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 中継地点の無人島に戻り、海賊船団の本拠地で救助したミミを護衛船団に合流していたアシュリーに預けた。

 その後、俺はすぐにUボートの進路を再び海賊船団の本拠地へと向け、岩壁の島の近くまで接近したところで海底にUボートを停止させ、一先ずの休息をとる事にした。


 これ以上不眠で行動するには集中力が持たない、集中できない状況は銃器のエイム(狙い)が定まらず、致命的なミスに繋がる可能性が高くなるからな、時間に余裕があるわけではないが、ここは休息の時間だ。






 TSSタクティカルサポートシステムのアラームで起きたのは夜明けの二時間ほど前だ。ミミから聞いた話では、このぐらいの時間が攫われた女性達の唯一の休息時間のはずだ。

 海洋都市アマールで買い入れた柑橘系の果実を朝食代わりに摂り、戦闘を考慮してインベントリから兵装を確認していく。

 

 この幽霊船長ヨーナのアバターセットを今後も使っていくかは判らないが、使い分けと言う意味でも兵装の組み合わせは差別化したいところだ。



 ヨーナのメイン兵装として選択したのは、M24A2という狙撃銃だ。この狙撃銃はアメリカのレミントン・アームズ社製のM24シリーズの一つで、装弾数は10発。使用弾薬は7.62×51mm NATO弾と、シュバルツのときに使用しているSCAR-Hと同じ弾薬だ。更にはアタッチメントとして、消音装置のサイレンサーを装着している。

 これまでは一発撃つごとに自動で排莢、装填をしてくれるオートアクションタイプばかりを使用してきたが、このM24A2はボルトアクションタイプで、自分の手で銃身に付いているボルトを引いて排莢、装填を行うコッキングという動作が必要になる。


 VMBの銃器操作の簡略化により、だいぶ直感的に素早くコッキングを行うことが出来るが、一発撃つごとに必要な動作は発砲間隔を間延びさせる要因になる。しかし、このコッキングをどのタイミングで行うか、その隙をどうサポートするかがプレイヤーの技量の差が出るところであり、コッキングが必要なボルトアクションタイプの狙撃銃愛好家は世界中に大勢いた。


 今回の潜入でこのM24A2をメインに据えたのは、岩壁の島内部の見通しが良すぎる地形、下から見上げた時に上部の敵の体が見える範囲が小さくなる事、洞窟住居内を小さな窓枠から撃ち抜く精度が欲しかった事からだ。


 サブ兵装には久しぶりのFive-seveNにしておいた。装弾数二十発はやはり魅力的だ、これもサイレンサーで運用する。

 そして近接用の武器として、スケルトン系のアンデッドらしく刃長の長いマシェットを選択した。これは米軍でも使用されているタイプで全長六十センチ程、見た目は刃幅の広い短刀か鉈と言ったところだ。グリップと刃しかない全身ブラックのモデルで、布製の鞘を腰に付けて持ち歩く。



 あとは海賊服の裏に隠し持てるだけの特殊手榴弾などを持ち、これで準備完了。夜明けまであと一時間と言ったところか、まだ薄暗い海上に司令塔だけが浮上する深度に調整し、再び消費アイテムの水中スクーターと小型酸素ボンベを用意し、海中からの潜入ミッションを開始した。


 


 潜入自体は今回も問題なかった。海底を一度も浮上せずに、岩壁の島内部の港まで進んでいるのだから発見されるはずはないのだが。

 問題はここからだ――海賊船団"海棠カイドウ”の本拠地は静寂に包まれていた。まずは攫われた男女十二名の位置を確認する。しかし、直接の接触はまだ後だ。今の俺の姿は幽霊船長ヨーナ、アンデッドのスケルトンがオルランド共用語を喋って何を伝えても、そう簡単には信用されないだろう。


 ミミのような、すでに命を助けた少女の前に姿を現すのとは違うのだ。最終的には俺が直接連れ出さなくてもいいと考えている。海を渡る救命ボートは何個でもSHOPで購入できる。使い終わった後も、誰も乗っていない状態が数分続くだけで光の粒子となって消える仕様だ。何かの証拠としての能力は一切ないだろう。

 

 周囲を目で、耳で、マップで確認し、見られていないことを確信すると海上から港へと這い上がった。すぐに目の前の木造の小屋の陰に潜み、改めて周囲を確認する。誰にも見られることなく港内に進入できたようだ。


 自動的にマッピングされる視界に浮かぶマップと、ミミから聞いた男女十二名が放り込まれている場所を探していく。岩壁内部の横穴、それを塞ぐように建てられた見張り小屋……あそこか。


 俺が身を隠している小屋の少し先に、窓枠の付いている小屋があった。その小屋内から続くように岩壁内部に道が続いており、それほど深くない先に二つの小部屋があることが読み取れる。

 小屋内に光点が二つ、岩壁内部に五つと七つ、間違いないな。腰のガンホルスターからFive-seveNを引き抜き、ポーチからサプレッサーを取り出して装着させる。

 

 腰を低くしての静穏移動で、出来るだけ音を立てないように目標の小屋へと近付く。窓枠から覗き込めないか確認したが、まだ朝は肌寒い季節だ。窓枠には木窓が嵌められ、中を覗くのは難しそうだったが、作りが荒いようで、歪んだ隙間から少しだけ見ることができた。


 中にはたいした家具があるようには見えない、テーブルと椅子が二つみえる。それに座る二つの人影――見張りなのだと思うが、テーブルに載っている酒瓶を見るに寝ているようだな。


 小屋の扉に手を掛けるが、鍵が掛かっている様子はない。この海賊船団、見張りは全然居ないし戸締りの類はしないし、警戒感がなさ過ぎないか?

 それとも海賊がその程度の集団なのか、この岩壁の本拠地にそれほどの自信があるのか……いや、考えても無駄な事に意識を割くのはやめよう。


 小屋の扉を静かに、しかし素早く開き、体を中に滑り込ませる。扉を閉め、背に押さえると同時にクロスヘアを椅子に眠る男の胸に飛ばし、トリガーを二連射。さらに向かいに座って寝ている男にクロスヘアを滑らせて、同様に二連射し射殺した。


 二人の男たちが立てていた寝息が止まると同時に、マップからも光点が消える。それを確認し、改めて小屋内を見渡すと、岩壁内部に通じるであろう横穴との境に金属製の格子戸があり、そこには錠前が付いていたが……その鍵は横の壁に掛かっていた。


 壁にかかっている鍵は全部で三つ、そのうち一つが目の前の錠前だったので、残りの二つは奥の部屋に関するものだろう。

 鍵を全て持ち、明かりの一切ない横穴の中に進んでいく。十数メートルほど先には向かい合うように牢獄が作られていた。


 あまりの暗さにFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードに視覚を変更すると、牢の外側に燭台が一つだけ置いてあった。今は火が付いていないが、通常はつけているのだろうか?

 とりあえず、この暗闇で俺の姿を視認する事は不可能だとは思うが……視認出来ない……か。



「おい、誰か起きているか?」



 俺は暗闇に支配された牢獄の間で、誰に掛けるとでもなく声を掛けた。



「だ、誰だ?」



 光点が五つあるほうから男の声が返ってきた。



「大きな声は出すなよ、俺は――海洋都市アマールのゼパーネル家に仕える者だ」


「ゼパーネル!」


「大声を出すな、見張りの動きは止めたが、騒がれると他に気付かれるかもしれない」


「す、すまない」


「アマールから護衛船団がこの海域に来ている。この岩壁の島の位置も把握済みのはずだ、じきにこの島は戦場になる。鍵を開けておくから皆を起こして脱出しろ。見張り小屋のテーブルに、海水に触れると小船になる魔道具を三つ置いておく。それを使って外に出ろ、海賊船は絶対に使うなよ」 


「わ、わかった。あんたは?」


「俺にはまだ仕事がある」



 壁にかかっていた鍵を使い、牢獄の錠前に合わせると、やはりここの鍵だったようで何の抵抗もなく開ける事が出来た。

 男女両側を開けると、その音に女達も目を覚ましだしたようだ。動揺と暗闇に恐怖する空気が流れるが、俺の問いに答えた男が小声で事情を説明しだしている。

 それを背に聞きながら、俺は見張り小屋に戻りTSSのインベントリから救命ボートを三つ取り出し、テーブルへと置いた。


 未使用ならば、少しの間は消えずに置いておけるだろう。彼等がこちらへ来る前に、俺は次の目標である港の奥の倉庫へ足を向けた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 水圧下で純酸素は猛毒です。酸素分圧が上がるため。 正しくは空気ボンベです。
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