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 マリーダ商会の商館、応接室にてマルタ夫妻と三人だけで、今後のビジネスに関してじっくりと話し合うことができた。

 シャフトに絡んだ様々な商品が作られ、それが流行りに乗って売れに売れているそうだが、物凄く恥ずかしく感じる反面。前の世界でも俺が使用していたPCの周辺機器やコントローラーなどで、シュバルツモデルと言うのを販売していた。


 周辺機器メーカーのセミプロとして活動していたからこそ、チームに、プレイヤーに付いてくれたファン向けの商品も開発する。王都でのシャフト人気に乗った商品製作も、それと全く変わらない、そう思うと少しは気が楽になってきた。


 そして、残るは今回の王都来訪の目的である、王競祭についてだ。



「で、王競祭と言うオークションはどういったものなのですか?」


「まず、王競祭が開かれるのは一週間後からです。場所は第一区域にあります、オークションハウス”ハイラシア”で三日かけて多種多様な武具、魔道具、美術品、魔石などが競売に掛けられます」



 マルタさんの説明を聞きながら、王競祭について整理していく。王族主催の三日間に及ぶオークションには日毎に参加費用や物品が分けられている。

 一応、身分によって参加の制限はされていないが、三日目の参加費用はかなり高額に設定されており、冷やかしを排除する形になっているらしい。


 当然、出品される物も日を追う毎に高価なものが出され、俺とマルタさんの共同で出品する大魔力石ダンジョンコアは、三日目の最後に出される予定になっている。


 競売に掛けられる物品の一覧は、ハイラシアの一階ロビーにすでに張り出されているらしく。貴族家の使いや商人たちが、参加したい日時を確認すべく活発に出入りしているそうだ。


 オークションの形式は前の世界でも一般的だった、買い手側が次々に価格を提示していき、最終的に最も高い金額を提示した買い手が落札する方式だ。

 オークションハウスで参加費を支払うと、番号の書かれた木札を渡され、これを掲げて金額を言っていくらしい。


 他にも色々と細かいルールがあったが、その辺りは実際にハイラシアに行ってから確認すれば良いだろう。



 粗方話し終えた辺りで、視界に浮かぶマップに応接室へと駆け寄ってくる光点が見えた。正面に座るマルタさんとマリーダさんに目配せをし、外しておいたケブラーマスクを再び被り、シュバルツからシャフトへと意識を切り替える。


 光点が応接室の前で止まり、俺の集音センサーには息を整える小さな深呼吸が聞こえている。


 トントン


 控えめな扉をノックする音が鳴り、マルタさんもマリーダさんも満面の笑みを浮かべている。いや、それは俺も一緒だな。

 ケブラーマスクの下ではニヤニヤと口元が緩んでいるだろう。「どうぞ」とマリーダさんが扉の向こうへと声を掛けた。



「失礼しますっ!」



 明らかに緊張した声色ではあったが、応接室に入ってきたのはマルタ夫妻の一人娘、ミネアだ。

 ミネアが着ているのは王都の第一魔術学院の制服だろうか? 白と水色のブラウスに、母親と同じ栗毛の長髪に白いバスクベレー帽を被っていた。



「お父様、お母様、ただいま帰りましたっ。シャフト様、お、お久しぶりですっ!」



 ミネアはいつぞやに見せてくれた、スカートの両端を摘み上げ膝を曲げるカーテシーという礼を見せてくれた。となれば、俺も返さねばなるまい。ソファーから立ち上がり、片足を引いて、片腕を腹の前に水平に曲げる、ボウアンドスクレイプで礼を返した。



「久しぶりだな、ミネア」


「はいっ! あ、あのっ、牙狼の迷宮討伐おめでとうございますっ!」


「あぁ、ありがとう。そのブローチ、使ってくれているのだな」



 ミネアが着ているブラウスの胸には、羽ばたく青い鳥のブローチが付けられていた。ヤゴーチェ商会が起こした事件解決後に回った王都観光の中で、俺がミネアに買ってあげたものだ。

 


「はいっ! 毎日これを付けて学院に通っていますっ」


「喜んでもらえたようで結構だ」


「ミネア、とりあえず着替えてきなさい。シャフト様、今夜はこちらにお泊りになるのでしょう?」


「ああ、明日の朝には出るが、今夜だけはお世話になる」


「ほら、シャフト様もこう仰っているわ」


「――はい、ではすぐに着替えてまいりますっ」



 そう言ってミネアは応接室から出て行った。その日の夜はマルタ邸で夕食を摂り、ミネアの第一魔術学院での話や、シャフト人気の広がり、俺の知っているメイドのエイミーやプリセラの話、護衛としてマリーダ商会で働いているアルムやシルヴァラの話を聞き、ミネアからは迷宮討伐の話をねだられ、色々とぼかしながらも、俺の冒険譚を聞かせて過ごした。

 ミネアが眠気に負けて寝た後は、マルタさんの個室に移り、夜が更けるまで語り尽くした。




 翌朝、朝食をマルタ夫妻とミネアを加えた四人で摂り、その後はメルティアと共にミネアの通学に付き添いして、第一魔術学院まで馬車に揺られてついていった。

 

 第一魔術学院は白を基調とした石造の古城のような学院で、広い敷地内には野外訓練場や魔法実験場など、色々な施設や訓練場があるそうだ。

 ここに通うのは王侯貴族を始め、有力商人の子供や高ランク冒険者の子供たちが通うのだという。


 現に俺の後ろからも何台も馬車が通過しては駐車場で泊まり、学院生を降ろして行く。



「それではシャフト様、行ってまいりますっ」


「今日も一日、しっかりと学んでくるがいい」


「はいっ!」



 こちらを何度も振り返り、手を振りながら学舎へ向かうミネアを見送っていると、俺とメルティアを遠巻きに囲んでいる光点に気付く。

 小声で「あれがまさか黒面の?」、「え? 王都に来てるの?」などと囁く話し声が聞こえてくる。


 あまり目立つと余計なものを呼び寄せかねない、そろそろ次に行くとしよう。



「メルティア、俺はこのまま歩いて総合ギルドへ向かう。君はマリーダ商会に戻れ」


「総合ギルドでしたらお送りいたしますが」


「いや、商会の紋入りの馬車であまり移動したくない。マルタには明後日の夜辺りに顔を出すと伝えておいてくれ」


「畏まりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」






 第一魔術学院から総合ギルドに向かったのは、貰わずに保留にしてあった牙狼の迷宮の討伐報酬を得る為だ。どのくらいの報酬が貰えるのか分からないが、シャフトとして動いている以上は、何か起こる前に回収しておきたい。

 いや、絶対に何か起こるということはないだろうが……、それに王都の総合ギルド資料館、ここも行っておきたい場所だ。


 次にアタックする迷宮の目星をつけることや、その情報を得ることが一番だが、この世界のことや、あのメールの差し出し主に関する情報なども探しておきたい。

 そして、このクルトメルガ王国の北部だ。あの転送魔法陣と繋がっていた場所、あそこがどこなのか……少しでもそこが分かる情報がないかを探るつもりでいる。


 調べることは沢山ある、今日は報酬を得て、日が沈む頃までは資料館に篭る。そう心に決め、俺は一人王都の大通りを歩いていった。




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