表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/307

13

3/16 誤字・空白・描写等修正




 「迷宮の白い花亭」で夕食を終えて、アシュリーさんから聞かされた『魔抜け』の話は、俺がこの異世界に受け入れられていない、一つの証左なのではないかと思った。


 この異世界にとって、俺は異物なのかもしれない、受け入れられていないのかもしれない。しかし、この目の前の女性は間違いなく、俺を受け入れてくれている。それはこの数日で本当によくわかっていた、だからこそ俺は。



「アシュリーさん、冒険者登録の時に、代筆してもらったことを覚えていますか? あの時、アシュリーさんは俺に、名が『シュバルツ』だけで良いか聞きましたよね」



「え? ええ、覚えています」



「俺の名は『シュバルツ』だけではありません、正確には『シュバルツ・パウダー』と言います」



「シュバルツ・パウダー……パウダー……」



「俺に姓名があると言っても、俺はどこかの貴族でも、王族でもありません。そして、我々パウダー……家は、パウダー家は魔力が使えません。俺は今まで、魔力と言う物に触れない生活をしてきました。そういうところで生活してきました。だから、ここでの生活も不自由するとは思えません。それに、俺にはコレがあります」



 そう言って俺は、ショルダーホルスターからFive-seveNを引きぬいた。安全装置は掛けたままだが、それをテーブルに置き話を続けた。



「コレはFive-seveN。他にもいくつか持ってますが、総称でArms。コレを、コレらを持っているのは、たぶんパウダー家だけでしょう。Armsがある限り、俺には戦う力もあります、魔力がなくても生きていけます、俺は……大丈夫ですよ」



「Arms……? 聞いたことがありませんが、触ってみてもよろしいでしょうか?」



「ええ、どうぞ、危険はありませんよ」



 アシュリーさんは、テーブルに置いてあるFive-seveNに恐る恐る手を伸ばし、それを持ち上げようとした……が、Five-seveNに触り少し持ち上げた瞬間、Five-seveNは光の粒子となってその場から消滅した。


 え?! Five-seveNが消えたぞ?! どういうことだ……



「こ、これはもしかして、血統スキルですか!?」



 血統スキル? な、なにか勘違いしてくれたぞ、これで誤魔化すか……



「そ、そうです、血統スキル『Arms』です。これがあるおかげで、俺は魔力がないのでしょう」



「すごい、血統スキルを持っている家系は、オルランド大陸に数ある国々の中でも、数えるほどの家系にしかないと言われています。クルトメルガ王国でも王家にしか無いのに……本当に王族ではないんですか?」



「違います、これは本当です。俺は、帰れる国も里もない身です」



 これはまだ確定ではない、と思いたいが……



「そうですか、そうなのですか……すいません、でも少しほっとしました。魔力を持たない『魔抜け』の人は、過去に何度か見つかっていましたが、どの方も生きていくことに相当苦労されたと聞いています。でもシュバルツさんなら、きっと大丈夫ですね、私も出来ることであればお手伝いします、何でもおっしゃって下さい」



「ありがとうございます、でもアシュリーさんには既に助けてもらってばかりですよ、とても感謝しています」



 どうやら上手く誤魔化せたようだ、『魔抜け』の話を聞いて俺が返す言葉は、けっして彼女を不安にする言葉ではない。たとえそれが嘘だったとしても、俺はアシュリーさんに不安な顔をして欲しくなかった、何故かそう思ったのだ。 

 まぁ全部が嘘ではないしな、それに今後はVMBの力を、血統スキルだと誤魔化すことも出来そうだ。気付けば、食事が終ってからだいぶ時間がたっていた、周りの席にも食事をする人の姿はない、もういい時間なのだろう。



「だいぶ話し込んでしまいましたね、宿舎までお送りします」



「ありがとうございます」



 そうしてアシュリーさんを、総合ギルドの敷地内にあるギルド職員用の宿舎へと送りながら、冒険者として知っておくべき、基本的な知識を教えてもらいつつ、食後の夜の散歩をゆっくりと楽しんだ。





◆◆◇◆◆◇◆◆





 翌日、俺は冒険者として、初めての依頼を受けるため、総合ギルドの本館へと来ていた。館内に設置してある掲示板の、Eランク用の依頼を色々と見てみると、薬草や鉱石の採集系、迷宮の魔力に引き寄せられた魔獣討伐系、城塞都市バルガ内の護衛や、商人と一緒に他の都市や村へ赴く護衛系の依頼など、多種多様な依頼があるようだ。


 さて、どれを受けようか……残り三ヶ月で2年分の税金を稼がないといけないし、昨日の買い物で手持ちの金がほぼ無い、まず生活費を稼がなくてはいけない。


 依頼の報酬金額や達成条件を色々と確認していくが、採集系は直接的な危険が少なく、銃器の弾薬を消費しなくて済む。CPはいまだもって増やす手段が無く、減らさずに金を稼げるならそれに越したことはないが……。


 達成のための採集量をみると、これは道具袋での採集が大前提な気がする。採集量によって報酬金額が変わるし、手持ちの荷物袋程度の量では、大した金額は稼げないだろう。

 俺の目は自然と報酬金額が高く、拘束時間が少なくて済みそうな魔獣討伐系に目が行く。


 グラスウルフ討伐……こいつはバルガに来る時に襲われた黒い狼だな、場所は東の森の迷宮付近、討伐証は牙、必要数は5本以上、+@で追加報酬有、達成報酬は銀貨10枚、追加+1で銀貨1枚、ギルドポイントは15か。こう見るとゴブリンメイジの討伐報酬が異常な気がするな、あれはそれほどに強い亜人種だったのだろうか


 グラスウルフ討伐の依頼書を持って受付へ行き、一緒にギルドカードを提示すれば依頼受注完了だ。受付カウンターに座る受付嬢は、流れ作業のように受け付け作業を完了させ、「お気をつけて行ってらっしゃいませ」と送りだしてくれた、ちなみに嬢と言っても年齢もだいぶ上々な嬢だった。


 



 総合ギルドを出て、まず向かったのは巡回馬車の馬車駅だ。城塞都市バルガでは、早朝から昼過ぎくらいの間までは、各方面の迷宮の近くまで馬車が出ている。 まだバルガのマップは全然埋まっていない、東の迷宮のある場所も全く判らないので、残り少ない所持金だが馬車に乗ることにしていた。巡回馬車と言っても、大き目の荷馬車に幌が付いているタイプで、やはり酷く揺れた……。


 巡回馬車に揺られ続けて1時間ほど、東の迷宮のある森が確認できる路上で巡回馬車は停止した。



「お客さん、東方面はここまでですよ」



「ありがとうございます、あの森に迷宮があるので間違いないですか?」



「ええ、あの見えてる森に城塞都市バルガの東の森の迷宮、『牙狼の迷宮』があります、道に沿っていけば行けますよ」



 巡回馬車の御者になけなしの金を払い、俺は東の森へ向かい移動を開始した。

 



 


 道に沿って森に入る少し前のところでTSSを起動し、主兵装を選択する。今回もMP5A4だ、マガジンも3本選択し、補給BOXを召喚する。武装の召喚は、宿屋の部屋でおこなってもよかったのだが、やはり銃の持つシルエットは周りの目を引く、余計な詮索や接触を避けるため、ギリギリで召喚することにしていた。



「町で見かけた冒険者は、コートみたいなのを着ている人も多かったな、俺もああいうので銃を隠せるようにしようかな……」



 そんなことを呟きながら、MP5A4の安全装置を3点バーストへ回し、迷宮へと繋ぐ道を外れ森の中へと入っていった。


 グラスウルフを捜索し始めて30分ほどたったころ、ヘッドゴーグルのイヤーパッドに以前聞いた駆ける足音が聞こえてきた。


 いたな、グラスウルフの足音だ。数は2匹か?


 マップにはまだ映らないが、確実に音は拾えている。FPSというシューティングゲームにおいて、自然環境の音に紛れる、敵の発生させる多様な音の聞き分けは、初心者から上級者へと成長していくための、必須とも言えるシステム外テクニックだ。

 移動する足音、話し合う声、リロードの時に発生する小さな金属音、それらの音を拾い上げ、方向と移動速度を瞬時に判断し、自分に有利な状況を作り上げていく、それがFPSというゲームの醍醐味の一つだった。


 走ってる感じじゃないな、歩いてるのか……なら後方へ回り強襲する!


 俺が音を聞いているように、相手も周囲へ警戒をしているはず。狼ならば嗅覚だろう、もちろん音は極力たてないが、風の向きも気にかけなくてはいけないだろう。

 ただし、これが俺にとっての初めての狩り、風は殆ど感じないので、匂いと言うものが、どの程度流れて感付かれるのか判断できない。今はそれを排除し、後ろを取ることを専念する。


 マップに光点が映る、やはり2匹だ。


 VMBの聴音レーダーは、自動マッピングしてくれる最大範囲の、150mと同じ範囲しか光点として示してはくれない。しかし、音自体はもっと遠くの距離、300~500m近くまで拾うと言われていた。

 これは、正式な距離が公開されていなかったので、プレイヤーたちによる独自の調査による数値だ。FPSというゲーム性を考えると、相手の居場所が簡単にわかってしまうというのは、ゲームの競技性を低下させる要因になりかねない、バランス取りの名の下に、聴音レーダーはこの距離になっていた。


 いた、体長1,5mほどの黒い犬型、グラスウルフで間違いない。


 先日斃した魔獣と同一であることを確認し、俺はまだ100mは離れている距離から膝立ちになり、MP5A4を構えグラスウルフたちにクロスヘアを合わせ、手前のグラスウルフへまず1トリガー。


 MP5A4から放たれた3発の銃弾は、グラスウルフの後ろ足の付け根付近に着弾し、グラスウルフは倒れこむ。それを確認し、クロスヘアを滑らせ、もう一匹に狙いを合わせていく。もう一匹のグラスウルフは、突然の発砲音と倒れこんだ仲間に驚き、僅かに距離を取り周囲を警戒し……目が合った。ヘッドショットは討伐証がダメになるかもしれない、俺は狙いを少し下げ、首の付け根付近へ1トリガー。


 やれたか?


 二匹目に銃弾が吸い込まれていき、着弾の反動で後ろへと突き倒されるように倒れ込んだ。動かないグラスウルフに、俺はクロスヘアを合わせたまま、傍に近寄っていった。

 もちろん、マップや周囲の音は聞きながらである。銃撃の音は中々大きい、目の前に夢中で他の魔獣に襲われでもしたら、それこそマヌケだからな。


 斃れたグラスウルフ2匹は、すでにマップに光点としては映っていない、全く動いてなく音を立てていないからだ。斃したことを確認し、討伐証の牙を剥ぎ取る。


 この一番大きな目立つ牙でいいのだろうか? どうやって取るんだこれ、引き抜くのか?


 口を開けたまま倒れている、グラスウルフの一番大きな牙を掴み、一気に引っ張ってみると、大きな抵抗もなく抜き取ることが出来た。それを腰に付けてきた荷物袋へ入れる。もう一体も同じように抜き取り、まずは2本の採集に成功した。



「ふぅ、この調子でやっていくか」







 それから3時間、途中からは干し肉をしゃぶりながら、昼休憩も取らずに狩り続けた。ヘッドゴーグルに表示されている時刻は、15時を回ろうかと言うところ。

 帰りの馬車の時間はわからないが、そろそろ帰らないと日が落ちるかもしれない。俺はバルガへと帰ることにしたが、ここまで狩った数は6匹、接近されることもなく全て先制攻撃で仕留めきった。


 結局、迷宮の入り口は見ていない。そちらへ行っても、グラスウルフは迷宮に行く冒険者に狩られて、時間の無駄になるからだ。道無き森を抜け街道へ戻ると、城塞都市バルガへ向け歩き出した。



「今日の狩りで判ったことは、討伐系は索敵に時間が掛かりすぎる……」



 これがゲームなら、狭いマップ内をぐるぐる回っているだけで、対象の敵を狩り取れただろう。しかし、現実に獲物を探しそれを狩ると言う行為は、どうも専門の知識が必要だと感じた。

 対象がグラスウルフならば、その生態を調べ、行動範囲や行動パターンを知る必要がある。森に住む動物の狩り方、いや森に限らず自然界に住む、意思ある動植物を狩るための知識が俺にはない。



「グラスウルフを簡単に斃せればそれで良いとはならない、冒険者とは大変な職業だな」



「いや、まてよ……なら迷宮はどうだ? そこなら生態や自然環境固有の狩り方などの知識は必要ないだろ、あ、でも迷宮固有の知識は必要か……」



 ひたすら街道を歩き、東の森へと向かう道から、城塞都市バルガと王都を繋ぐ道へと合流し、そこからバルガ方面へと歩を進め、ブツブツとこれからの依頼をどうして行くか、このまま討伐系を受け続けるかを悩んでいると、微かにグラスウルフの駆ける足音が聞こえてくる。そして、それに合わせて馬車の走る音も……。


 音のするほうへ目を向けると、かなり遠くから……王都方面から一台の馬車が走ってくるのが見える。500mは離れているだろうか、グラスウルフの駆ける音は更に後方からだ。



「旅の馬車か……襲われているのか?」





 俺の初依頼はまだ終らないようだ。




使用兵装

MP5A4

ドイツのヘッケラー&コッホ社製のサブマシンガン、世界でもっとも使用されているサブマシンガンであり、そのバリエーションも非常に多く。軍隊、警察、対テロ部隊等、幅広く活躍する名器である

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 牙って抜くのは一本だけなんですかね? 一本だけ抜いて同じ個体の物じゃないとどう証明するんでしょう それとも全部抜くんでしょうか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ