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昨日、予約投稿ミスをしていたようです、連続更新します。
海賊船団”海棠”の本拠地に潜入し、まずは囚われていた男女十二人を発見し、牢獄の暗闇を利用して接触することで彼等には自分たちの足で本拠地を脱出してもらう事にした。
もちろん、俺の救命ボートを利用しての脱出だ。岩壁の島内外には殆ど監視の目がない、騒がず速やかに行動すれば海上に出るまでは問題ないはずだ。
幽霊船長ヨーナとして動いてる今の俺では、一から十まで面倒を見ることはできない、後は彼ら自身の幸運を祈ろう。
ミミから聞いていた、攫われた男女が連れて行かれて帰ってこないという倉庫が見えてきた。港の最奥に建つ木造の倉庫には、かなり大きな引き戸が付いていた。大型の資材置き場なのか、それとも帆船などの補修、造船を行う場所だろうか?
引き戸には大型の錠前が付けられていた。さすがにこれを破壊して中に入るのは無理だろう。
これからこの本拠地を脱出していく彼らが居る以上、派手な行動を起こすのはもう少し後だ。倉庫の側面を確認していくと、側面の上部に採光の為の枠だろうか? 長方形の枠取りされた穴が空いているのが見えた。
大きさ的に潜り抜けることが出来そうだ――、ウォールランで倉庫の壁を駆け上がり、木枠に手を掛けて体を滑り込ませた。
倉庫の中が無人なのはマップに映る光点がないことから判っていたが、念のためFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードも使い、周囲が本当に無人かを確認しておく。
倉庫の中には何台かの荷車や大きな荷箱がいくつも置かれている。そして、一番奥の一段上がった台座には……。
これは、転送魔法陣か?
台座の上に置かれているのは二つの転送魔法陣だった。迷宮の中で見たものと比べ、魔法陣全体が淡く光っている。片方は迷宮から持ち出した本物の転送魔法陣だろう、そしてもう一方は少し陣の文様が違うが、本物ではない模写魔法陣だと思われる。
模写魔法陣は初めて見たが、石造の床板に彫り込まれた転送魔法陣とは違い、布製の絨毯のような物に魔法陣の文様を書き込んだものだった。
台座の近くには一台の戸棚が置かれており、そこに模写魔法陣とよく似た布が巻かれて二本置いてあった。そのうちの一本を手に取り広げてみると、淡い光を放っている模写魔法陣と同じ物であることがわかった。
これは予備なのだろう……広げられている魔法陣とは違って光ってはいなかったが。
つまり、攫われた人達はこの岩壁の島からどこかへ転移している? さらには海棠を支援している者がこの先にいて、物資などを転送魔法陣を使って運び込んでいたのだろう。
どうする? この先を確認するか? 牙狼の迷宮の最下層で手に入れた、魔力の認識票により、転送魔法陣は今の俺でも使える。
放置した事で、これを使って逃亡されるのも、援軍を呼び寄せるのも不味いだろう。回収はしてしまうか……。
TSSを起動し、インベントリから空のギフトBOXを取り出し召喚する。まずは予備の模写魔法陣を放り込み、本物の転送魔法陣を構成しているの石板を持ち上げる――陣が崩れた事で、魔法陣の淡い光が消えた。
ちょっと気になり、石板を元に戻した。再び転送魔法陣に淡い光が走る、思った以上に単純だな……。
転送魔法陣は十六枚の石板で構成されており、バラバラに崩して位置を変えて並び替えても、再び淡く光って使用可能状態になった。
これはもしかすると……、最初は繋がる先の確認を後回しにして、海棠の殲滅を優先しようかと考えたが、その考えを訂正し、転送先の確認と実験を行うことにした。
転送された先に誰かいるかもしれないので、Five-seveNをいつでも発砲出来る状態にしておき、腰に下げているマシェットで軽く指を切る。
転送魔法陣に一滴、二滴と血を垂らすと、染みこんだ血が赤色に淡く明滅し、生体情報の登録が完了した。
あとは起動の言葉を言うだけなのだが、ちょうど視界に浮かぶマップの光点に動きがあった。囚われていた十二名が、見張り小屋から港へと移動しているのがわかる。僅かに聞こえる救命ボートが膨張する音。
「すごい――」
「静かに――」
「男が櫂を持て、おい無闇に触るのはよせ――」
「魔道具らしいから何が起こるか判らない――」
「いくぞ、方角は判るな?」
「大丈夫だ――」
集音センサーから聞こえてくる小さな話し声を聞いて、一先ず安心した。暗闇の中に突然現れた俺の言葉を、ちゃんと信じて行動しているようだ。
他に海賊達の声がないか、マップに不審な光点がないか確認したが、彼らが洞窟の先へと消えていくまで気付かれた様子はない。
どうやら脱出に成功したようだ、あとはこちらだな。
「転移」
転送魔法陣の起動キーワードを唱えると、魔法陣の文様に光が灯り、それが陣を周りだし、光のカーテンとなって俺の視界を遮った次の瞬間。
俺の目の前には箒を持った男が二人立っていた。
「なっ、アンデッド!」
転移先の魔法陣の周囲を掃除していたのだろうその男は、転移してきた俺――幽霊船長ヨーナのスケルトンフェイスを見て、すぐに腰の剣を抜いていた。
しかし、その剣は一度も振り上げられることもなく、額に穴を二つ開けて男は倒れた。
もう一人の男はこちらに背を向けていたが、一人目の叫びに何事かと振り向いた瞬間に眉間に穴が開き、同じように仰向けに倒れていく。
俺は両手でFive-seveNをホールドしたまま、二人目の男の下まで進み、仰向けに倒れたその胸にクロスヘアを合わせ、もう一度トリガーを引いた。
転送された先は、転送元同様の倉庫の中だった。周囲を見渡し、マップを確認する。倉庫の扉は大きく開いていていた。扉に背を当て、リーンという覗き込み動作で外を窺う。
見えるのは樹木と山、そして小さな山小屋が一つ。視界に浮かぶマップも、目の前の山小屋以外の建築物を表示していなかった。
どこだここは……?
マップをどれだけ拡大しても、俺の周りしかマッピングされていない。TSSからマップを開きなおし、詳細なマップ情報を確認した。表示されている座標から考えると――王都のかなり北か?
どのくらい北かは判らないが、ここがクルトメルガ王国ではない他国という事も考えられる。思わず射殺したばかりの二人の男に目が行った。
早まったか……思わず先制攻撃から一気に片付けてしまったが、ここがどこか聞くべきだったな……。
マップ情報を見れば、周囲に動く光点がないのがわかる。つまり、この倉庫とあの山小屋には、この二人だけが留守役か繋ぎとして居残っていたのだろう。
念のため、山小屋内も探索したが、基本的な生活用具しか置いておらず、ここがどこなのか、海棠との関係性はどうだったのか、そういったものを示すような物は何もなかった。
山小屋周辺から見える景色をスクリーンショットで撮影し、山小屋の生活用品や男達の格好も撮影しておく。
アシュリーにどこまで見せるかは判らないが、後々何かの手助けにはなるかもしれない。
続いて倉庫の中に、TSSのガレージから陸上自衛隊で運用されている六輪駆動の七tトラック、七十四式特大型トラックを召喚した。
リアの後ろアオリを降ろし、荷台の中を確認する。七十四式特大型トラックの荷台には幌が備えられているが、俺が持っているタイプは幌なしの荷台が剥き出しのタイプだ。
想像したとおりの広さと長さがある。これなら転送魔法陣が二つ並ぶだろう……。
倉庫に設置されていた転送魔法陣と模写魔法陣を荷台に載せ、ちゃんと稼動状態で淡い光を放っているかを確認する――問題なし。
倉庫の中を探り、山小屋にはなかった模写魔法陣の予備を回収しておく。こちらにあるもの二枚だった。基本的に二枚用意するのが常識なのだろうか?
確認作業として、七十四式特大型トラックをガレージに収納、再召喚を行い、転送魔法陣が車両に収納された物としてガレージに持ち込めるかの確認をし、問題なく持ち込めることを確認した。
ここまではいい――この見知らぬ地に忘れ物がないことをしっかりと確認した後、荷台に積んだ転送魔法陣に生体情報を登録し、岩壁の島へと転移した。
光のカーテンが走り抜けた先に見えたのは、岩壁の島の内部で間違いなかった。しかし、見知らぬ地へ飛ぶ前とは状況が変わっている。海棠の本拠地全体が騒がしく動き回っており、倉庫の外から、岩壁の上のほうから怒号が飛び交っている。
どうやら、護衛船団が朝一で中継地点を出発し、夜明けと共に岩壁の島の近くまで姿を現したようだ。
「カダ船長! 出港準備整いました!」
「船長! 女達と男どもがいやせん!」
「何言ってんだっ! 探せ! それと出港準備できた奴からいけっ! 出口封鎖される前にでろ!」
海棠のリーダー、カダの声は上部から聞こえてきていた。この倉庫には鍵が掛かってるためか、内部を探ろうという光点の動きは見えない。
周囲の動きを冷静に分析しながらも、TSSのガレージから七十四式特大型トラックを帰還させる。
ガレージに表示される七十四式特大型トラックを確認し、かなり遠距離からでもしっかりと帰還させられたことに安心した。最後にギフトBOXを召喚して、ここの転送魔法陣と模写魔法陣を回収してしまう。
これで残る仕事は一つ、海上に現れた護衛船団と共に、海賊船団"海棠”を殲滅するのみだ。




