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 牙狼の迷宮の討伐報酬を貰うため、王都の総合ギルド本館へと向かった。本館では副ギルドマスターと名乗るエルフのヴァルヴァラに別室へと促され、受付嬢の案内で応接室へと移動した。


 総合ギルド本館で報酬を貰い、その後は敷地内の資料館で調べ物をしようと決めていたのだが、どうも周囲の動きがおかしい。視界に浮かぶマップには隣の部屋へと入っていく四つの光点、内一つはこちらにやってくるが、残り三つは壁を挟んだ反対側に寄っている。

 俺のいる応接室側の壁には、冒険者たちが焚き火を囲む一つの絵画が掛けられていた。


 これは……。



「お待たせ致しました、シャフトさん」



 隣の部屋から一人移動してきたのは、副ギルドマスターのヴァルヴァラさんだった。手には大きな荷袋と書類の束を持ってきている。



「いや、大して待ってもいない」


「ありがとうございます。特別報酬をお渡しする前に、牙狼の迷宮討伐に関していくつか質問をさせていただいてよろしいですか?」


「もちろん構わない」


「ありがとうございます。それでは――」



 ヴァルヴァラさんからの質問は、本当にシンプルな物だった。牙狼の迷宮への探索開始日時の確認から始まり、地下二十五階の門番についての質問、迷宮の主ダンジョンマスターについての質問、一番奥の大魔力石ダンジョンコアが置かれていた小部屋についての質問などだ。

 差し支えのなさそうな質問が続いた中に、さり気なく差し込まれた質問が気になった。



「迷宮の主がいた玉座の間から台座の間へ進む時に、何か気になる物等はありませんでしたか?」


「――いや、ただの一本道だったと記憶しているが、騎士団は間に合わなかったのか?」


「迷宮が死を迎えたとき、玉座の間と台座の間はすぐに消滅が始まります。最下層を調査することができるのは討伐したパーティーぐらいです」


「なるほど……」



 ここまでの質問は出来る限り正確に答えてきた。あくまでも俺のVMBの力を伏せた上での話だが……。しかし、この質問にだけは明らかな嘘をついた。


 牙狼の迷宮の最下層、玉座の間と台座の間にあったのは通路だけではない。VMBのマッピング機能が映し出したマップには、四つの居住区画が存在していた。

 それが意味するものは何か。あいつは……あのウェアウルフはあそこで生きていた。苦悩し、渇望し、絶望し、そして狂った。


 この世界から見て取れる、前の世界の人間の影。迷宮の最下層で主として据えられた元人間。そして、何者かによりその鎖を解かれ、この世界に受け入れられた俺。

 

 おぼろげにだが、前の世界の人間とこの世界との関わりが見えてくる。確証も何もない、俺の想像でしかないものだが……。


 総合ギルドの副ギルドマスターがこの質問をしてくるということは、総合ギルドは迷宮の主がどのような存在か知っている。もしくは、ただの邪悪な存在だとは見ていない、そういうことだろう。


「ありがとうございます、大変参考になりました」


「いや、俺からも一つ聞きたいのだが」


「はい、なんでしょうか?」


「今回初めて迷宮の主を見た。迷宮の主とは亜人種が多いのか?」


「いいえ、むしろ亜人種が迷宮の主として待ち構えていた迷宮はそれほど多くはありません。ご存知だとは思いますが、門番の間と繋がる迷宮の門の上部にある彫刻、あれは迷宮の主を模しています。最下層に到達していない迷宮でも、この彫刻から想像するに、ほとんどが魔獣です」


「魔獣のほうが多い……か」


「私からも聞いてよろしいでしょうか?」


「他に何か?」


「迷宮から持ち帰った大魔力石、王競祭に出されると聞きましたがお間違いないですか?」


「そうだ。しかし、何故それを? もう会場のハイラシアで物品の一覧が張り出されていると聞いたが」


「物品は張り出されていますが、無用な犯罪を避ける為、売り手は買い手しか分かりません」



 大魔力石の話題が振られると、隣の部屋に浮かぶ三つの光点が更に壁に寄った。俺もケブラーマスクの下から壁の絵画を見つめる。あの絵を透してこちらを見ているのだろうが、絵画に描かれている冒険者達の目が覗き穴になっている――わけではないようだ。

 俺の集音センサーが捉える僅かな歩行音、マップに映る光点の位置。たぶん、あの絵画自体が向こうの部屋では透けているのだろう、マジックミラーならぬ文字通りのマジックピクチャーか。



「なるほど。で、俺の出品する大魔力石に、こんなにも大勢で興味があるのは何故だ?」


「――!?」



 応接室で話し始めて、初めてヴァルヴァラさんの表情が変わった。



「お気づきでしたか、失礼いたしました」



 そう言ってヴァルヴァラさんは後ろを振り返り、絵画に向かってこちらの部屋に来るようにゼスチャーを送っている。

 俺の視界に浮かぶマップでも、隣の部屋の光点が動き出すのが見える。三人ともくるようだな。


 軽めのノックがされ、三人が応接室の中へと入ってくる。三人の内一人は知っている顔、残る二人は初めて見る顔だった。



「さすがは“黒面のシャフト”だな、俺達も気配を断つ位はしていたのだが、な……」



 部屋に入ってきた三人の中で、俺が唯一顔を知っていたのがこの男、総合ギルドの傭兵団本部で出会った総合ギルド職員のジークフリードだ。

 相変わらずのにやけた垂れ目顔に茶色の短髪、長身痩躯の体型から受ける印象は頼りがいがない、の一点だった。

 


「ジークフリード……、それでそちらの二人は?」


「こっちのジジイはクルトメルガ王国、総合ギルドのギルドマスター、マーレン・ベルダライン公爵だ」


「ジジイと呼ぶな、馬鹿者が……。うぉっほん! 総合ギルドを束ねるギルドマスターのマーレンじゃ。爵位は公爵じゃが、役職を優先しておるので畏まらんでよいぞ」


「シャフト、このジジイには敬語とかいらないからな。それと、こちらの女性がオフィーリア・ドラグランジュ殿だ」


「オフィーリア・ドラグランジュだ。“黒面のシャフト”、君の話を王都で聞いて一度会ってみたかったのだが、思わぬ形でそれが叶い、嬉しく思っているよ」


「傭兵ギルドのシャフトです」



 姓持ちの貴族が二人……、ソファーから立ち上がり、最低限の礼だけを見せる。

ギルドマスターだと言う老魔術師、マーレン・ベルダライン公爵は腰まで届く長い白髭を蓄えているが、頭部は綺麗に禿げている。上が無い分、下を伸ばして気を紛らわせているのか、しきりに長い白髭をさわっていた。

 顔は皺だらけで、にこやかな微笑みを絶やさないようにしているが、その細身の目に光る色は鋭く、こちらを眼前に捉えて推し量っているようだ。


 隣に立つ長身の女騎士、ドラグランジュと言えば、北部の辺境伯領を治める大貴族、女騎士と言うよりは姫騎士と言ったところか? 薄い桃色の長髪に碧眼、スレンダーなモデル体型を騎士服で包んでいるエルフだ。

 しかし、オフィーリア・ドラグランジュだと……? その名前、前にどこかで……。


 そうか、あの猫耳大女が名乗った名だ。


 城塞都市バルガの領主、フランクリン・バルガ公爵の三女、ラピティリカ・バルガ様の護衛依頼で訪れた歓楽都市ヴェネール、そこで出会った怪しい三人組が騙ったのが、オフィーリア・ドラグランジュの名だ。

 

 あの時の三人組はどうなったのだろうか? 俺以外の人達には何一つ怪しまれる事無く晩餐会に紛れ込み、大笑いしながら食事を平らげて去って行った三人組。

 その不自然さは封書にまとめて、目の前のジークフリードに送ったはずだが……。



「それで、大魔力石に関心があったようだが、俺に何か?」


「おう、それだ。実はな、今回の王競祭の目玉物品である大魔力石を狙って、ちょっとした怪盗が王都に入ったことが分かった」



 怪盗……? 




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