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 海洋都市アマールから山岳都市バレイラーへとスムーズに移動し、バレイラーの騎士団本部敷地内にある、転送管理事務所まで来ていた。

 転送魔法陣の利用手続きは全てマルタさんに任せ、俺は自分のギルドカードを提示したぐらいだった。



「――シャフト様、大丈夫とは仰ってましたが、本当に『魔抜け』でも跳べるのですか?」



 申請や確認を全て終え、転送魔法陣へと歩いていくところで、マルタさんが小声で確認を取ってきた。



「問題ない。すでに迷宮内だけでなく、持ち出された転送魔法陣でも何度か跳んでいる」


「わかりました。それでは、転移自体は私が主導しますので、生体情報の登録だけお願いします」


「了解した」



 転送魔法陣は、管理事務所とは別の建物に置いてある。一旦外へ出て、許可証を持って荷馬車ごと体育館のような平屋の大きな建物へと入っていく。

 中は中央に広く真っ直ぐな通路が引かれ、左右に簡易な間仕切りに区切られた転送魔法陣と、模写魔法陣が整然と並んでいた。


 マルタさんに誘導され、王都行きの転移魔法陣までいくと、そこにも騎士団員が立っていた。許可証を提示し、いよいよ王都へと跳ぶ事になる。



「マルタ……、馬も跳べるのか?」


「もちろんです、この子達も生体情報を登録しておりますから、転移魔法陣をこちらで起動させればちゃんと跳べますよ」


「なるほど……」



 俺は牙狼の迷宮で手に入れた魔力の認識票がないと跳べないのに、馬たちは生体情報登録すれば問題なく跳べるのか……。

 ちょっと凹みながら懐からコンバットナイフを抜き、転送魔法陣に血を垂らす――首に下げた魔力の認識票が熱を放っているのを胸に感じる。


 生体情報が登録されたのを確信すると、マルタさんが転送魔法陣の起動ワードを唱え、荷馬車の馬達とともに王都へと跳んだ。






 転送魔法陣に沿って光のカーテンが走り、視界を遮られたと感じた瞬間には目の前の景色の雰囲気が変わった。



「ようこそ、王都クルトメルガへ。転送魔法陣利用許可証とギルドカードの提示をお願いします」



 模写魔法陣が置かれている場所は、バレイラーの建物とほぼ同じだった。違って見えるのは、目の前に立つ中央騎士団の団員の装いぐらいだろう。

 マルタさんが許可証やギルドカードを提示するのに続き、俺も傭兵ギルドのカードを提示する。



「はい、どうぞ。そちらの方も、はい、護衛のか――た――!?」



 受付テーブルのようなところに座っていた若い団員の動きが固まり、俺が提示しているギルドカードに目が釘付けになっている。こちらでもこうなるか……。

 ギルドカードを提示しただけで毎回このように動きを止められるようでは、王都の街中ではどうなってしまうのか……。



「大丈夫ですよ、シャフト様。王都内ではここまで過剰な反応はされませんから」



 俺の呆れに気付いたのか、マルタさんが横から小声で伝えてくるが、それはそれで、何故そうなる――、と不安になるのだが。



「あっ、失礼しました。確認終わりましたので、どうぞ御進みください」



 再起動した団員の許可が出たところで、外へ向けて歩き出した。


 転送魔法陣が置かれている建物の事を転移棟と言うらしいが、王都の転送管理事務所と転移棟は、三つに区分けされた内の第一区域に置かれていた。

 転移棟から荷馬車を引いて出てきたところでマルタさんと一緒に御者台に乗り、ここからマリーダ商会の商館が建つ、第二区域へと向かう事になっている。


 今夜はマルタ邸に泊まる予定になっているが、荷馬車が歩き出さないので横に座るマルタさんの方へ視線を向けると……。



「――マルタ、それは……何のつもりだ?」


「え? ちょっとお待ちくださいね。敷地から出る前に準備をしないといけませんから」



 そう言いながらマルタさんが腰の道具袋から取り出したのは、俺の黒いケブラーマスクを模したかのような黒面……それを頭に被り、「よしっ」とか言っている。



「どうですかシャフト様、マリーダ商会で販売している黒面です」



 生産ギルドと組んで、『黒面のシャフト』なりきりセットを販売しているのはお前のとこか!



「いや、マルタよ。それよりも先に何か言う事があるのではないか?」


「あぁ、もちろんシャフト様の取り分もご用意しておりますよ。詳細は商館に到着してからにしましょう」



 いや……そうじゃなくてね……。マルタさんが被った黒面は、ケブラーマスクに似てはいたが口の部分が開いており、飲食などが普通に摂れる形になっていた。



「いや、何故それを被った?」


「あぁ、そちらでしたか。ただいま王都では、こういった黒面やアイマスクが流行っておりますが、私の横に黒面を被った護衛風の者がおれば、それ即ちシャフト様ご本人だと気付く者も出てまいります。それを少しでも防ぐ為には、私も黒面を被った方がいいと思いましてね、用意してきました」


「そ、そうか……」


「はい、それでは参りましょう。マリーダもミネアも、シャフト様が来られるのを首を長くして待っておりますよ」



 そう言ってマルタさんが手綱を動かし、荷馬車が王都への街中へと進みだした。




 転送管理事務所があったのは第一区域の中と言っても一番端で、すぐ目の前には第二区域へと繋がる城門が見えていた。門番のチェックを受けながら城門を通過し、第二区域へと入る。

 そこからは大通りを通過しながらマリーダ商会の本店へと向かうわけだが……。その先で見たものは、とてもではないが、黒面の奥に隠れる両目を閉じていなければ叫び声を上げて、P90を乱射したくなるほどの恥ずかしさを感じさせられた。




「各種マスク揃ってるよ~、人気のシャフトの黒、入荷してるよ~! 赤面に銀面もあるよ~!」


「おい、親父! 投擲用の片手斧はあるか!? あるだけ買うぞ!」


「おう、あたらねぇ斧を買い集めてどうすんだ! 買いたい奴は裏の的当てで技量を示してからだ!」


「リーダーぁ! その黒面かっこいいっす!!」


「おい、聞いたか? 黒面は体術もかなりやるらしいぞ?」


「ガッハッハ! 明日からは”黒面のシャフト”ではなく、俺様の”黒面のガブリエル”の名が王都に轟くぜ!」


「近接戦なら覇王花ラフレシアのベリクスだろ? どっちが強いんだ?」


「さすがはリーダーぁでさぁ! ならおいらは”緑面のオーギュスタン”でさぁ!」


「もうすぐ野外劇場で新作始まるわ、今度のは”黒い貴公子と公爵姫の悲恋”よ」


「それならあっしは”赤面のバルタザール”っす!!」


「第一では”黒い貴公子と牙狼の迷宮”が上演準備中だそうよ。あぁ~、一度は見に行ってみたいわぁ~」



 馬車が通り過ぎる商店の中から、オープンテラスの茶屋で談話する女性達から、聞き分けたくもなくても聞き分けてしまう。そんな己の耳の良さを軽く恨みながら大通りを進んだ。

 しかし、もはや”黒い貴公子”とつければ真偽は問わない演劇界隈には、なんとも言えない気持ちになってくるな……。





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