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3/16 誤字・空白・描写等修正




「おーい! そこの冒険者!! 君も逃げなさーい!」



 御者台に乗っている、少し丸っこいシルエットの……おっさん? が馬車が走る先にいる俺に向かって叫んでいる。その馬車を追っているグラスウルフの数は5匹と……なんだろう、音のリズムは同じなのに、音が発する重量感が違うのが1匹いる。



「先に行って下さい!」



 俺はそれだけ叫ぶと、MP5A4を構え膝立ちで馬車の後方を覗いた……グラスウルフよりもでかいのがいる、上位種ってやつか?



「気をつけろ! 『ダイアー・グラスウルフ』だ!」



 馬車の御者台に座るおっさんが、俺の横を駆け抜ける瞬間に叫んでいった。ダイアー・グラスウルフ? やはり上位種っぽいな、普通のグラスウルフよりも大きい体躯は、体長2mは超えているだろう。俺は3点バーストで、まずは先頭を走っていたグラスウルフへ発砲した。



「Kyan!」



 グラスウルフの姿からは想像もできないような、犬同然の悲鳴が上がり、先頭の一匹はそのまま頭から転がり動きを止めた。それを見たダイアー・グラスウルフが一鳴きすると、残りの4匹がまずは狙いを俺に定めたようで、街道から広がり、俺を包囲しようとしてくる。


 俺は包囲されまいと、すぐにグラスウルフたちに向かって右へ走り出した。グラスウルフ達もそれに釣られてこちらへ寄って来る。

 走りながらクロスヘアを一番近いグラスウルフへ合わせて行き、銃を腰に構えたままで発砲するスタイル、HipFireで1トリガー、2トリガーと撃ち放っていく。


 1射目は丸ごと外したが、微調整した2射目でまた1匹が転げていく。


 だが、根本的に俺の走る速度よりも、グラスウルフの方がスピードが速い。

 パワードスーツによって、俺の脚力はこの世界の標準よりはるかに速いが、やはり狼系より速く走ると言うわけではない。ダイアー・グラスウルフは距離をとって、狩りの様子を見ているようだ。残り三匹が、もう一飛びで牙を届かせる距離まで迫ってくる。


 後ろに付かれた3匹を、僅かに振り返りながら視認すると、俺は左前へ一気に踏み込み、パワードスーツの性能を活かした高機動ムーブへと動きを変えていく。


 踏み込んだ力そのままに左前方へとジャンプし、同時に真後ろへと振り返る。手元では安全装置をフルオートへと廻し、左前方へと慣性ジャンプしてる空中で、迫り来るグラスウルフへとクロスヘアを合わせ、トリガーを引いた。 


 撃ち鳴らされる連続した発砲音は轟音へと変わり、点から線へと変わった銃弾はグラスウルフを一気に2匹飲み込んだ。そして着地した勢いそのままに、右前に踏み込み再びジャンプ。残る一匹を中心に、回りこむように視線を左に廻し、クロスヘアをグラスウルフに合わせて一気にトリガーを引き抜いた。



「やはりできるか」



 それは、VMBと言うゲーム内では当たり前のように出来ていたジャンプテクニックが、現実のこの世界でも再現できたことへの確認の呟きだった。


 そのジャンプは、アクセルジャンプ、サークルジャンプとも呼ばれ、最も効果的な最終的な挙動を、ストレイフジャンプとも呼んだ。視点移動とゲームの仕様による移動速度の加速を利用した、より高速で、より長くジャンプできるテクニックであり、これに近いものをVMBで再現したものを、同様にストレイフジャンプと呼んでいた。


 この高機動ムーブのおかげで、銃火器の遠距離戦だけで終るFPSではなく、銃弾を避け、掻い潜り、時に飛び越え接敵する近距離での撃ち合いを生み出し、VMBがただの撃ち合いではないFPSとして、進化させる一歩となったのである。


 グラスウルフ5匹を斃し、残る一匹となったダイアー・グラスウルフを警戒しつつ、空になったマガジンを交換する。空になったマガジンをその場に捨てれば、地面に落ちる前に光の粒子となって消えていった。仲間5匹を斃されたダイアー・グラスウルフは、目を見開き巨大な犬歯を剥き出しにしながら、毛を逆立ててこちらを睨み付けていた。


 俺は距離がある内に先制攻撃すべきと判断し、立ち撃ちでサイトを覗き、クロスヘアを合わせてフルオートのまま、まずは5発ほど撃ち込んでみた。しかしダイアー・グラスウルフは横に飛び、初撃を回避した。


 やはり避けられるか、ならばどうする……。


 正面から撃ち込んでも、ある程度距離があれば見てから回避されてしまう。相手の体勢を崩すか、隙を突くしかないと判断し、まずはどこまで近づければ回避できなくなるのかを調べるため、前進しようと一歩踏み込んだ瞬間、ダイアー・グラスウルフはその大きな口を更に大きく開け、咆哮を上げるが如く口をこちらへ向け……



「まずっ!」



 その口内が薄い緑色に光ったと見えた瞬間、それが轟音と共にこちらへ撃ち放たれた!



 俺は横に飛び込み、転がりながらもそれを回避することに成功した。そして正面を確認すると、すでにダイアー・グラスウルフはこちらに駆けてきている。俺はなんとか中腰まで体勢を戻したが、すでにダイアー・グラスウルフは俺の目の前まで接近しており、その右爪が振り下ろされようとしている。



「うぉぉぉ!」



 俺はMP5A4のグリップを握っていた左腕を、ダイアー・グラスウルフの右爪を打ち払うかのように振り上げると同時に、ガントレットの人差し指の付け根のボタンを押し込んだ。


 ガントレットのボタンを押し込むと同時に出現したのは、VMBが遠距離での撃ち合いで終らないもう一つの要素、サークルバリアシールド(CBS)が展開された。

 これは両手の拳を突き合わせて、肘から肘までの直径の大きさのエネルギー消費型の丸いエネルギーシールドで、VMBのゲーム内のあらゆる攻撃を、このCBSで受け止めることが出来た。

 ただし、連続展開をしているとすぐにエネルギーが枯渇し、再利用までのクールタイムを待つか、高いCPを消費し、補充アイテムを使用しなければ、再度使用することは不可能だった。


 VBMでジャンプテクニックで狙いを外し、どうしても被弾する射線は、このシールドを小刻みに展開し、被弾を防ぐのが一般的なテクニックだった。


 俺の左腕の外側に展開された、淡く光る不可視の盾に右爪を払われたダイアー・グラスウルフは、なにが起こったのか理解できなかったようだが、相手の近接殴りをCBSで弾き、体勢を崩したところを銃撃するというのは、VMBのPvEモードでは極々当たり前のカウンターアクションだった。そんな隙を俺が見逃すはずもない。



「甘いわっ!」



 右爪を打ち払い、俺の目の前にがら空きとなったダイアー・グラスウルフの腹に、右手だけの片手撃ちのままトリガーを引き抜いた。MP5A4が腹の目の前で火を噴き、9x19mmパラベラム弾をその腹に喰わせていく。オーバーキルになろうとも、俺はダイアー・グラスウルフが力なく斃れこむまで撃ち込み続け、マガジンが空になったのが先か、その命が尽きたのが先かはわからないが、重量感を感じさせる音と共に、ダイアー・グラスウルフは斃れた。



「ふぅー! シールドで防げたから良かったが、こいつの力に俺が耐えられなかったらやばかったな……」



 斃れて動かないダイアー・グラスウルフを見下ろしながら、すぐにマガジンを交換する。これで予備マガジンはなくなるが、先に斃した5匹を含め、動き出すことはなさそうだった。 



「しかし、さっきの咆哮? は驚いたな、上位種は魔法攻撃を当たり前のように使ってくるのか?」



 ダイアー・グラスウルフが、咆哮の如く飛ばしてきた魔力の塊が着弾した地面を見れば、その威力が想像つく。土が抉れ、クレーターの様になっている……さて、さっきの馬車はちゃんと逃げただろうかと、城塞都市バルガ方面へと視線を向けると、遠くから一台の馬車がこちらへ向かってくるのが見える。ほどなくしてその走る音も聞こえてくる。あれは追われていた馬車だ、戻ってきたのか。



「君~! 大丈夫だったかい! 心配で遠くから見てたんだ! 怪我は大丈夫かい? 薬があるから」



「いや、怪我はありませんよ、おじさんも大丈夫ですか?」



「怪我してないのかい?! あ、あぁ、私は大丈夫だよ、おかげで助かったよ。 王都から城塞都市バルガへ向かう途中だったのだが、思わぬところでグラスウルフに襲われてね、普段ならこの街道付近には出て来ない魔獣なので、油断して護衛もつけていなかったんだ、本当に助かったよ」



「いえ、あの状況ではどの道、標的は私に変わっていたでしょう。自分に降りかかる火の粉を払ったまでです」



「いやいや、しかしダイアー・グラスウルフを無傷で斃すとは……」 



 俺は御者のおっさんと話をしつつ、太もものレッグシースからコンバットナイフを抜き、ダイアー・グラスウルフの胸元へと突き刺し、胸を切り開けた。思ったより血が吹き出てくることはなく、開けるとすぐに魔石が埋まっているのが見えた。


 やはりあったか、昨日アシュリーに聞いていた通り、魔獣や亜人種の上位種や、魔法を使う魔物は自然界でも魔石を胸に持っている……か。



「ほぅ! 素晴らしい大きさの風の魔石ですね!」



 気付くとおっさんが馬車から降りて傍まで来ていた。取り出した5cmほどの魔石は緑色に光っており、魔力のない俺にも、それに何かの力が封じられていることが判る輝きを持っていた。魔石をポーチにしまい、ダイアー・グラスウルフとグラスウルフの討伐証である牙を抜いていく、ダイアーの方も同じ牙でいいのだろうか?



「魔石と討伐証しか回収しないのですか?」



 回収作業を見ていたおっさんが、何を疑問に思ったのか聞いてきたが、ほかに何か回収できるのか?



「いや……道具袋がもう一杯でね、持ち帰りきれないんです」



 道具袋なんて持ってないし、使えないが、あえて”魔抜け”だと言う必要もないだろうと、そう誤魔化した。



「それはもったいない! 魔獣に無駄な部分はありませんよ! 皮も肉も骨も使い道がありますし、持ちきれないなら私がこの場で買い取りましょうか?」



「それはありがたい、どうせ捨てていくだけだし、買い取ってもらえるならお願いします、ええと……」



「これは失礼しました冒険者殿、命を助けていただきながら自己紹介もせずに、私は商人の『マルタ』と申します。王都を中心に、マリーダ商会を営んでおります」



「よろしくおねがいします、マルタさん。私はシュバルツ、まだまだ駆け出しの冒険者です」



 マルタと名乗ったおっさんの申し出は正直ありがたかった。道具袋を使えない俺は、持てる荷物の量が極端に少ない、ただでさえMP5A4を始めとした銃器や、その弾薬も持ち歩くのだ、狩り取った獲物の討伐証以外に持ち帰る余裕は殆どなかった。



「こちらこそ、本当にありがとうございます、シュバルツさん。 まずは私の道具袋に回収して、バルガへ向かいましょう、ここで商談していては日が落ちてしまいます。シュバルツさんも馬車に乗って下さい、向かいながら大まかなことだけ決めてしまいましょう」



 そうして俺はマルタさんの馬車に座り、簡単な売却金額を決めながら城塞都市バルガへと帰還した。







使用兵装

MP5A4

ドイツのヘッケラー&コッホ社製のサブマシンガン、世界でもっとも使用されているサブマシンガンであり、そのバリエーションも非常に多く。軍隊、警察、対テロ部隊等、幅広く活躍する名器である


サークルバリアシールド(CBS)

VMBオリジナルのバリアシールド、左人差し指の付け根に展開スイッチがあり、エネルギーが続く限り、VMBではあらゆる攻撃を防ぐ円盾状のバリアを張れる。消費したエネルギーは時間による自然回復もしくは回復アイテムで回復させる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 殺すこと以外できないならメンバー募集するとか世に出ているレシピ以外の知識があるならそれを金に変えて雇うとかあるべや
2019/11/24 16:09 退会済み
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