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2016/3/26
海賊船団”海棠”の本拠地への潜入がついに見つかった。あらかじめ船団の船に行っていた破壊工作により、海賊船団の船舶のほぼ全てを航行不能に追い込めたはずだ。
しかし、本拠地に残っていた数十の海賊達、そして目の前に立つ海棠のリーダー、獅子系の獣人種、カダを俺一人で相手せねばならなかった。
岩壁の島の内部に掘られた洞窟住居の最上部は、カダの住む洞窟住居と他の階層にはない小広場で構成されていた。
とは言え、カダ一人を相手するにも決して十分な広さとはいえない。最下部の港部分は数十メートルは下になる、この高さから落ちれば即死しかねない……。
近接戦闘用にと大型のマシェットを持ち込んではいるが、ここで使うにはタイミングを計らないと難しそうだ。
カダは俺のFive-seveNを警戒しているのか、大きな両刃のバイキングアクスを盾のようにして体を隠している。
銃器のような指向性の魔道具や魔法と戦いなれているのか――銃口の向く先、クロスヘアをバイキングアクスで隠れていない部分へ動かすと、狙っている位置がわかるのか器用にバイキングアクスを回転させてクロスヘアに重ねてくる……。
Five-seveNの銃口が狙う先を探して揺れていることが理解できているのか、カダの口が歪み、嗤う。
「どうした、スケルトン……たしか、ヨーナとか言ったか? アンデッドの分際で名を持つなどと、とんでもない格の上位種のようだが、所詮はスケルトンだな!」
「キサマこそ、それで防げているつもりカ?」
下層がどんどん騒がしくなっている。海賊達の増援が来て前後を挟まれる形になる前に、こいつを行動不能にしてしまいたいが……。
悩むのをやめ、クロスヘアをカダの右足に合わせ、トリガーを引いた。
それに釣られるようにバイキングアクスが右足を隠す。Five-seveNから放たれる暴音と、5.7×28mm弾を弾いた衝撃でカダの顔が一瞬歪んだが、それも一瞬――、すでにクロスヘアはカダの顔面を捉えていた。
銃口の向く先を理解したのか、銃弾を受けた衝撃に押されながらもバトルアクスで顔を隠す。
「それじゃ次が見えないだろ馬鹿がァ」
カダの頭部へ二連射、そして続けさまに左足の太ももに二連射。
「ぐぁぁ!」
カダはバトルアクスで頭部への銃撃こそ防いだが、その直後の左足への二連射は全く見えていなかった。
5.7×28mm弾が太ももを貫通し、カダの体がぶれる。その隙を狙い、一気に距離を詰めてマシェットを振るう。
「こ、この野郎!」
カダもバイキングアクスを振るい、斬撃がぶつかり合った。小広場でバトルアクスとマシェットが打ち合う。武器のサイズや重量を考えれば、バトルアクスの重撃とマシェットが打ち合えるわけがないのだが、パワードスーツによるアシストとVMBの力で具現化したマシェットは、同種の短刀以上の耐久力を持っていた。
明らかに細く、小さい武器で打ち合えることにイラついたのか、カダが大振りの振り下ろしを放った。
袈裟切りのような軌道で迫りくるバイキングアクスをマシェットで内に弾き、流れていくカダの肘を下からFive-seveNで撃ち貫いた。まだ殺しはしない、こいつには聞く事がある。
「ぐぅっ!」
肘を撃ち抜かれた激痛に、カダはバトルアクスを零しそうになったが、すぐに逆の手に持ち替えて接近する俺を振り払うように横薙ぎを放った。
それを後方へのスライドジャンプで躱し、距離をとる。距離が開けば再び銃撃だ。バイキングアクスを持つ左手の肩を狙い、トリガーを二連射。
カダの持つバトルアクスはかなりの硬度があるようで、5.7×28mm弾を受けても破壊には至らないようだった。しかし、足を撃ち抜かれ、肘を打ち抜かれた状態では受けた衝撃を逃がしきれやしない。
「ぐ、ぐぅぅ」
たたらを踏むように後ずさるカダの右足に、クロスヘアを合わせ二連射し、足を使えなくする。
「カダ船長!」
「船長!!」
後方から海賊達の増援が上がってきた。マップには階層の違いで光点が表示されていなかったが、その足音はしっかりと聞き取っていた、上がってくるのは四人。
振り向き様に最上部へ上がってきた二人の頭部へクロスヘアを飛ばし、二連射-二連射。すぐさま階段方面へとダッシュし、頭部に穴を開けて崩れ落ちる海賊の腹を蹴り飛ばしてその後方にいた二人を階段の下へと突き落とす。
「おわぁっ!」
「いでぇ」
上から降ってきた仲間の体に押しつぶされ、一階層下へと尻餅をつくように落ちた二人を上から見下ろし、二連射-二連射とクロスヘアを滑らせて無力化する。
Five-seveNの残弾数二発、これは放棄してマガジンを交換する。マガジンの予備は後二本、最終的にFive-seveNだけで殲滅は無理だが、一先ずはだいじょ――
「なにッ?!」
マガジンを交換しながら振り返ると、カダが足を引きずりながら最上部の手摺りに手を掛け、体を預けて――いや、手摺りを乗り越えようとしていた。
「キサマっ、何を――」
「ヨーナっ! てめぇはオレを舐めすぎだ。殺さねぇように狙いやがって……、海賊船団の本領は海、水のある場所ならオレは負けねぇ!」
カダが叫び、無傷だった左手一本で体を最下部の港……海めがけて投げ出した。
何か嫌な予感が全身を走る。すぐさまM24A2に持ち替え、落下していくカダをスコープに捉えトリガーを引いた。
着水の瞬間に捉えたように見えたが、どこに当たったかまではしっかりと見えなかった。大きな水柱が立ち、海水が赤く染まり……その赤が急速に縮まっていく。
「惜しかったなぁ、ヨーナぁ。てめぇが吹き飛ばしたのは俺の右手だけだぁ」
C4爆弾によって船底に穴が開き、船体を半分沈没させた船舶が突き出る港の海中から、カダが顔だけを出して嗤う。そして顔の近くとは全然違う、離れた位置に右手が浮かび上がった。
いや、正確にはM24A2の銃弾を喰らい、引き千切れた右手が海水と同化して、触手のように海上にうねっている。
「オレの目にはキサマが魔獣に見えるが、キサマは本当に獣人種カ?」
「てめぇら汚物と一緒にすんじゃねぇよ、骨野郎がぁ! へっ、これはオレ様の技能『水流操作』よ、水と触れていれば俺の思い通りに水を操れるって訳だ」
なんだよそれ……スキルと違って技能を持ってる人はあまり見かけないんだが、中には厄介な技能もあるようだな……。
カダは海上に海水の玉座を作り、そこに座り俺を見上げて嗤う。千切れた右手が海水の触手を伝ってカダの体へと戻り、治癒の光を放って結合していく。
水を得た魚ならぬ獅子か。水魔法で治癒もできるか……余裕ぶるのはいいが、M24A2の射撃をどう防ぐつもりだ? 頭を一撃で吹き飛ばせば終わりだろ? カダと視線が交差した瞬間にダウンサイトし、一瞬でスコープのレティクルをその嗤う顔に合わせ、トリガーを引く。
カダからは転送魔法陣の先について、攫った者たちの行く先について、そして、この海賊船団の裏にいるスポンサーらしき影について聞かねばならないと考えていたが、それは甘い考えだったようだ。――まずは全力で命を狩りにいく。
空気の抜ける音と共に撃ち出された7.62×51mm NATO弾が、その顔を吹き飛ばすかと思われたが、俺のダウンサイトと同時にカダは玉座に沈みこみ、全身が海水の中に沈む――玉座だった海水に着弾した7.62×51mm NATO弾が流れるように軌道が変わりカダの顔の横へと突き抜けていった――。
この野郎……。
使用兵装
FN Five-seveN
ベルギーのFN社が開発したハンドガンで、マガジンの装弾数が20発と多く、使用される弾薬は5.7x28mm弾で貫通力に優れたハンドガン
M24A2
この狙撃銃はアメリカのレミントン・アームズ社製のM24シリーズの一つ、装弾数10発。使用弾薬は7.62×51mm NATO弾、更にはアタッチメントとして、消音装置のサプレッサーを装着している。
このM24A2はボルトアクションタイプで、自分の手で銃身に付いているボルトを引いて排莢、装填を行うコッキングという動作が必要になる。




