halting and Stimulation Response rifle)といったレア銃も入っており、俺も当時は何度も購入したものだ。


 一つぐらい買ってみようかとも思ったが、資金を稼ぎ、CPを稼ぐために王都へやってきたのに、マテリアルBOXで散財するのは違うだろ……と、すんでのところで思いとどまった。


 個人ルームのチェックはこのぐらいでいいだろう。俺は再びスライドドアへと近づき、そこにあるキーパネルから次の部屋、射撃演習場を選択した。



 スライドドアで繋がる次の部屋は、木造の小さな小屋だった。この射撃演習場には俺一人しか入ることができない。


 まずは小屋の外へと出ると、そこはVMBが作り出した自然の小島だ。島内にはいくつかの射場があり、屋内・屋外射撃場に加え、火力演習場がある。海岸線はTSSのドックと連結されており、艦船の操縦訓練や艦砲射撃の練習なども行うことができる。

 空にも標的となる無人ドローンが巡回しており、対空射撃訓練や対空ロケット砲の発射練習などもできる。陸・海・空すべての武器が、模擬弾を使用することにより、残弾を気にせず撃ちまくることができる。


 今まで使ってきたVMBの射撃演習場がそのままに顕現していることを確認し、最後に最初の小屋へと戻ってきた。この小屋には攻撃力が全くない、練習用のマガジンが置かれている。

 この練習用マガジンは実弾タイプではなく、一種のエネルギー弾のような光弾が飛ぶ。射撃演習場では、標的に時間経過で消える弾痕を残し、装着された銃本体の装弾数に合わせてマガジン内の弾数を調整する機能を持つ。マガジンが設定した弾数を発砲した後は、リロードモーションを取るように、マガジンを脱着し直すと残弾が無限に回復する仕様となっていた。


 小屋に置いてある演習用マガジンを全種類用意し、ロケット砲用の演習用BOXなども用意する。VMBがゲームだったころは、この演習用マガジンを、射撃演習場の外に持ち出すことは出来なかった。

 だが、この新たな現実となったVMBの世界ならば……、演習用マガジンは何の抵抗もなく、TSSのインベントリへと収納することができた。


 これで外の世界でも演習用模擬弾を発砲できるだろう。何かで試射をしなければ、着弾時にどうなるかわからないが。

 視界に浮かぶ時間を確認すると、すでに数時間が経過していたが、もう一、二時間はここにいていいだろう。


 俺は演習用マガジンを取り出し、射撃演習場へと向かった。




 

繁忙期マジで忙しい。

少しの間、不定期更新でいきます、週2か3くらい? 投稿時間は20:00に固定しますが。

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