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海賊船団”海棠”のリーダー、カダの動きを止め、背後関係や攫った人たちについて聞きだすつもりでいた。しかし、技能『水流操作』を使い海水を身に纏ったカダには、そんな手加減を狙う余裕はなさそうだった。
海水に包まれたカダに、M24A2の7.62×51mm NATO弾を逸らされた。海水に包まれたカダが水の中でしてやったりと嗤う。カダは俺が何かの魔法で物質を飛ばし、それによって相手を倒していることに気づいていた。
この野郎……。M24A2のハンドルレバーを引き、コッキングを行い排莢と弾薬装填を行う。排出された薬莢が中空で光の粒子となって消えていく……。
俺の攻撃が止まったと判断したのか、カダが水の中から顔を出してニヤニヤと嗤っている。
カダの体を覆う水の守りは、狙撃銃の威力を逸らすほどの防御性能だ、Five-seveNの5.7×28mm弾も無効化されてしまうだろう。だが、それならそれで別の選択肢を採るだけだな、幸いにもこの最上部に立っているのは俺だけだ。
TSSを起動し、兵装の換装を行おうとしたが、さきにカダが動き出した。
「~~~~、~~~、~~~~、渦潮円舞!」
どこかで見た覚えのある水属性魔法が唱えられ、海水が高速回転する円鋸となって何枚も飛んできた。
「ちっ!」
最上部の手摺りから離れ、後方へと下がる。飛んできた円鋸が手摺りだけでなく、最上部の岩盤すら削り、破壊していく。
俺が手摺りから下がった事によって、カダに更なる魔法詠唱の時間が与えられる。
「~~~~~、~~~、~~~~~~~、~~~~~~~~、~~~、潮汐覇!」
今まで聞いた事がないほどに長い魔言の詠唱が聞こえた。そして魔法名が唱えられ、ソレが完成する。
下層部の海水が一本の水柱に纏め上げられるかの如く収束し、暴威の塊となった大質量の海水が水柱となって放たれ、最上部の床を穿ち、足元が崩壊していく。
波打つような衝撃が何度も起こり、巨柱な水柱が床の崩壊だけでは満足せず、巨大な剣を振り下ろすかのように洞窟住居へ向けて振り下ろされてきた。
なんという大魔法か。俺はスライドジャンプで横へ逃げ、そのまま駆け出しウォールランで岩壁の内側を真横に走る。
振り下ろされた巨大な水柱は洞窟住居を破壊し、岩壁を削りながら俺を追って真横に動き始めた。
魔法の効果時間が長い……放って終わるタイプではないようだ。水柱を形成している海水はカダの真下に有り余っている。
この魔法を止めるには、カダ本人に攻撃を加えるしかないのかもしれない。
M24A2を両手に保持し、ウォールランの角度を下に向けて駆け下りながら、水柱の根元にいるカダの位置を確認する。
そしてウォールランからの前方スライドジャンプ、岩壁すれすれの位置で体を360度回転させ、カダが視界に映った瞬間に、ダウンサイト、スコープのレティクルとカダが合わさった瞬間にトリガーを引き、すぐに構えを解除してコッキング。
着弾したかは見えないが、視界が回り岩壁が見えたところでウォールランを再開する。
更にもう一度、前方スライドジャンプからの一回転ショット、トリックショットなどとも呼ばれるFPSのテクニカルショットで、カダに7.62×51mm NATO弾を撃ち込んだ。
俺が岩壁を駆け下り、最下部に着地するころには巨大な水柱は四散し、崩れ落ちるように海水が真下へと降り注いでいた。
下層部に着地した勢いのまま、滑るように膝立ちの体勢に移行し、M24A2をダウンサイトし、スコープでカダを捉える。
スコープに映るカダの体は海水の中にあり、腹に大穴が開き、右足も太ももの辺りから吹き飛んでいた。しかし、その傷の部分が淡く光っており、吹き飛ばした右足も少し離れたところで海水の触手が掴まえていた。
「ほ、骨野郎が……、て、てめぇいったい何者だ。普通のアンデッドじゃねぇはずだ」
カダが海水の中から顔だけを出し、血を吐きながらもまだ鋭い眼光で俺を睨みつけて吼える。
奴の質問は無視し、剥き出しの顔にレティクルを合わせてトリガーを引いた。
しかし、再びカダが身に纏う海水が7.62×51mm NATO弾の流れを変え、眉間を狙った銃弾はカダの頬を切るだけで突き抜けていった。
逸らされた――だが、その力は弱まっている――。
TSSを操作し、インベントリから銃器の換装を行うべく、必殺の銃器を選びだす。
「オレが何者カ? 言っただろう、キサマを深海の寝床へと案内する者ダ。雷管穿つ鎮魂の鐘を鳴らし、キサマを深海の藻屑に変えてヤル」
「ハッ! てめぇが何度その魔法を放とうとも、オレ様の『水流操作』を破れはしねぇ!」
煽り合いながら時間を稼ぐ、俺は武器換装を、カダは治癒が目的だろう。だが、先に準備が整ったのは俺だ。
目の前の収束した光の粒子が黒い補給BOXとなり、そこから一丁の大型銃器を持ち上げた。
俺が補給BOXから取り出した銃器は、GE M134 Minigunだ。この銃器はアメリカのゼネラル・エレクトリック社の個人携帯型、電動式ガトリングガンで、六本の銃身が回転しながら7.62×51mm NATO弾を撃ち出す。その速度は最大で毎秒百発、マガジンBOXから伸びる弾帯の装弾数は四千発。
これを一分掛からずに撃ちきる、VMBで登場する携帯銃器の中でも屈指の金食い虫だ。
本来はヘリコプターなどの搭載機銃で、個人携帯できる銃器ではないのだが、パワードスーツによるアシストとゲームの仕様により、重量や電力供給の問題を無視して使用できる。
左手でM134を保持するアームバーを握り、右手でトリガーグリップを逆手に握る。視界に浮かぶクロスヘアを、突然出現した黒い補給BOXとM134の姿に理解が追いつかないカダへと合わせる。
「キサマにこの暴力が防ぎきれるカ!」
M134のトリガーを引き、六本の銃身が電導モーターによって高速回転をし始める。そして、まるで火を噴くかのごとく銃口を赤く染め、全く視認出来ないほどの速度で7.62×51mm NATO弾が撃ち放たれた。
カダは撃ち始めた直後こそ水流で銃弾を逸らそうとしたが、リコイルコントロールと流される銃弾の動きに逆らうようにAim(狙い)を調整し、水の流れなど完全に無視した銃弾の嵐が、カダを包む海水を突き破り、その体を細切れに吹き飛ばした。
使用兵装
M24A2
この狙撃銃はアメリカのレミントン・アームズ社製のM24シリーズの一つ、装弾数10発。使用弾薬は7.62×51mm NATO弾、更にはアタッチメントとして、消音装置のサプレッサーを装着している。
このM24A2はボルトアクションタイプで、自分の手で銃身に付いているボルトを引いて排莢、装填を行うコッキングという動作が必要になる。




