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高速回転する六本の銃身が、四千発の7.62×51mm NATO弾を吐き出し、高音のモーター音が緩やかに静まっていく。
カラカラカラ、と銃身が回転を止める頃には、俺の目の前に広がる海賊船団”海棠”の港は真っ赤に変わっていた。技能『水流操作』によって単発の銃弾を何度も逸らされた。
ならばと選んだのが、更なる暴威、必殺の暴雨、逸らしきれないほどの物量と、癒しきれないほどの破壊をもたらすGE M134 Minigunだった。
その銃弾の雨を一身に受けたカダの体は粉々に吹き飛び、海上に肉片と着ていた軽装鎧の破片が浮いていた。
「カ、カダ船長が消えた……」
「う、うわぁぁぁぁ!」
岩壁の島の本拠地に残っていた海賊達は、肉片へと姿を変えたカダだったものに恐怖し、それに変えた幽霊船長ヨーナの姿に畏怖していた。
俺の視線が本拠地内を廻り、残りの人数を確認していく。非戦闘員らしきのも含め、まだ結構残っているが、俺の骸骨の眼底に浮かぶ青白い炎の目が向けられたそばから逃げ出していく。
上部の洞窟住居にいるものたちは転げ落ちるように下層へ向かい、中には港へ飛び込むものまでいた。そして本拠地の外へ逃げるように泳いでいく。
しかし、その先にはすでに護衛船団のものと思われる小船の集団が待ち構えている。俺の視界に浮かぶマップには、洞窟内をこちらに向かう光点の列が浮いていた。
最下部にいた者たちは、転送魔法陣が置かれていた倉庫へと駆け込んでいく。そして、扉に掛けられていた錠前を破壊し、中に駆け込んで絶望していた。
それはそうだろう、逃がさない為に助けが来ないようにする為に、転送魔法陣は全て俺が回収してあるのだ。
光点がもうすぐ洞窟を抜けて本拠地の港に侵入してくる。俺の役目はここまでだな……。TSSから小型酸素ボンベと水中スクーターを取り出し、M134 をインベントリに戻す。
護衛船団に姿を見られる前に海中へと潜り、俺は岩壁の島の外へと進んだ。
岩壁の島の外へと出て、まずは近くにあった岩礁の陰に潜み、海上に顔だけを出した。海上に見える船団の数は六隻、アシュリーたちが乗ってきた輸送船団は連れて来ていないようだが、一隻の護衛船の船上にアシュリーの姿が見えた。
どうやら輸送船から乗り換えてこちらへ来ていたようだ。海上に散開して停泊している護衛船団は、船体が半分以上沈んでいて、かろうじて船首が出ているだけの海賊船を調査していたり、海上で救助と言う名の捕縛を待つ海賊たちを引き上げたりと、自体の収拾に向けて動いていた。
その動きを見つめながら、俺は今回の海賊船団討伐を振り返っていた。今回の戦闘は当初考えていた以上に動きすぎたかもしれない、かなりの高額弾薬や燃料を大量消費し、これらを回復させる為のCPの消費を考えると頭が痛くなる。
最後にアシュリーに顔だけ見せて、俺は先に海洋都市アマールに帰らせてもらおう。
海中でTSSを操作し、ドックからUボートを召喚する。海中ではハッチを開けて中に入ることは当然不可能なので、司令塔に手を掛けそこでTSSをUボートのコントロールモードに切り替え、Uボートを潜水航行させてアシュリーの乗船する船の近くまで移動させ、ゆっくりと浮上させる。
「ゼ、ゼパーネル様! 海上にあの黒船が!」
最初に俺に気付いたのは護衛船の見張り台に立つ船員だった。その叫びを聞いて、船側にアシュリーとシャルさんが駆け寄ってきた。
乗船している他の船員たちも、警戒しながらこちらを監視している。アシュリーに声を掛けて、彼女との繋がりを暗に示唆するのも良くないだろう。
アシュリーに視線だけ送り、先に帰還することを目だけで伝える――。伝わったのだろうか? ほんの少しだけ、アシュリーが頷いて見せたような気がした。
見つめ続けるのも不自然か……司令塔の足元にあるハッチを開け、内部へと降りていく。
司令塔一階に降り、そこでUボートを潜水航行へと移行しようとした瞬間、船体全体が衝撃に揺れた。
「なにッ?!」
この衝撃が示す意味は、間違いなく攻撃を受けた、と言うことだ。Uボートを始め、潜水艦は装甲値が非常に低い、装甲バーが半分を下回れば航行や潜航速度などの機動性が半減し、追撃により撃沈される可能性が非常に高くなる。
TSSのウィンドウモニターを確認し、装甲バーの減りを確認しつつ、Uボートを急速潜航させる。幸いな事に、装甲バーは半分を数パーセントだけ上回っていた。
潜航させたUボートを潜望鏡深度まで上げ、直進のみの自動航行モードに切り替え、ウィンドウモニターを潜望鏡モードに切り替える。
誰が攻撃をしてきた? 攻撃の意思を持つほどの海賊がまだ残ってい――
「黒船はどこへいった!」
「海中を西へ向かったようです!」
「追え! 魔動推進陣に魔石を投入しろ!」
怒鳴る声に反応し、潜望鏡を回すと、そこに映ったのは護衛船団の旗艦に乗る豚レモン――名前が思いだせん。
潜望鏡モードからUボートのコントロールに戻し、自動航行を解除して旋回させる。
「レイツェン! 何をやっているのですか!」
豚レモンの旗艦は、アシュリーたちが乗船している護衛船に並列するように航行していた。停泊する護衛船の横を通過していく旗艦に向けて、アシュリーが声を上げていた。
「レイツェン! 聞いているのですか! まだ海棠の討伐は完了していないのですよ!」
「海棠の討伐は終わったも同然だ! あの黒船を! アンデッドを討つのが先だ!」
「何を勝手なことを――、あなたは船団の指揮を執っているのですよ!」
「ならば指揮に従え! こちらはあの黒船を追う、ゼパーネルは船団を纏めて海棠の本拠地を押さえろ! それともまさか、あの黒船を見逃せというつもりか?! 海賊の玩具に成り下がった小娘一人助けただけで、見逃せというつもりか!」
「レイツェン!!」
どちらの言い分が正しいか――客観的に見れば、正しいのは豚レモンだろう。俺の外観は間違いなくアンデッドであり、討伐すべき対象だ。それが海中を航行する謎の黒船にのって海上を好き勝手に移動しているとなれば、捕捉したら即討伐行動に移るべきだろう。
アシュリーはレイツェンの立場も勿論だが、シュバルツ=幽霊船長ヨーナと判っているからこそ、俺をこのまま行かせたいのだろうし、俺もこの場は退散して海洋都市アマールへ直航するつもりでいた。
が、しかし、奴は今――、何を口にした?
俺に戦いを挑むというならば、それを受けて立とう。ただし、俺は俺のやり方で攻めさせてもらうがな。
Uボートの艦首魚雷発射管に装填されている四発の魚雷の内、一発をターゲットロックし発射する。
ターゲットロックされている旗艦に誘導されて魚雷が海中を疾走する。着弾までもう少しと言うところでUボートを緊急浮上させた。
「船首方向に黒船発見!」
「いたか! 戦闘水兵攻撃準備!」
慌しく船首に戦闘水兵たちが集合してくるのが見えるが、魔法攻撃をさせるつもりはない。こちらとて、一撃貰えば装甲バーが半分を切り、機動性が半減してしまう。そうなる前に――。
浮上と同時にコントロールを船体上部に設置されている八十八ミリ砲の銃座モードに切り替え、旗艦の船首胴体部分に向けて照準器を合わせる。
海中を走る魚雷が船底に着弾する瞬間にタイミングを合わせ、八十八ミリ砲のトリガーボタンを押す。
海上に轟音が響き渡り、旗艦の船首が吹き飛ぶのと同時に船体全体が揺れ、全長六十メートル近い旗艦が中心で折れるように海中へと沈んでいく。
ボロボロに粉砕された船首と船尾が突き上がり、多数の乗員が叫び声を上げながら海へと飛び込んでいくのが見えた。
旗艦の破壊を確認したところで再び急速潜航し、今度こそ海洋都市アマールへ向けて舵を取った。
撃沈した旗艦の乗員は、アシュリー達が救助してくれるだろう……。海棠の本拠地も含め、後始末は護衛船団に任せ、俺は潜水航行で静けさを取り戻しつつある海中を突き進んだ。
使用兵装
UボートVII型
ドイツ海軍が用いた潜水艦の総称で、このVII型は約六十七メートル、全幅約六メートル。VMBの中では艦首四基の魚雷発射管を持ち、魚雷の総本数は十四本、船体中央に載せられた司令塔には八十八ミリ砲が一基備えられている。




