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 アシュリーとシャルさんを出迎え、夕食を共にしながら今回の海賊船団討伐を振り返った。海賊船団”海棠カイドウ”のリーダーであるカダは、俺が原形が残らぬほどに殺した為、護衛船団側は捕縛した海賊達からカダの死亡を聞く不確定な形だったが、俺の証言により死亡が確定した。

 これは後から執事のレスターさんから聞かされた話だが、カダはゼパーネル家の怨敵であり、アシュリーとシャルさんにとっては両親の仇であったそうだ。

 だが、カダの最後を聞いたときの彼女は、ほんの少しだけ俯き、目を閉じていただけだった。



 護衛船団は海棠の本拠地を捉えた段階で、俺が脱出を促した男女十二名を海上で発見したそうだ。海棠に攫われた人達の延べ人数は三桁を越えているらしいが、攫われた後の動向は捕縛した海賊達も知らなかった。

 転送魔法陣によって、クルトメルガ王国の更に北へ連れて行かれたまではわかるが、その先の動向を探るのは不可能だろう。行き先も顔も名前も判らないのだ。クルトメルガ王国民のみならず、フィルトニア諸島連合国民も含まれている。


 この世界は攫われた一国民を追って、他国の土地へ合同捜査を謳って乗り込めるほど平和ではない。

 どれほどの組織が海棠の後ろにいたのかは判らないが、間違いなく最上級の貴重品である、転送魔法陣を往復分の二セット奪えた事が、後ろにいた何者かへの最大の反撃になったのかもしれない。


 そして、幽霊船長ヨーナについてだ。海洋都市アマールの護衛船団の指揮官であるレイツェン・ドルーモは、今回の討伐作戦で遭遇したアンデッド、ヨーナを第一級危険魔獣として総合ギルドに登録するらしい。


 この世界に生きるもの全てに害悪を振り撒く魔獣・亜人種は、その危険度や影響力によって第一級から第五級に分けられている。

 ただし、これは魔獣・亜人種の種に対してではなく、特定に地域に出現した特定の個に対する等級付けで、魔獣・亜人種の種毎の等級付けはされていない。


 海洋都市アマールの南洋に出現する黒船と、スケルトンのアンデッド『ヨーナ』の名は、第一級危険魔獣として登録され、永久に討伐される事なく南洋の亡霊として名を残していく事になる――。




 その日の晩は長々とアシュリーと話していたため、帰るタイミングを失い、ゼパーネル邸に泊めてもらうことになった。

 翌朝、食堂で朝食を頂いていると、シャルさんがふらふらと寝ぼけ眼でやってきた。



「おはようございます、シャルさん」


「おはよ~、あれ――? あぁ、泊まっていったのね」


「ええ、アシュリーと二人で話し込んでいたら、だいぶ遅くなってしまいました」


「へぇ~、そうなの――」



 席に座り、給仕の女性から水を受け取って喉を潤していたシャルさんだったが、カップを口に当てたまま固まっている。



「って、シュバルツ!」



 再起動したシャルさんが空になったカップをテーブルに叩きつけ、改めて俺の存在を認識したようだ。



「姉様と遅くまで長話って、あなた姉様とどういう関係なのよ!」

 

「どういう……?」


「そうよ! 姉様に聞いても教えてくれないのよ!」


「なるほど、なら教えません」


「そう、だからあなたから教えてもらえば解決――じゃ、ない?!」


「それより、シャルさんは本部へ向かわなくていいのですか? アシュリーはもう仕事に向かったようですよ」


「え? もうそんな時間なの?! でも――、あーもう! シュバルツ、後でちゃんと教えなさいよ!」



 ビシッ! と音が聞こえてきそうな見事な手の振りで俺の顔を指差し、護衛船団の本部へと駆けていった。


 俺もいつまでもお邪魔しているわけにも行かないので、執事のレスターさんにお礼を言い、ゼパーネル邸を後にした。

 敷地から出るとき気付いたが、門番の装いが変わっていた。初めて訪れた時の警備隊ではなく、専属の護衛を雇ったのだろう。


 丁寧な礼をされながら敷地を出て行き、まずはマリーダ商会のマルタさんの下へと向かった。




 マリーダ商会の商館でマルタさんと合流し、アシュリーたちが王都へと向かうよりも前に、海洋都市アマールを出発する事になった。

 まずはアマールから鉱山街ブリトラへ馬車で五日、そこから西へ馬車で二日、そこにこの地方の領主が住む都、山岳都市バレイラーがある。


 そしてバレイラーにある転送魔法陣を使い、王都へと転移する予定だ。転送魔法陣は貴族の爵位持ちとそのお供は無料で利用できる。もしくは商業ギルド加入者とそのお供は料金を支払えば利用できる。他にも冒険者が利用する場合は、利用料金のほかに総合ギルド発行の利用許可願いが必要だったりする。


 俺はマルタさんのお供、というよりも護衛として付き添う形にすることになった。王都に転移する時には、シャフトで行くつもりだったので護衛で問題ないのだが、一つ気になることがある。


 それは、闇ギルド”覇王樹サボテン”の動向だ。これまで、覇王樹には闇クランを差し向けられたり、直接暗殺者を送り込まれたりもした。

 俺が再び王都へ入れば、何かしらのアクションを起こしてくる可能性が高い。マルタさんは勿論、マリーダ商会に俺が原因で迷惑を掛けるわけにもいかない。


 王都に入都後は一旦別れ、王競祭というオークション当日に再合流することにした。



 ある程度の予定が組めたところで、マルタさんからある相談を持ちかけられた。



「ミネアが会いたいと?」


「そうなんですよ。ヤゴーチェ商会の一件以来、王都に立ち寄っても邸宅までは来られておりませんので、私が邸宅に戻るたびに「シャフト様は来られないのか」と」


「しかし、シャフトが王都に現れれば、どうなるか判りませんよ?」


「シュバルツさんのご心配も十分に理解しております。ただ、私の方でも護衛は揃えますし、その……あの……」


「ん? 何かあるのですか?」


「いえ……、これは私の予想なのですが、王都にシャフトを名乗る者が一人増えたところで、すぐに誰かが襲ってくる、と言うことにはならないと思います。王競祭が行われるときには出品者として参加しますから、そこから狙われるというのは判りますが……」



 ……一人、”増えた”ところで……?



「ちょ、ちょっとまってマルタさん。王都にはすでにシャフトがいるって言いたいわけですか?」


「え、えぇ……」


「その感じだと……、一人じゃないですよね……?」


「シャフトの装いはとても簡素ですから、黒い面と黒いコート、それに片手斧の二刀流で誰でもシャフトです。人気に乗った幾つかの生産ギルドが手を組んで、『黒面のシャフト』なりきりセットを販売していたりします」


「はぁ?!」


「クルトメルガは冒険者の国です。民を救う英雄が建てた国です。単独で迷宮を討伐し、しかもそれを誇りもせずに立ち去った『黒面のシャフト』の人気は、バルガ領のみならず、王都、それに先日訪れたヴェネールにまで広がっていますよ」


「ほ、ほかにも迷宮討伐者や門番越えは一杯いるでしょ!」


「単独はシャフトだけですよ。もちろん大手のクランは変わらず人気です。しかし、子供から大人まで、男女問わず人気なのは『黒面のシャフト』だけです。だから、いまさら一人増えたところで、すぐにどうこうなるとは思えませんよ」



 マルタさんから聞かされる王都での『黒面のシャフト』ブームには、顔から火が出る思いで聞かされた……。とりあえず、本物が入都したと広まる前に、マルタ邸で夕食を摂ることだけ決めてその日の話し合いは終了とした。

 それ以上の話をするのは、俺の精神が持ちそうもなかったからだ……。




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