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今夜は二話同時に更新しています。136と137です、136が未読な方は気をつけてください
本拠地の奥に建つ倉庫にあったのは、見知らぬ土地に繋がる転送魔法陣だった。海賊船団”海棠”の逃亡や、援軍が転移してきても困る。転移した先の留守役を始末し、転送魔法陣をVMBの移動用車両を利用する事によって全回収すること事が出来た。
岩壁の島内部の本拠地に転移し戻ってくると、本拠地内は夜明けの静けさから一転、海賊船団討伐に現れた、アマール護衛船団を迎え撃つ準備でざわめいていた。
一先ず倉庫の外へと出た俺は、倉庫の影になっている部分に身を潜め、港内の様子を窺う――海上に出航したのは十六隻、港には大型船を含めて残り四隻か……。
視界に浮かぶマップを最大まで広げ、出港した船の位置を確認したかったが、光点が見えたのは最後尾と思われる一つだけ、それもすぐにマップの範囲外へと消えていった。
海賊船が護衛船団と接触する前にやらなければ、要らぬ被害を生むかもしれないな。
俺は海賊服のポケットに手を入れ、起爆装置を取り出した――。そう、ミミを救出したあの晩、俺は単独で再潜入し、港内に停泊していた全ての海賊船の船底にC4爆弾をセットしていた。
それを今、爆破する。
港内に残る四隻の海賊船の周囲の海水が、連続する鈍く太い爆発音を轟かせて噴き上がった。かすかに遠くから聞こえてくる爆発音も聞こえる。
「な、なんだー!?」
「おい、沈むぞ!!」
「今の音は何だぁー?!」
港内を駆け回っていた海賊達や、まだ上部の洞窟住居にいた海賊たちがワラワラと出ていて、最下層の港を覗き込んでいる。
俺は倉庫の陰に背を預け、そこからリーンの態勢をとり、覗き込むようにM24A2を構えた。
岩壁の上部から下を見ている男の頭部を狙い、M24A2に装着したスコープを覗く。VMBの仕様上、狙撃銃をメイン兵装として使用しようとすると、銃口が向く先を表示しているクロスヘアが表示されなくなる。
その為、かならずスコープなどの照準器使用するか、アイアンサイトでしっかりと覗き込んでから狙いをつける必要があった。
このM24A2にはアイアンサイトがアクセサリーとしては用意されていないので、使用するときには三.五~十倍ズームが可能なスコープを使っている。
スコープを覗いた時に見える十字の線、レティクルを海賊の頭に合わせ、即座にトリガーを引いた。
サイレンサーのおかげにより、発砲音は空気の抜けるような僅かな音に留まり、直後に何かが弾け飛ぶ音が聞こえた。俺は発砲直後に構えを解き、リーン状態から倉庫の陰に体を隠していた為、その音の発生源を直視してはいなかったが。
M24A2のボルトハンドルを引き、排莢と弾薬装填の為のコッキングを行う。そして、再びリーンからスコープを覗き、頭を失い落下していく仲間の体を、呆然と見つめる別の海賊の頭をレティクルの中心に捉える。
次々と頭部を、胸部を吹き飛ばされて落下していく海賊、最下層で動く海賊もこちらを視界に収める前に潰していく。
基本的に狙撃銃を使用したスナイプは、こちらの居場所が敵に気付かれるまでに、どれだけの数を殺れるかが重要になってくる。
「おい! 何が起きてるんだ!」
「カダ船長! どこかから攻――」
こちらの位置が発見されたら攻められる前に移動するか――
「アンデッドだぁー! 転移倉庫の陰にアンデッドがいるぞ!」
――迎え撃つかだ。
M24A2を背に回し、腰のガンホルスターからFive-seveNを抜く。こうなってはサイレンサーは必要ないだろう。Five-seveNを左手に持ち替え、右手には腰に佩いていた戦闘用大型マシェットを抜く。
この本拠地は、岩壁を利用した洞窟住居の立体構造のため、俺の視界に浮かぶマップでは正確な敵の配置がわからなかった。残りどれ程の数が残っているかはわからないが、一人も逃がしはしない。
「なんでスケルトンがここにいるんだよ!」
「知るかよ! どこの船の奴が化けて出やがったんだ」
「……深海の監獄から彷徨い出やがったか」
正面に立つ海賊たちが、一歩ずつゆっくりと前へ歩く俺を、距離を取って囲うようにしている。しかし、攻めてくる様子はない、それならそれで、こちらから行くだけだ。
右手にマシェットを握っているので、クロスヘアを頼りに左手だけでFive-seveNをコントロールし、俺を囲う海賊達の胸に二連射-二連射-二連射。
差し向けられた小さな短杖のような物が、突如火を噴き轟音を鳴らす。次の瞬簡には膝から崩れ落ちる仲間の姿に、最後の一人が茫然自失となっていた。
「――え?」
歩きからの前方スライドジャンプ。勢いをのせ、首を狙ってマシェットを横薙ぎにする。海賊の首が斬り飛ばされた勢いで、横回転しながら直上へと舞い上がった。
「戦闘水兵! アンデッドを上がらせるな、火属性魔法準備しろ!」
「~~~、~~~、火球」
「~~~、~~――」
一つ目の火球が着弾する前に走り出す。海棠のリーダーであるカダの声はかなり上から聞こえた。上に行くには石造の階段と通路を駆け上がるしかないか……いや……。
目の前にまで迫っていた上に上がる為の階段の脇を走り抜け、洞窟住居のない只の岩壁部分を、ウォールランで駆け上がる!
Five-seveNの残り装弾数は十四発。ウォールランで駆け上がりながら上層にいた戦闘水兵と呼ばれた魔術師を狙い撃ちする。
俺の意図に気付いたのか、即座に魔術師の正面の空気が歪んだ。
魔力障壁を展開したのだろううが――
「無駄だァ」
「なっ! しゃべ――」
魔力の込められた魔法攻撃などを防ぐ魔力障壁では、魔力の篭っていないFive-seveNの5.7×28mm弾が防げるはずもない。放たれた銃弾は何の抵抗も受けずに戦闘水兵の頭部を撃ち抜いた。
十二――、十――、八――
視界に映るのはマップだけではない、装備している銃器の装弾数が視界の隅に浮いている。残弾数を確認しながら邪魔な戦闘水兵を撃ち、崖を駆け上がる。
「ふざけたスケルトンだな……」
最上部付近まで駆け上がり、崖を蹴って一番上の階層に飛び乗った。
「キサマが海棠のリーダーか?」
「しかも喋りやがるか」
Five-seveNのマガジンを交換しながら、正面に立つ獣人種の男に声を掛けた。
「そうよ、俺様が海賊船団”海棠”のリーダー、カダ様よ!」
「オレはヨーナ、海を荒らすヤンチャ坊主はおねむの時間だ。海の底から迎えに来てやったゾ、永遠の闇に閉ざされた深海の寝床に案内してやろウ」
「スケルトンがほざくな! てめぇは一人寂しく海の底で一人寝してろやぁ!」
煽り合いをしながらタイミングを計っていく、カダの手には大きな両刃の片手斧が握られていた。バイキングアクスって奴か? 下層からは上に向かって駆けてくる足音や怒号も聞こえる。
この広いとは言えない最上部で、他の海賊達も含めての乱戦になると面倒だな……。




