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王都にある総合ギルドは、国内にある各ギルド支部を纏め上げる本部の集合体である。ミネアを送り届けた第一魔術学院のある第一区域から第二区域に移動し、中心部にある総合ギルドへと向かって歩いている。


 王都の中心部を縦断する大通りには、多くの都民がすでに活動を開始していた。冒険者・探索者風の戦闘衣で身を包む人達も多いが、商人や労働者も大通りに溢れている。この世界の日々との服装は、中世・近代から前の世界の現代ファッション風までが入り乱れている印象がある。


 この世界に落ちて半年ほどだろうか、ここまでこの世界で生きてきた中で、俺の中で一つの確信があった。



 この世界には、俺以外にも前の世界の人間がいる。もしくは、いた。



 だが、その人数は決して多くはないだろうし、この世界に与えている影響も大きくはない。前の世界の人間による影響だと思えるのは、所々に見え隠れする生活レベルを向上させる技術や様式、娯楽・玩具、そしてファッションを中心とした服飾関係だ。


 この世界の基本構造の中心は魔法だ。政治・統治構造や科学・医療などの分野は魔法を中心に進歩している。ここに、前の世界の概念や理念はあまり感じない。目の前に広がる街並みを見てもそれを感じる。

 王都に建ち並ぶ家屋の中心は石造建築が多い、生活レベルが少し落ちると木造建築も多いようだが、大きな都市は殆どが石造だった。


 これは魔法建築と言う分野が発展した影響だ。魔法により建築資材の石を成形し、建築物として形造る。前の世界の人間の影響があれば、鉄筋コンクリート構造などがあっても不思議ではないのだが、それらしき建築物は今のところ見たことはなかった。

 この石造建築中心の街並みと、王侯貴族による政治体系が合わさり、この世界の見た目は前の世界の中世に見えてしょうがない。しかし、中身は全く違う。


 

 そんな事を考えながら歩いていく先に、総合ギルドが見えてきた。


 総合ギルドの広い敷地内へと進み、まずは本館に向かい、牙狼の迷宮の討伐報酬がどこで貰えるのかを確認するつもりだ。


 

 総合ギルド本館では冒険者登録の受付、昇級試験の申請、掲示板に張られた依頼の受注などを行う場だが、総合ギルド利用者向けの基本的な案内もここで行っている。


 王都の総合ギルドも城塞都市バルガ同様に、銀行のカウンターを髣髴とさせるレイアウトで、多数の受付カウンターが並んでいた。


 朝一で依頼を受けにきた冒険者たちの喧騒に溢れ、仕事へと向かう冒険者たちの波から外れ、空いている案内窓口へ進み、暇そうにしている受付嬢へと声を掛けた。



「ちょっと聞きたいのだが」


「あっ、はい、おはようございます。ご質問はなんでしょうか?」


「受け取っていない特別報酬を受け取りにきたのだが、どこへ行けばいい?」


「通常の依頼の報酬ではなく、それ以外の、と言うことですか? それではまずギルドカードをお願いします。未払いの報酬を確認させていただくのと、本人確認をさせて頂きます」



 受付嬢に促されるままに傭兵ギルドのギルドカードを渡し、カウンターの向こうに置かれている水晶球の台座に差し込んでいくのを見つめる。

 あの水晶球は一体どういった魔道具なのだろうか? 一種のパソコンのような物なのだろうか?


 台座と繋がっているキーボード風の操作板を弄りながら、水晶球を覗き込んでいる受付嬢の動きが止まる。そして、頭部だけが回り俺の顔……といっても黒いケブラーマスクだが。こちらの容姿を確認し、また水晶球に視線が戻る。



「あ、あのぅ……、これ、ご本人様でお間違いありませんか?」


「間違いない」



 俺の短い返答に、受付嬢の顔が一瞬で真っ赤に染め上がった。



「しょ、少々お待ちください! すぐに上の者に伝えてまいります!」



 受付カウンターから奥へと飛び出し、カウンター越しに一番奥の机に座っている女性の下へと駆けていった。


 俺の集音センサーには、「シャ、シャフト様がいらしてます!」「シャフト様って、”黒い貴公子の?」「そ、そうです! 本物です!」と言った受付嬢が興奮しつつも小声で上司の女性に報告しているのが聞こえている。


 報告を聞いている女性の顔がこちらへ向いた。ケブラーマスク越しに視線が重なる――、彼女は妖精族のエルフか? そのエルフの女性が立ち上がり、こちらへと歩いてくる。

 緑髪の長髪に金眼、真っ直ぐにおろされた髪の中から長い耳の先が少しだけ出ているのが見える。


 エルフと言う種族はドワーフと共に妖精族として纏められているが、両者の間に関連性がある訳ではない。妖精族には、エルフとドワーフの他にもセイレンと言う外洋の海で暮らす人々や、森の奥深くに住むドリアドといった人々も含まれる。

 普人種、獣人種とは明らかに違いながらも、亜人種のように邪悪な存在ではない。そういった種族が妖精族として一纏めにされている。



「お待たせ致しました。クルトメルガ王国総合ギルド、副ギルドマスターのヴァルヴァラです。奥に部屋をご用意いたします、報酬に関してのお話はそちらでさせていただいて構いませんか?」


「ああ、どこでもいい」


「ありがとうございます。では、この者に案内させますので、お部屋でお待ちください」


「ご、ご案内いたします!」



 気付けば受付嬢がカウンターの中からこちら側へと回って来ていた。まだ顔を赤くしている受付嬢に案内され、冒険者たちの波から離れて奥へと繋がる扉をくぐる。

 その扉が閉められた瞬間、受付ロビーの喧騒の色が変わった。



「おい、今の見たか?」


「あぁ、もしかしてあいつが”黒面のシャフト”か?」


「思ったより普通に見えたな」


「酒場にいつもいる偽者じゃないのか?」


「いや、でも副マスのヴァルヴァラが声掛けてたぞ?」


「おい、ちょっとクランマスターに連絡して来い、まだクラン未加入ならチャンスだ」


「シャフトが王都に現れたぞ」



 一歩一歩遠ざかる受付ロビーでの喧騒、どうやらシャフトが王都にやって来たことが、これで広く知られる事になるだろう。


 余計な輩に絡まれるのを避けるのならば、シャフトからシュバルツに変わるか、もしくは全く違うマスクや仮面に変えてしまうというのも選択肢としてはある。しかし、シャフトとシュバルツが同時期に同じ場所にいた、という事実は残したくはない。

 

 それに黒面以外のマスクを色々と使い分けて別人だと偽り続けると、本人確認でマスクを外し、素顔を晒す事を求められるようになるだろう。その為のゾンビフェイスもあるのだが、晒しているうちに作り物だとバレるとその後はない。


 絡まれるのは面倒くさいが、むしろ絡むのは危険だと知らしめる事が必要なのかもしれない。とは言っても、そんな荒事になるようなことが決まっているわけではないが。



「こちらです、すぐに副ギルドマスターが参りますので、少々お待ちください」


「――ありがとう」


「――!! い、いえ!」



 顔の赤みが治まりかけていた受付嬢だったが、再び顔を真っ赤にさせてロビーへと小走りで戻っていった。


 案内された部屋は普通の応接室だな、テーブルを挟んでソファーが並んでいる。その一方に座り視界に浮かぶマップで動き回る光点を見ていた。


 妙だな、この部屋に向かっているのかと思った光点が四つあったのだが、すべて隣の部屋に一旦入り、内一つがこちらの部屋に向かって動きだしている。

 部屋に残る三つの光点は、この部屋との壁際によっていた。こちらの部屋から見ると、その壁にあるのは一つの絵画、冒険者パーティーらしき男女が焚き火を囲んで食事を摂っている絵だ。


 なんともこれは古風な……




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