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TOPANGAチャリティーカップが面白すぎて、書き上げるのに無茶苦茶時間かかりました。
海賊船団”海棠”を壊滅に追い込み、残党狩りや本拠地の調査などはアシュリーたちに任せ、俺は一足先に海洋都市アマールに向かってUボートを潜水航行させていた。
今回の海棠討伐には、アシュリーの援護をするつもりで一月かけてアマールまでやってきた訳だが、いざ出航してみれば、このUボートの燃料補給を始め、魚雷の補充やGE M134 Minigunの使用で失った四千発の7.62×51mm NATO弾。
同じ弾薬を使うSCAR-Hのマガジンが装弾数20発の消費CPと比べると、M134の一マガジンの消費CPは実に二百倍。
今考えると海棠のリーダー、カダの技能『水流操作』が厄介だったとは言え、M134を使ったのは色々な意味でオーバーキルだったかもしれないな……現在の保有CPがごっそり減ってしまっている。零が見えているわけではないが、CPを回復させる為に無属性魔石を直接入手するか、大量買いをする為の資金を稼がなくてはならない。
資金を得る当てはある。TSSのガレージに置いてある、オシュコシュ M978 タンクトレイラーのタンクに入っている九五○○リットルの魔水、それにマリーダ商会のマルタさんに預けている同量の魔水が貯蔵された数十個の樽だ
そして、一番の稼ぎになるであろう、牙狼の迷宮から持ち帰った大魔力石の売却益もある。
魔水の売却はマリーダ商会に委託し、小出しにしながら売却を進めてくれているはず、大魔力石に関しては、マルタさんが格式の高い大きなオークションに出すと言っていたが、それからどうなっているのか。
そんな今後のCP補充手段を再確認しつつ、寄り道せずに真っ直ぐにアマールへと帰還した。
◆◆◇◆◆◇◆◆
護衛船団の速力と比べれば、Uボートの速力は格段に速い。三日ほどの航海でアマールが見えてきた。
日没までもう少し時間がある、できれば陽が落ちて暗くなったところで沖に浮上し、幽霊船長ヨーナからシュバルツに戻り、闇に紛れて救命ボートで帰港したいところだ。
アマールでの宿、「海辺の灯台亭」に部屋を取ったのは、すっかり夜も更けたころだった。
アマールでの今後の予定としては、この都市の観光でもしつつ、まずはアシュリー達の帰還を待つ。その後は正直考えていない、アマールの近くに迷宮でもあれば、そこを攻めて魔石などを確保しに行くのもいいが……。
翌朝、まずはマリーダ商会の商船所へと向かった。
「あ! お客人帰ってきたんですか! ちょっと待っててください――おやっさぁーん!」
商船所の店先で掃除をしている、若い獣人族の男が俺に気付いたようだ。すぐに商船所の一階部分の倉庫へ駆け込んでいき、二階の事業所部分に声を掛けている。
「帰ってきただとー?!」
二階から駆け下りてきたのは、猫系の壮年獣人族であるボルロイ所長だ。今日もボサボサの茶髪から猫耳が飛び出し、無精ひげを蓄えながらも、独特な頼れる男の雰囲気を纏っている人だ。
「おお! お客人、よくぞご無事で! うちの大将がお客人なら心配要らないと言っておりやしたが……」
「ちゃんと帰ってきましたよ」
「えぇ、えぇ、しかし帰ってこられたって事は、海賊どもの討伐が完了したってことですかい?」
「えぇ、海賊船団”海棠”は壊滅しました。私は先に戻ってきましたが、アマール護衛船団が帰港するまではまだ数日を要すると思います」
「おお! おい、そこの! 組合の事務所行って海賊どもが討伐された事を伝えて来い!」
ボルロイ所長が店先にいた若い男に、組合事務所とやらに伝達を指示した。アマールの港を利用する商会や漁業関係屋の集まりなのだろう……ならば、もう一つも伝えておいたほうがいいだろう。
「ボルロイさん、その組合というのにもう一つ伝えておいてください。海棠の本拠地から少女を一名救出、それと戦闘の混乱時に十二名の男女が海棠の本拠地から脱出し、護衛船団に救助されていると思います」
「本当ですかい!? フィルトニアの連中かもしれないが……それも伝えて来い!」
ボルロイさんに更に指示され、若い獣人族の男が「いってきやす!」と叫んで港の中心部へ向かって走っていった。
「お客人、マリーダの商館に大将が来てやす。とりあえず、そちらへ行きやしょう」
「マルタさんが来ているんですか?」
「えぇ、四日ほど前からお客人の帰りを待っておりやすよ」
ボルロイさんに連れられ、アマールのマリーダ商会の商館へと移動した。
「シュバルツさん、お帰りなさいませ」
商館に行くと、ボルロイさんの一声ですぐに応接室へ通され、アマールの特産の一つだという柑橘系の果実水を貰いながら少し待つと、大きな腹を揺らしながらマルタさんがやってきた。
「ただいまです、マルタさん。」
そこから、マルタさんとボルロイさんとの三人だけで、海賊船団”海棠”討伐の概要を話した。当然ながら幽霊船長ヨーナやUボートに関する部分は伏せて、だ。
俺の話を聞きながら、にこにこと頷きながら相槌を返すマルタさんと、所々ぼかしている俺の話の不自然さに気付きながらも、商会長であるマルタさんの手前、それを口に出来ないボルゾイさんの顔がとても対照的だった。
マルタさんからは魔水の売却金の一部を受け取り、わざわざ大量に運んできてくれてた無属性魔石を購入した。
さらには大魔力石についてだ。王都で来月に行われる、一年で一番格式が高く、大きな春のオークションの目玉商品として出品される事が決まったそうだ。
そのオークションには、王族を始め、数多くの貴族や大商会の商会長達が集まるそうだ。更には高額の参加料が必要だったり、ドレスコードがあったりと、冒険者や一般人が参加できるオークションではない。
一応、目玉商品の共同出品者と言う形で、俺も会場に入ることが出来るそうだ。アマールから王都に戻るのも、この地域の中心都市、山岳都市バレイラーにある転送魔法陣を使えば、十分間に合う。
マルタさんから一緒に参加するか確認されたが、返答は保留させてもらった。まずはアシュリーたちと再合流してからだ。だが、俺としてはオークションを見に行きたい気持ちはあった。
それから数日間、マルタさんに海洋都市アマール内外を案内してもらいながら観光を楽しみ、護衛船団の帰宅をまった。
結局、護衛船団が戻ってきたのは俺が戻った五日後の午後だった。
水平線に船団が現れた事で、アマールの街中がにわかに騒がしくなってきた。海岸線に護衛船団を迎える人だかりが出来始め、護衛船団の留守役や都市警備隊が港に集まり始めた。
俺もマリーダ商会でお茶を飲んでいる最中に帰還の知らせを聞き、出迎えるべく海岸線を歩いていた。
護衛船団の帆船が次々に桟橋に接舷し、乗員や捕虜となった海賊達が降りてくる。続いて後方から輸送船も入ってくる。そちらから降りてくるのは、輸送船の乗員と海棠に攫われていた男女たちだ。
俺はその光景を少し遠くから見つめていた。アマールに住む人々が英雄達の帰還を出迎え、歓喜の声を上げる姿を見ていた。今は昔に思える、VMBやFPSの大会で聞いた歓声に似ている気がした。声の色は少し違うが、その囲まれていく姿にはどことなく懐かしさを感じた。
攫われていた者達を迎える輪もできていた。ボルロイさんも言っていたが、どうやらこちらへ連れて来た中には、アマールの交易相手であるフィルトニア諸島連合国の国民もいたようで、都市警備隊に説明を受けながらどこか別の場所へ移動するようだ。
その集団の中にミミの姿が見えた。ミミもフィルトニア諸島連合国が出身だったのだろうかと思ったが、ミミは周囲をキョロキョロと見渡しながら、誰かを探しているように見える。
「ママー、おねぇちゃん帰ってきたー」
海岸線でその様子を見ていた俺の後ろから、二つの光点が近付き、追い越していった。小さな子の手を引き、桟橋へと駆けよる女性の背を見つめる。
ほらな……。
輸送船からアシュリーとシャルさんが降りてくるのが見えた。俺も海岸線から桟橋へと向かい歩き出す。途中、駆けていった二つの光点が、その先の光点と一つになったのが見えた。
俺が歩いていく事にアシュリーとシャルさんが気付いたようだ。シャルさんがこちらに手を振っている。
そちらに向かいつつ、通り過ぎる際に一声だけ掛けた。
「な、言ったとおりダロ」
こちらにぶんぶん手を振っているシャルさんに手を上げ答えた。アシュリーも微笑んでいた。
「――ありがとう!」
歓喜にあふれた桟橋に、小さな女の声が響いた。




