表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/307

153


 オフィーリア・ドラグランジュとの二人だけの夕食会は二時間ほど続き、コース料理の後はテーブル席からソファへと場所を移動した。グラスを傾けながら更に色々な事を話し、聞き、王国の最北端であるドラグランジュ辺境伯領の実情を聞けた。


 ドラグランジュ辺境伯領は、隣国ドラーク王国との間に標高の高い山脈が横断している。その山脈が保有する魔鉱石の鉱脈に誘われて、多数の魔獣・亜人種が徘徊し、山を降りて辺境伯領で暴れているそうだ。

 ドラーク王国との間に、一時的な休戦条約を結んではいるが、結んでいるが故に魔鉱石の鉱山を管理できず、魔獣・亜人種の好きにされているらしい。


 魔の山脈とも呼ばれるようになった国境線の山脈には、未発見の迷宮が育っている可能性もあるらしく。辺境伯領では、把握している迷宮討伐に加え、領内の治安維持にと一人でも多くの人手を欲している。

 オフィーリアには、迷宮探索を続けていくなら是非、辺境伯領の迷宮も候補に入れてほしいと頼まれた。


 そんな色気のない話が続いていたが、それに終わりを告げたのは、外に控えていたオフィーリアの女性護衛騎士だった。



「オフィーリア様、そろそろお時間です」


「もうそんな時間か。シャフト、私はここで下がらせてもらうよ。明日は朝から登城しなくてはならなくてな、もっと色々と話をしたかったのだが、それはまた次回にさせてもらおう」


「今夜は楽しかったよ。次は俺の秘蔵ワインを持ってこよう」


「ふっ、それは楽しみにしておこう」



 護衛騎士と共に出て行くオフィーリアを見送り、俺もコティに連れられ部屋へと戻った。



「シャフト様、明日からの朝食はどちらにご用意いたしますかニャン?」


「食事は基本的に部屋に用意してくれ」


「畏まりました。それではごゆるりとお休みくださいニャン」




 翌朝、朝食を運んできたコティに起こされ、リビングスペースに食事が用意されている間に顔を洗い、今日一日の予定を立てていく。


 王都へやってきた目的の王競祭は明後日から始まる。三日掛けて行われるオークション期間のうち、俺が会場に向かうのは最終日だけなので、自由になる時間はまだ数日ある。

 とりあえず、今日はこの部屋に留まり、王競祭に出品する俺の大魔力石ダンジョンコアを狙う、怪盗“猫柳ネコヤナギ”と対峙する時に備えての装備を確認する予定でいる。


 明日はマルタ邸に顔を出す事をすでに伝えてあるので、特に予定はないが。王競祭が始まったらどうするか、まずは買い手側で様子を見るのもいいかもしれない。


この先の予定を決め、洗面スペースから出て朝食が並べられているテーブルに付いた。


 

「コティ、今日はこの部屋で仕事をしているから、呼ぶまでは部屋に近付かないように」


「畏まりました。何か御用がありましたら、そちらの書机に置いてあります、鈴で呼んでくださいニャン」



 食べ終わった食器と共に、コティが下がっていくのを確認したところで、TSSタクティカルサポートシステムを起動し、アバターカスタマイズから当日に着ていく服装やマスクをチェックしていく。

 とは言え、ドレスコードは決まっている。テールコートや黒豹のベネチアンマスクをアバター衣装のセットリストを設定し、当日にすぐ着替えられるようにしておく。


 後は兵装だ、“猫柳”が大魔力石を狙ってくるのは分かっている。何かしらの兵装は必要だが、オークション会場であるハイラシアに入場する時には武器の持込をチェックされる。

 刃物の類は無理だろう。だからと言って、銃器は異質すぎて逆に目立ってしまう。インベントリに並ぶ数々の銃器の中からまず取り出したのは、GPSトラッキングダーツ。


 これはGPS発信機を撃ちだして、対象の位置を常にマップに表示させる事ができるようになる。ハイラシアで“猫柳”を捕縛できない状況になった場合、最低でもGPSトラッキングダーツで逃亡先を把握できるようにするのが目的だ。

 戦闘になった場合の緊急用兵装として、擬装できるFMG-9をまず選択し、次に“猫柳”の捕縛を優先とした銃器として、テイザーガンを取り出した。


 テイザーガンはスタンガンの一種で、ハンドガンに似た銃型でトリガーを引くと銃口部分から二本の有線電極を飛ばし、着弾した相手に五万ボルトの電流を流し、対象の動きを止める非殺傷兵器だ。射程距離は約八メートル、一発射出するごとに電極が格納されている銃口部分のカートリッジを付け替える必要がある。


 他の銃器と比べ、発砲音が控えめなテイザーガンは、射出の瞬間よりもその後の電流による紫電に注目がいくだろう。

 実在のテイザーガンは電流を受ける体に紫電など走りはしないが、VMBのテイザーガンは演出として紫電が走るグラフィックが見える。


 当日までに試射を行いたいが、たぶんこの世界でも紫電が見えるだろう。それが銃という武器から目を逸らさせ、魔法攻撃のように見えてくれるはずだ。



 召喚された黒い補給BOXからテイザーガンとFMG-9、それに予備マガジンと交換用カートリッジを取り出し、マガジンベルトに腰裏へ付けるガンホルダー、ショルダーホルスターと用意し、その上にテールコートを着て、不自然でないかを確認する。


 やはり少し膨らんで見えはするが、許容範囲内だろう。しかし、この世界に落ちてからと言うもの、Aimが劣化しないようにする為の射撃練習が殆ど出来ていない。

 標的に狙いをつけるAimという行為は、少しでもやらないでいるとすぐに感覚がずれていく。前の世界にいる時には、時間を作ってVMBの射撃演習場ルームに篭っていたのだが、この世界からはそこへ行けなくなってしまった。

 現実のこの世界で、誰の目にも触れずに好きなだけ射撃練習を行う場所を確保するのは不可能だろう。


 どこか、誰もいない、知らない場所に一瞬で行き来できな――。


 待てよ? 遠くの場所に人知れず移動することは出来る。転送魔法陣があるからだ。移動先に模写魔法陣を設置してくる必要はあるのだが、これを上手く利用すれば、この世界にも射撃演習場を作ることが出来るかもしれない。


 いや……、むしろ転送魔法陣は、今どういう状態になっているのだ? ガレージに格納した七十四式特大型トラックの荷台に並べておいた、一組の転送魔法陣と模写魔法陣。それと対になるもう一組はギフトBOXの中にある。

 ここで転送魔法陣を取り出し、ガレージの中に格納されている模写魔法陣へと転移すると、もしかしたらガレージに飛べるのではないか?


 そう考えると試さずにはいられない。しかし、この部屋で転送魔法陣を広げるのは不味い。王競祭に備えての準備をしている内に、もうすぐお昼の時間だ。

 一日二食が基本の食文化であるこの世界でも、朝から夜まで飲まず食わずと言う訳ではない。いつコティがお茶や間食の確認に訪れるか分からないのだ。


 俺は一先ず、「平穏の都亭」から出ることにし、フロントの従業員に部屋のキーを渡し、王都の街中へと歩き出した。



 向かった先はマリーダ商会だ。第一区域から第二区域へと移動し、足早に商館へと向かう。

 商館の店先に立っていた護衛に、マルタさんかマリーダさんがいるかを確認をすると、マルタさんは外出中だが、マリーダさんは商館の事務所で仕事中だという。とりあえず、マリーダさんに取り次いでもらうと、すぐに商館の奥から二人の少女が走り寄ってきた。



「あー! 本当にシャフト様だ!」


「ちょっと、エイミー! そんな言い方をしては失礼よ」


「だって、プリセラ! シャフト様は滅多に来られないんだから!」


「久しぶりだな、エイミー、それにプリセラ」



 彼女達二人は、俺がかつて助け出した普人族の少女達。今は出稼ぎの勤め先として、マリーダ商会やマルタ邸で働いている。今日は商館で働いていたのか、売り子の制服と思われるお揃いの衣装を着ていた。

 そして、エイミーのブラウンの長髪には茶色の三つ網のカチューシャが、プリセラの金髪には白い花のコサージュが付いたカチューシャが着けられていた。


 ともに俺が買ってあげた物だ。



「はい、シャフト様。お陰様で私たち二人、元気に働けております」


「シャフト様! マリーダ様がお待ちです。ご案内いたします」



 二人に先導され、まずはマリーダさんが仕事をしている事務所へと案内された。







ちょっと仕事が詰まってきているので、来週一週間ほど休みます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ